人狼議事


308 【R18】忙しい人のためのゾンビ村【RP村】

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[ そのあとしばらくして、
 ジャーディンは静かに立ち上がり、
 覚束ない足取りで部屋に帰っていった。]
 



[ あれから4日が経っていた。]
 



[ 水道が止まった。]
 



[ 少し前からいずれ止まるだろうと警戒して、
 できるだけ水を貯めてはいたけれど、
 無尽蔵に使えるわけではなくなってしまった。

 あの日以来、
 わたしたちはまたわずかな食糧で、
 糊口をしのいでいる状態だった。

 できるだけ長く生きるために。
 今あるもので、できるだけ長く。]
 



[ 平和的に過ごしている理由は、
 それだけではなかったわ。

 ジャーディンが降りてこなくなったの。
 一日中、犬たちのいる部屋で過ごしてね。

 毛布を一枚持ち込んで、
 お手洗いに立つ短い時間以外、
 部屋の壁にもたれかかるようにして、
 じいっとその場を動かなくなってしまった。

 食事の時間になるたびに、
 わたしはあの子の分を部屋まで運んだ。
 それから、時折犬にエサをやるときも。]
 



[ もうとても毎日はやれなかったけど、
 残り少ないエサをたまにやっていたのね。

 それは必ずしもわたしの役割ではなくて、
 部屋にいるあの子に任せてもよかったけど、
 たぶんわたしはあの部屋に行く理由がほしくて、
 度々エサをやりにいっていた。

 わたしがエサ皿にフードを流す間、
 ジャーディンは何一つ見逃すまいとするように、
 じいっとこちらに視線を注いでいたわ。

 そんな状態だったから、
 誰もそろそろ≠ネんて言い出せずにいた。]
 



[ けれど、もう限界だった。]
 



[ 日に日にチビちゃんたちの口数が減って、
 大人たちも塞ぎこむことが増えた。

 お隣の息子さんはしきりに、
 外へ出ようとご主人に訴えかけてたわ。
 また何か見つけられるかもしれない。
 また何か捕らえられるかもしれない。
 その可能性に縋っているようだった。

 あの手この手でそれを躱していたご主人が、
 その日、ついにわたしの元へやってきたの。]
 



  わかっているでしょう。
   もう、次の手を打たなくては
 



[ それが何を意味しているかなんて、
 火を見るよりも明らかだったわ。*]
 



[ 扉を開けたわたしを、
 あの子はじいっと見つめていた。
 何も言わずに、ただわたしだけを。]
 



  ……ジャーディン、

[ 犬たちと寄り添いあうようにして、
 ジャーディンは足を投げ出していたわ。

 切れ長の目はこちらを向いていたけど、
 そこにあまり力はなかった。
 どこか気だるげにも見えたのね。

 緩慢な動作で傍らの犬の毛を梳きながら、
 それでもあの子はゆっくりと口を開いたわ。
 平坦でいて咎めるような声色が、
 はっきりわたしに向けられているのが分かった。]
 



  ……殺すの?
 



[ ああ、ジャーディン。
 あなたはこのまま死ぬほうがマシだというの?]
 



  ジャーディン、わたしは……、

[ わたしは……何と言いたかったのかしらね。
 あの子に何を伝えたかったのかしら。

 あなたに生きていてほしいってこと?
 それを伝えることに意味があるかはさておき、
 確かにそれはわたしの最大の望みだった。
 あの子が望むと望まざるとにかかわらず。

 けれどね、
 わたしがそれを口にすることは叶わなかった。

 しびれを切らしたお隣のご夫婦が、
 様子をうかがうように部屋の中に入ってきた。]
 



[ この間のように、
 わたしが犬を連れだす算段だったのね。

 けれどわたしはちっとも出てこないし、
 あの子が部屋に居ついていることは、
 当然彼らも知るところであったから、
 自分たちで直接説得しようと思ったのかも。

 とにかく、彼らは部屋に入ってきて、
 それでもあの子はわたしを見つめていた。

 視線ひとつとして揺らすことなく、
 ただ、わたしの答えを待つようにして。]
 



[ そのときだったわ。*]
 



