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>>-506 ―いつかの未来の山奥の村―
〔あの恐ろしい人狼騒ぎからどれだけの時が過ぎただろう。幾度となく季節は巡り、過ぎゆく時の流れは村人の心を癒やし、事件の記憶は風化していく。
蝉の声が響く林道を、リンダは金色風見鶏の屋敷へ向かって歩いていた。幾度となく通い慣れたこの道だが、この季節、老体には少し堪える。汗を拭い一息ついた。〕
『ねぇ、知ってる？あの屋敷の話』
〔声のした方を見れば、年端もいかぬ少女たちが屋敷を指差し噂話をしている。
その声をどこか遠くで聞きながら、蒼色の目を細めて笑っていたかつての彼の姿に想いを馳せた。彼は未だにあの冷たく暗い地下室に囚われているのだろうか。自分に確かめるすべはないけれど。
金色風見鶏の屋敷―もっともその金もとうに色褪せたが―から主人の姿が消えて久しい。彼の父親は結局村には戻らず、屋敷の扉は今も堅く閉ざされたままになっている。
荒れ放題の屋敷の庭からひとつ、ひとつ、と野草を摘む。赤や黄に彩られた即席の花束を彼の墓前に供えるために。
たとえ辛い記憶が多くても、やはら慣れ親しんだ場所のものは安心するだろうから。〕
(-579) かすみ 2013/08/07(Wed) 16時頃
