―賭けの途中で―
[>>292 活動の拠点を故国に移した頃、その再会は叶った。あのデタラメなお伽噺のようなハロウィンを、共によく知る青年に。
あの街の中で、穏やかな佇まいの中に茶目っ気を持っていた彼が、もうすっかり落ち着いた大人になっていた。時は着実に流れているのだと知る。
それから何度も、機会を作っては共に茶を飲み、近況を報告し合った。
真面目な会社で勤めを続け、結婚して、子供に恵まれて。自分が選ばなかった「真っ当な」人生を、着実に送っていく彼。その姿を見守り、その都度祝福してきたけれど。
あの街のことを話す彼の笑みに、あの頃の面影を見る。
どこか遠く、心の一部を置き去りにしてしまったような横顔に、時折不安が兆した]
幸せか不幸かなんて、結局本人にしかわからないものだわ。
誰もが羨む暮らしの中で飢える人もいれば、
その逆だって有り得るのよ。
[互いに、核心には触れないまま。
ただ自分の忘れえぬものを、自分の手で抱え、それぞれの道を行く。
穏やかな共闘関係は、晩年まで続いた]
(@69) heinrich 2014/11/04(Tue) 01時頃