人狼議事


308 【R18】忙しい人のためのゾンビ村【RP村】

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視点:



[ そのあとしばらくして、
 ジャーディンは静かに立ち上がり、
 覚束ない足取りで部屋に帰っていった。]
 



[ あれから4日が経っていた。]
 



[ 水道が止まった。]
 



[ 少し前からいずれ止まるだろうと警戒して、
 できるだけ水を貯めてはいたけれど、
 無尽蔵に使えるわけではなくなってしまった。

 あの日以来、
 わたしたちはまたわずかな食糧で、
 糊口をしのいでいる状態だった。

 できるだけ長く生きるために。
 今あるもので、できるだけ長く。]
 



[ 平和的に過ごしている理由は、
 それだけではなかったわ。

 ジャーディンが降りてこなくなったの。
 一日中、犬たちのいる部屋で過ごしてね。

 毛布を一枚持ち込んで、
 お手洗いに立つ短い時間以外、
 部屋の壁にもたれかかるようにして、
 じいっとその場を動かなくなってしまった。

 食事の時間になるたびに、
 わたしはあの子の分を部屋まで運んだ。
 それから、時折犬にエサをやるときも。]
 



[ もうとても毎日はやれなかったけど、
 残り少ないエサをたまにやっていたのね。

 それは必ずしもわたしの役割ではなくて、
 部屋にいるあの子に任せてもよかったけど、
 たぶんわたしはあの部屋に行く理由がほしくて、
 度々エサをやりにいっていた。

 わたしがエサ皿にフードを流す間、
 ジャーディンは何一つ見逃すまいとするように、
 じいっとこちらに視線を注いでいたわ。

 そんな状態だったから、
 誰もそろそろ≠ネんて言い出せずにいた。]
 



[ けれど、もう限界だった。]
 



[ 日に日にチビちゃんたちの口数が減って、
 大人たちも塞ぎこむことが増えた。

 お隣の息子さんはしきりに、
 外へ出ようとご主人に訴えかけてたわ。
 また何か見つけられるかもしれない。
 また何か捕らえられるかもしれない。
 その可能性に縋っているようだった。

 あの手この手でそれを躱していたご主人が、
 その日、ついにわたしの元へやってきたの。]
 



  わかっているでしょう。
   もう、次の手を打たなくては
 



[ それが何を意味しているかなんて、
 火を見るよりも明らかだったわ。*]
 



[ 扉を開けたわたしを、
 あの子はじいっと見つめていた。
 何も言わずに、ただわたしだけを。]
 



  ……ジャーディン、

[ 犬たちと寄り添いあうようにして、
 ジャーディンは足を投げ出していたわ。

 切れ長の目はこちらを向いていたけど、
 そこにあまり力はなかった。
 どこか気だるげにも見えたのね。

 緩慢な動作で傍らの犬の毛を梳きながら、
 それでもあの子はゆっくりと口を開いたわ。
 平坦でいて咎めるような声色が、
 はっきりわたしに向けられているのが分かった。]
 



  ……殺すの?
 



[ ああ、ジャーディン。
 あなたはこのまま死ぬほうがマシだというの?]
 



  ジャーディン、わたしは……、

[ わたしは……何と言いたかったのかしらね。
 あの子に何を伝えたかったのかしら。

 あなたに生きていてほしいってこと?
 それを伝えることに意味があるかはさておき、
 確かにそれはわたしの最大の望みだった。
 あの子が望むと望まざるとにかかわらず。

 けれどね、
 わたしがそれを口にすることは叶わなかった。

 しびれを切らしたお隣のご夫婦が、
 様子をうかがうように部屋の中に入ってきた。]
 



[ この間のように、
 わたしが犬を連れだす算段だったのね。

 けれどわたしはちっとも出てこないし、
 あの子が部屋に居ついていることは、
 当然彼らも知るところであったから、
 自分たちで直接説得しようと思ったのかも。

 とにかく、彼らは部屋に入ってきて、
 それでもあの子はわたしを見つめていた。

 視線ひとつとして揺らすことなく、
 ただ、わたしの答えを待つようにして。]
 



[ そのときだったわ。*]
 



[約15日。
 二週間と一日。
 土日がたったの二回きり。

 世界がこうなるのにかかった時間。]
 



[終わりなんてあっけないもんだ。]
 


[あれから俺は何度か元帥と外に出向いて
 無い食料を探してはゾンビを殺し続けた。

 ちょっと昔のホラーゲームに
 主人公が永遠にゾンビを殺すエンドがあったけど
 ちょうどそんな風に、どこからともなく沸き続ける連中を
 殴って殴って殴り続けた。

 都内ってこんなに人住んでたっけ。
 こじんまりしたかつての首都の中に
 滅亡とゾンビがみっしり詰まってる。]


