308 【R18】忙しい人のためのゾンビ村【RP村】
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[ さっきまで引いていた手の中に、 わたしが強引に握らせた小さなものを、 ジャーディンは一瞬不思議そうに見た。 そして次の瞬間、勢いよく顔をあげたわ。
泣きそうな顔をしていた。 何かに怯えているようにも見えたわ。 本当に利口な子。その意味をきっと分かってる。
それは車の鍵よ。おじいさんの車の。 古臭くてぴかぴかの車を動かすための鍵。]
(+32) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ そして、それがわたしの答えよ。]
(+33) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ ジャーディン、あなたを生かすためなら、 ほかの何を犠牲にしたって構わないわ。]
(+34) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ わたしはジャーディンを急かすように、 入ってきたばかりの扉をまたくぐった。]
早く逃げて。とにかく一度車の中へ。 身を隠せるわ。音のほうに来るはずだから。
[ そう告げながら、廊下へ出たのね。 ガレージのほうへと導くつもりだった。
そのとき、おかしな音がしたわ。 音っていうのかしら、声? 低い声よ。 そう、家を取り囲むあいつらが出すような。
そして、ふとおかしなことに気付いたの。 どうしてさっき、銃声がしたの? 木戸が壊されて窓やドアを破られて、 家の中まで入ってこられるには早すぎる。]
(+35) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ わたし、声のするほうを振り返ったの。*]
(+36) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ そこには何かが立っていた。]
(+41) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ はじめに目に入ったのは、 ぼとりと無造作に取り落とされた、 赤と肌色の入り混じった物体だった。
よく見たらその先端は五つに枝分かれして、 つまり人の手と同じ形をしていた。 ほんの今まで齧りつかれて ところどころ白い骨が見えていた。
ひいっとジャーディンが小さく叫んだわ。 すると、ゆらゆらと揺れていた細い影が、 首を無理やりに傾けるようにこちらを見た。 そして、わたしたちを見つけた。
ず、ずずと足を引きずって、 それはゆっくりとこちらに近づいてくる。 穴の開いた顔をこちらに向け、細い腕を伸ばして。]
(+42) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ ああ、ノーリーン。]
(+43) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ ……まるで誰かを探しているようだった。]
(+44) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ 足がすくんでいる様子のジャーディンを、 わたしはぐいと逆方向へと押したわ。 ノーリーンがやってくるのとは逆へ。
奇しくもそれはリビングのほうだった。 キッチンの勝手口を抜けてガレージに行ける。]
いいわね、隙を見て車を出しなさい。 そして逃げるの。どこか遠くまで。
[ わたしがこれだけ言うのに、 ジャーディンはいやいやと首を横に振った。 わたしの腕を引くの。強い力で。 その間にもノーリーンは距離を詰めたわ。]
(+45) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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──行きなさい、ジャーディン!
(+46) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ わたしは強い口調でそう言った。 ノーリーンははっきりとこちらを見ていた。
いっしょに行こう≠チて、 この期に及んであの子が駄々をこねるの。 でももう無理よ。見つかってしまったもの。
この廊下の先に続いているのはリビングで、 そこにはチビちゃんたちがいるはずなのよ。 そんなの、だめに決まってるじゃない。
ジャーディンときたら、 本当に一度言い出すと聞かなくてね、 きっとこれは娘に似たのね。だって……、 あら、この話って前にもしたかしら。]
(+47) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ つまり、仕方がなかったの。]
(+48) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ わたしはノーリーンの眼前に、 自らの左腕を勢いよく突き出した。 ああ、少しかっこつけちゃったわ。 みっともなく腕は震えていたんだもの。
ノーリーンがそれに、 素早く崩れかけた顔を寄せるのと、 ジャーディンが何かを叫びながら、 千切れそうな勢いでわたしの腕を引くのと。
たぶん、ほとんど同時だったわ。 わたしの体はふたりで半分こできないし、 つまり、わたしは彼女に噛まれた。]
(+49) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ いのちにも優劣はね、あるのよ。]
(+50) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ こんな皺くちゃでまずそうなお肉で、 なんだかちょっと悪いわねえ、ノーリーン。
もちろんその瞬間のわたしに、 そんな余裕なんてこれっぽっちもなくて、 わたしは喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
お隣のご主人、 よくクーパーに噛まれて堪えたわよね。
