254 東京村U
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……あ、ありがとう。
[噛みしめるように感謝の言葉を伝えると、手早く澪音の携帯に送信先を入力する。]
うん、友達……のつもり。 向こうが、どう思ってるかは、知らないけど……。
[歯切れ悪く答えた]
(109) 2016/10/06(Thu) 02時半頃
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[たまたま流していた音楽番組に、キャンディ・ノヴァが登場した。 シュガーキャットを歌い終えた4人は、司会者の芸人と談笑をはじめる。空色のステージ衣装を着た、薄い金髪の少女が、媚びた笑顔を浮かべて言った。
『ファンのみなさまの理想目指して、 ジリヤ、これからもがんばります♪』
ジリヤは食い入るように、テレビ画面を見つめていた。 眉根を寄せる。この番組は、生放送のはず。 なら、今映っているこの女は、誰だ?]
(……変わってるんだ……"影の形"が) (あたしが、見抜いたから(>>4:255)……?)
[他の3人に余計な不安を与えないよう、 口に手を添えて、心の中で呟いた]
(110) 2016/10/06(Thu) 02時半頃
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[ふと思った。 このまま東京から逃げてしまえば? 全てのしがらみを影法師に任せ、 1人、遠いどこかで人生をやり直せば……]
(……バッカみたい。 北海道から逃げて、どうなった? どこに逃げたって、結局……なにも変わらない。)
[あの"人を殺すジリヤ"も、TVに映る"人に媚びるジリヤ"も、 足元から伸びた影のひとつにすぎない。
全ての元凶である"なにか"は、常にジリヤの内にあって、 それを解決しない限り、 あの空っぽな笑顔(>>2:159)は、顔に張り付いたままだ。
なにより、赤坂とまったく関係のない、木露と澪音にも手をかけようとした影法師が許せなかった。これからも、ジリヤの大切な誰かを傷つけるかもしれない。
もしかしたら、ヤヘイだって――。]
(111) 2016/10/06(Thu) 02時半頃
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(……しっかりしろ、ジリヤ。 あんたがケリをつけるしかないんだ。)
[TVに映っている"アイドルのジリヤ"を睨みつけて、 チャンネルを変えてやった。]
(112) 2016/10/06(Thu) 02時半頃
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……カ、カレー?
[澪音に見せてもらったHPは、確かにラクルという店だ。 ラクルとは、アイヌ語で[霧]を意味するらしい。 北海道では、たしかに夏場は海霧が発生しやすい。]
……アイヌ語。 たしか、母さん、大学でアイヌの研究してたって。 関係……あるのかな?
(114) 2016/10/06(Thu) 03時頃
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― 朝:永田町 国立国会図書館 ―
[千代田区にある国立国会図書館は、日本で唯一の国立図書館だ。明治23年(1890年)に開設された貴族院図書館と帝国図書館、ふたつの蔵書を引き継ぎ、日本で刊行されたすべての書籍・雑誌・新聞を収納すると言われている。
9時30分。木露たちと別れ、上野から永田町へ向かったジリヤは、開館とほぼ同時に中へ滑り込んだ。立地は赤坂から遠くない。誰かに見られやしないかと、冷や汗をかいた。
利用者登録には年齢制限があるが、偽造身分証明書をとりだして、しれっと18歳に成りすます。売春摘発に備えて渡されていたものが、はじめて役に立った。]
(115) 2016/10/06(Thu) 04時半頃
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[木露と澪音のアドバイス通り、まず"呪文"はアイヌ語であると決め打ちし、その意味と関連情報を集めることにした。 アイヌ語事典とアイヌにまつわる民話関係の本をテーブルの上に積み上げて、作業を開始する。 まず"呪文"に含まれる単語の意味を単純に和訳した。]
シク:[目/多くの] アイ:[矢] クンネ:[黒] フレ:[赤] ラクル:[霧]
……やっばり、全部アイヌ語っぽい。
(116) 2016/10/06(Thu) 04時半頃
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[続いて、各単語に関連する情報を調べるため、アイヌ民話の本を開いた。根拠はまったくないが、いま、身の回りに起きている異変は、なんらかのかたちで噂や伝承に関連している。なにかしら、ヒントになるのではないか?
本のページをめくり、積み上げること、約40分。 それは、[霧]にまつわる民話を調べた時に発見した。]
(117) 2016/10/06(Thu) 04時半頃
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『沢山の神々が生まれた中で、 ペケレチュプ(日の神)、クンネチュプ(月の神)という 二柱の光り輝く美しい神々は、 この国(タンシリ)の霧(ウララ)の深く暗い所を照らそうと、 ペケレチュプはマツネシリ(雌岳)から、 クンネチュプはピンネシリ(雄岳)から、 クンネニシ(黒雲)に乗って天に昇られたのである。 アイヌ民族 天地開闢『日の神と月の神』』
(118) 2016/10/06(Thu) 04時半頃
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……ウララ、これも[霧]か。 クンネチュピ……[黒い][太陽]で、月の神……。
(119) 2016/10/06(Thu) 04時半頃
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[民話を調べ始めてから、3時間。早くも壁に行き当たった。 どれだけ調べても、肝心な呪文の意味がわからない。]
なにか、違うのかなぁ……?