[元帥は相変わらず
 何事にも関心がなさそうな冷たい目をしてたけど
 たまにゾンビを殺す俺を複雑そうに見るようになった。

 聞いてみたら、元帥もまた、
 ゾンビになった恋人を殺したんだそうな。

 俺にシンパシーでも感じてんの、と笑ってやったら
 そんなわけねえだろ、とそっぽを向いていた。
 へんなやつ。]


[ショッピングモールの中で
 元気に遊んでた子供たちが倒れだす。

 大人も動くことが減った。
 「このままじゃもう保たない」と叫んで
 バリケードの外に出ていこうとした男が
 ゾンビの襲撃を恐れた人間たちに撲殺された。

 限界がすぐそこに来ていた。
 崩れるのはあっという間だ。

 俺の楽しい大学生活が
 ゾンビに侵された時のように。]



[――だからその日は、ほんとにあっけなくやってきた*]
 



[ それは終わりを告げるサイレンのようだった。]
 



[ 犬たちがけたたましく吠え出したの。
 はじめは一匹。呼応するように次々と。

 普段はそんなことなかったのよ。
 そりゃ来客も少ない家だったから、
 彼らを刺激するものも少なかったけど。

 それにしたって、
 思わずその場にいる誰も硬直するくらい、
 尋常じゃない勢いだったの。

 わたしたちは揃って数秒間、
 あっけにとられたように固まっていたわ。
 ジャーディンでさえ心底驚いた様子だった。]
 



[ その間も彼らは吠え続けた。
 じきにガウガウと吠えたてる声に、
 あおおおおんと遠吠えまで混ざりだした。

 そのころになってようやく、
 ご主人が慌てた様子で窓に駆け寄った。
 ジャーディンも同じように窓を振り返った。
 わたしと奥さんもあとに続いたわ。
 犬たちはまだ叫び続けている。

 どん、どん。
 鈍い音がどこからか聞こえてきたの。
 音は次第に大きくなる。どん、どん。どん。

 わたしたちの見下ろす窓の向こうには、
 門扉に群がる無数の影があったわ。
 犇めき合い、波立つように押し、押され、
 まるでひとつの大きな塊のようにも見えた。]
 



[ どん、どん、と何かのぶつかる音がする。
 音? いいえ、地響きのように、
 わたしたちの体の奥へと響くようだった。
 鳴りやむ気配などまるでなかった。

 やめさせてくれ!≠ニご主人は叫んだ。
 叫んだはずよ。わたしにはそう見えた。
 けれどその声さえも飲み込むように、
 周囲には犬たちの鳴き声がこだましていた。]

  ──裏戸が。

[ つぶやいたのはわたしだった。
 門扉が破られることは早々ないとしても、
 裏は鍵をかけているだけの木戸なの。

 きっと聞き取れなかったんでしょう。
 ご主人が怪訝そうにこちらを見たわ。]
 



[ ああ、どうしましょう。
 そう思ったときにはわたし、動き出していた。
 たったひとり、ジャーディンの腕だけを取って。]
 



[ あっけにとられているあの子の手を引いて、
 犬の声のこだまする廊下を進んだわ。

 一生懸命走っているつもりだったけど、
 ジャーディンは速足ですいすいとついてきた。

 階段を降り切ったあたりで、
 弟さんのお嫁さんが血相を変えて駆けてきた。

 上階から響く犬の声と、
 家を取り囲むような鈍い音、
 それから誰かの悲鳴と銃声。
 ありとあらゆる音が重なって、
 彼女の声はとぎれとぎれに聞こえたわ。]
 



 ね  ンビ い の かに る の 
 



[ きっとわたし、立ち止まるべきだった。
 立ち止まって彼女の声を聴くべきだったわ。

 でもね、わたしはそうはしなかった。
 立ち止まろうとするあの子の腕をぐいと引いた。
 足早に廊下を進んで、ひとつの扉を開けたわ。
 そして、中にあるデスクの引き出しから、
 迷いなくあるものを取り出したの。]
 



  ──行って、ジャーディン。
  ここはもうだめ、持ちこたえられない。
 



[ さっきまで引いていた手の中に、
 わたしが強引に握らせた小さなものを、
 ジャーディンは一瞬不思議そうに見た。
 そして次の瞬間、勢いよく顔をあげたわ。

 泣きそうな顔をしていた。
 何かに怯えているようにも見えたわ。
 本当に利口な子。その意味をきっと分かってる。

 それは車の鍵よ。おじいさんの車の。
 古臭くてぴかぴかの車を動かすための鍵。]
 