わたしなんてもう半狂乱になっちゃって、 ジャーディンが一瞬怯んで力を弱めたくらいよ。
ひいひいとわたしはあえいでいたわ。 痛くて痛くて泣いちゃいそうなくらい。 でもね、わたしの顔を覗き込むあの子が、 あまりに痛々しい顔をしているから、 ほら、Nanaとしては泣いてられないでしょ。]
(+51) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ ノーリーンはまだわたしに夢中だった。 わたしという肉に。今がチャンスだった。
一向に動く気配のないジャーディンに、 わたしは声を詰まらせながらも言ったわ。]
……行くのよ、ジャーディン。 どこか、どこか遠くまで……、 そうね……、西がいいわ。 ずうっと西へ……どこまでも…… それが、わたしの最後のお願いよ……
[ いつもお願いを聞いてくれたじゃない。 とうとう涙をこぼしだしたジャーディンに、 わたしは何と言ってやればいいのかしらね。
ねえ、これがわたしの最後の役目だとしたら、 わたし、本当に光栄よ。信じてくれるかしら。]
(+52) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ けどね、わたしも人間だから、 最後に少し欲が出ちゃったのね。
お別れを惜しんでいる暇はないというのに、 最後にどうしてもこの手であの子に触れたかった。
痛みで全身がひきつけでも起こしてるみたいに、 無事の右手を伸ばすのも一苦労だった。
今日はちゃんと撫でさせてくれるのね。 少し固い髪も、丸みの減った滑らかな頬も、 全部全部、わたしの宝物だったわ。
わたしがいなくなっても、わたしの宝物を、 この広い世界を漂う見知らぬ誰かが、 守ってくれますように。愛してくれますように。]
(+53) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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……あなたはとても素敵な子だもの。 きっと助けになってくれる人がいるわ。
(+54) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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愛してるわ、ジャーディン。 あなたのことが大好きよ。 ……だからどうか、生きて。
(+55) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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あなたが生きていることが、 わたしにとっての幸せなの。
(+56) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ ……ようやく決心がついたように、 ジャーディンはゆらりと立ち上がったわ。
あんまり痛いやら悲しいやらで、 もうこれ以上目を開けてたら、 とめどなく涙が出てきそうだったの。
だからわたしは目を閉じたのね。 わたしが泣いたらやさしいあの子は、 心配して戻ってきちゃいそうでしょう。]
(+57) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ 足音が遠ざかっていくのを、 暗闇の中で懸命に聞いていたわ。
少し離れたところで、 あの子がウィレムとゾーイを呼んだわ。 ずいぶん焦った声で何か言ってる。 ああ、オッドもいたのね。よかった。 ぱたぱたといくつかの足音が遠のいてく。
ねえ、ノーリーン。 安心してね、あの子やさしいの。 一人っ子なのに面倒見がよくってね。]
(+58) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ ……ああ、ジャーディン。 もうやさしくなんてなくたっていい。 お利口になんてしなくていいのよ。 だからお願い、生きて。どうか生き抜いて。]
(+59) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ ……でもね、わたし本当は、 やさしくて利口なあなたが好きよ。]
(+60) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ けたたましい音が響いたわ。 何かしらねえ。もうよくわからないの。
人の声もするわ。 お隣のご主人かしら。それとも息子さん?
あんまり騒がしいから、 ノーリーンがわたしを食べるのをやめて、 そちらへ向かうことにしたみたい。
ああ、床に転がっていると、 木戸を打つ音がよく体に響くの。 もうきっとだめねえ。 じきにここもまた騒がしくなるわ。]
(+61) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ べろりと何かが頬を舐めた。 やあねえ、くすぐったいわ。 そこにいるのは誰かしら。
犬たちの吠える声は、 今はてんでばらばらに聞こえるわ。
ごめんなさいね、こんな飼い主で。 あなたたちのことを守ってやれなくて。 わたしの一番にしてあげられなくって。
もう、逃げてもいいのよ。 こんなこと言って、 わたしは本当にひどい人間ね。]
(+62) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ 雑多に音が響く世界で、 わたしは静かに耳を澄ませて、 そのときを待って呼吸をしていた。]
(+63) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ そして、そのときはやってきた。]
(+64) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ ……ああ、よかった。 かすかに、エンジン の、音が──、**]
(+65) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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