[どれくらいこうしていただろう。
酒店の天井から下げられたランタンのうすぼんやりとした灯りに誘われて、一匹の蛾が舞っているのが見える。
漸く視界が戻ってきた。
二、三度瞬きを繰り返して、壁に預けていた体を起こす。ずっと上を向いていたせいで眦から耳の方へ流れた涙のラインを両手の甲でぬぐって、椅子から立ち上がった。]
振られてしまったな…。
あの方の心は、この国…アンゼルバイヤに捧げられているのであろうな。もう何年も。
こんな小娘風情が国と張り合おうなどとは全く…呆れた夢を見たものだ。
[軽口を叩いて一歩踏み出す。
最後に掛けられた言葉は、グロリアを未来へと突き放していた。
「仮にアンゼルバイヤが滅んだとて」そう言ったゴドウィンは、自らをアンゼルバイヤ人以外の何ものにもなれぬと言う。それは双方の滅びを予言している。
扉を開く手を止め、おそらくはもう主の戻ることのない店内を振り返る。
薄暗い室内をしばらく見つめた後、...は店を出た。**]
(245) 2011/11/17(Thu) 22時頃