[ そして、それがわたしの答えよ。]
 



[ ジャーディン、あなたを生かすためなら、
 ほかの何を犠牲にしたって構わないわ。]
 



[ わたしはジャーディンを急かすように、
 入ってきたばかりの扉をまたくぐった。]

  早く逃げて。とにかく一度車の中へ。
  身を隠せるわ。音のほうに来るはずだから。

[ そう告げながら、廊下へ出たのね。
 ガレージのほうへと導くつもりだった。

 そのとき、おかしな音がしたわ。
 音っていうのかしら、声? 低い声よ。
 そう、家を取り囲むあいつらが出すような。

 そして、ふとおかしなことに気付いたの。
 どうしてさっき、銃声がしたの?
 木戸が壊されて窓やドアを破られて、
 家の中まで入ってこられるには早すぎる。]
 



[ わたし、声のするほうを振り返ったの。*]
 


― 隔絶された広い世界で ―

[割れた窓から入った風が頬を擽った。
 その心地よさに、乾いた目を細めた。]

  ……。

[元より賑わいと無縁だった店内には、沈黙だけが満ちる。
 コートのポケットに手を入れた。
 ドアの側に落ちていたスマートフォンは縁が欠け、
 表面にも亀裂が走っている。
 指で画面をなぞってみても反応は何もない。]


[スコップ片手に裏口を出た。
 どんよりと曇った空の下、所々荒れた畑が広がる。
 収穫を待つばかりのそれらを靴底で踏み潰して、
 既に道のように平らになった区画へ出る。]

[轍の傍ら、土の山の前に膝をついた。
 取り出したスマートフォンをその上に置く。
 薄汚れた手を胸の前で組み、首を垂れて目を閉じた。]

[周囲には、他にも似たような土の山がある。]

[大柄な男が、土を掘っていた。]


[店の裏にある小さな家へと入った。
 動線を大きく取った室内には、元々物は多くなかった。
 ハウスキーパーのドロシーが来たばかりだったのだろう。
 床にも机にも書物が出しっぱなしだった形跡はない。
 その中で唯一物が積まれているベッドへと向かった。

 一人目の上着を取り、
 二人目のマフラーを巻いた。
 三人目のリュックには、
 四人目の水筒と六人目の懐中電灯を入れた。
 五人目は何も持っていなかった。

 出て行く前に、使い込まれた様子の机の前に立った。
 椅子はない。写真立ても、レターケースもなかった。
 掌で木の質感を確かめると、手の形に埃が退き、
 代わりに泥まじりの土と濁った色が線を引いた。]

  あいしていたよ。

[返事をする者は、どこを探しても見つからない。]


[トラックの運転席へ足をかけた。
 取り替えたタイヤが凹んだ土をしゅわり、轢いていく。
 ラジオのボタンを押すも、ノイズすら聞こえなかった。]

  ――♪

[だから歌を歌おう。
 何もないこの場所で、歌詞も知らない誰かの歌を。

 トラックは、先の見えない道を進んでいく。]**



[ そこには何かが立っていた。]
 



[ はじめに目に入ったのは、
 ぼとりと無造作に取り落とされた、
 赤と肌色の入り混じった物体だった。

 よく見たらその先端は五つに枝分かれして、
 つまり人の手と同じ形をしていた。
 ほんの今まで齧りつかれて
 ところどころ白い骨が見えていた。

 ひいっとジャーディンが小さく叫んだわ。
 すると、ゆらゆらと揺れていた細い影が、
 首を無理やりに傾けるようにこちらを見た。
 そして、わたしたちを見つけた。

 ず、ずずと足を引きずって、
 それはゆっくりとこちらに近づいてくる。
 穴の開いた顔をこちらに向け、細い腕を伸ばして。]
 



[ ああ、ノーリーン。]
 



[ ……まるで誰かを探しているようだった。]
 



[ 足がすくんでいる様子のジャーディンを、
 わたしはぐいと逆方向へと押したわ。
 ノーリーンがやってくるのとは逆へ。

 奇しくもそれはリビングのほうだった。
 キッチンの勝手口を抜けてガレージに行ける。]

  いいわね、隙を見て車を出しなさい。
  そして逃げるの。どこか遠くまで。

[ わたしがこれだけ言うのに、
 ジャーディンはいやいやと首を横に振った。
 わたしの腕を引くの。強い力で。
 その間にもノーリーンは距離を詰めたわ。]
 



  ──行きなさい、ジャーディン!
 



