[男は少女に名を名乗ると会釈をこちらに向けて行った。
女も僅かに頭を下げ、それに応えて口を開いた。]
おおきに。藤はんどすな。
うちは芙蓉と申しますえ。見てのとうりこの里でお薬屋を営んでおりやす。
一通りのお薬を扱っておるさかいに何やおしたらいらおくれやす。
[くつくつと家の奥では火にかけたままの鍋が煮物を煮込んでいた。料理の匂いが店中に立ちこめる。
男の申し出にしばらく考えを巡らせ、少女と男を交互に見遣った。]
こないな所まで来はるのはさぞえらいことでしたやろ?
この里へおこしやす。
もし宜しければご飯を食べて行かはりますか?
味の保証はあかしまへんが…
小鈴もき〜な。一緒に食べはりましょ。
[そう言って、履いたばかりの下駄を脱いで二人を店の奥へと誘った。「とりあえず話を聞いてみよう。」女の思考はこうだった。
店はまだあけておくつもりだ。]
(149) 2011/07/12(Tue) 10時半頃