[––––食事中に失礼、
呼吸を止め、マグに口を付けた瞬間に側から掛かる、『聞き覚えのある』声。
ぱちり、瞬きと共に狭範囲に固まって居た意識が広がり、この時漸く人物の気配を認識した。
隣で小気味良く鳴る高めの音、傍に別の食器が置かれて…ひょいと覗き込まれ。
あ…は、はい。どう、ぞ?
[顔を向けると ぱ とかち合った、瞳と瞳。
あれ、声は解るのに、顔、知らない。
目付き悪いの、見られてしまった、と反射的に逸らした先、飛び込んで来る、ばっつりと失われた、左腕。
ああ、と声が漏れる。花絡む腕、花覆う掌、包帯の巻かれた腕。散々吸われ空洞の多い脳裏に滑る患者達の肩から指先。
だが目の前の男は、その質量すら肩から失われている。]
……そう、かぁ…。
[まじまじと、空っぽの袖を見下ろすぎょろりとした目。彼はどんな顔をしただろうか。
何か、告げただろうか。どちらにしろ、彼の肩からかけられた馴染みの音色を守る箱に。
そして彼が男の『よく知る』音の持ち主だと、すぐさま気付く事はない。]
(110) 2014/09/04(Thu) 01時半頃