[ わたしは強い口調でそう言った。
 ノーリーンははっきりとこちらを見ていた。

 いっしょに行こう≠チて、
 この期に及んであの子が駄々をこねるの。
 でももう無理よ。見つかってしまったもの。

 この廊下の先に続いているのはリビングで、
 そこにはチビちゃんたちがいるはずなのよ。
 そんなの、だめに決まってるじゃない。

 ジャーディンときたら、
 本当に一度言い出すと聞かなくてね、
 きっとこれは娘に似たのね。だって……、
 あら、この話って前にもしたかしら。]
 



[ つまり、仕方がなかったの。]
 



[ わたしはノーリーンの眼前に、
 自らの左腕を勢いよく突き出した。
 ああ、少しかっこつけちゃったわ。
 みっともなく腕は震えていたんだもの。

 ノーリーンがそれに、
 素早く崩れかけた顔を寄せるのと、
 ジャーディンが何かを叫びながら、
 千切れそうな勢いでわたしの腕を引くのと。

 たぶん、ほとんど同時だったわ。
 わたしの体はふたりで半分こできないし、
 つまり、わたしは彼女に噛まれた。]
 



[ いのちにも優劣はね、あるのよ。]
 



[ こんな皺くちゃでまずそうなお肉で、
 なんだかちょっと悪いわねえ、ノーリーン。

 もちろんその瞬間のわたしに、
 そんな余裕なんてこれっぽっちもなくて、
 わたしは喉が張り裂けんばかりに叫んだ。

 お隣のご主人、
 よくクーパーに噛まれて堪えたわよね。

 わたしなんてもう半狂乱になっちゃって、
 ジャーディンが一瞬怯んで力を弱めたくらいよ。

 ひいひいとわたしはあえいでいたわ。
 痛くて痛くて泣いちゃいそうなくらい。
 でもね、わたしの顔を覗き込むあの子が、
 あまりに痛々しい顔をしているから、
 ほら、Nanaとしては泣いてられないでしょ。]
 



[ ノーリーンはまだわたしに夢中だった。
 わたしという肉に。今がチャンスだった。

 一向に動く気配のないジャーディンに、
 わたしは声を詰まらせながらも言ったわ。]

  ……行くのよ、ジャーディン。
  どこか、どこか遠くまで……、
  そうね……、西がいいわ。
  ずうっと西へ……どこまでも……
  それが、わたしの最後のお願いよ……

[ いつもお願いを聞いてくれたじゃない。
 とうとう涙をこぼしだしたジャーディンに、
 わたしは何と言ってやればいいのかしらね。

 ねえ、これがわたしの最後の役目だとしたら、
 わたし、本当に光栄よ。信じてくれるかしら。]
 



[ けどね、わたしも人間だから、
 最後に少し欲が出ちゃったのね。

 お別れを惜しんでいる暇はないというのに、
 最後にどうしてもこの手であの子に触れたかった。

 痛みで全身がひきつけでも起こしてるみたいに、
 無事の右手を伸ばすのも一苦労だった。

 今日はちゃんと撫でさせてくれるのね。
 少し固い髪も、丸みの減った滑らかな頬も、
 全部全部、わたしの宝物だったわ。

 わたしがいなくなっても、わたしの宝物を、
 この広い世界を漂う見知らぬ誰かが、
 守ってくれますように。愛してくれますように。]
 



  ……あなたはとても素敵な子だもの。
  きっと助けになってくれる人がいるわ。
 



  愛してるわ、ジャーディン。
  あなたのことが大好きよ。
  ……だからどうか、生きて。
 



  あなたが生きていることが、
  わたしにとっての幸せなの。
 



[ ……ようやく決心がついたように、
 ジャーディンはゆらりと立ち上がったわ。

 あんまり痛いやら悲しいやらで、
 もうこれ以上目を開けてたら、
 とめどなく涙が出てきそうだったの。

 だからわたしは目を閉じたのね。
 わたしが泣いたらやさしいあの子は、
 心配して戻ってきちゃいそうでしょう。]
 



[ 足音が遠ざかっていくのを、
 暗闇の中で懸命に聞いていたわ。

 少し離れたところで、
 あの子がウィレムとゾーイを呼んだわ。
 ずいぶん焦った声で何か言ってる。
 ああ、オッドもいたのね。よかった。
 ぱたぱたといくつかの足音が遠のいてく。

 ねえ、ノーリーン。
 安心してね、あの子やさしいの。
 一人っ子なのに面倒見がよくってね。]
 



[ ……ああ、ジャーディン。
 もうやさしくなんてなくたっていい。
 お利口になんてしなくていいのよ。
 だからお願い、生きて。どうか生き抜いて。]
 



[ ……でもね、わたし本当は、
 やさしくて利口なあなたが好きよ。]
 



[ けたたましい音が響いたわ。
 何かしらねえ。もうよくわからないの。

 人の声もするわ。
 お隣のご主人かしら。それとも息子さん?

