─書庫─
なァ、なに、読んでんの。
[並べられた書棚の隙間。ひっそりと佇む赤いケープの妖精じみた少女を、上から覗き込んででそろりと声を掛ける。
読書家である彼女とは、書庫で行き会うことも度々あったが。いつも挨拶程度で、そういえば大した会話をしたことがない。
並べられた本たちの中身はその大半を覚えてしまっていたから、ここの所は書庫から足も遠退いていた。
彼女は問いに答えてくれただろうか。
声が返れば、ふぅん、と短く頷く。そして、彼女の目線のだいぶうえにある棚の、一番端に並んだ一冊に指を引っ掛ける。]
オレのお勧めはコレ。
[赤い背表紙のそれを引き出して、机の端に置いた。
少女の視線がそれを追うのを確認して、青年の口許が少しだけ笑みを象る。
きっと気に入るよ。
言い残して、じゃあな、と片手を上げた。
これも誰かの“日記”だろうか。布張りの赤い表紙には、金の文字が走る。彼女の目は、連なったスペルを読み取っただろうか。]*
(71) 2014/09/12(Fri) 23時頃