254 東京村U
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[扉が閉まらないように、エレベーターの扉を手で押さえながら、廊下の向こうに目を凝らす。
遠く、玄関チャイムを押しているのだろう。 少しして、中からは、女が出てきた。 ぎくりとした。息をのみこむ。 見つからないように、顔を引っ込めてしまったが、これでは様子がみえない。
一瞬見えたのは、 眼鏡、後ろでまとめた癖毛の黒髪、エプロン姿――]
(207) 2016/09/30(Fri) 16時半頃
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[しらない他人。]
(208) 2016/09/30(Fri) 16時半頃
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[まだ居る。
心臓がばくばくと音をたてる。 早く追い払ってよ!と思う。 しかし、警察は家から出てきた女と、再度出向いた理由についてを述べていて、取り押さえるとか、捕まえるとか、そういう様子はない。]
(209) 2016/09/30(Fri) 16時半頃
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[入間家から出てきた眼鏡の他人は、警察官に「娘がご迷惑を」などと謝っていた。 入間の従兄である東蓮寺琉衣の姿をみると「あら?」と頬に手を添えて、表面上穏やかそうな笑みをつくっていた。]
(210) 2016/09/30(Fri) 16時半頃
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[入間家の玄関からは、夕食の準備をしていたところなのか、食事のにおいが漂ってきている。 ごく普通にその家で、その女は、生活しようとしているのだろう。
女は東蓮寺の言葉をきいてか見知った人間であるふりをしはじめた。
[久しぶりに会ったから、誰かと思っちゃったわ。 見違えちゃって。スーツだとわからないものね。」
そして困ったように、警察のほうへ一度視線をあわせた。
「どうしたの、あなたたち……二人とも変よ。 “るいくん”久しぶりだから、忘れちゃった?おばさんよ。」
と心配そうに言う。]
(215) 2016/09/30(Fri) 17時頃
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[ カチャッ ガチャガチャッ ]
(216) 2016/09/30(Fri) 17時頃
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[入間は突然の音にびくっと身を竦めた。 近所の家の扉が開いたのだ。 廊下の話声が気になったのだろうか。それともたまたま偶然か。 家から出てきたやや小太りの女は警察と話している入間家の方を見遣る。
まるで、今まで近所づきあいがあったかのように、「あら……入間さんどうしたの」と声をかけたのだ。 母親のふりをしている他人が困ったように笑って、「それがねえ、娘が…」と口を濁した。]
(217) 2016/09/30(Fri) 17時頃
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[どうして近所の人間にまで認められているのかとゾッとする。 柱から顔をのぞかせていたが、あまりのことに隠れ切れていなかったのだろう。 警察官と従兄の東蓮寺の背中ごしに、ついにこちらに気づいてしまった。]
「みおん!」
[女は入間の姿をみつけて、声をあげた。 ほっとしたような、待ちわびたような様子だった。]
「おかえり。ママたち心配してたのよ……」
[その声は、入間祥子の声とも、入間祥子の姉の声質とも全然違っているが、それでもその声は、自分が入間澪音の母だと名乗るのをやめない。ぞっとして奥歯をぎゅっと噛んで、首をぶんぶん振った。]
(218) 2016/09/30(Fri) 17時頃
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アンタなんてしらねーよ!! るいくん!アタシいくからっ。
[そう叫んで、入間は気味が悪くてしょうがなく、エレベータに乗り込んだ。]
(221) 2016/09/30(Fri) 17時半頃
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[入間がまた逃げ出していくと分かった眼鏡の女は、エレベーターの方を見ながら「どうして?」と呟いていた。
入間の叫び声をきいて、うーんと警官は唸る。 警官は、入間家から出てきた眼鏡の女ではなく、むしろ東蓮寺を怪訝そうに見ていた。 「……先ほども確認させて貰っているんですよね。」と言う。 「奥さん、すみません、そういうことですから、もう一度おねがいできますか。」と身分証の提示を求めた。]
(222) 2016/09/30(Fri) 17時半頃
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[眼鏡の女は「はい……」と返事をしている。 警察官と東蓮寺に背を向けて、身分証をとりにいくようだった。]
(223) 2016/09/30(Fri) 17時半頃
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[ここに従兄だけを残していくのも心配で、エレベーターで束の間、ボタンを押す手が迷っていた。 足音で、おそらく追いかけてきてくれているというのがわかって、従兄が走ってくるのを待ち、1階まで降りる。]
さ さっきのひと。
[エレベーターのドアがしまった。 声をかたくして、呟いた。]
(225) 2016/09/30(Fri) 18時頃
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家から出てきたほうじゃなくて。 別の家から出てきた太ったおばさん。
ずっとこっち見てた。
(226) 2016/09/30(Fri) 18時頃
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[遠くの母親を騙る女も不気味だったが、近所の小太りの女が、なぜか廊下にずっと出ていて、入間のほうへじっと視線を向けていたのも恐ろしかった。 気持ちが悪くて、気持ちが悪くて、結局たまらず逃げ出してしまったが、これではあの家はずっと、あのわけのわからない奴らに使われたままだ。]
ど……どうしたらいいんだろう。 どうなっちゃうんだろう? ママとパパどこいったんだろう。
(227) 2016/09/30(Fri) 18時頃
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― 夜:中央総武線電車内 ―
[マンションから出て、東中野駅に向かった。 家から近いところはどうしても気持ちが悪かったため、駅を変えたくて電車に乗っていた。]
今日どこで寝よう……。
[と呟いていたら、従兄にホテルを勧められた。 シングルで、と付け加えられたが、流石に今は一緒にお泊まりできる出来ないで一喜一憂してリアクションしている余裕がない。]
るいくんのトコ泊めてよ。
[と言ってみたが狭いからと渋られた。どさくさで泊まりに行けないかと考えたがお見通しか……と思ったが、本当に一人が不安でもある。 どこか離れるにしても新宿から乗り換える、ということにして、一度着いてから考えよう、ということになった。]
(228) 2016/09/30(Fri) 18時頃
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[電車から降りて、もう一度、従兄の家に泊めてくれるよう頼んだ。 返事はどうだったか。なんだか気分が沈んでしまって、やや上の空だったのだ。ホテル探しもおまかせしてしまっていた。
従兄の背中について、新宿駅を歩いていた。
乗り換え、どこにするつもりなんだろう。 なんか、けっこう歩いたような気がするけど。 そう思って、顔をあげた。 ついて歩いていたのは、いつの間にか、別の人だった。
従兄の背中について、新宿駅を歩いていた―――つもりなだけだったらしい。]
あれっ…… あれっ!?
