人狼議事


308 【R18】忙しい人のためのゾンビ村【RP村】

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[ きっとわたし、立ち止まるべきだった。
 立ち止まって彼女の声を聴くべきだったわ。

 でもね、わたしはそうはしなかった。
 立ち止まろうとするあの子の腕をぐいと引いた。
 足早に廊下を進んで、ひとつの扉を開けたわ。
 そして、中にあるデスクの引き出しから、
 迷いなくあるものを取り出したの。]
 



  ──行って、ジャーディン。
  ここはもうだめ、持ちこたえられない。
 



[ さっきまで引いていた手の中に、
 わたしが強引に握らせた小さなものを、
 ジャーディンは一瞬不思議そうに見た。
 そして次の瞬間、勢いよく顔をあげたわ。

 泣きそうな顔をしていた。
 何かに怯えているようにも見えたわ。
 本当に利口な子。その意味をきっと分かってる。

 それは車の鍵よ。おじいさんの車の。
 古臭くてぴかぴかの車を動かすための鍵。]
 



[ そして、それがわたしの答えよ。]
 



[ ジャーディン、あなたを生かすためなら、
 ほかの何を犠牲にしたって構わないわ。]
 



[ わたしはジャーディンを急かすように、
 入ってきたばかりの扉をまたくぐった。]

  早く逃げて。とにかく一度車の中へ。
  身を隠せるわ。音のほうに来るはずだから。

[ そう告げながら、廊下へ出たのね。
 ガレージのほうへと導くつもりだった。

 そのとき、おかしな音がしたわ。
 音っていうのかしら、声? 低い声よ。
 そう、家を取り囲むあいつらが出すような。

 そして、ふとおかしなことに気付いたの。
 どうしてさっき、銃声がしたの?
 木戸が壊されて窓やドアを破られて、
 家の中まで入ってこられるには早すぎる。]
 



[ わたし、声のするほうを振り返ったの。*]
 


― 隔絶された広い世界で ―

[割れた窓から入った風が頬を擽った。
 その心地よさに、乾いた目を細めた。]

  ……。

[元より賑わいと無縁だった店内には、沈黙だけが満ちる。
 コートのポケットに手を入れた。
 ドアの側に落ちていたスマートフォンは縁が欠け、
 表面にも亀裂が走っている。
 指で画面をなぞってみても反応は何もない。]


[スコップ片手に裏口を出た。
 どんよりと曇った空の下、所々荒れた畑が広がる。
 収穫を待つばかりのそれらを靴底で踏み潰して、
 既に道のように平らになった区画へ出る。]

[轍の傍ら、土の山の前に膝をついた。
 取り出したスマートフォンをその上に置く。
 薄汚れた手を胸の前で組み、首を垂れて目を閉じた。]

[周囲には、他にも似たような土の山がある。]

[大柄な男が、土を掘っていた。]


[店の裏にある小さな家へと入った。
 動線を大きく取った室内には、元々物は多くなかった。
 ハウスキーパーのドロシーが来たばかりだったのだろう。
 床にも机にも書物が出しっぱなしだった形跡はない。
 その中で唯一物が積まれているベッドへと向かった。

 一人目の上着を取り、
 二人目のマフラーを巻いた。
 三人目のリュックには、
 四人目の水筒と六人目の懐中電灯を入れた。
 五人目は何も持っていなかった。

 出て行く前に、使い込まれた様子の机の前に立った。
 椅子はない。写真立ても、レターケースもなかった。
 掌で木の質感を確かめると、手の形に埃が退き、
 代わりに泥まじりの土と濁った色が線を引いた。]

  あいしていたよ。

[返事をする者は、どこを探しても見つからない。]


[トラックの運転席へ足をかけた。
 取り替えたタイヤが凹んだ土をしゅわり、轢いていく。
 ラジオのボタンを押すも、ノイズすら聞こえなかった。]

  ――♪

[だから歌を歌おう。
 何もないこの場所で、歌詞も知らない誰かの歌を。

 トラックは、先の見えない道を進んでいく。]**



[ そこには何かが立っていた。]
 



[ はじめに目に入ったのは、
 ぼとりと無造作に取り落とされた、
 赤と肌色の入り混じった物体だった。

 よく見たらその先端は五つに枝分かれして、
 つまり人の手と同じ形をしていた。
 ほんの今まで齧りつかれて
 ところどころ白い骨が見えていた。

 ひいっとジャーディンが小さく叫んだわ。
 すると、ゆらゆらと揺れていた細い影が、
 首を無理やりに傾けるようにこちらを見た。
 そして、わたしたちを見つけた。

 ず、ずずと足を引きずって、
 それはゆっくりとこちらに近づいてくる。
 穴の開いた顔をこちらに向け、細い腕を伸ばして。]
 



[ ああ、ノーリーン。]
 



[ ……まるで誰かを探しているようだった。]
 



[ 足がすくんでいる様子のジャーディンを、
 わたしはぐいと逆方向へと押したわ。
 ノーリーンがやってくるのとは逆へ。

 奇しくもそれはリビングのほうだった。
 キッチンの勝手口を抜けてガレージに行ける。]

  いいわね、隙を見て車を出しなさい。
  そして逃げるの。どこか遠くまで。

[ わたしがこれだけ言うのに、
 ジャーディンはいやいやと首を横に振った。
 わたしの腕を引くの。強い力で。
 その間にもノーリーンは距離を詰めたわ。]
 



  ──行きなさい、ジャーディン!
 