 あんまり騒がしいから、
 ノーリーンがわたしを食べるのをやめて、
 そちらへ向かうことにしたみたい。

 ああ、床に転がっていると、
 木戸を打つ音がよく体に響くの。
 もうきっとだめねえ。
 じきにここもまた騒がしくなるわ。]
 



[ べろりと何かが頬を舐めた。
 やあねえ、くすぐったいわ。
 そこにいるのは誰かしら。

 犬たちの吠える声は、
 今はてんでばらばらに聞こえるわ。

 ごめんなさいね、こんな飼い主で。
 あなたたちのことを守ってやれなくて。
 わたしの一番にしてあげられなくって。

 もう、逃げてもいいのよ。
 こんなこと言って、
 わたしは本当にひどい人間ね。]
 



[ 雑多に音が響く世界で、
 わたしは静かに耳を澄ませて、
 そのときを待って呼吸をしていた。]
 



[ そして、そのときはやってきた。]
 



[ ……ああ、よかった。
 かすかに、エンジン の、音が──、**]
 


[遠くで何かが崩れる音がした。

 ショッピングモールの元噴水広場で
 子供たちとサッカーをしていた俺は
 びくりと背を震わせて騒音の方を見る。
 
 何してんの、とか、
 もう耐えられない、とか、
 
 そんな声が聞こえた気がして、
 すっかり得物になってしまった金属バットを構えた。]


[ 最後に見渡した電子の世界は、
 それでも綺麗事に満ちていた。
 もう一度私は、私の中の毒を投稿しようとして。]

あれ───

[ 投稿画面ボタンを押したまま画面が止まる。
 ローディング中のまま、何秒経っただろう。

 「投稿に失敗しました」

 無機質なメッセージが画面に表示されて気づいた。
 携帯が圏外になっていた。]

ああ───もう。

[ 私の怒りは届かない。
 恐らく近くの基地局がやられたのか、
 そもそもインフラが死んだのか。
 いずれにせよもう私の怒りは世界に届かない。]


―― とある非人間の日常 ――


[ヴゥン、ヴヴゥン。

 鄙びた雑居ビルの一室で、
 空調が低い唸り声を上げている。

 ――いいや、違った。

 ボロボロのスーツ姿の男が喉を鳴らして
 奇妙な呻き声を漏らしているのだ。

 壁の配管に手錠で繋がれた男は
 ギョロ、ギョロと作り物の人形のように
 充血した眼球を時折動かしている]
 


[ひとだったものを殺すことにすっかり慣れてしまった。
 それでも、虫の知らせというか
 嫌な予感には背筋が震えた。
 
 駆け込んできたダンス部のJK――菜々緒が叫ぶ。]

 「榎本さんが外に出て……
  だめ、バリケード、崩されちゃった。
  ゾンビたちが来るよ!」

  ――、
  ……ああ。とうとうかぁ……

[悲痛な叫び声だった。
 子供たちは悲鳴をあげて各々、
 母親や父親と思いつく限りの隠れ場所へと向かう。

 元帥、と、俺は噴水の傍で
 うたたねしていたそいつを揺さぶって
 寝ぼけ眼に悪い知らせを叩きつけてやった。]




  ま、ま……まるとく じょうほ……
  れれれれれれいばんの
  さんぐぐぐらす
 
  げ、げ……ていにじゅううよ、よじかん
  とっ……………か、ににににせんよんひゃ……
  えん おとく で

  くくくくくくりっく


[けたけた。けたけた。

 かつて人間だったものは愉快に繰り返す。
 人間の声音とはかけ離れたそれは、
 まるで壊れたレコードのようだった]
 



[偽物のサングラスの入った
 段ボールに囲まれて
 男は仮初の命を享受する。

 時折、血に飢えたかのように
 自らの腕を齧る。
 白い骨が、めくれた皮膚の合間から
 見え隠れしていた]
 



[痛みもない。苦しみもない。
 ただただ、楽しくて。

 仲間を増やさなきゃ。
 なんだかおなかが空いたし。

 この手錠、邪魔だな。外れない。
 腕を捥いじゃおうかな。
 今はやめとこう。

 ああ、おもしろい。しあわせ]
 



 「食料が尽きるかバリケードが崩れるか
  どっちが先に来るかって話だったな」

  ねーえ、元帥。その通りだけどさ、
  おまえさん達観しすぎでない?
  
