88 吸血鬼の城 殲滅篇
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[ページを繰って最初に戻れば、覚え書きはこう書き始められていた。]
何故、レポートの題材に、この城を選んだか、まずはそこから説明したいと思う。
幼い頃に、祖母から聞かされた話なのだけれど──…
(1) 2012/04/29(Sun) 00時頃
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ああ――――――
やっぱし、ますますいい女になってやがる。
― 地下墓地 ―
[深い闇の中で、闇の髄が揺れる。
意志持つ闇。形ある影。
それが、今の彼の本体だった。]
―――にしても、無粋な野郎どもだ。
淑女への礼儀というやつを教えてやれよ、クレア。
[届かぬ言葉を紡いで、闇が嗤う。]
――― は。
少しはやるじゃねぇか。人間風情が。
[地の底で揺れる闇には、笑みの気配。]
なに。
あれが人間に遅れをとるとも思わんが、
―――サービスってやつだ。
[地の底で闇が嗤う。]
[眷属の血は甘美な滋味。
吸血鬼の間で禁忌とされていようとも
その誘惑に屈するものもいる。
ましてや今は体持たぬ身。
注がれた滋味を、闇は貪欲に飲み干した。
城に零れた血は床に吸い込まれ、
吸い寄せられるように地下の墓地へと集まる。
血を注がれた闇は赤く染まり、
いっそうの存在感を増して濃くたゆたった。]
( さて。
オレの可愛い”娘”に傷をつけたのは、どいつだ? )
[残虐な衝動に、思念が歪む。]
[一度倒され、封印されて、力は随分と弱まっていた。
切り離した分身に力を送ろうとしても、
僅かばかりにしかならない。
いますこし、時間が必要だった。
完全に蘇るために。力を取り戻すために。]
( オレが顔を見るまで、死ぬんじゃねぇぞ )
[囁きながら、側にいることもせず、
娘が零した血を吸って力を得ている、矛盾。
それは、自分が蘇りさえすればどうとでもなるという
自負の裏返し。
満ちゆく力は今にも溢れそうに、地下の岩壁を揺らしている。]
ああ。
[思念が、城をなおも黒く染めていく]
オレの可愛いシェリを殺したおまえたちを、
ただで死なせてやるってのは、もったいないよなぁ?
遊んでやるさ。
気の済むまで、たっぷりと。
泣き喚いて這い蹲って許しを請うまで、
ここに来たことを、永劫に後悔するように、
たぁっぷりとな。
おれの"娘"を殺した男。
[黒い力が、身体の中で水位を増す。
あのクロスボウから放たれた杭が、娘を貫いた。
そのさまが、未だ視界から消えぬ。]
あれが、殺せなかった男。
ああ、そうか。そうだな。
あいつには、相応しい行く末を与えてやるとしようか。
ああ、そうだな。
あいつとの約束、守ってやれなかったな。
[名を呼べば、力を送ると約束したものの、
最後のときに側にいることさえしなかった。
自覚は、じわりと心を蝕む。]
それもこれも、オレを封印した人間共と、
あれを殺したこいつらのせいだな。
[歪んだ自我に方向を与えて、牙を噛む。]
だから。
報いを。
[表には出されぬ、苦く熱い意志。]
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