["仕事柄"、幾つかの国の言葉には通じているものだから。
恐らくは彼の国の言葉であろうそれに目を細めれば、少しだけ困ったように、そして知らずのうちに何とも柔らかく笑って見せる。
態々故郷の言葉で言われたそれに、ハッとしたように押さえられたその口に。
"もしかしてそれが本音なのかしら"、と意外な一面を垣間見た気になりながら。]
……えぇ、またお菓子頂きにお邪魔させてもらいます。
――……"憎めないなァ。ありがとう、スティーブン"。
[目を逸らして告げられた別れの言葉>>31には、次を約束する言葉を。
扉の前で先のお返しに口にした女の母国の言葉は――薬師の国と海を挟んで隣に位置する女の国の言葉はきっと、彼には伝わるまいと思いながらも。
最後に態々名前を付け加えたのは、果たして何を言ったのか、と。少しでも気になれば良いなんて、そんな意地の悪い思惑を持って。
早口で小さな言葉だったから薬師には聞こえなかったかもしれないけれど。もしかしたらその言葉を、正しく理解されてしまったかもしれないけれど。
そんな事は、扉を閉めて再び下駄を鳴らす女の知った事ではありはしない――無論、店に響いた八つ当たりじみた言葉だって。]
(36) 2015/01/22(Thu) 14時頃