 「政府からの物資も届かなくなったし
  おまえだってわかってたんだろ? ジリ貧だってよ
  ……さて」

[元帥はあたりを一瞥する。

 逃げ惑う子供たち。

 ひとまず歳の小さいものの命を
 優先しようとする女たち。

 我関せずとありったけの食糧を持っていこうとする
 だらしのない男たち。]




  ……あは


[心底幸せそうに、それは笑った]**
 



 「今俺達の目の前には選択肢が二つあるわけだ。
  逃げるか、戦って死ぬか」
 


[どうする? と元帥が死んだ目を向けてくる。
 すっかり血の滲んだバットを肩にかけて
 俺は力なくにっと笑って、
 栄養不足気味の痩せた体で胸を張って
 格好をつけてみせた。]

  サイコーにカッコいい三択目。
  戦って生き残る、に決まってんでしょ。

[男子よ、最期まで英雄たれ。

 そう格好つけて言い放った直後。

 ショッピングモールの入り口付近のバリケードが
 大きな音を立てて崩落するのが聞こえた。]*


[ 頭をぐしゃぐしゃとかきむしり、
 血に濡れた布団をベッドから蹴り飛ばす。

 ──アーサーがそうしていたように、
 私はベッドの上に横たわり、そのまま丸まった。

 "あいつら"が来たらどうしよう。
 ちらりとよぎった思考は、すぐに溶けていった。]


メモを貼った。


[ そのまま何度か、目覚めては非常食を食べて。
 食べたらまた寝て。
 マンションの貯水槽はまだ無事らしく、
 トイレは普通に使えた。
 水の色は濁った赤錆色で、とてもじゃないけど
 飲む気は起きなかったけれども。]


[ 眠っているときに夢を見た。]


メモを貼った。


「あんたは可愛げのない子ね」

[ 夢の中で顔の見えない女性が言う。]

「譲ってあげなさい。あんたはいらないでしょ」
「こんなものいらないでしょ。捨てといたわよ」
「いつまで泣いてるの、面倒な子ね」

[ その女性も悪い人ではない。
 ただ───私がうまくやれなかっただけ。

 単に、合わないだけ。

 だから。

 いつの間にか女性の足元には、
 私が我慢した物がうずたかく積もっていく。
 その山が高くなるほど、女性と私の距離は広がる。]


[「わたし」はもう戻ってこなくなっちゃった。

身も心もゾンビになってしまったら
もう思考も、言葉も、
わたしが人間である証は
なんにもなくなってしまって。

血だまりのなか転がってた母は
しばらく経つと立ち上がって
ふらふらと外へ歩いてった。

そういえば
母の肉を口にした瞬間だけ。

身体中の痛みと、心の空虚が
癒える気がした。

だから母も、きっと、探しに行ったのだ。]


メモを貼った。


メモを貼った。


[―――運転を始めた最初は酷いものだった。
運転技術なんてないに等しいってのに、
ゾンビがそこらじゅうを徘徊し、
窓ガラスは割れ、ごうごうと煙をあげるビルの横を
見ないフリをして、走らなきゃいけなかった。

郊外とはいえ、ここは東京のはしくれだ。
>>2:*4東京はこの感染騒ぎの筆頭だっていうのに
自分の住んでいるところはまだ大丈夫だろうと
きっと、生き残りが集まっている場所があると、
そんな風に思っていた。

数日分の食糧の用意だけはしておいて、
この期に及んで、僕は、
すぐに頼れる人が見つかると期待していたんだ。]


[町中に無事な人は、居ないに等しかった。]


[もしかしたら、かつての僕のように、
建物内に籠っている人はいたかもしれないが。
そんな人を探す余裕がないぐらい、
町はゾンビで溢れかえってしまっていた。

東京の郊外は、都心で働く人の住む家が多い。
それを考えると……今、この地区の有様は、
当たり前の結果のように思えた。]


「いらないでしょ、全部」

[ 女性の手元には小さな猫がいる。

 取り戻そうとする私の手足が粘った物に掴まれる。
 それは腐った肉。
 それは、"それ"だ。

 いやだ。返して。私は叫んで、
 思い切り"それ"にモップの柄を振り下ろし。

 その瞬間、私は目を開いた。]


[馴染みのスーパーを通り過ぎるとき、
まだ"人間"である人がゾンビに喰われながら
僕の方へ手を伸ばしたのが見えたけど。

そうなってしまったら……もう、助からない。
僕は、それを身をもって知っている。]

 ……ごめんなさい。

[喰われていく人々から遠ざかるために、
アクセルを強く捻り、バイクが加速する。

出来る限り生き延びてやる。
そう、決めた決意は今も揺らがない。
でも……町の惨状は想像以上に残酷で。
何もできない無力感か。辛いのか、苦しいのか。
自分でも訳の分からないまま涙を流しながら――

