84 戀文村
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[存外、というよりは意外なことだった。 男は、戦場というものに対して適性があったらしい。 たとえ自転車がなくとも、メッセンジャーバッグがなくとも。
戦線付近の村にたどり着いた時、そこは既に村の機能がなかった。 転がる人だったもの、朽ちた家。 もうすぐ咲いただろう花のつぼみは痩せて、踏みしだかれていた]
…嫌だねえ。
[すすけた顔の熊のぬいぐるみを手に、小さく呟いた。 そこには、少し前まで確かに人間がいたのだ。 奪い、奪われ、それがただ繰り返されている事実がそこにある。
男に与えられたのは、事後処理の仕事だった。 ともすれば目を覆いたくなるような破片たちを片付けることだった。 嫌だといったところで、仕事から逃げられるわけでもない]
(+67) 2012/04/01(Sun) 00時頃
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[一つ、二つと積み上げて。 三つ四つ、と扉を閉める。
ひとり離れたところで作業していたせいか、 気がつくとあたりに急ごしらえな同僚の気配はない。 一度戻らないと、あっという間にMIAかも知れないと思った男は いつもより少しだけ速い足取りで誰かに合流しようと
そう、思ったはずだった]
(+68) 2012/04/01(Sun) 00時頃
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……?
[一瞬だと、痛みというものは感じないというが それはどうやらほんとうだったらしい。
背中から、自分の腹に向かって銀色が生えていた。 ゆっくり振り返ると、子供がいた。 少年は、恐怖と憎しみだけで丸い目をいっぱいにして 痩せて汚れたその手で不釣合いなナイフを手にしていた]
(+69) 2012/04/01(Sun) 00時頃
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……。
[ああ、と。 空気が一つ零れた。 それと一緒に、口元がゆるぼったい笑みを浮かべた。 二歩前に踏み出すと、体から銀色が抜けた。 振り返ったと同時に、今度は逆に腹から背に抜けた。 今度は、ちゃんと痛かった。 少年の吐く殺意を耳にすれば、男はただただ、笑った]
(+70) 2012/04/01(Sun) 00時頃
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そりゃあ…嫌だよねえ。
[親が子にするように彼の体を両の腕で覆うと 銀色を手にしていた少年の喉が、ひ、と細く音をあげた。 男はゆるく背を撫でて、自分の手には何もないことを示す。 自分も、少年も、誰も彼もが嫌に決まっていた。 戦争なんて、望んでしているわけではない]
──いきなよ。
[腕は解けて、少年の手を取り、やせ細った手を柄から外してやると ゆら、ゆら、と。少年を追い立てるように手は揺れる。 これでは、冗談じゃなくMIAだと男はただ緩やかに思った。 そんなことを思うより先に、背が踏み荒らされた地にくっついて 小さな足音は文字通り逃げていく。
少しばかり億劫そうに息を吐き出す男の目の前には 広がり続ける青い空]
(+71) 2012/04/01(Sun) 00時頃
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……いきなよ。
[少年に最早声は届かないけれど。 吐き出した声を再び飲み込むように 大きく息を吸い込んで、ゆるく笑った男はそれっきり───]
(+72) 2012/04/01(Sun) 00時頃
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[次に目を開けたとき、男は自分の姿を見下ろしていた。 ゆるく笑った口元を見下ろして]
だらしない顔してんねえ。
[ぷ、と小さく噴出した。 自分のことであるのに、自分でないようだった。
羽ばたきの音に視界は空へ向かう。 空に浮かぶ白い鳩]
お迎えかねえ。
[どこへ連れて行ってくれるのだろう。 それとも、今度は神様専属の郵便配達員にでもなれというのだろうか。
まあ、それも悪くない。 そんな風に男はゆるぼったく微笑んで白い鳩の示す先へ]
(+73) 2012/04/01(Sun) 00時頃
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