−路地−
[軍手は既に白さを持たない。
メッセンジャーバッグを新調するだけの資材もなくて
水に弱い鞄を懐に抱えながらの作業だからどうも苦しかった。
仕立て屋の女将が軍需衣料生産の人手として
この村を離れてから大分経つ。
少しの解れぐらいなら自分でなおしたが、それ以外のことは難しい。
自分がいるうちに彼女が帰ってきたら、新しい鞄を頼もうと
そんな夢のような考えを打ち破ったのは近づく足音]
なあに、いつものことさ。こいつも随分長いからねえ。
…本当は歯車のひとつでも直してやりたいけれど、今のご時世、なかなか。
[軽く肩を竦めながら手袋を外した。
すっかり慣れてしまった修理はそれほど時間を要しない]
また今度外れたら、お前さんのところに頼みに行こう。
[そんな言葉を残して、分隊長殿とは別れた。
それから、配達を済ませ、家に戻ったのはちょうど日が暮れるころだった]
(67) 2012/03/24(Sat) 11時半頃