車同士がぶつかり横転した横をすり抜け
ひたすら、道路を走っていって。]*


[それから、何日が経ったっけ。]


[―――風を切りながら、少し上を見上げれば
夜空の星々が眩しいぐらいに輝いている。
道を照らす証明灯はたまについていたけれど
消えている区間の方が多いような。

僕は、そんなどこまでも続くような高速を、
ひたすら真っすぐ、走っていた。]


[ 目覚めた私はスマホの日付を確認する。
 電波が途絶え、ただの時計になったスマホは
 あれから5日ほど経ったことを示していた。

 怒りはまだ、消えていない。
 くそったれ、私は絶対"お前ら"にならない。

 絶対に。 **]


メモを貼った。


[世界各地で起きている、混乱と絶望。

ゾンビ増え続ける。
そらに死傷者も増え続ける。]


メモを貼った。


[ 「取る時のコツは、そっと、さっと、よ。」 ]


[果たして、どれだけの人々が悲しみと苦悩に囚われてしまったのだろう。

また、この少女も。
もう少女としては、存在していない、それ。

それは、空腹を満たすためだけの、存在。]


[ 「やだっ!こわいよぉ!つっつかれる!」 ]


[たくさんの生の形を成してきて、今は死の形と言うべきか。

少女の魂は、何処。

死んでしまった人々の魂は、一体何処へ。]


[ 「きちんと扱えば、火は大きくもできるし、小さくもできる。」 ]


[再び、生を得られるのだろうか。それは、]


[ 「ほわ〜。あったかーい。キレーだねぇ。」 ]


[誰にも分からない。]


[何処からか。

在りし日の声が、風に乗って聞こえてきたかもしれない**]


メモを貼った。


メモを貼った。


――回想――

 「英雄になるための条件?
  はは、なんだよ、それー」

[昼下がりの教室の中。
 学ランを着崩した中学生一年生の進が、
 クリームパンをほおばりながらけらけらと笑っている。

 対する俺は大真面目だ。
 焼きそばパンをもぐつきながら
 大学ノート(黒歴史)に
 下手くそな字を書き綴っている。]



  いやさ。俺、気づいたんだよね
  このままマンゼンと日々を生きていただけじゃ
  ぜーーったいに英雄になんかなれやしないって。

  紛争地帯に行くとか
  あとは地球の危機的状況に
  ガイアの力に目覚めるとかしないと

 「ウル●ラマンの見過ぎだろ。古いぞ? 
  せめて仮●ライダーにしとけ?」

  とーもーかーくーもー、俺は大真面目なんだってぇ!

 「そんな風に気張らなくても、
  秋は十分かっこいいだろ。
  沙良が迷子になったらすぐ探しにいくしさ」
 


[あはは、と進は笑って、
 残ったクリームパンを口に放り込む。

 そうだな、と、俺より少し大人びた様子で首を傾げて
 俺がくっだらない書き物をしていたノート(元数学用)に
 さらさらりと、綺麗な字で何事かを書いた。]


  ん? なんだ?

  『弱い人は率先して助ける』
  『怖い時でも笑っていられる』
  『挫けても何度でも立ち上がる』

  ……なんか、地味くない?

 「ただの人間が突然へんな力に目覚めるわけないだろ。
  地道なところからコツコツとだよ」

[進は、くっだらねー考え事に付き合いながら
 俺を見て、に、と目を細めた。]


 
 「――――秋なら、できるよ。

  俺が保証する。」

*


――現在/ショッピングモール薬品売り場――

  まっすぐ走って非常口から一階に逃げろぉおお!

  「は、はい!」

[若い女の首に噛みつこうとしたゾンビの
 その顔面にバットを叩き込みながら、
 俺はめいいっぱい叫んでいた。

 人間しかいなかったはずのショッピングモールには
 いつのまにかわらわらと
 死神のようにゾンビがたむろしている。

 ……どいつもこいつも楽し気にニタニタ笑ってんのは
 生理現象なのかなんなのか、わかんねえな。
 ゾンビって楽しいのかな。]


[……この数日で、何度死んだと思っただろう。

ある時は、もうそろそろガス欠というところで
やっとゾンビの居ないガソリンスタンドを見つけ。
ギリギリ1台分残ってたガソリンを給油してたら
休憩室の中に潜んでいた奴が突然駆けてきた。

腕は半分鎖落ちていて、服もどろどろ。
酷い腐臭を纏いながら近寄ってくるそいつへ
近くにあったバケツをなげつけたのに、
全く怯みもせず向かってくるゾンビに悲鳴を上げて
僕は半べそで、バイクの後ろを掴まれたまま発進した。
(後ろのフレームは手の形に少し凹んだままだ)]


