人狼議事


308 【R18】忙しい人のためのゾンビ村【RP村】

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視点:


メモを貼った。


――数日後――

[俺が連れてこられたのは、
 都内にあるショッピングモールの一つだった。

 施設のありとあらゆる場所を探る。

 バリケードが崩されていないかを毎日見張る。

 思い出したように政府から救援物資が届けば
 女子供を優先して食料を渡す。

 後は――外を見回りして、
 可能な限りゾンビを潰す。
 
 日々のルーティーンはそんな感じ。]


[電気は基本的に死んでいたが
 復旧すれば皆スマホよりも他の家電を使った。
 
 もしも動画サイトに
 俺の動画が上がっているのを見たら、
 なんだか嬉し恥ずかし、少しむずがゆい
 そんな気持ちになったんだろうが
 それを知る事もなく、俺は日々を過ごした。

 ようやく左腕の痛みを気にしないようになるには
 数日の時を必要とした。]


 
[数人だけのコミュニティなら維持はしやすい。

 けれどもそれが数十人に膨れ上がると、
 とたんに、統制できなくなった人間を
 人間が暴力で支配しだすようになる。

 それは、どこの世界でも同じらしい。]
 



 「申し訳ありません」

[うめき声をあげてスーツの男がうずくまっている。
 歳は30くらい。上等だったスーツも見る影もなく
 荒れた肌も乱れた髪も、
 この極限状態の在り様を雄弁に物語ってる。

 そんな男を取り囲んで叱責する人間が何人か。
 なんでも、バリケードを一人で壊して
 外に出ようとしていたらしい。

 普段俺達は外に出ることはなくて、
 出る時はすぐにバリケードをもとに戻せるよう、
 複数人で行動するものだ。
 壊したままのバリケードからはゾンビが入る。
 
 だから、目の前の男がやったことは重罪で、
 俺達にはそれを裁く権利がある。]



[………………らしい。]
 


[誰も正しさを担保してくれない世界だから
 せめて「自分は正しい」と信じてなきゃ 
 みんな、やってられないんだろう。

 けども俺はその輪に加われないまま、
 魚の缶詰を開けながら
 傍にいた元帥に話しかけていた。]



  あいつ、どうなっちまうんだろうな

 「さあ。
  よくてリンチ、悪くて外に放りだされるんじゃね」

  ……奥さんを探しに行きたかっただけなんだろ

 「にしたってここにはここのルールがある。
  仕方ねえよ。

  自分の妻を優先させるから
  ここの女子供を危険にさらしますってのは
  理屈として通らねえ。通らねえんだ。」
 


[なんだかまた元帥が暗い目をしている。
 二人でゲームしてた頃は冗談ばかり言う
 ちょっと面倒見がいいくらいの軽薄な奴だったのに
 この騒動が、元帥を変えてしまったらしい。

 なんでもいいけどやめろよその目。嫌いなんだよ。]



  ………………
  …………
  缶詰、開いたわ。お食べよ。

[箸を缶詰の中にいれて、魚肉をほぐすと
 元帥の口にそのままつっこんだ。
 こいつ缶詰開けるの下手くそなんだよな。
 
 ゾンビ化する条件は体液に触れることだから
 ここでの食い物のシェアも禁止事項のひとつ。

 箸と缶詰を元帥に渡してやって
 もう一つの缶詰を開ける作業に没頭する。
 そうする間にも、「クシャミ」と、
 元帥から声がかかる。]



「今度、外回りに行かないか。
 腕も治ってきたんだろ」

 ……あー。まあ。そうなるよな。

[男だし。若い衆だし。内にこもってはいられない。
 かつん、と缶詰が開く音がして、
 俺はうつむいたまま頷いた。

 本当は、もう、現実なんか見たくないけど]**


メモを貼った。



[明日なんか誰にもわからないから
 せめて形に残すことにした。]
 


 
「舞原菜々緒。17歳。××高校の二年。
 部活はダンス部で、
 今度大会に出る予定だったんだよね。
 今年は粒ぞろいの後輩たちも入ってきてて
 安心して後任せられるねって
 先輩に言ってもらったばっかりだったのに」

[せんぱい、と、少女は呟いて涙を零し始めた。
 それから、ダンス部の課題らしき歌を口ずさむ。
 哀悼のようだった。]



「……榎本直茂。48歳。警官。
 家族は妻と子どもが2人。
 もういいだろ。見ての通り、
 私にはもうこの子しかいない。

 三人目はどうしようかって
 呑気に言ってた自分が恨めしいな」

[眠る子供を抱きしめながら男が力なく笑う。
 子供は時折、「おかあさん」と魘されている]
 



「米田佳子。歳は言いたくない。
 職業も言いたくない。
 なに?インタビューなの?ヒマね。
 ここの連中の感想なんて総じて
 『なんで私たちがこんな目に』か
 『ゾンビが許せない』か
 『政府は何をしてるんだ』の三つじゃないの。

 あたし?
 んー。そろそろ新作試すのにも飽きたかな
 やっぱり、自己満足だけじゃ続かないわ」

[女の手元には化粧品売り場から持ってきたらしい
 いくつかの化粧品が置かれている]
 



[ここにいる人の事をノートに書き記す。
 元帥と外回りに行く日まで、
 それで空白の時間を埋めた。
 
 この騒動が終わっても
 何か記録が残っていればいいなと思った。]
 



「なに書いてんだよ」

 記録。元帥のことも書く?
 いやって言ってももう書いてあるけど

「何それ。俺の許可とれや」

[もそもそとノートに文字を書いていると
 元帥がひょいとのぞき込んできて
 興味があるのかないのかも分からない様子で
 口を挟んできた。]
 



 「インタビュー集ねえ。騒動が終わったら売れるか」

  皆経験してることなら
  そう価値もねえかもだけどね
  終わるかどうかもわかんにゃーし

 「全滅エンドってやつ?」

  そーそー。
  数百年後、荒廃した地球に下り立った未来人は
  がれきの下から古びたノートを見つけ
  当時の様子をしのぶのでしたー!みたいな?

 「全滅してるなら未来人じゃなくて宇宙人だろ。
  設定ガバいな。
  てか数百年後ってノート残るのか?」

  細かいことは気にすんなマジで
 


[ふんふんと鼻歌を歌いながら猫を描いている。]

  元帥さあ。
  この騒動が終わったら、何したい?

