270 食人村忌譚
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おう、たんと食ってもちっと太れ
[薄い茶を縁の一部が欠けた湯飲みに注ぎ、申し訳程度に誂えられた式台に置いた。 家は古くからあるが、板張りはリツの父が敷きなおしてくれた。 この湯飲みだって、かつて村人が作ったものだ。
名前や顔よりも思い出すのは、彼らの食感だったり匂いだ。特に、臭いものは覚えが良い。 思い出したそれを振り払うように鼻を鳴らした]
まあ、こっちもすぐじゃあない 先約がいるからよ、 あとで見てやるよ
[作業台に置かれた鉈を見れば、依頼主も知れよう。 お得意、と言っていいのかもしれない。 使用頻度、用途、どれをとっても江津子の使う刃物は村の何よりも切れ味を必要とする]
(8) 2017/11/23(Thu) 02時頃
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[リツを見送り、頼まれた包丁は隅に追いやって、 まずは、と鉈を仕上げることにした。 農具だってなんだって、刃物ならばなんだって研ぐ。 一番機会が多いのはやはり包丁だ。苦手なのは鋏だが、それはあまり頼まれない。 ほとんどが肉を切るためのもので、 そして、特別なのが儀式用のものだった。
それに伴う神社との繋がりは保ったまま。 先代当代問わず、身体を重ねたこともあるが、あれも丞にとっては研ぎの代償でしかない]
(16) 2017/11/23(Thu) 03時頃
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[―――さておき、 流しに置かれた野菜には、己のものではない畑から採れたものが混じる。 ある日「農家になりたくなった」>>0:220と言った少女の手は、遠目から見ればきっと変わらず細いだろうが、触れればその皮膚は大地の固さを知るだろう。
あの夜。 村にただならぬ気配が満ちていた。 もうすぐ巫女を食らえるという期待。熱。 新しい巫女を抱くという悦び。
鬼の一字を、朽ちかけた表札に掲げたこの家では、 静かに刃物を研ぐ音が響いていた]
(17) 2017/11/23(Thu) 03時頃
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[「好きな野菜は」、とあの夜、丞は容に問いかけた。 返答の有無に関わらず、丞は己の好みを口にする。 「柔らかい食感が好きだ、春の葉物が好ましい、部位ならば頬と舌が特に良いが葉物は肉とは異なる食感を得る―――」
そして、暗所にしまい込んでいた野菜をいくばくか籠にいれ、容に差し出した。また太陽の上っている頃に来い、と伝え、それまで手伝い程度しかしたことがなかっただろう神社の娘に、手が届くだけの知識を教えることとなった。
何のために米を、野菜を育てるのか。 生きるためか。 食べるためか。 それだけならばきっと、この村で今まで生きてはこれなかった。 特に、それが若い娘ならば。 少しばかりでも「好き」が加わればそれが理由になるだろう。 食べることが好きであれば、それは今日と明日を繋ぐ理由になる**]
(18) 2017/11/23(Thu) 03時頃
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真剣師 鬼丞は、メモを貼った。
2017/11/23(Thu) 03時頃
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[農家の朝は早い。 昨夜汲んでおいた常温の水を一杯飲み、畑の世話をした。 米が終わったあと、冬に向けて種を植えた畑は、収穫までまだ間がある。世話をして、土の色を見て、雲を見上げて今日の天気を想えばそれで終了だ。 朝食は冷や飯でいい、と考えながら家に戻る途中、ふらふらと歩く愛理を見かけた。>>#0 視線は向けない。 お互いに、そこにいないかのようにすれ違う。
狭い村だ。 閉じた村だ。 その理由は知らぬとも、気が違ってしまったような振る舞いをする者は、この村においては珍しくなかった。 久しぶり、だと思うくらいのこと]
(44) 2017/11/23(Thu) 17時頃
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[朝飯を済ませれば、昨夜乾かしておいた鉈の様子を見る。 柄が濡れていないことを確認して、口金を嵌め、目釘を打ち付ければそれで完成。 実用のための鉈だ。刃以外の部分は磨いてもいない。美しさなどは欠片もないが、ただよく切れる、というだけで十分であろう 出来上がった鉈をぞんざいに包むと、江津子の家へ向かおうと戸を開ける。
風にのって「鶏さぁん」と呼びかける声が届いた。>>43 江津子の声が響くのはめったにないことだが、それでも日常だ。 頼まれた時と同じく戸の外へ置いてもいいが、少し考えて声の下へ向かうことにした。手にした包みで用件はすぐに知れるだろう。途中、鶏を見つければ捕まえてもいい。また逃げ出したのだろう、そう軽く考えていた]
(45) 2017/11/23(Thu) 17時頃
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[鶏の一羽くらいは捕らえてみたものの、それが探している鶏かどうかは知れず。といっても囲いの外にいるならば、それは誰のものでもないはずだ。 首を捻り大人しくなった鶏と鉈で塞がった両手]
いやぁ、 俺は大抵畑にいるからな 肉、 ありがとよ
[対価は貰っているのだから問題はないとばかりに、少し迷う素振りの後両方の手(の中のもの)を江津子へと差し出してから]