[開いたページに頬をのせて、ぼんやりと宙をにらむ。] ふと、木露の言葉が浮かんだ(>>4:267)]
……並べ替え、置き換え……アナグラム。 これって、実は……日本語だったり?
(120) 2016/10/06(Thu) 04時半頃
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[ものは試しと、和訳した単語を並べ替え、 館内の検索サービスをつかって関連情報を集めることにした。]
まずは、順番通りに……
[『目 矢 黒 赤 霧』――めぼしいものは見つからない。]
じゃあ、並び替えて……
[『目黒 矢霧 赤』『赤目 黒霧 矢』『赤黒 目――…… **]
(121) 2016/10/06(Thu) 04時半頃
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お針子 ジリヤは、メモを貼った。
2016/10/06(Thu) 05時頃
お針子 ジリヤは、メモを貼った。
2016/10/06(Thu) 05時頃
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ー国立国会図書館ー
[試行錯誤しながら、しばらくがたった。 [黒]を [月]に置き換えてみる。 (>>119) 詮索結果には、雑多な電子ジャーナルのタイトル群。]
……そうだ、海霧。(>>113)
[[霧]を[海霧]に置き換えて、検索。 新しくヒットした電子ジャーナルの記事の中で、 ある一つのタイトルがジリヤの目に留まった]
……闇事件ファイル…近代犯罪史の怪事件。
[閲覧アイコンをクリックした]
(135) 2016/10/06(Thu) 17時半頃
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* * ――······なかでもとりわけ後味の悪い幕引きとなったのが、"月神事件(つきがみじけん)"だろう。
"月神事件"とは、****年10月7日に東京西池袋線沿いの路上で誘拐された当時8歳の少女が、3年後の12月5日に東京都の加害者宅で発見されたことにより発覚した誘拐監禁事件である。
異臭がするとの通報を受けて加害者宅に踏み込んだ警官が、現場で衰弱していた少女を発見。加害者である月守 赫矢(ツキモリ セキヤ)は、同室内の床に倒れ、死亡しているのが確認された。少女は3年前から行方がわからなくなっていた、青山 海霧谷(らくる)ちゃんだった。
(136) 2016/10/06(Thu) 17時半頃
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月守少女誘拐監禁事件、俗にいう『月神事件』には不可解な点が数多く、報道直後からさまざまな憶測が飛び交った。
容疑者の死因が伏せられたこと、少女が自ら逃げ出さなかったこと、さらに容疑者と少女が並んで外出していたという目撃談から、首謀者である少女が月守を殺害したという"少女犯人説"がネットを中心に広まった。
(137) 2016/10/06(Thu) 17時半頃
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憶測は被害者家族にもおよび、家族ぐるみの売春行為だったのではとの誹謗中傷を浴びつづけた家族は、少女発見から半年後に、東京都から逃げるように住まいを移してしまう。
また月守容疑者が重度のオカルティストであり、統合失調症や自己像幻視を患っていたことから、なにかしらの宗教的儀式を行っていたのではないかと、オカルト界隈からも注目を浴び――……** * *
(138) 2016/10/06(Thu) 17時半頃
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― 国立国会図書館 ―
……赫矢。(>>136) シク、フレ……[多い][赤]で、赫?
["――「天之加久矢」は「天之赫矢」にして 天日の威烈を象徴せる義なり。"
頭の片隅から、知らないはずのフレーズが響いた。 そう[赤][矢]ではダメだったのだ。 あの男には、こだわりがあった。]
……誰!? この、"らくる"って……誰なの!?
