191 忘却の箱
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―回想―
[廊下で後ろ姿を見かけたのは、「可笑しいかい?」と微笑みかけてきた彼。 今度は男が背中から話し掛ける。]
やぁ、紫のブーケはどうなったんだい?
[一度話し掛けたが、最後。 何処までも研究、記録、ああすれば、こうすれば。 ちょっと話し掛けるんじゃなかったなぁ、なんて。 でも、伝えなきゃいけないことがあったんだ。]
備品室でウエディングドレスを見たんだけど、あれって君の? ……う、ううん、早くブーケが見たいとかではなくて…うん…うん…
[あのドレスは、ブーケは、どうなったのだろう。*]
(86) 2014/09/10(Wed) 22時頃
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―クリスと別れた後―
[備品室への道を急いでいた。
日常を愛していただけの男は今朝死んで、今、アコーディオンを抱えながら走っているのは生き急ぐ別の男。
途中、廊下で誰かにすれ違ったかもしれない。 それでも、男は止まらなかっただろう。 中庭を通り抜ける所で、ふと足を止める。止められる。
昨日は無かった、紫と青の花が目に眩しい。]
–––––––––綺麗なブーケだ。 でもまだ完成しては……無いよね?
[中庭のベンチにアコーディオンをドサリと置いた。 汗が滲む。軽くなった身体で、備品室へと駆ける。 朱色の花びらが、服の隙間を縫って床に足跡を残す。 もうすぐ、もうすぐだ。花に 男は急かされる。]
(87) 2014/09/10(Wed) 22時頃
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-朝の食堂-
[そのまま、眠れぬまま。 何度通り過ぎても慣れない痛みは、夜を連れ去り朝を呼ぶ。
診察室の椅子からゆるゆると立ち上がり、食堂へ。 朝食を取る手はどこかうつろだったかもしれない。
ふいに後ろから声を掛けられ>>26振り返る。]
―――ああ、ジリヤ。おはよう。 疲れて見えたかな。
[見透かされるなんて自分もまだまだだな、と心の内で悔いる。 続く言葉には、少しだけ微笑った。 ――それは少し、困ったように見えたかもしれない。]
(88) 2014/09/10(Wed) 22時半頃
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サミュエルに、マーチェ。 ペラジーと……セシルが。
[少しだけためらいながらも、言葉を続ける。 どうせどのみちわかることだ。だが――]
セシルだけは、動かせなかった。 ――紫のブーケが、きれいだったよ。
[一つ一つ、言葉を選ぼうとするが、返す言葉はどこか零れ落ちたもので>>33]
(89) 2014/09/10(Wed) 22時半頃
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[ふわりふわりとした記憶を手繰っているのだろう。しばし彼女は言葉を切った。]
―――どうしたんだい?
[ふいに表情のこわばったジリヤに、眉を上げる。 ともに目線を手首に伸ばせば、そこに有ったのは茨の蔓。]
診療室へ、行こうか。
[肌に食い込んで緋を滲ませた棘を見て、診療室へ戻ろうとするが、彼女は頭を振る。 それを男は何も言わずじっと見つめ。
彼女からは強い、薔薇の香りがした。]**
(90) 2014/09/10(Wed) 22時半頃
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…──なに、してんの?
[開け放たれた屋上のドア。 立ち尽くす男の背中に、声を掛ける。>>83 砕け散った硝子が、きらきらと陽光を乱反射する。ひらり、と。色とりどりの花びらが舞って。あっという間に風に攫われていく。]
ズリエル、…………。
[そこに居た彼は、出会った日のようにタオルを被る事も無く。 あの日の怯えた子供みたいな様子とはすこし違ってみえて。 何となく、踏み込むことが躊躇われ、青年は屋上の入り口で、立ち止まっていた。]*
(91) 2014/09/10(Wed) 22時半頃
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―備品室―
い……ッ、
[備品室に入れば、まず不思議な位置に置いてあったミシンケースにけ躓いた。 机に手を付いた拍子に、その上に置いてある飴を見つける。 「いつもの」手癖でそれを袖の中にしまった。
自分で自分に苦笑しながら、息を整えて身体を立て直す。]
やっぱり…まだあるんだ。
[持ち主の分からないウエディングドレス。 雑多な箱の中身をガシャガシャやっていると、すぐにギターの弦は見つかった。ポケットに突っ込む。
マネキンからウエディングドレスをそっと脱がすと、それを抱える。 備品室の扉を足で開けた。*]
(92) 2014/09/10(Wed) 22時半頃
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お針子 ジリヤは、メモを貼った。
2014/09/10(Wed) 22時半頃
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―回想―
[綺麗な金髪だなぁ。 中庭にいる彼女に話し掛けたのは、それがきっかけ。 長いブロンドは、結われているわけでもなく伸び伸びと美しかった。 だからつい、口から零れてしまったんだ。]
君なら、きっといい花嫁になるだろうね。
[その時の彼女の反応は……ただ謝って、静かに見守るしかなかった。*]
(93) 2014/09/10(Wed) 22時半頃
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………へ?