 「はあ? ……咄嗟に思いつかねえよ。お前は」

  俺はーんー。
 



[もういちど、進に会いたい。
 謝りたいんだ。色んな事。]
 


[そう言いかけて唇を閉ざした。

 こんな滅亡一歩手前の
 棺桶に片足突っ込んだような状況で
 唇に湿っぽい話を乗せるのはやめにしたい。]



  あんねー、
  秋葉原に知り合いの店があんだけど
  そこに行って酒が飲みたいかにゃー。

  あとあと、
  でっけーピザとコカ・コーラを宅配で頼んで
  空調の効いた部屋で元帥呼んでさあ
  終末ものの映画みんの

 「最低か?」

  最低だよ

[くく、と笑って、俺は大窓から階下を見下ろす。
 人通りのない荒れた町の中を、
 時折ゾンビらしき影が過っていった。]



[こんなに身近にある滅亡を、
 笑い飛ばせる日が来たなら、
 それ以上の幸せなんて、あるもんか。**]


メモを貼った。



[ あの子が何よりも大切よ。]
 



[ 娘も、その夫も、おじいさんも、
 向こうのご両親も逝ってしまって。

 あの子にはわたししかいないと思うたび、
 使命感に奮い立たされるのと同時に、
 どれだけ心細かったことでしょう。

 いつかわたしも向こうにいくとき、
 優しい立派な大人になったでしょうと、
 胸を張って言える日を夢見ていたわ。

 そんな日が訪れるって信じていたの。
 ……信じていたいの。最後までずっと。]
 



[ ……わかってくれる? ]
 



[ ろくに眠れもせず一晩を明かしたわ。]
 



[ 一夜明けても状況が好転することはなかった。

 時折門扉を揺らすガシャンという音や、
 裏戸を叩くような荒い音が響いたけれど、
 誰もいちいち反応することはなくなっていた。

 慣れてしまったのかしらね。
 それとも、頭が働いてないのかも。

 眠いけれど、空腹で眠れなくて、
 なんだかずっと、ぼうっとした気分なの。
 きっと皆そんなふうだったわ。

 水が止まっていなかったのが救いね。
 砂糖を溶かして飲んだりして、
 あの手この手で空腹をごまかしていた。
 もう本当に残り僅かな食糧を、
 どうにかして温存しておきたかったのね。]
 



[ そんな中、わたしは廊下を歩いていたわ。
 いつも以上にゆっくりとした足取りで。

 コンコンと数度扉をノックしたら、
 やつれた顔のお隣のご主人が扉を開けた。
 髪の毛はぼさぼさで、シャツは皺になっていた。
 改めてこうして見ると、ひどい有様だったわ。

 きっとわたしも似たようなものね。
 水シャワーを浴びたりはしていたけれど、
 もう身なりに気を遣う余裕なんてなかった。

 ご主人は何も言わずわたしを見下ろしていたわ。
 後ろから、奥さんも様子をうかがっていた。

 わたしは少し躊躇ってから顔を上げたの。]
 



  一晩よく考えたんだけど──、
  ……確かに、あなたの言うとおりだわ。
  今は……生き延びることを優先しないと。 
 



[ 疲れ果てたようなご主人の瞳に、
 一瞬、強い光が宿った気がしたわ。

 わたしにいいんですね≠ニ念を押したけど、
 後戻りなんて許される様子はなかった。]

  ……ええ。

[ わたしは自分を納得させるように、
 もう一度しっかりとうなずいて見せた。

 いいわけなんてなかった。
 けれど、ほかの方法が見つからないんだもの。
 せめて間違った選択ではないと信じるしかないわ。]
 



[ わたしの意思を確認したあとは、
 彼らの手際は非常によかった。

 武器として準備していた刃物であるとか、
 バケツだとかを粛々と取り出したのね。

 今からやるの? と怖気づいたわたしに、
 ご主人は有無をいわさない口調で告げたわ。

 こういうことをするのにも、
  体力がいりますからね。
  少しでも余裕のあるうちというわけです

 シャツを汚さないよう肌着姿になって、
 戸惑っている間に準備が整えられていた。]
 



[ 行きましょう≠ニ奥さんに言われたとき、
 なんとなく、本当になんとなくだけれど、
 ようやく合点がいったような気がしたの。

 お店から食べるものがなくなってしまって、
 家にあるもので食い繋ぐしかないと悟ったとき、
 どうしていいわね≠ネんて言われたのか、
 わたし、これっぽっちもわからなかった。]
 



[ ねえ、これは仕方がないことよね? ]
 



[ できるだけ大きいのにしましょうと、
 ご主人が声量を抑えた低い声で言ったわ。
 わたしは段取り通りにひとりで部屋に入り、
 休んでいる犬たちの中からその子を探した。]

  ……クーパー、こっちへおいで。

[ うつ伏せになって目を閉じていたのに、
 クーパーは耳をひくりと揺らして、
 のそのそと機嫌よさそうにやってきたわ。

 ゆさゆさとその立派な尻尾を振って、
 真っ黒なきれいな瞳をわたしに向けていた。
 わたしはその首筋から背を撫でてやった。

 こうなってからはあまり、
 ブラッシングもしてやらなかったと、
 少し脂っぽく束になった毛並みに思ったの。]
 



[ いつもならもう何匹か、
 構ってほしそうに寄ってくるんだけれど、

 犬たちも消耗しているのか、
 今日ばかりは皆関心を示さなかった。

 わたしはクーパーの首輪をつかんで、
 部屋の外へと誘導したわ。

 ここから誰も使っていない、
 客間のバスルームに連れていくことになっていた。

 クーパーは不思議そうにしていたわ。
 客間に入れてやることなんてなかったから。
 けれどバスタブの存在にシャンプーだと思ったのね。
 バスルームの中に連れて入ろうとすると、
 いやいやするように足を踏ん張って抵抗するの。]
 



[ できるだけ静かにことを終える必要があった。

 お隣のご主人はわたしに、
 クーパーと一緒にバスタブに入るよう言ったわ。
 指示された通り、クーパーの首輪を引いて、
 空のバスタブに一緒に入ったの。

 ご主人はクーパーを抱きしめているよう言った。
 そして自らもまた、クーパーを抑え込むよう、
 片方の手を体に、片方の手を鼻先へと伸ばしたわ。

 そして、奥さんが手早くナイフを突き刺した。
 クーパーの喉元を狙った手つきに躊躇いはなかった。]
 



[ 当然、クーパーはひどく暴れたわ。
 大きな声で吠えさせないようにと、
 鼻先をつかんでいたご主人は手を噛まれた。

 それでもご主人は叫び声もあげず、
 クーパーとわたしに覆いかぶさるようにして、
 獣の体を抑え込もうと躍起になっていた。

 逃げ出そうと藻掻く四肢が、固い爪が、
 何度となくわたしの皮膚を破いていった。
 それでもわたしは必死にしがみついていたの。

 奥さんが片手でクーパーの頭を抑えて、
 繰り返しナイフを突き立てるたびに、
 生臭い液体がわたしに滴り落ちてくる。]
 