[疼き始めた右脚をひきずり、駆け足で資料室へ向かう]
(147) 2016/10/06(Thu) 20時頃
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[少女失踪の捜査状況を報じる 4年前の報道記事にそれはあった。
青山 海霧谷(らくる)、失踪前の写真。 黒いキャップ帽を被り、照れ臭そうにそっぽを向いている。
その髪は色素の薄い金髪で]
……うそだ…(>>2:164)
[翠色の瞳。]
……だって、あれは事故だって…(>>1:105)
[Tシャツから覗く首もとのホクロ。]
……ちがう、あたしじゃない!!(>>2:163)
(148) 2016/10/06(Thu) 20時頃
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[海霧の読みは (うみぎり)、またの名は(カイム)、 そしてもうひとつ。夏の季語としても使わる――(じり)
海霧 谷
じり や
* *
(149) 2016/10/06(Thu) 20時頃
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『クンネ様と呼べといっただろ!!』
(151) 2016/10/06(Thu) 20時頃
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ゴキッ
(152) 2016/10/06(Thu) 20時頃
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― 国立国会図書館 ―
[一瞬のフラッシュバック。
ジリヤは、膝を抱えてうずくまった。 ズキズキと疼きだした右脚を押さえる。
あの男に砕かれた脚を。]
······ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメ
(154) 2016/10/06(Thu) 20時頃
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[視界がぐるりと回転した。 いや、回転したのは周りの世界だった。 辺りの景色が溶けだしたかのようだった。
図書館にいたはずのジリヤは、気がつくと、街中にいた。 十字路が交差する中央で、脚を抱えてうずくまっていた。
――"知らない街"だった。]
(155) 2016/10/06(Thu) 20時頃
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お針子 ジリヤは、メモを貼った。
2016/10/06(Thu) 20時頃
ジリヤは、みょんこに話の続きを促した。
2016/10/06(Thu) 20時頃
ジリヤは、キルロイに話の続きを促した。
2016/10/06(Thu) 20時頃
ジリヤは、イルマに話の続きを促した。
2016/10/06(Thu) 20時頃
お針子 ジリヤは、メモを貼った。
2016/10/06(Thu) 21時頃
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― ??? ―
[踏切、交差点、郵便局、商店街、 雑貨店、踏切、交差点、郵便局、 郵便局、商店街、踏切、交差点――]
……ここ、どこ!?
[行けども行けども、おなじような景色が、何度も繰り返し現れては消えてゆく。交差点のどこを曲がろうと、結局はおなじ交差点へたどり着いてしまう。道行く人影は皆無。昼間だったはずなのに、もうすっかり空が暗い。
そのとき、脇の線路に電車が通った。その車両には見覚えがある]
西武……池袋線?
[ ――ぞくりっ。背筋が凍った。 6年前、海霧谷が誘拐されたのも、西武池袋線沿いの街中ではなかったか?]
(178) 2016/10/07(Fri) 00時頃
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[それは何度目かの踏切に差し掛かった時だった]
カンカンッ カンカンッ カンカンッ
[降りた遮断機の向こうに、 車のハイビームのような強い光が灯った]
カンカンッ カンカンッ カンカンッ
[電車が目の前の踏切を通過する。 走り去る車両と車両の間から、わずかに向こう側が見える]
(179) 2016/10/07(Fri) 00時頃
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……いるっ
[電車が通過した後、踏切の向こうに現れた人影。 強い光を背にした特徴的なシルエット。
きらびやかな空色のステージドレス。 ミニのスカートからすらりと伸びた白いタイツ。 マイクを手に歌うのは、代表曲、シュガーキャット。 甘く鼻についた蠱惑的な声に、執拗に腰をふる扇情的な振り付け。
その姿は、前に見たときよりも一段と煌びやかで、 そして一段と――禍々しい。
顔面いっぱいに張り付いた、無機質で空っぽな、笑顔の仮面]
(180) 2016/10/07(Fri) 00時頃
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お針子 ジリヤは、メモを貼った。
2016/10/07(Fri) 00時頃
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[ふわりと宙を浮くように、一足跳びで、"ソレ"はジリヤの前に降り立った。走り出そうとしたジリヤは、しかし身体が動かなかった。 冷え切った手足はブルブルと震え、右脚がズキズキと痛む。 たっているのがやっとだった。
目の前の"ソレ"は、小首をかしげ、下から見上げるようにして口を開いた。]
『ねぇ、ジリヤ。ひとつに戻りましょう? それで、あたしたち、完全なジリヤになるの』
(187) 2016/10/07(Fri) 00時半頃
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[その瞬間、バチンッ と弾ける音が響いた。 らくがきだらけの『東京村』の背表紙がほつれ、 ボロボロとページが零れ落ちる。 身体が ――動いだ。]
……ちがう。あんたは……あたしなんかじゃない。 あたしの影でもない……
(188) 2016/10/07(Fri) 00時半頃
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["ソレ"は、男たちの欲望が、女たちの羨望が、 ジリヤにお仕着せたイメージ。 『月神事件』での悪評と伝説が形となった暴力。その根底にある、ひとつの悪意]
"ソレ"は……"あんたが欲しかったラクル"でしょ? ……月守 赫矢。
(189) 2016/10/07(Fri) 00時半頃
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……じゃないて
……月守 赫矢の影法師(ドッペルゲンガー)
(190) 2016/10/07(Fri) 00時半頃
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