[ゆっくり、じっくり。
ひと口、ひと匙を味わうささやかな晩餐。
あの人を待つための時間稼ぎ?
いやいや、まさか、そんなの────当たり前だろう。
皿までキンキンに冷えた冷製スープは早々、温くなることもなく、お陰で普段より長い時間、ぐるりと店内を見回すこともできた。
まだまだ働き盛りだろう、いつも清潔で立派な靴を履いている紳士。
お堅そうなスーツに身を包みながら、近しいサイズの胃袋を抱えているのだろう、食欲旺盛な男。
近づけば甘い香りが鼻を擽る、一見気安い雰囲気の伊達男。
ワイングラスを傾ける姿が様になる青年は、そのまま映画のワンシーンに登場してもおかしくなさそうだ。
いつだったか、グラスハープを披露していた男の姿はまだ見えないが、彼ともすれ違いになってしまったのだろうか。
偶にマーケットでも顔を合わせる、柄は悪いが気の良さそうな男が携える杖には、少しだけ眉をひそめた。]
(10) 2019/05/19(Sun) 18時半頃