[ クーパーは死んだわ。]
 



[ 彼が動かなくなったとき、
 旦那さんは思い切り蛇口を捻った。

 水がわたしたちの上に降り注いで、
 バスタブに飛び散った赤を薄めていく。

 奥さんの息は上がっていた。
 ぜいぜいと肩で息をする彼女に、
 ご主人は彼女の弟を呼ぶよう言ったわ。
 それから救急箱を取ってくるようにも。

 奥さんは何も言わずにナイフを置き、
 代わりに外に置いていたバケツや、
 鋸やハンマーなんかを中に引き入れた。
 そして、弟さんを呼びに行ったわ。]
 



[ わたしはもう何も考えられなかった。
 クーパーの亡骸を抱えたまま、
 呆然と座り込んだままのわたしを、
 ご主人は見下ろして静かに言ったわ。

 このあとは我々でやりますから、
  ケガの手当てをして、着替えて、
  少し休んでくださって結構ですよ

 その言葉の意味を、
 ゆっくりゆっくりと咀嚼しているうちに、
 奥さんが弟さんを連れて戻ってきたの。]
 



[ 彼女は部屋に戻ってきたあと、
 動けないわたしの腕を取り、
 バスタブの中から引っ張り出した。

 その間も、傷の手当をされるときも、
 わたしはされるがままだったわ。

 最後の決断をしたのは自分のはずなのに、
 心も頭もどこか遠くに置いてけぼりで、
 この現状に追いつけていないようだった。

 無意識に涙を流していたわたしに、
 奥さんは一度だけ固い声で、
 ごめんなさいね≠ニつぶやいた。*]
 


メモを貼った。



[ キッチンに立っていた。]
 



[ お隣のご主人と、奥さんの弟さんは、
 わたしたちにビニール袋を渡して、
 一度車でどこかへ出て行ったわ。

 何かを処分するためかもしれないし、
 子どもたちへのカモフラージュのためかも。
 誰も詳しくは聞こうとしなかったし、
 彼らはそう時間を置かず帰ってきたわ。

 その一方で、
 わたしと奥さんと、お父さんのお嫁さん。
 3人で口数少なく作業を進めていた。]
 



[ どんな味でどんな食感なのか、
 誰も知っているわけがないから、
 どちらもわからないように、
 ミンチにして濃い味をつけることにした。

 例えば独特の風味がして、
 何の肉かと話題になるのが怖かったのね。

 電気がもう来ていないから、
 どうやって火を入れるかという話だけど、
 外に窯があるからそれを使うことにした。

 やっぱりもう長いこと使ってなかったけど、
 おじいさんのいたころは晴れた日に、
 そこでピザを焼いて庭で食べたりしたの。]
 



[ ああ、懐かしいわ。
 つぶやいたわたしの声は平坦で、
 一緒にいたふたりは何も言わなかった。]
 



[ 冷凍のパイシートが、
 電気の来なくなった冷凍庫の中に、
 でろっと柔らかくなって残っていたの。

 わたしたちはそれを、
 ちぎれてしまわないよう慎重に広げて、
 ミートパイを作ることにした。

 他に入れる野菜も何もなかったし、
 仕上がりは不安だったけれど、
 生地に包まれて中身が見えないというのも、
 わたしたちには都合がよく思えたのね。

 生焼けになるのが怖くって、
 わたしたちしつこいくらいに火を通した。]
 



[ 大した量でもない、うまく膨らまず平たい、
 てっぺんのひどく焦げ付いた、
 丸い不格好なミートパイがひとつできたわ。]
 



[ わたしたちは3人そろって、
 疲れ果てたような顔をしていたと思う。

 ふと振り返るとカーテンの陰から、
 ウィレムがそうっとこちらを見ていた。

 咄嗟にわたしは微笑んで、
 大窓のほうへと歩いて行って言ったわ。]

  今日は、少しだけれど、
  ちゃんとごはんがあるからね。
  ほら、皆を呼んでらっしゃい。

[ 数秒置いて理解したように、
 ウィレムは踵を返して駆けてった。]
 



[ その背中を見送って、
 わたしたちは食卓の準備をしたわ。

 9人で食べると、
  ほんの一口、二口ね≠ニ、
 奥さんが疲れた声でつぶやいたの。
 だからわたし、何気なく言ったわ。]

  ……わたしの分はいいから、
  子どもたちに多めに切ってくださる?

[ ええ、深い理由なんてなかったわ。

 そして、言い切ってから顔を上げたの。
 すると、奥さんはじっとわたしを見ていた。
 感情の読めない、深く暗い目をしていたわ。]
 



  だめよ、あなたも食べなきゃ
 



[ ……こうするしかなかったのよね?*]
 



[外回りの日は簡単にやってきた。
 
 気乗りしないお出かけ前の子供みたいに、
 俺は緩慢なしぐさで持ち物を確認をする。

 食料をいれるためのリュック。
 あと、金属バット。

 万が一にもゾンビの体液に触れないように
 口元にはマスクをして、
 長袖のパーカーにズボンを着用。
 「準備できたか」という元帥と一緒に、
 バリケードから外に出ていく。]



  ……へ、こうなるとゲームの中の世界みたい

[数日ぶりにみた外は、荒れ果てていた。

 爆発物飛び交う戦場じゃあるまいし
 建物こそしっかり残ってはいるものの
 そこに人影は見えず
 時折見えたかと思えばゾンビだったりする。]



 「できるだけ日陰を歩けよ。
  空からカラスが襲ってくることがあるらしい」

  うへ。ゾンビカラス?

