少しだけ落陽が早いだけ。
少しだけ風凪ぎが長いだけ。
日常と非日常の境目は、ほんの僅かな差異だけであった。
その時までは。
俄かに突風がおこり、校舎はぐらりと揺れる。
突然の音と振動に、地震が来たかと思う者もいたかもしれない。
割れこそしなかったが、蛍光灯は大きく揺れてブツリと消えた。
蛍光灯だけではない。不思議なことに、校内の灯りという灯りが消えている。
真っ暗闇に包まれた学園は、よく知る校内とは別物のようだ。
気付けば、振動も風もぴたりと止んでいる。
もしもあなたが学校の敷地内から出ようとすれば、
透明の壁のようなものに阻まれるだろう。校門の向こうには出られない。
そしてもし窓の外を見る者がいれば、
もう一つ、明らかな異変に気付くはず。
既に花を落とし、葉ばかりになっていた桜の木々が――
満開に咲き乱れた艶やかな姿で、ぐるりとあなたたちを取り囲んでいる。
(#0) 2020/05/20(Wed) 01時頃