おっと、これじゃ両手が塞がっちまうな これでよけりゃぁ届けよう 違うならば俺が食っちまうが、 どうなんだい
(47) 2017/11/23(Thu) 17時頃
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[空になった手のひらは所在なく、腕を組んで江津子の手並みを拝見することとなる。 見返りが欲しくて捕まえたわけではないが、卵を、と言われれば遠慮をする性質でもないし、江津子も気にはしないだろう。 こういうのはお互い様だ。決まった価格の金銭でやり取りするのでなければ、恩は売れる時に売ったほうがよい。 仲良しこよしなんてするつもりは毛頭ないが、閉じた村で心穏やかに過ごすためには、それなりに良好な関係を保っていかなければならない]
いやいや、 江津子さんの技こそ、腕ってもんさ 鶏を絞めるのは誰にでも出来るかもしれねぇが それでもどうだい、 あんたが絞めた肉は一味違う
[声にするつもりはないが、江津子はやはりどうにも年増だ。 若い頃ならまだしも、今時分「そんな気」は起きないが、なかなかどうして―――赤に濡れる姿こそは、女らしい。いつも思う。勿論それも、声にするつもりはない]
(55) 2017/11/23(Thu) 18時頃
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あんたの腕は皆が認めてる
似合わねぇ台詞かもしれねぇが そのあんたの得物を研ぐのは、 結構誇らしいもんだぜ
[頭を下げる江津子に、また一つうんと頷いて背中を向けることとする。口にもしたが、柄にもない台詞だ。少しばかりの気恥ずかしさも手伝って、顔を見ずにすむよう帰ることにしたのだ。
またな、と別れの挨拶もあまりしない。 狭い村だ。下手をすれば、今日中にだってまた会うこともあるだろう**]
(56) 2017/11/23(Thu) 18時頃
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鬼丞は、エツコにひらりと手を振って、畑へ向かうこととした。
2017/11/23(Thu) 23時頃
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[江津子との会話は珍しくも笑いでもって締めくくられた。 「まだ若い」だとか>>57、容の料理のことまで言うからだ。>>58 低く笑って、珍しくもひらりと手を振ったりもした。
実際、容の料理が美味いことに丞は何の関与もしない。 農家の心得を、と請われて教えたとしても、誰に見張られるでもないこの仕事をやりぬくには、ただ己の努力のみが必要となる。 ましてや、収穫した後のことは知らない。
ただ素材の味のみが評価されるならば、それは人の味であろう。 野菜ばかりを食らい、脂肪も少ない己はさぞや不味いだろう。食べることになる誰かが可哀想だ。 ――――誰が食べてくれるのだろうか]
(105) 2017/11/23(Thu) 23時頃
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[畑道具をしまう掘っ立て小屋の軒先、自宅より日当たりの良い此処に、二週間ほど前に今年初めての柿を干した。 何本か吊るしたそれを指でもみこみ、3つほどがついた紐を一本、常に懐にしまっている小刀で切る。 まだまだ出来上がっていないかもしれないが、一つ食べてみて駄目ならまた吊るせばいい。
干し柿は普段女子供にくれてやってしまうが、今年は自分でも食べようと考えていた。
少し、太ろうかと考えたのだ。 太ると動きにくい、と言ったリツなどはまだ若いが、丞はただでさえガタが来ている。 江津子の言葉で、容と交わした言葉を思い出していた。若い娘に「食べてもいい」と言われたことを。本気ではなかったろう。丞も先ほどまで忘れていた。 何も起こらなければ、先に食べられるのは己だ。 残された者が、せめて美味しく食べられるように。 ――少し、太ろうかと思いついたのだ]
(107) 2017/11/23(Thu) 23時頃
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鬼丞は、柿を片手にふらふら家路へ。
2017/11/23(Thu) 23時頃
真剣師 鬼丞は、メモを貼った。
2017/11/23(Thu) 23時頃
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[家へ向かう道すがら、薬師の姿が見えれば>>94さて、と干し柿を見下ろした。ミナカタには夏に随分と世話になった。 今年は不思議と虫害が酷く、駄目で元々、と相談したのだが、どうにかこうにか土に撒いてみるといい、と薬を用意してくれたのだった。 天然由来の香草がどうとか…詳細は忘れたし、面倒なことを頼んだという自覚はあるが、薬師の内心はどうあれ、その薬はよく効いた。理由が別のところにあったとしても、虫害が減ったという結果が全てだ。
その例に干し柿でもくれようか、と思ったのだが、 いかんせんこれはまだ未完成品。 くれてやってから、渋かったらむしろ嫌がらせである、と考え込んだ次第である。
ともあれ、挨拶程度はしておこう。 干し柿はまだ、掘っ立て小屋にいくらでもあるのだから]
(131) 2017/11/23(Thu) 23時半頃
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真剣師 鬼丞は、メモを貼った。
2017/11/23(Thu) 23時半頃