 「わかんねえけど、
  多分、人間の死体を食って
  人の肉には慣れてるんじゃねえのかな」

  うえーー…………

[やっぱ帰りましょうよ、って元帥に言いながら、
 俺達は死んだ都内の中を歩いていく。]


[コンビニ、スーパー、デパート、
 ドラッグストア。

 そういったところを重点的に回りながら、
 未回収の缶詰や、犬猫の餌
 ――水でふやかせばまだ食べられるそうだ、を
 リュックの中に詰めていった。

 病院なら院内食とかもあるかも、と
 そう提言したが、止められた。

 今や病院はゾンビの巣窟であるらしい。]


[店舗の見回りが終わった後は、
 鍵が開いたまんまの家を物色する。
 RPGの勇者が家の棚を漁っても怒られない状況。
 体感してみて思うけど、めっちゃ気味悪いな。]
 
  元帥ー、なんか面白い話して

  「あるわけねえだろ……

   ! 誰かいる」

[さすがに咎めに来たのか、
 足音が近づいてくるのが聞こえてバットを構えた。
 ……壊れた足を引きずってくるゾンビ一匹。

 俺は、逃げよう、って言って、
 元帥がその前にゾンビにバットを振り下ろした。]


[あっけなく殺されていくゾンビを目の前に
 俺は何もいえず、そいつの姿を見ていた。
 
 埃をかぶった机の上には夫婦の写真がある。
 卓上カレンダーのとある一日が赤く花丸で囲まれていて
 「結婚記念日!」と丸っこい字で書かれている。

 倒れた女ゾンビの薬指には、指輪が光ってる。

 台所の鍋の中には
 食べられないまま腐っていったカレーが満ちていて
 冷蔵庫を開ければ、小ぶりなケーキが二つ。

 きっと、この女の人は旦那を待ち続けてたんだろう。
 ゾンビになっても。

 先日リンチにされたサラリーマンを思い出した。]



  …………ナイスファイトォ
  しかしやんなっちゃうわね。
  こう……生活感のあるエネミーってやつですかぁ?

  生前が偲べちゃうとさあ

 「考えんな。基本的にこいつらは俺達の敵だ。
  それ以上のことは邪魔になるだけだ」

[言いながら、元帥は
 おはぎみたいになったゾンビに手を合わせている。
 
 冷蔵庫傍の棚から、缶詰を見繕う。
 盗むみたいにしてリュックに詰めた。]


[仲間からこんな話を聞いたことがあるんだ。

 ゾンビ騒ぎになってから、
 「絶対に離れない」って誓いあった男女が
 翌日、女の方が感染してるってわかって
 男が激怒した話。

 ”俺も感染してるなんて冗談じゃない”
 
 そう言って男の方は女をリンチにして殺して――
 結局、女とイロイロしてた男の方も感染してた、

 そんなオチの笑えない話を
 仲間たちは笑い飛ばして、酒の肴にしていた。]


[人間は慣れてしまう生き物だ。
 なら、最終的に残酷なのは、
 ゾンビと、人間と、どっちなんだろうな。

 ゾンビを撲殺しても冷たい目をしたままの元帥に
 それを眺めながら食料を漁るのをやめない俺に、

 そんなことを思っていたよ*]




   あ う ぁ


[言葉のかわりに呻き声を発し

涙のかわりによだれを垂らし

空虚な部屋の真ん中で
ゆらゆらゆれる 生きた屍がひとり。*]



[ 集まってきた子どもたちは、
 皆驚いて目を丸くしていた。]
 



[ え、なんでぇ?≠ニ、
 お隣の息子さんが素っ頓狂な声を上げた。
 大学生なんて随分大人びて見えていたけど、
 その様子はほんの小さな男の子みたいだった。

 ジャーディンも驚いたように、
 小さなパイが一切れのったお皿を見てたわ。

 興奮した様子で口数が増えた息子さんに、
 ご主人が一か八か外に出てみた≠ニか、
 運よく野うさぎを捕まえた≠ネんて、
 すらすらと無理のある嘘を告げていたけれど、
 それが聞こえてたかどうかも怪しいくらい。
 じいっと一点だけを見つめ続けていた。]
 



[ わたしはご主人のついた嘘が、
 今にもバレるんじゃないかと心配したけど、

 あまりにお腹が空いていて、
 細かいことを考えられなかったからかしら。
 それとも、本当は何の肉かだなんて、
 彼らには思いつきもしなかっただけかも。

 さほど気にする様子もなく、
 子どもたちは小さなパイをぺろりと食べた。
 あっという間に食べちゃったり、
 もったいぶるように小さく切り分けたり、
 それぞれのやり方でではあったけれど。]
 



[ 大人たちも静かにそれを口に運んだわ。
 ……しっかりと味はついていたけれど、
 おいしいのかまずいのか、あるいは──、
 最後までなんだかよくわからなかった。

 皆が食事を終えようとしたころよ。
 ふと、息子さんがご主人の手に目を止めたわ。

 包帯でぐるぐる巻きにされた父親の手に、
 息子さんの表情はみるみるうちに強張った。

 父さん、それ──
 いや、これは違う。安心しなさい。
  捕まえるときに少しケガをしただけだから

 そんな会話を最後に、食事の席は解散したわ。]
 



[ 片づけをしようと席を立ったとき、
 ゾーイがジャーディンにじゃれついてたわ。
 あの子はそれを少し笑って受け止めていた。

 食事中、物欲しげにしていたオッドの喉を、
 ウィレムがこそばすように撫でてやってた。

 ジャーディンがその様子を見て、
 おまえも同じものが食えたらいいのに≠ニ、
 少し疲れは滲むけれど穏やかな声で言った。

 わたし、ようやく少しだけ、
 これでよかったんだと思えた気がしたの。]
 



[ ああ、犬たちに夜の分の餌をやらなきゃ。*]
 


[兄貴をクローゼットに閉じ込めた、翌日。]

 ……10個。入るかな。

[ありったけの米を炊いて、おむすびを作る。
具のレパートリーなんて残っちゃいないから、
全部に梅干を詰めて塩を振り、海苔で味付けた。

昔、兄貴と旅行に行った時に使った
大きなリュックサックを引っ張り出してきて、
ティッシュやタオルを底に敷き詰める。
そして、ペットボトルに詰めた水数本と、
作ったおにぎりとを詰め込んでいく。
きっと、長い旅になる。
どこかで食べ物を見つけた時用にと、
割りばしや紙コップなんかも、隙間に詰めた。]



[例えば、今日のことを予めわかってたなら
 人を好きになったりしなかったんだろうか。]
 


[リュックサックの中を八割満たしたところで、
 次で最後にしようか、と
 元帥と言い交しながら、次の家へ向かう。
 気が付けば、なじみ深い場所に来ていた。]

  ここでさあ
  小さい頃、遊んだんだよね。
  
  子供が遊ぶにはちょっと狭いけど
  学校がそばにあって、
  帰り道の途中で公園によって……

[思い出話をしながら、
 真っ白なアパートに入っていく。
 …………見覚えのある建物だ。
 沙良とその家族が住んでいる場所だ。

 歩むごとに口数が少なくなっていく。
 それに気づいてか、元帥が「大丈夫か」と
 珍しく声をかけてきたから、首を横に振った。]



  でも、いかなきゃなんだろ

[ここは、やめてくれ、とか。
 そんな事言えるはずもなかった。
 どこに物資があるかわからない状態で
 えり好みなんかしてられない。

 俺は意を決してその一室に入っていく。
 ――――鍵は、開いていた。]