[フェンスの傍に歩き出そうとした時、後ろから声がした。 振り向けば、屋上階段の入り口に男が立っている。 入り口。こちらを見ている。…ポケットに手を突っ込んで、ばらばらに剥がされた付箋を見て。 一番上にあった、『留守番とミシンのケース』。]
………ぁ、しー…しゃ、さん? おはようございます。
[まだ、残っている。 そう言いたげに、また薄い砂色の花がのど仏に開く。 何も無い様に微笑んで、少し頬を掻き、男は続ける。]
……もう、僕じゃない物を。 離してあげよう、って思って。 ところであのう、シーシャさん。
(94) 2014/09/10(Wed) 22時半頃
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ズリ、エル、って………何です?
[男のシャツが風に靡く。 文字の書かれたシャツが靡く。]
(95) 2014/09/10(Wed) 22時半頃
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[スティーブンと別れて、廊下を歩いていると 見慣れない大きな男と接触しかける>>50]
…いえ、こちらこそ 考えごとをしてたので、お怪我ないです?
[足元を見れば、片方はスリッパで もう片方は靴を履いていて こどもみたいと笑いを堪えて視線を上げれば
ワニの様な顔を咲いた花が彩り 体格のよさはクマみたい、とぼんやり思う]
(96) 2014/09/10(Wed) 23時頃
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[男はこちらの左手首を見てから 問いかけてくるので、いつも通り>>81]
…いえ、なんともないでしょ?
[と、返してから]
さっき、先生にも見てもらっているし …同じこといわれたような気もするけど
大丈夫…痛くないわ
[今は、をつけそびれたのは すでに忘れているからなのか それとも、わざとなのか傍目には分からないだろう]
(97) 2014/09/10(Wed) 23時頃
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『 ズリ、エル、って………何です? 』
(──── ああ、やっぱり、オマエも、 )
(98) 2014/09/10(Wed) 23時頃
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[風に嬲られた男のシャツが靡く。まごうこと無く、自分の字が書かれたシャツが。 パタパタと音を立てて、それは屋上に群れる鳩の羽音に混じって。耳の、奥に、届く。]
…──なぁ、
[じゃり。内履きの底が、屋上の割れたコンクリートを踏む。一歩。じゃり。もう一歩。
そこは、白い箱の天辺で。 ずっと。青年が、ずっと来たかった場所。結局、今の今まで来れなかった場所。]
(99) 2014/09/10(Wed) 23時頃
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[じゃり。 踏み出した足が、陰を抜けて。 夏の名残りの日差しが、肌を、視界を、灼いた。]
オマエも、どっか、いっちまうのな。
[声はもう震えない。風に煽られた髪の隙間から、紅鳶の瞳が覗いて。何度もなんども、シャッターを切る。忘れないように。忘れない為に。でも。]
────バァカ、……言ったろ、オレは、忘れねえんだよ。 オマケにしつこいし、諦めも、…すげぇ、悪い。
[視界がぐにゃぐにゃと歪む。 声は、確かに震えていなかった。けれど風に混じって水滴が舞う。舞う。コンクリートに染みを作って、また。花が咲く。]
(100) 2014/09/10(Wed) 23時頃
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―中庭―
[息を切らして、中庭の土を踏む。 幾重にも重なるレースのウエディングドレスは、男の手に有り余っていたが、それでも決して地面には付けないように。]
…………や、ぁ…お届け物……だよ
[中央の花に話し掛けると、息も絶え絶え、背の低い木にドレスを広げた。 腕を軽く交差させる。紫の花を一輪だけ手折ると、袖の隙間に差し込んだ。
距離を取って改めてそれを見れば、紫を縁取る白がよく映えていて。 表情が、綻ぶ。]
…じゃ、次はサミュエ……
[足がもつれて、その場に倒れ込む。 白いシャツの腹からは、朱色の花びらの香りと共に赤い血が滲んでいた。]
(101) 2014/09/10(Wed) 23時頃
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(あ、もう?)
