18 'Cause I miss you. 〜未来からの贈り物〜
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[倒れたテッドを見ても、“ドナルド”を知っているせいか、動くことができなくて。]
友達よ。あたしの大切な幼馴染だ。それがどうしたっていうの。
[き、っと睨むだけしか、できなくて。
笑っているような雰囲気のするドナルドが、とても腹立たしかった。
でも。
一番腹立たしかったのは、何もできない自分。]
マジか! ハッハハハハハッッ!!
[ 友達、という言葉に哄笑を抑えられなかった。]
そうか、友達か、ハハハ!
だったら言ってやるがいいさ!
[ 湧き上がる可笑しさを殺すために、一拍を取る。]
友達の間には隠し事なんて無いんだろ?
わたしは人狼だけど、あなたを食べたりしません。
これからも友達でいてくれますか……てなぁ!?
アイリスのヤツどうするんだろうなぁ?
ハーッハハハハハハハハハ!!!
[ 一度止めた哄笑が、再び堰を切る。]
な、なによ。
[突如響いた笑い声。
続いた“提案”。
それは、とても。]
――…そ、んな。こと。
[言えない。
言えない。
アイリスの返答が怖かった。
人狼だと、ばれて殺されるのが怖かった。
兄が救ってくれたこの命。絶やすわけには。
ああ、でも。
兄の敵は。
ぎり。唇を噛む。
血の、紅の味がした。]
[ 戸惑うような同胞の話に、低い声で呟く。]
経験者からの忠告だ……一度しか言わねえぞ?
人間を信用して正体をバラせば、こうなる。
まあ、俺はこの程度で済んだがな。
親友だと思ったところで、ヤツら人間は必ず刃を向けてくるぜ?
アイリスだってテメエを人狼と知れば、憎み、怒り、刃を持ち出すだろうなあ……。
それでもお前は、「親友」だなんて思えるクチか?
[ 問いかける。]
[低い“声”にドナルドからアイリスへと視線を動かす。
ずっと、一緒にいたアイリス。
大好きな親友。]
………。
[彼女はどう思うのだろう。
自分が、人狼と同じ存在になってしまったこと。
わからない。わからなかった。
考えたく、なかった。]
くっ……はは。
[ 椅子に座り、笑いをこらえる。]
は……あのガキが何者かは知らんが……助かったぜぇ?
[ ヤニクに決選投票を申し込まれた時を思い出す。
――冬の空の下に放り出されたような、骨の髄まで凍る思い。
だが……。]
たまらねえな、このスリルは……。
[ くつくつと笑いに身を歪めた。]
――…何が、楽しいのよ。
[少年の後姿をぼぅっと眺めていたけれど。
笑う気配にそっと視線を動かす。
“たのしい”“たのしくない”
何度かここで聞いたセリフ。
ふと、なんとなはしに自分はどうだろうと、考えてみる。]
………たのしいだなんて、思うはず、ないじゃない。
[楽しくは、ない。
あるのは、恐怖。
何への?
死?
それとも――
――自分への?]
[ 同胞の囁きに、唇を歪めた。]
……楽しくない? 楽しくない、ねえ?
[ くつくつと笑い、告げる。]
その割には随分と悩んでるみたいじゃねえか。
初めての時はあんなにきっぱり嫌だと言ってた口がよぉ?
楽しくない、よ。当たり前、じゃない、こんな、こんなの。
[自分を抱くように腕をまわして身体の震えを抑えようと。]
なっ、悩んでなんかないっだいたいなにを悩むっていうのよっ
[ 怖がるように体を抱く同胞を見た。]
へえ、その割に歯切れが悪いじゃねえか。
自分自身をどう騙そうかってツラだぜ? それは。
[ 首をすくめてみせた。]
……騙そうだなんて、思ってない。
[首をすくめる姿から視線を外す。]
それに、自分なんて、そうそう騙せるような、相手でもない、でしょ。
[歯切れが悪いこと、自分でもわかっていたけれど。
それでも、“声”だけははっきりと。]
他人を騙すよりはよっぽど楽だと思うがな?
その証拠に……。
[ 盗み見るような視線をアイリスに向けた。
その空気だけで、何を伝えたかったのか知れるだろう。]
……な? 考えないようにしてて、そして忘れてただろ?
[ 意地悪く哂う。]
………っ。
[ドナルドの視線を無意識的に追えば、アイリスに辿り着いて。
意地悪げな哂いに、再び唇を噛む]
[ 視線の先に気づいたらしい。]
言ったぜ? 俺はアイツを喰いたいってなぁ?
[ 視線は獲物の首筋を捉えたまま。]
なんで。そんな、いや、だ。
[ドナルドの視線の先、アイリスを見つめて。
俯いて。
弱々しく、“声”にする。]
[ 弱々しい、吹けば飛ぶような細い声に顔をしかめた。]
みっともねえ声出してんじゃねえよ。
言っただろう? もう忘れたかこの馬鹿野郎。
[ 喰いたい奴が居るなら優先してやる、そう言ったのを思い出して、暗い笑みを灯す。]
…食べたくなんて、ない。
[同じように思い出して、す、と視線をそらす。]
そんな、食べなくても、いいじゃない。大人しく、してれば。
[ 大人しくしていればいい。その言葉にわずかに首を振った。]
今更無理だな。
俺も、お前も、人間どもも、今更止めることなんざ考えられねえ。
例え俺達が食わなくても、奴らは俺達を殺すまで誰彼構わず殺し続けるさ――俺達を殺すまでは、な?
[ 鼻を鳴らす。
過去を思い出し、一瞬だけ面白くない顔をした。]
[届いた“声”にちらりとヤニクからドナルドへ視線を動かす。
一瞬見えた表情に、少し違和感を感じたりもしたけれど。]
……殺すまで。
[言葉を、反芻する。
殺し合い。
抵抗しなければ、ヤラレル?
ふるり、浮かんだ考えに、身を震わす]
[ 視線を感じ取り、天井を眺めた。]
ああ、殺すまで、だ。
俺とお前が抵抗しなくたって、奴らは危機として殺しに来るぜ?
なんつったって……。
[ 怒りを押し殺すように、呟く。]
俺達はな、奴らにとっちゃ殺すべき敵だ。
その辺に転がってる本を見てみろ、確実にそう書いてある。
で、だ。
誰も、その事を疑問に思う奴は居ねえ。
お前の大事な大事なアイリスだってそう信じこんでるだろうさ。
アイリスは、アイリスは…
[違う――そう、言いたかったけれど。
そう言えるだけの、自信が、今の自分にはなかった。]
アイリスは……何だって?
[ 続けられるものなら続けてみればいい。
覚めた目で続きを待つ。]
ア、イリス、は……ち、が…
[目線から逃れるように、瞳を固く閉じて。腕にぎゅ、と。力がはいる。]
「違う」……と思いたいだけなんだろう?
自分を騙して安心したいだけだぜ、それは。
[ 唯一縋るものを砕くように呟く。]
………。
[アイリスを見送って、ヤニクに言葉を返して。
ちらり、ドナルドを見る。
それは、本当かもしれない。
でも、本当にしたくなかったから。
何も、言わなかった。
何も、言えなかった。]
[ 黙りこくる同胞に、溜息をつく。]
まあ、生きてりゃ、その内嫌でも思い知るさ。嫌でも、な。
[ アイリスが出て行くのを目で追う。
結局は、止めなかった。
もはや同族だと、心中でほくそ笑む。]
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