[約15日。
 二週間と一日。
 土日がたったの二回きり。

 世界がこうなるのにかかった時間。]
 



[終わりなんてあっけないもんだ。]
 


[あれから俺は何度か元帥と外に出向いて
 無い食料を探してはゾンビを殺し続けた。

 ちょっと昔のホラーゲームに
 主人公が永遠にゾンビを殺すエンドがあったけど
 ちょうどそんな風に、どこからともなく沸き続ける連中を
 殴って殴って殴り続けた。

 都内ってこんなに人住んでたっけ。
 こじんまりしたかつての首都の中に
 滅亡とゾンビがみっしり詰まってる。]


[元帥は相変わらず
 何事にも関心がなさそうな冷たい目をしてたけど
 たまにゾンビを殺す俺を複雑そうに見るようになった。

 聞いてみたら、元帥もまた、
 ゾンビになった恋人を殺したんだそうな。

 俺にシンパシーでも感じてんの、と笑ってやったら
 そんなわけねえだろ、とそっぽを向いていた。
 へんなやつ。]


[ショッピングモールの中で
 元気に遊んでた子供たちが倒れだす。

 大人も動くことが減った。
 「このままじゃもう保たない」と叫んで
 バリケードの外に出ていこうとした男が
 ゾンビの襲撃を恐れた人間たちに撲殺された。

 限界がすぐそこに来ていた。
 崩れるのはあっという間だ。

 俺の楽しい大学生活が
 ゾンビに侵された時のように。]



[――だからその日は、ほんとにあっけなくやってきた*]
 



[ それは終わりを告げるサイレンのようだった。]
 



[ 犬たちがけたたましく吠え出したの。
 はじめは一匹。呼応するように次々と。

 普段はそんなことなかったのよ。
 そりゃ来客も少ない家だったから、
 彼らを刺激するものも少なかったけど。

 それにしたって、
 思わずその場にいる誰も硬直するくらい、
 尋常じゃない勢いだったの。

 わたしたちは揃って数秒間、
 あっけにとられたように固まっていたわ。
 ジャーディンでさえ心底驚いた様子だった。]
 



[ その間も彼らは吠え続けた。
 じきにガウガウと吠えたてる声に、
 あおおおおんと遠吠えまで混ざりだした。

 そのころになってようやく、
 ご主人が慌てた様子で窓に駆け寄った。
 ジャーディンも同じように窓を振り返った。
 わたしと奥さんもあとに続いたわ。
 犬たちはまだ叫び続けている。

 どん、どん。
 鈍い音がどこからか聞こえてきたの。
 音は次第に大きくなる。どん、どん。どん。

 わたしたちの見下ろす窓の向こうには、
 門扉に群がる無数の影があったわ。
 犇めき合い、波立つように押し、押され、
 まるでひとつの大きな塊のようにも見えた。]
 



[ どん、どん、と何かのぶつかる音がする。
 音? いいえ、地響きのように、
 わたしたちの体の奥へと響くようだった。
 鳴りやむ気配などまるでなかった。

 やめさせてくれ!≠ニご主人は叫んだ。
 叫んだはずよ。わたしにはそう見えた。
 けれどその声さえも飲み込むように、
 周囲には犬たちの鳴き声がこだましていた。]

  ──裏戸が。

[ つぶやいたのはわたしだった。
 門扉が破られることは早々ないとしても、
 裏は鍵をかけているだけの木戸なの。

 きっと聞き取れなかったんでしょう。
 ご主人が怪訝そうにこちらを見たわ。]
 



[ ああ、どうしましょう。
 そう思ったときにはわたし、動き出していた。
 たったひとり、ジャーディンの腕だけを取って。]
 



[ あっけにとられているあの子の手を引いて、
 犬の声のこだまする廊下を進んだわ。

 一生懸命走っているつもりだったけど、
 ジャーディンは速足ですいすいとついてきた。

 階段を降り切ったあたりで、
 弟さんのお嫁さんが血相を変えて駆けてきた。

 上階から響く犬の声と、
 家を取り囲むような鈍い音、
 それから誰かの悲鳴と銃声。
 ありとあらゆる音が重なって、
 彼女の声はとぎれとぎれに聞こえたわ。]
 


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