297 湿っぽい古風和ホラーRP村「紫陽花奇譚」
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────この子の ななつの
御祝いに
お札を 納めに
参ります───────
──────行きは よいよい
帰りは こわい
こわい ながらの
と お り ゃ ん せ
と ぉ
り ゃ ん
せ
[わらべ歌を口ずさみ、きゃらきゃらと笑う子供の声が、木霊する。
雷門じぃちゃんが姿を消す刹那、確かにその袖を引く小さな手があった。
こっち、こっちと誘うような。
それは勿論、夕顔の手ではない。]
[生ぬるい風が、吹き込んで、幼子の声をかき消す。
りぃん、とどこからか、鈴の音が響く。
お山の向こうへの道は、迷いの道へと変わる。]
お山の神様は、
人間に興味なんて、あらへんよ。
[お山の神様は、ただそこにあるだけで。
ヒトが死のうが行きようが、多分滅びようが、どうでも良い。
だから。だから────]
[山奥の、さらに奥の、奥。
千代にそびえる巨木があった。
今は人のたどり着くこともないその巨木は、もう随分前に雷に打たれて真っ黒に焦げてしまっている。
その傍らに、割れた大岩ひとつ。
かつてそれは、巨木に寄り添うまろい石だった。
かつてその石には、緋色の縄が幾重にもめぐらされていた。
かつて、その石には……――――]
あぁ、だから、白やのうて、
赤やったんね。
[娘は目の前でうなりを上げる獣を無感動に眺めた。
遠くから、人が来る気配がする。
その中に、聞きなれた声が混ざった気がした。
あかん、あかんよ。
来たらあかん。
まだ。
わたしはもう、覚悟を決めたのやから。
これで、終い、と……
腹を裂く熱と、そこから零れる命の赤は、元々緋色の衣装を更に鮮やかに染め上げた。
近づく複数の人の気配に、のっそりと姿を消す獣。
括りつけられた岩に身を預け、細く息をする。
あと、何回。
徐々に弱まる鼓動を数える。
喉を焼くような冷たい空気を、それでも吸い込んだ。]
[支える力を無くした首が、重力に従って傾く。
自然と見上げるようになった巨木を、ぼんやりと眺める。
ここに、本当に。
神様は、おるんやろか。
わたしは、ちゃんと。
およめさまに、なれるんやろか。
わたしは、ちゃんと……]
『どうして、どうして、おねぇちゃん――――!』
[悲鳴のような声に、のろりと瞳だけを巡らせた。
泣きじゃくるあん子の顔が、見えなくて。
嗚呼でも、どうせ泣いた顔しか見れぬなら、数刻前に見た笑顔を最期の顔としても、良いかなぁ、なんて。]
なぁ、**。
わたしは、ちゃんと……
おねぇちゃんに、なれたかな。
[思う間に、世界は黒く、深く、沈んで逝って――――、]
たしかにその紫陽花は、
わたしのものやけど。
摘んだりするんは、構へんのよ。
[そもそもその花は、本来摘まれるべくして生えたもの。
だけれど、不要な時には触れられぬよう、姿を隠して山中に生いていたもの。
……だった、はずで。
いつから、こんな疎まれるものになったのだったろう?]
そんならわたし、
ひなちゃんが、綺麗な紫陽花になれるよう、
皆んなに綺麗綺麗て言うてもらえるよう、
お祈り、しとくねぇ。
そこには…
そのお花には。
今は、だぁれもおらんよ?
今は。だぁれも。
[雷門じぃちゃんは、
おたえちゃんに連れられて、
何処かへ行ってしまったから。]
岩の上でいついつまでも、
何度でも思うのは。
あん子のことやった。
わたしの代わりに善吉っつぁんの
お嫁さんになったはずの、
あん子が。
なぁんもできんかった、あまたれのあん子が、
ちゃんとお嫁さんやれとるんか、
心配で仕方なかった。
わたしはそれを、見に行くことも、
できぬまま。
いついつまでも、緋色の花嫁衣装を纏い、
岩の上で、待っとるのです。
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