[まず鼻についたのは、異臭だった。]
 


[玄関先に女の人が倒れている。

 沙良の母親だ。

 大昔、おばさん、と呼ばわって、
 「おばさんって呼ばないで」と
 沙良に怒られたっけ。
 優しい人だったから、俺の言葉にもころころ笑って
 それが沙良の顔によく似ていたのを覚えている。

 手を合わせながら、その死体をまたいだ。]


[リビングに入っていく。
 つっかえるものがあったから、
 無理やりにこじ開けると、ごろりとまた何かが転がった。

 ドアノブを使って男が首を吊っている。
 眼鏡をかけた壮年の男性。
 沙良の父親だ。
 「娘さんを俺にください」って言う妄想はしてたけど
 面と向かって話したことは、あんまなかったかも。]



 「クシャミ」

  ……なんすか、元帥

 「大丈夫か」

[瞬く。手、と言われて、俺は改めて自分の手を見る。
 見た事もないくらいに震えていた。
 やだな、と軽薄に回る口を動かして、
 いつも通りを演じてみようとするけれど、
 やっぱり上滑りで、元帥の目はごまかせない。]



  なんでも、ないっすよ
  ここ誰もいないみたいっすね
  元帥は台所漁っててだにゃー

 「嘘ついてんじゃねえよ。
  とりあえず他の部屋の安全確保できるまで
  お前から離れたりしねえからな」

  なにそれ。男前かよ。惚れて良い?

[軽口を叩きながら、
 俺は沙良の部屋の扉に手をかける。]


[入ったのは随分遠い昔だ。
 まだ俺達がランドセルを背負っていた頃。

 うろおぼえだけど
 ピンクと水色と白をふんだんにつかった
 女の子らしいお部屋だった記憶がある。

 入るだけで甘いミルクティーのにおいがして、
 女の子ってマジで砂糖でできてんのかなって
 錯覚できるような、そういう可愛らしい部屋だった。

 この扉を開けたら、変わらない姿の沙良がいて、
 昔と変わらない笑顔を浮かべて、
 「いらっしゃい、秋くん」って、言ってくれねえかな。

 そんなわけねえよな。ウケる。

 物音を立てないように扉を開ける。]


[途端に襲い来たのは、
 強烈な腐臭と、蠅の羽音だった。]


[可愛いぬいぐるみが置かれたベッドの上に
 白と赤と黒でまぜこぜになった何かが転がっている。
 それは人間と同じくらいの大きさで、
 背格好は男のものに見えた。

 もっと言えば、服装は、
 俺が殺した進のものと、おんなじだった。

 その人「だったもの」の胸で泣くように
 誰かが、ベッドの傍でうずくまっている。
 泣いているように見えないのは、
 強烈な腐臭と共に響く、粘っこい咀嚼音のせい。]


[指通りがよさそうだった亜麻色の髪は乱れて
 蠅がまとわりついている。

 いつも清潔そうにみえた服に血が滲んでいる。

 すべすべだったはずの腕が、
 枯れ枝みたいになってる。]

[何。――これは、何。]



  う゛

[振り向いたそれと、目が合った。
 脳が揺さぶられる感覚。

 そいつが扉の前に辿り着く前に、
 俺はとっさに扉を閉める。

 ばん、ばん、と扉を殴る音が響く。
 元帥が太い腕で扉を固定して
 鍵を閉めるのが見えた。

 我慢できたのはそれまで。

 せりあがってきた吐き気をこらえきれずに
 マスクを外して、俺はトイレに駆け込んだ。]


[なんで?
 沙良の部屋に進の死体がある。
 ゾンビになった沙良がそれを食べてる。
  
 なんで?
 俺さ、2人の幸せを願って身を引いた筈なんだよ。
 片思いこじらせ童貞だって、身の程を知って
 進には当たったけど、沙良に恨み言は言わなかった。

 なんで?

 明日なんかこなければいいって、
 そんな罰当たりなこと願ったから、
 二人には幸せな明日はこなかったの?

 なんで?]


[あの日。進を殺したあの日。
 俺が保身にかられて逃げ出さなければ。
 沙良を説得していれば。

 ああいうことには、なんなかったのかもしれない。
 そう思うだけでもう俺は死んでしまいたい。
 何が英雄だ。何が。
 大事な友達だって好きな女の子だって
 誰一人守れやしないんだ。

 生きてる価値一番ないやつが
 なんで生きてるんだよ。

 なんで。]



 「クシャミ。……クシャミ。おい、串谷秋!」

[揺さぶられる感覚に我を取り戻す。
 珍しく焦った目をした元帥が、
 俺をのぞき込んでいた。]

  元帥。

[そういえばこいつの本名、知らないんだよな。
 って、どうでもいいことを考えた後、
 へらりと笑って、俺は声をあげて泣いた。]



[どうすればよかったんだよ。]*
 


 
[キャロライナに出会ったのは、実り満ちた畑だった。]
 


[海を越え、初めて降り立った大地は
 写真で見たよりもずっと広く、私は少し辟易していた。
 どこかしこ作物が実り、肥料のすえたような匂いがする。
 先輩のサポートとはいえ、契約相手の前で
 鼻を摘む訳にはいかず、実状確認の名目で
 ひとりの時間を得てようやく鼻筋に皺を刻んだ。]

  ……何もないな。

[ここにいるのは元々大豆かトウモロコシだけで、
 賛同する声も、声量を憚る必要もない。
 後者は収穫間近で、実った種を青い葉の内に隠して、
 白い髭を乾いた風に揺らしていた。
 息苦しさなど欠片もしらないような土地に、
 息をするのすら躊躇ってしまう。]


[規律正しい養父母の下、道を外れることなく生きてきた。
 学業の成績は特別秀でている訳ではなかったが、
 幸運にも職を得ることができ、就職してすぐ借りた
 アパートにも、今では余裕を持って住み続けている。

 シエスタを切り上げる度に真面目だな、と言う同僚へは、
 両親に似たのさ。と、肩を竦めて見せた。
 
  人というものが、あまり好きではない。

 近づけば感じる体温が苦手だ。
 ――肌の奥に何かが入ってくる心地がする。
 感情の滲む声が苦手だ。
 ――耳の底を己の意思とは別に擽られる感覚がする。

 共有を強いられる時間も、並ぶことで生まれる比較も、
 そして何より、それらの恩恵を得ながらも
 疎い続けている自分自身が好きではなかった。]



  ……っ、 と、

[腰の辺りに強い衝撃があり、蹈鞴を踏んだ。
 丁寧に磨かれた革靴の先が柔い土へとめり込む。
 振り向いた視線の先には、燃えるような赤毛があった。]

  “お兄さん、どこから来たの!?”