[鼻につく土の香りと、間近にある花の香りに、咳払いをひとつ。
顔を上げる。 ベンチの近くには、男の……]
………、
[片腕で身体を起こす。 そのまま、這うようにしてベンチまで移動する。 もう、手に食い込む石を痛いとも感じない。 ベンチに座る気力はなく、ベンチに背中を預けてドレスと対面するように足を投げ出した。
震える手で箱を開ける。 いつもよりも手間取りながら、右手と足にアコーディオンのベルトを引っ掛ける。]
…………、次は、君の為にって…約束…
[力無く笑みを浮かべながら、思い出すのは昨日の約束。]
(102) 2014/09/10(Wed) 23時頃
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そうだわ、紫のブーケをご存じ? スイトピーの花がたくさん咲いているところ
先生が動かせないって、いってたものだから…
[動かせないというからには 根づいてしまったのだろうことは推測がついた 先ほど、スティーブンから聞いた気もしたが ふと、目の前の男に尋ねてみる]
…ありがとうございます
[男はなんと答えただろうか それがどのようなものであれ礼をいう]
…御機嫌よう
[そして、その場を後にした*]
(103) 2014/09/10(Wed) 23時頃
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―回想―
[初対面の時、その視線を、まだ覚えている。]
……やぁ、初めまして。
[二言、三言の間に相手の名前がシーシャであること。 そして男の名前がヤニクであることは告げただろうか。 そして、太く、黒い字で目印を付けられれば]
……ふ、とんだ目印をありがとう。 よろしくしてくれるかい?シーシャ。
[困ったように微笑めば、言葉が返ってきただろうか。それとも……*]
(104) 2014/09/10(Wed) 23時頃
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お針子 ジリヤは、メモを貼った。
2014/09/10(Wed) 23時頃
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…よかった。 僕は、大丈夫です。全然、痛いとか…無いんです。
[相手の堪える笑いにも気付かず、こちらはほっとしたように微笑み。 なんともないでしょ、痛くない、と落ち着いた声を聞けば]
…先生に、見てもらったなら、要らぬお世話、でしたね。 見てるとちょっぴり痛そうで…ひゃっと、しました。 けれど……奇麗な、花で。凄く…
似合って、ますね。
[首を傾げると、開ききった砂色も揺れた。 その花が吸い上げた記憶も知らず。]
(105) 2014/09/10(Wed) 23時頃
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…ッ忘れてやんねぇからな、ぜったい、
[踏み出す。内履きが足から外れて、何処かへ飛ぶ。 蒸されたコンクリートの熱。足の裏が、その熱を蹴る。踏み出す。踏み出す。踏み出す。割れた硝子の破片が、皮膚を破る。それでも。構わない。
伸ばした手の甲にまで白い花が群れる。 掴んだ。もう目の前にいる男の胸倉を。その、名前が記された、シャツを。心臓の、真上を。]
オマエが、オレを忘れたって。オマエがオマエを忘れたって。 忘れてやんねえからな、絶対、ッ!
[ズリエル。 叫ぶみたいに呼んだ声。 どれほど泣いたら、どれほど叫んだら、この痛みはから抜け出せるんだろう。眼前の男の後方には、滲んだ蒼。また、シャッターが下りた。]*
(106) 2014/09/10(Wed) 23時半頃
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[紫のブーケ。目の前の女性が問う。 一つ、瞬きをするとこくりと頷いて]
……スイ、ト、ピー………? えと、そのう…それはわからない、ですけど。僕。 紫色…奇麗な、紫色の方なら、中庭に…… 真ん中の辺り、だったかな。
–––––––––––居らっしゃい、ますよ。きっと、今も。
[中庭の方を手で示して告げて。 礼を言われれば緩く首を振り、いえいえ、と呟く。]
…ごきげん、よう、です。
[彼女の挨拶を一つ真似て。 それから、階段へと足を運んだ。]*
(107) 2014/09/10(Wed) 23時半頃
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―廊下>>78―
[汚れちゃう、と言われても、そんなことは気にならなかった。 ただ、いつもと様子の異なる青年に対し、何故だか放っておくことのできない気がして。]
何を、謝るの? 何にも悪い事なんて、無いんだよぉ…
[ごめん、と繰り返す彼の心中など、分からない。 けれど、何だか彼がとても今弱っていて、とても苦しんでいるのだけは伝わってきたから。 立ち上がり、青年の頭をぽんぽんと、まるで子供に対するように撫で、それから、拒絶誰無ければその頭をそっと抱きしめたことだろう。 大丈夫、と伝えるように。
暫くして、彼が落ち着いたのであれば、後ろ髪惹かれつつも彼を後に残し、その場を後にする。*]
(108) 2014/09/10(Wed) 23時半頃
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[ぼんやりと食堂に佇む。
やることはたくさんある。 何度もあったことじゃないか。
そうやってもう一人の男がささやくが、それは慰めにならなかった。 洗い物をしていた賄い婦に心配そうに声を掛けられ、少し取り繕うように笑い、食堂を離れようとしたその時。
中庭に、揺れる、白いドレス。 そして。]
ヤニク―――?