[ わたしは強い口調でそう言った。
 ノーリーンははっきりとこちらを見ていた。

 いっしょに行こう≠チて、
 この期に及んであの子が駄々をこねるの。
 でももう無理よ。見つかってしまったもの。

 この廊下の先に続いているのはリビングで、
 そこにはチビちゃんたちがいるはずなのよ。
 そんなの、だめに決まってるじゃない。

 ジャーディンときたら、
 本当に一度言い出すと聞かなくてね、
 きっとこれは娘に似たのね。だって……、
 あら、この話って前にもしたかしら。]
 



[ つまり、仕方がなかったの。]
 



[ わたしはノーリーンの眼前に、
 自らの左腕を勢いよく突き出した。
 ああ、少しかっこつけちゃったわ。
 みっともなく腕は震えていたんだもの。

 ノーリーンがそれに、
 素早く崩れかけた顔を寄せるのと、
 ジャーディンが何かを叫びながら、
 千切れそうな勢いでわたしの腕を引くのと。

 たぶん、ほとんど同時だったわ。
 わたしの体はふたりで半分こできないし、
 つまり、わたしは彼女に噛まれた。]
 



[ いのちにも優劣はね、あるのよ。]
 



[ こんな皺くちゃでまずそうなお肉で、
 なんだかちょっと悪いわねえ、ノーリーン。

 もちろんその瞬間のわたしに、
 そんな余裕なんてこれっぽっちもなくて、
 わたしは喉が張り裂けんばかりに叫んだ。

 お隣のご主人、
 よくクーパーに噛まれて堪えたわよね。

 わたしなんてもう半狂乱になっちゃって、
 ジャーディンが一瞬怯んで力を弱めたくらいよ。

 ひいひいとわたしはあえいでいたわ。
 痛くて痛くて泣いちゃいそうなくらい。
 でもね、わたしの顔を覗き込むあの子が、
 あまりに痛々しい顔をしているから、
 ほら、Nanaとしては泣いてられないでしょ。]
 



[ ノーリーンはまだわたしに夢中だった。
 わたしという肉に。今がチャンスだった。

 一向に動く気配のないジャーディンに、
 わたしは声を詰まらせながらも言ったわ。]

  ……行くのよ、ジャーディン。
  どこか、どこか遠くまで……、
  そうね……、西がいいわ。
  ずうっと西へ……どこまでも……
  それが、わたしの最後のお願いよ……

[ いつもお願いを聞いてくれたじゃない。
 とうとう涙をこぼしだしたジャーディンに、
 わたしは何と言ってやればいいのかしらね。

 ねえ、これがわたしの最後の役目だとしたら、
 わたし、本当に光栄よ。信じてくれるかしら。]
 



[ けどね、わたしも人間だから、
 最後に少し欲が出ちゃったのね。

 お別れを惜しんでいる暇はないというのに、
 最後にどうしてもこの手であの子に触れたかった。

 痛みで全身がひきつけでも起こしてるみたいに、
 無事の右手を伸ばすのも一苦労だった。

 今日はちゃんと撫でさせてくれるのね。
 少し固い髪も、丸みの減った滑らかな頬も、
 全部全部、わたしの宝物だったわ。

 わたしがいなくなっても、わたしの宝物を、
 この広い世界を漂う見知らぬ誰かが、
 守ってくれますように。愛してくれますように。]
 



  ……あなたはとても素敵な子だもの。
  きっと助けになってくれる人がいるわ。
 



  愛してるわ、ジャーディン。
  あなたのことが大好きよ。
  ……だからどうか、生きて。
 



  あなたが生きていることが、
  わたしにとっての幸せなの。
 



[ ……ようやく決心がついたように、
 ジャーディンはゆらりと立ち上がったわ。

 あんまり痛いやら悲しいやらで、
 もうこれ以上目を開けてたら、
 とめどなく涙が出てきそうだったの。

 だからわたしは目を閉じたのね。
 わたしが泣いたらやさしいあの子は、
 心配して戻ってきちゃいそうでしょう。]
 



[ 足音が遠ざかっていくのを、
 暗闇の中で懸命に聞いていたわ。

 少し離れたところで、
 あの子がウィレムとゾーイを呼んだわ。
 ずいぶん焦った声で何か言ってる。
 ああ、オッドもいたのね。よかった。
 ぱたぱたといくつかの足音が遠のいてく。

 ねえ、ノーリーン。
 安心してね、あの子やさしいの。
 一人っ子なのに面倒見がよくってね。]
 


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