[キャロライナ――キャロルは、
 ここら一帯の畑を管理する一家の末娘だった。
 周囲に建物のほとんどないこの地で生まれ育ち、
 スクールには通わず、家の手伝いをしているのだと言う。
 大人とばかり接しているからだろうか。
 彼女は私の知る子どもよりずっとしっかりしていて、
 そして私の知る何よりも自由だった。

 そんな彼女を揺れるトウモロコシの前で初めて見た時、
 私は太陽の在処をようやく知れた気がしたのだ。
 これまで、曇天の中で生きていたことに気づいたのだ。]


[それから暫く、仕事でこの国へ滞在することになった。
 畑にも足繁く通い、合間はすべてキャロルと過ごした。

 周囲は私が彼女と遊んであげていると思い、感謝したが、
 実際は私が彼女に教えを乞うていただけだった。

 二人きりの間だけ私は彼女を先生と呼び敬語で話したし、
 彼女は私をミケーロと呼んだ。

  夕食のパイを気づかれずに一切れ攫う方法。
  女性の社会進出における問題点について。
  屋根から見る星がどうして他より美しく見えるのか。
  電話線を繋がず遠方と話すにはどうしたらいいか。

 彼女はまず自分の考えを情感たっぷりに語り上げた後で、
 必ず私へ「ミケーロはどう思う?」と尋ねた。

 それに答えている間は疎う体温も声も、
 自身への嫌悪も何もかもを忘れられたから、
 私は夢中になって己が考えを述べた。]


[ある授業の休憩時間、私は先生へ尋ねたことがある。]

  寂しくはないのですか?

[彼女はいつもひとりだった。
 周囲とソリが合わない様子も、嫌っている訳でもない。
 畑の手伝いもすれば、食事だって共にとっているようだ。
 けれど、それでも、ひとりだった。]

  “どうして? こんなにも自由なのに!”

[少女は笑いながら両手を広げ、当然のように答える。
 出会ったあの日、呼吸を躊躇った感覚を思い出した。
 論理的な理由などどこにもなくて、きっかけも曖昧だ。

 けれど、それだけで、私は。]


[数ヶ月に渡る準備を終え、本国へ帰った後も、
 毎年夏になると畑の様子を見る名目で彼女の元を訪れた。

 一年目の夏、彼女は得意げに自分の名前を書いて見せた。
 地面に枝で穿たれた文字は、最後だけ裏返っていた。

 数年目の夏、彼女は顔に大きな傷を作っていた。
 通りがかった旅人と喧嘩をしたのだと笑っていた。

 それから更に数年後、彼女のお腹は大きく膨らんでいた。
 父親はいないのだと言う。
 名前をつけてと頼まれたから、丁重に辞退した。
 翌年、シーシャと名付けられた男の子が生まれた。]


[シーシャはすくすくと育った。
 キャロルはスクールに通わせないつもりのようだったが、
 彼女の家族と共に説得すると渋々同意した。

 シーシャはすくすくと育った。
 元々身体の弱かったキャロルは床に伏せるようになり、
 生まれつき足の弱かった私も加齢と共に歩けなくなった。

 それから更に数年後。冬の迫る秋のこと。
 すっかり古ぼけたアパートにシーシャから手紙が届いた。
 キャロルが亡くなったらしい。
 眠るような、穏やかな最期だったと言う。

 私は暫し瞑目した後、手紙を丁寧に破いて捨てた。]*


[最小限の明かりが灯された、暗い家の中。
クローゼットの前にはソファーがあった。
隣の部屋まで押していくのは重労働だったが
それでも、なんとかやり遂げた。

辛かったのは、ソファーを押すことなんかよりも
兄貴がクローゼットから出たがる音を、
聞かなかったフリをすることだ。]

[壁を引っ掻く音が、断続的に聞こえる。]

[腰のポーチにはスマホの充電器とケーブル。
あとは……兄貴が、力のない僕にと見繕った
出刃包丁を布巾にくるんでつっこんだ。
長くて全部は入らなかったけど、
すぐ出せるならいいかと、
持つところだけはみ出たまんま。]


[あとは、地図の確認や明かりぐらいにしか
使えなくなったスマホをポーチに入れる。

このあたりの基地局が機能しなくなったのか、
充電をし直した後も、ネットには繋がらない。
それでも、スマホは手放す気にはなれなかった。

最後に投稿した内容はよく覚えている。
世界が今どうなっていて、
これからどうなるのだとしても
僕は、生きてやると決めたんだ。]


[ソファーの前に立って、
クローゼットの方を見る。]

 「グ……ウァ、……アー……」

[聞こえるのは呻き声。壁を引っ掻き、殴る音。
時折、クローゼットの扉が歪むけれど。
紐やらガムテープやらでぎちぎちに固めて
ソファーでバリケードを作ったお陰で、
兄貴がここから出るのは厳しそうに見えた。]

 兄貴。僕、行くよ。

 兄貴を殺すのはどうしてもできなかったけどさ
 絶対に、人を襲わないように
 そうした、つもりだよ。
 
[ずっと泣き続けてきたからか、
もう、涙が出ることは無かった。]


 僕、兄貴の分まで、生きるから。
 どれだけ長くかはわからないけど……
 やって、みるから。……安心して。

[兄貴のバイクの鍵を握りしめて。
僕は、玄関の方へと踵を返す。

それから一度も振り返ることはなく。
玄関ののぞき穴から外を見て、
扉に耳をつけて音がしないことを確かめてから
玄関の扉を、そうっと開けた。]


[僕のバイクは長い間乗って居なくて
メンテナンスのへったくれもない状態だ。

それを知っていた兄貴は噛まれた後に、
自分のバイクの鍵を僕に預けてくれていた。
大分前にお隣さんを落とした方……
裏の方からは、何かの咀嚼音が聞こえてくる。
僕はできるだけ音をたてないように、
兄貴の青いバイクの方へと向かった。]

 は、……ガソリンちゃんと入ってる。
 傷もないし、いつ見ても綺麗だよな…。

[高校の時に取って、少しは運転したけれど。
大学に入ってからはめっきり乗っていなかった。

僕が、兄貴のバイクに乗っていいんだろうか。
―――そんな風に悩んでいる余裕は、
 今は全く残っていなさそうで。]


[バイクを表に引っ張ってきたときに
裏から顔を覗かせたゾンビと目が合った。
とても、人間とは思えない肌の色をしていて、
所々腐りかけ、口元は肉と血で汚れている。

今まで、あいつは何を食べていたんだろうか。
兄貴も……いずれ、ああなるんだろうか。
考えちゃいけないことを予想してしまって、
吐き気が込み上げて、動けなくなりそうだ。

よろめいた時に、バイクに腕が当たる。
よく磨かれた、透き通るような青。
兄貴が僕に託してくれた物。]

 (―――ここにいちゃ、駄目だ。)

[こっちに向かって来ようとするのを見て、
慌ててヘルメットを被り、バイクに跨った。]


 こんなとこで、食われてたまるか……って!

