−木陰 回想− >>5
[駆け寄ると、こちらの姿を確認したのかどうかわからないが、すぐにゆっくりと眼を閉じてしまった。口の端から血を滴らせたまま、いつものように笑っているように見える。眼を閉じる間際、小さく響いた彼の声は、確かに鼓膜に届いていた。]
シケた面、か。
[確かに、いつか見せてしまったぎこちなく笑った顔よりも、今の方が随分とひどい顔をしているだろう。いつだって崩すことなく貼り付けていた笑みを浮かべることができない。]
ねぇ、ヨーラ。
君の肩を一番借りたいのは、今だよ。
あぁ。いちいち聞かなくてもいいんだっけ。
悪いけど、勝手に肩借りるよ。
[その胸から突き出ている矢を抜いて、そっと抱き起こし、腕を回して彼の肩に、髪に顔をうずめた。先ほど森で会ったときは温かかったその身体が、徐々に体温を失ってゆくのがわかる。しばらくはそのまま、木陰から動けなかった。]
(*118) 2011/11/20(Sun) 17時半頃