[そうして、紙っ切れを渡してからの僅かな間に 首を傾げては。
続いた “同じ” と言う言葉に、深く深く眉を寄せる。]
――…ちっと、失礼。
[地べたに膝をついて、ごそりごそりと少ない荷物をかき混ぜて。
真っ先に取り出したのは、陽の光に透き通る小さな櫛。
群れを追われた時、いちばんに世話を焼いてくれていた瞽女姐さんから貰ったそれは、かつん と小さな音を立てて指に当たる。
鼈甲で出来た持ち手から爪の先まで、ゆっくり確かめるように辿って、ほう と息を吐いた。
態々盗むまでもない額の所持金に、古ぼけた櫛がひとつ。
自分の持つ金目の物と言えば この程度。]
…なんだよ、ハッタリかい、そりゃあ。
悪趣味にも程があらあ。
[他に盗られるようなものなどない。
鼻を鳴らして首を振りながら、呆れたように溜息を吐いて、再び立ち上がる。]
(18) 2015/01/20(Tue) 03時頃