[一気にアクセルを捻る。
バイクは住宅街から大通りの方へ加速していく。

目指すところなんて、何も決めてないし、
不安しかないけれど、もう、やるしかない。

まずは都心から離れるんだ。
ここから一番近い高速のインターはどこだっけ。

平和な場所なんてあるかどうかはわからない。
それでも、なんとかして生き延びるために、
ゾンビがあまりいない場所を……探さないと。]*


メモを貼った。


― 夜・コーヒーショップ『abbiocco』 ―

[彼女の国へ転勤を希望したのはそれから数年後のことだ。
 養父母も既に旅立ち、長年住んだアパートにも
 物はほとんどなかった。
 身ひとつで移住し、この地で車椅子を得た。
 シーシャが就職して来たのは驚いたが、数年とはいえ、
 赤ん坊の頃から知っている子と共に仕事をするのは
 何だか不思議な気分だったのを覚えている。]

  ……。

[10フィート先で俯く顔を見る。
 機能しない瞳では、表情を窺い知ることはできない。
 色素の薄い髪が暗いのは、濁る瞳のせいではないだろう。
 どちらからとも知れぬ、酸い匂いが鼻腔をくすぐる。]


[限界だった。傷だらけの右手を床につくと力を込める。
 何日も動かずにいた関節は石のように固まっていたが、
 動かしてみると硬質な音と共に案外簡単に曲がった。
 壁を引っ掻きながらゆうら、ぐうら、立ち上がる。]

  あ゛ー……ふ。

[もう動かなかったはずのものが動くのは
 本来喜ばしいことのはずなのに、
 地面についた足を見ても何の感情も湧かなかった。
 気を抜けばあっという間に崩れてしまいそうだったから、
 息を詰めて足を動かした。

 静寂の夜に、不快な摩擦音が響く。
 10フィートの均衡はあまりにも容易く乱れた。]


[どこへいくの、と。泣きそうな子どもの声がした。
 返事をすることなく、唯一機能している裏口へと進む。

 マスタと呼ばれた。ミケーロさん、と。ミケ、と。
 呼び名が若返って行く度に、
 子どもの声は徐々に癇癪に近いものへなっていく。

 ひとりにしないで、と。掠れた声が届く。]

  きみは……自由、なん だ。

[嗚呼、やはり私はキャロルにはなれない。
 隣人の協力の下、使い道のなかった金で店を出しても、
 彼女を真似て望むままに生きようとしても。

 ねえ、キャロル。
 ――ひとりは、私には少し寂しかったよ。]


 
  わたしが望む、のは、
  君にわたしを殺させること、でもなく、
  わたしがきみを外へ、追い出すこと、でもなく、
  ましてや、わたしがきみを、がいすることでも、なく、

  きみが、いきること だ。

[限界だった。
 打開策を模索する思考は日に日に薄れていくのに、
 身体は少しずつ楽になっていく。
 すべてが己が手から離れていくのが分かった。
 だからせめて、最期に、彼だけは助けたい。]

  あいしている よ、 しーシャ。
  きみ が、うまれて きて、うれしかっ た。

[後ろであたたかいものが動く気配がして、
 “俺は、母さんのことあまり好きじゃなかったんだ。”
 と何を言って音がわからな、あたたかいの。だめそと、]


[ちょうど目の前にある板を叩いた。
 ぐしゃりと皮膚が潰れる音がして、冷たい風が吹く。
 さむい。やだな。でも。そと。ひろい。]

  ……あ゛、 あ゛ー 。

[さむいから、あたたかいもの。
 ここ? ちがう。そとで、さがす。
 広大な大地に、二本の足を踏み出した。]*



[ ……そう、餌をやろうと思ったの。]
 



[ そうしたら部屋の前にジャーディンがいて、]
 



[ 開け放した扉の先に何かを確かめるように、
 ひたすらにせわしなく視線を動かしていて、]
 



[ わたしの存在に気付いて、目を見開いた。]
 



[ わたしはそのとき、どんな顔をしていたのかしらね。]
 



[ 何かにとりつかれたみたいに、
 ジャーディンはよたよたと歩いてきた。

 そして、わたしの腕を強くつかんだ。
 いたっと思わず小さく叫んでしまったの。
 あの子はわたしの上着の袖をめくったわ。

 そこにガーゼや包帯があるのを見とめて、
 恐る恐るといったふうに口を開いた。]
 



  クーパーは?
 



[ 声はか細く震えていたわ。

 何も言えずにいるわたしを、
 あの子は縋るか祈るかするような目で見つめた。
 根気よく、じいっと。わたしが口を開くまで。

 その目を見た瞬間に悟ったわ。
 もうごまかすことなんてできないって。]

  ……いないわ。

[ そう言ったとたんにあの子は、
 崩れるようにその場にしゃがみこんだ。
 痙攣するように薄い肩が数度震えた。
 わたしは慌ててその傍らに膝をついたの。]
 



[ 嘔吐していた。]
 



[ その背中があまりに小さくて、
 せめて少しでも楽にしてやりたくて、
 背中をさすってやろうと思ったわ。

 伸ばした手は強く振り払われた。
 顔を上げたあの子はわたしを睨んだ。
 汚れた口元をシャツの袖で拭いながら、
 怒りに満ちた目でわたしを見ていたわ。

 けれど、ほんの数秒後には、
 すうっと力が抜けてしまったような目で、
 小さな子のようにおいおいと泣き出したの。

 まるで小さな子がするみたいに、
 痛いくらいの力でわたしにしがみついて。]
 



[ ……かわいそうな子。
 利口でやさしい、かわいそうなわたしの孫。

 きっとあなたは理解してしまう。
 わたしが何を選んでそうしたのか。
 何と何を天秤にかけたのか。

 わたしを憎み切ることもできずに、
 こうして涙を流すことしかできない。

 こうなることくらい、
 ちゃんと考えればわかったはずなのにね。
 だってわたしはあなたのNanaだもの。]
 



[ もう少し、広い世界と繋がっていられたら、
 もう少し、違う今を迎えられたのでしょうか。]
 



[ それとももうどこにも、
 正常な世界など残ってはいないのでしょうか。]
 



[ ……なんて、考えたって仕方がないわねえ。]
 



