だ、大丈夫……。
暑いくらい、だ。
[ほぅと落ちる吐息が濡れている。]
僕が苦手……あの舞台のような?
[飾られ磨かれ、人形のように扱われることにも辟易していたけれど、苦手と言うほどでもない。例えば結局名前の聞けなかった金眼の彼などに比べれば、口は達者だが血気盛んではない大人しい性分と言えるだろう。
舞台でのグロリアは嗤っていただろうか。玩具で遊ぶ童女のような側面はあったと思うが、より酷い仕打ちは回避していた気がする。
何とか虚勢だけで空にした杯を置いて、もじもじと身を捩る。着慣れぬドレスのせいだと映れば良い。]
愉しいですか、ああいうこと……が。
[今はあくまで準備中。ということは、またあの悪夢が再来するのだと。しかし逃げ出そうにもあまりに無力で、結局は誰かに買われる道しか選べないのなら。
不安を誤魔化すように、ちらちらと何度も隣のイアンの顔を窺った。]
(102) 2010/04/06(Tue) 16時頃