[人が居なくなって荒れ果てた大型家具屋に入り込み
あまり汚れていないベッドを見つけたから。
疲れたし小休止……と思って横になり。
少しのつもりが目覚めた時には既に朝。
ゾンビに襲われなかったのはよかったが、
自分の不用心さに肝を冷やした。

その後安心しきって店を出た時に
バイクの近くにゾンビが居た時は終わったと思った。

家具屋にあった目覚まし時計を鳴らして
遠くに投げたらそっちにいったからよかったけど。
慣らした瞬間に、ゾンビがこっちを向いて
白く濁った目と目が合ったときには
ほんともう駄目だと思った。
あいつらの目が悪いことを、それで初めて知った。]


[真っ直ぐ走ってきたゾンビの拳が
 思いっきり俺の肩口を打った。
 つっかえるような悲鳴をあげて壁に叩きつけられる。]

 「ああ゛あぁああ゛ぁぁあ゛あぁぁ゛ぁ゛!」

  ――うるっせぇ、近所迷惑で訴えんぞ!!

[痛みをこらえながらゾンビの頭蓋を叩き割る。
 とうとう愛用のバットが
 使い物にならないくらい折れ曲がった。

 それを好機ととらえたもう一匹が
 俺めがけて爪を振るおうとしてくる。

 ――直後、その頭が綺麗に天井まで飛んでいった。

 ネコ元帥が鉈でゾンビの頭を跳ね飛ばしていた。]


[雨が降った時や夜に冷え込んだ時なんかは、
防水素材の厚手の上着を着てて本当によかった。
それでも夜は寒かったけれど、
無いよりはマシ、というやつだ。]



 「クシャミ、そっちの避難状況どうだァ?!」

 ああ元帥。順調だよ。おかげさまでなあ……っと!

[元帥から投げ渡された得物に瞬いてから
 そんな状況でもないのにげらげらと笑い出した。

 ちょっと昔のホラーゲームで
 医者のキャラクターが武器にしてたものと同じものが
 俺の手の中にある。]


[―――そして、忘れもしない。
ある日の夜、無人の公園でのことだ。
人一人が入るのに丁度良さそうな土管を見つけた。
今日はここに入って夜を凌ごうと
そう思って覗きこんだ時。]

 ひ、ゃ……っ!!

[僕は驚いて、その場に尻もちをついてしまう。
"先客"が僕の方をじーーっと見ていて、
そのまま土管から這い出して、腕を伸ばしてくる。

僕はもう、駄目だと思った。
走馬灯のように今までのことが頭を駆け巡り。
(……兄貴。ごめん。)]

[ぎゅ、と目を瞑ったんだ。]



  ねえ、ネイルハンマーなんだけど!
  白衣もってきて! 
  てか射程短すぎでしょ! 信じらんねえ
  これでゾンビと戦えって?!

 「それしかなかったんだよばーか!
  お前今すぐ全国のファンに謝るか
  ジャガー燃やされてこい」

  都内住みの大学生だぞ!
  車持ってるわけねーだろバーカバーカ!
 


[ぎゃあぎゃあ喚きながら
 襲い来るゾンビたちに得物を振り下ろす。

 気づけば、俺の体にも元帥の体にも
 ゾンビの歯型が赤々とついている。

 あんなに体液に気を付けてきたってのにな。
 あっけないもんだ。]



[それでも俺達は、ただ、笑っていた。**]


― 高速を北へ向かって ―

[風を切る音に交じって、聞こえるものがある。

高速の脇にある林から聞こえてくる呻き声は
もう泣くこともなく聞き流せるようになった。
たまに通り過ぎる車を見れば、
彼らの行く先に平和がありますようにと祈った。

……でも。それよりも。今耳を澄ませるべきは。]

 「えーちゃん、次止まるの、どこー?」

[背後から聞こえるのは、幼い少年の声。]
[僕の代わりにリュックを背負って。
僕の背中にしがみつき、必死に声を張り上げる。]


[残りのおにぎりはこの子にあげてしまった。
無人になって荒れ果てたコンビニから
持ち出してきた飲食物ももう残り少ない。

この子は、僕と同じように思えた。
逃げる間に両親とも兄弟ともはぐれて、
一人で公園の土管で震えていたそうだった。
食料やバイクの燃費のことを考えれば、
助けるべきではないのだろうけれど。]

 パーキングエリアがもうすぐだって!
 ゾンビ、居ないといいな!!
 
[僕は、後ろの声に負けないぐらい
普段あまり出さないような大声を返した。]


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