  ……ごめんね、
  許さなくたっていいのよ。
  愛してるわ、ジャーディン。
 



[ そう言って髪を撫でようとしたら、
 どん、どん、と肩を叩かれたの。

 わたしの胸に顔を埋めたまま、
 あの子はこぶしを握って、強く、何度も。

 ずいぶん長いことそうしていたわ。
 あの子が自分から立ち上がるまでずっと、
 されるがまま、片手は震える背をさすっていた。]
 



[ それでもね、あなたに生きていてほしいのよ。]
 



[ ただ静かに、その骨ばった背中を撫でていた。**]
 


― 大豆畑の中で ―

[とても寒かった。お腹も空いた。
 何か食べたいと思う。辺りには枯れた草しかなかった。
 手を振ると乾いたものが落ちた。
 歩く。足の裏で何かを踏んで、頭からひっくり返った。]

  あ゛ー……。

[上が見えるはずなのに、何も見えなかった。
 目玉が裏返っていることに気づいたけれど、
 戻し方が分からなくてそのままにした。
 本当なら、上には何が見えるのだったか。
 思い出せないまま、耳だけが草が揺れる音を拾う。]


[体温もない。声も聞こえない。
 そこにあるのは言葉の羅列だと思っていた。
 時間さえ明確に共有されることはなく、
 それぞれが思うがままに文字を綴る。
 寂しがりの人嫌いに都合のいい場所のはずだった。

 Nanaはレストランに行けただろうか。
 カレーの具は何になっただろう。
 遠い地でも大豆は育つのか。
 丸い目の暴君や笑顔の子どもたちは無事だろうか。
 特別な日を迎えたふたりは共にいられるか。
 名より先に覚えたアイコンやよく見かけたスパムだって。
 助けを求める悲鳴の先も知らないままだ。

 あれが生きている者の声であることに気づいたのは、
 すべてがおかしくなり始めてからだった。]


[誰かが助かって、誰かが助からなくて、
 そしてきっと誰もが苦しんでいる。

 何も思わない訳ではないが、
 思い浮かべるのはこの目に映した人のことばかりだった。

 冷徹だろうか。無情だろうか。
 それでも私は、最後まで人間だった。

 人間だったから、悔いのない選択はできなかったし、
 人間だったから、繰り返しても同じことをするだろう。]



[それでいい。]
 


[さむい。おなかすいた。]

[遠くからエンジン音が聞こえる。]

[あたたかい。もの。たべもの。]

[闇を裂くような光が満ちた。]

[たべたら、あたたかい?]


[たべ、]


                  [――ぐしゃ。]



[命の轍が二本、広大な大豆畑に刻まれた。]**
 


["それ"の目が捉えてたのは、天井の染みだった。

それが天井についた染みだと認識するにはかなりの時間を要したようだ。

染みについても、それが知っていたかさえも、もう分からない。

それの喉から、小さな呻き声にもならぬ音が鳴り
それの目は、首が動かせぬばかりに少しだけしか見えない扉の上部分が見える。

感じもしない、"朝食の匂い"。
聞こえもしない、"誰かの声"。
見えぬ、"目尻の皺"を

それは、感じて、聞いて、見ていた。]


[微かに残る、それの意識が見せた思い出。
鼓膜を叩く、荒い息づかいさえの音さえも、現実か分からないほどに

"フローラ"は、何者でもなくなりつつあった。]


[思い出って どこに残るの?]


[わたしが消えたら 何が残るの?]


[世界の果てで綴られた、少女の短い物語の終止符は
"意識"の存在で成り立つのか、否か*]



[どれだけ泣いていただろう。]
 


[ばん、ばん、と扉を殴る音は止んでいた。
 ただ、俺の引きつった嗚咽と
 押し殺すような元帥の呼吸音だけが聞こえた。

 「素手で目を擦るな」って言って、
 元帥が差し出してきたタオルを容赦なく使って
 漸く、俺は人間らしい思考を取り戻す。]

 「恋人か?」

  ……片思いの相手。振られたけど。

 「ここは、やめとくか?
  あのゾンビを俺が倒してきてもいい」

  何それ。やさしいな。
  ありがと。でも。

[首を横に振った。]



  俺が終わりにしてやらなきゃ。

[そう言い放った俺の目を、
 元帥は、ひどく複雑そうに見ていた。]


[咀嚼音の響く部屋に耳を澄ます。
 たぶん、食べるものがないから
 沙良は仕方なく進の遺体を貪っているのだろう。
 最初どんなきっかけでそうなったのかは、
 わからないけれど。

 大丈夫か、って元帥が俺を見てる。
 大丈夫だって、と俺はただ頷いた。

 頭の中がすっかり冷え切ってしまって
 自分が自分じゃないみたいだ。
 
 金属バットの柄を強く握る。
 鍵を静かに開けて、
 沙良の部屋の扉を、開けた。]


 
  ――沙良。

[名前を呼ぶ。
 死体を貪るゾンビが振り返る。
 名前を呼ばれたのがわかったから?

 ……ちがう。物音に反応しているだけだ。]

  ごめんな。

[こっちに走ってこようとする沙良に笑う。
 バットをまっすぐに突きだした。
 沙良のみぞおちがべこりとへこむ。
 ゾンビといえど元は人間だから、
 俺の一撃でよろめかないはずもない。

 そのまま怯んだ彼女の頭に、バットを振り上げた。]



  ごめんな

[嫌な音がする。
 進を殺した時よりも明確に
 俺は人の頭蓋を砕いている。]

  ごめん。

[沙良の喉から聞いたこともないような
 きたない声が出てる。

 痛い、助けて、おなかすいた、
 そんな風に言っているようにも聞こえたけれど
 ゾンビは喋れないんだから、全部俺の幻聴だ。

 そのまま、大好きだった小さな顔にバットを叩き込む。
 こうしないと何度だって蘇ってくる。]



  ……ほんとに、ごめん

[誰に謝ってるんだろうな。

 うめき声さえも聞こえなくなって、
 ばたばたと虫みたいに暴れていた手足が
 かよわく床を掻くだけになっても、
 俺はバットを振り下ろした。

 これしか、俺が沙良にしてやれることはない。
 抱きしめてやることも、キスすることも
 なんにもできないんだ。
 ――ゾンビになってしまうから。]


[クシャミ、と元帥の声が後ろからする。
 なに、と投げやりに問い返す。

 もう死んでる、と言われて、
 ようやく、俺は、沙良の顔を見下ろした。
 
 鳥の巣みたいに散らばる亜麻色の髪。
 枯れ枝のようにやせ細った手足に、血濡れた手。
 潰れてしまった顔面。

 もうぴくりとも動かなかった。]


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