[ベンチに倒れこむように身を預ける青年。 その体からこぼれる花弁は、今までよりも鮮やかで。]**
(109) 2014/09/10(Wed) 23時半頃
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[男が、近づいて来る。入り口の扉を超えて。 ミシンケースを踏み越えて。此方側に、一歩、二歩。 泣いているのは何故だろう。赤い瞳がゆらゆら揺れている]
何処にも、行きません…よ、『僕』は? 多分、ずっと……此処に居るのかな。 だから、大丈夫です、シーシャさん。僕は、まだ消えないんです。
だって、僕ら、花に……なるんですよね?
[言った瞬間だったか、胸倉を掴まれて。 屋上に男の、シーシャの叫び声が響き渡った。 ズリエル、と繰り返す。繰り返す。手の甲には白が咲き乱れて、声は、枯れている。]
(110) 2014/09/10(Wed) 23時半頃
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…ズリエル、って言うのは…僕の、名前、ですか?
[少し朦朧とした口ぶりで、繰り返し唱え。 緩く、目を伏せて。]
……ズリエルは、きっと。 人間の形で、生きていられなくなったんです。
[屋上に残されたメスシリンダーは、存在していた容器達の中で一番容量が大きい。 中身はまるで堆肥と埃でも詰め込んだかの様に濁った色で。 底の辺りはグズグズと形を無くしているが、確かにそれは、花弁だった。 1052g。そう書かれた付箋も、風に攫われて飛んで行く。]
誰も傷つけないように、 何処もまよわないように、 自分が誰か分からなくならない様に…
もう、自分が、誰か、わからなくならないように…
[ぼそぼそと呟く声には、怯えの欠片も無い。]*
(111) 2014/09/10(Wed) 23時半頃
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[今日は天気が良い。昨日と同じ。 そういえば、昨日食堂で初めて出会った彼とはあれっきり会わなかったなぁ。
–––––––…彼が持っているものは何物か。 僕は、もう何もいらないかな。 まぁ弾かせてよ。あとちょっとだから。
紡ぐのは、物悲しい音色と熱情を含んだ穏やかなミュゼット。 この歌に、歌詞はない。 『誰の為か?』 もうそれは、今の僕では一人しか思いつかなくて。]
…………君なら、きっと
["忘れないね" 呟こうとした口に、風船のような色をした花が触れる。 演奏の手は止まらなかった。 もう、「最初から」なんて、無い。 ここで止めたらもう…]
(112) 2014/09/11(Thu) 00時頃
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[アコーディオンの音を、一つ外す。 二つ外す。 三つ、四つ。 右手から伸びる花たちは楽器に絡みつくように茎を伸ばす。
しかし男の耳には、音楽が流れている。 耳の辺りに咲く、薄い桃色の花。 もう、誰かに名前>>109を呼ばれても振り向く事は出来ない。]
–––––––頼みがあるんだ。
お昼ご飯になったら起こしてくれない?
(113) 2014/09/11(Thu) 00時頃
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[誰にともなく呼び掛けた声は、いつも通りの明るい声音。]
弾いてると、時間を忘れちゃうんだ。
[男の手は、もう人の手の形を成していない。]
ありがとう……………おやすみ。
[最後に目を細める。 心臓の辺りが静かに、動きを止めた。
男は、糸が切れた人形のように首を傾けている。 口元だけが、微かに動いて––––––…
時を 止める。*]
(114) 2014/09/11(Thu) 00時頃
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……ぼく、さ。
もう、くるしいのは、いやなんだ。
[くしゃり、と一瞬顔を歪める。 –––––誰かに連れて行かれる犬の様に、不安げに。
少し、蹌踉めいた瞬間だっただろうか。 下半身と、上半身がばつりと分断された。 …辛うじて繋ぐ様にに、蔓を残して。 落ちた下半身は床にほとんど振動を起こさない。 酷く、乾いたものが落ちるようで。]
(115) 2014/09/11(Thu) 00時頃
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