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ああ、あんたのおかげだ これが美味くいっていたら今度持っていくよ
[己のこととなると整備は頭を過ぎらず、熱が出ても気づかないくらいミナカタの世話にはなることはないが、作物は別だ。 鼠も数年前にひどい害が出た。 その時のことを思い出し、肩を竦める。
また世話になるだろう、と頷いて、ミナカタの向こう、立ち話をする二人にも干し柿を軽く振る程度の挨拶をして通り過ぎることとなった]
(144) 2017/11/24(Fri) 00時頃
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[自宅に戻り、干し柿を軒先に吊るした。 一つは家の中へ持ち込み、リツの包丁の具合を確かめるのに使うこととする]
………渋い
[干すのが不十分だった、というよりこれは、単に柿の個体としての渋みだろう。 それでも残すことなく、黙々と口に運ぶ。 半分ばかりを食べたところで手を荒い、今日は外で包丁を研ぐことにした]
(149) 2017/11/24(Fri) 00時半頃
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鬼丞は、包丁を研ぐ音が、規則的に響いた**
2017/11/24(Fri) 00時半頃
真剣師 鬼丞は、メモを貼った。
2017/11/24(Fri) 00時半頃
真剣師 鬼丞は、メモを貼った。
2017/11/24(Fri) 22時半頃
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[刃を研ぐ時は様々なことを考える。 白昼夢の如く、過去の出来事、成しえなかったこと、噂話、知らないはずの出来事、泡のように通り過ぎ、思考が無になる前に辿り着くのは 「この刃は次に誰を切るのか―――」
瞬き一つせず、ただまっすぐに陽光を跳ね返す刃の見つめる。 朽ちかけた「鬼」の文字に似つかわしい姿は、人を切るを知らぬ子供にはやはり恐れられていた]
………、と やりすぎたか
[普段使いの包丁にしては、どうにも切れすぎるほどの出来となる。試し切りは、リツのところでいいだろう。手ぬぐいを巻き付け、外側からさらに鮮やかな赤い布を巻き、届けようと作業台を土間にしまいこむ]
(244) 2017/11/24(Fri) 23時半頃
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[この村は、死人が多い。それでもなんとか村として成り立っているのは、産まれる数も多いからだろう。 若者が多いように思えるのは、年寄が少ないからか。あまり長生き出来ないのは、残された者が食べるには都合がいいのかもしれない。勿論、年寄が死ぬこともある。煮込み料理というのは偉大だ。時間をかければ、なんとか柔らかくなる。
筋を切って、骨を断って……]
ああ、 また会ったね、江津子さん
[作業台から顔をあげ、そうだ、と包丁を抱えたまま戸を開けば、声かけがあったもののばったり、という体だろうか。 ちょうど出ようとしたところだ、という顔で、少し不思議そうにその手にある卵を見る]
(274) 2017/11/25(Sat) 00時頃
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ああ、 そうか 卵
はあ、どうにも律儀だね あんたは
[頭を掻いて、さて。 手を差し出せば、その手にころん、と転がるだろうか]
でも、 そうだな 卵は良い。精をつけるにはぴったりだ
[そうだ、太らなければ。満腹ということをあまり知らないけれども、卵も、鶏肉も、出来れば人の肉も。沢山食べなければ*]
(276) 2017/11/25(Sat) 00時半頃
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[手の中でころりころりと不安定な卵。 このまま割って丸のみにしてやろうか、とも思うが額を使うという想い付きはなく、結局は土間の片隅、風通しの良い暗所へ一旦仕舞われることとなる]
あぁ、 前払いってぇやつだな、承知した
[分かった、と頷いて鍵のかからない戸を後ろ手に閉める。 視界の隅、研ぐのに使った水が桶の中に溜まっているのが見えた。片付け損ねたが、誰がとるも躓くもないだろう。放っておくことにしよう]
いや、ちょいとリツにね 椅子を頼んでおいたのさ
踏ん張らなきゃ力も出ないってね
[連れ立って歩くもないだろう。 隣人とは、時折すれ違って話すくらいがちょうどいい。 背中を向けるのも、向けられるのも慣れている。 またな、の声がないのも朝と同じく。やはりすぐに会うものだ]
(287) 2017/11/25(Sat) 00時半頃
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[さて、包丁と椅子の交換に出向けば、風にのってどこからか出鱈目な歌が聞こえてくる。 この村には若者が多い。 若いまま死んでいく者も多い。
美味しく食べられることは幸せなのか。 食べるならば、美味しく食べるのが弔いなのか。
最近どうにも、そんなことばかり考える。 死ぬことばかり、考えている**]
(293) 2017/11/25(Sat) 01時頃
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真剣師 鬼丞は、メモを貼った。
2017/11/25(Sat) 01時頃
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