るいくん?!
[名前を呼びながら、ひとでごった返す新宿駅改札内を見渡すも、彼の姿がない。]
(231) 2016/09/30(Fri) 18時半頃
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[*そういえば――家に帰る前も、西口前で迷ってたっけ。*]
(233) 2016/09/30(Fri) 18時半頃
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PPP イルマは、メモを貼った。
2016/09/30(Fri) 18時半頃
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― 夜:新宿駅 ―
[従兄に「どこ!?」とラインを送ったりもしたのだが、遭遇できない。 こちらの場所を伝えて待ったりしてみたが来ず、痺れを切らして探してみたりしてしまったから、すれ違ってしまったのだろうか? 伝えてあった場所に戻って暫くは、友達が、少しづつ返してくれるリプライやラインに、返信をして、不安や心配を紛らわしていた。 父親には変わらず電話をかけてみているが、未だ出ず。]
るいくんまで居なくなったらどうしよう……。
[半べそでひとりごちた。 気を紛わせたさでラインで一二三にも返事をした。>>1:166 『気悪くしてないし こっちこそ苦手だったんならゴメン🙏』 もう、昼間ムッときたことなんて、どうでもよくなっていたから、とにかく構われたさでそう送った。 『家帰れないからご飯奢って 今!✨』 と更に送ってから、深くため息をついた。 『なんて無理だよね😖💧』 と、さらに送って、自分で自分に「なにやってんだ…」と呟いた。]
(240) 2016/09/30(Fri) 19時頃
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― 夜:新宿駅 ―
[そう送ったときだった。 母のではなく、入間自身のスマホに着信があった。 ひ、と息が詰まった。 知らない番号からの着信だったからだ。 とっていいのか、悪いのか、しばらく悩んで、あまりにも鳴りやまないので、ついとってしまった。]
「みおん?」 「よかった、心配で電話をかけたんだけど――」
(244) 2016/09/30(Fri) 19時頃
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[最初、だれだろうと思った。 相手の声の向こう側、遠くで、テレビの音がしている。 だんだんその相手に察しがついてきた。
おそらく――おそらくだが、これは、今、自分の家にいる――]
(245) 2016/09/30(Fri) 19時半頃
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[電話を切って、その拍子、スマホを取り落とした。 恐る恐る、震える手で、ごみでもつまむように拾い上げると、また通知。びくっと背中を震わせる。
けれど、それは、母と名乗る知らない人からの着信ではなく、一二三からの返信だった。]
(246) 2016/09/30(Fri) 19時半頃
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[泣きそうなほどほっとする。]
『新宿』
[と、たった一言、焦って返した。 そのあとで、震える手で]
『受かった?😺』
[と、心細さから、返信を続けた。]
(247) 2016/09/30(Fri) 19時半頃
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[願ってもない申し出だった。]
『できそう?😢』
『怖い人から電話かかってきてて』
『一緒にいたんだけどイトコともはぐれちゃって』
[不安から、泣き言も、聞かれていないことも送った。]
(249) 2016/09/30(Fri) 19時半頃
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― 回想:電車内 ―
[さっき、電車でゆられながら、入間はぽつりと言っていた。]
…… そんなつもりじゃなかったのに。
[従兄の家で泊まれないことではなく、アンケートのことだ。]
アタシ、朝ね…… [後悔でその先のことが言えなかった。 ため息のあと、首を振って、しばらく黙っていた。 言えないうちに、新宿駅に着いていた。]
(250) 2016/09/30(Fri) 20時頃
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PPP イルマは、メモを貼った。
2016/09/30(Fri) 20時頃
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― 現在・夜:新宿駅 ―
[あのアンケートに八つ当たりしたことを、今更ながらに後悔している。 一二三へ泣き言を送っていたら、ついそのことについても零したくなってしまって、『朝、駅前』とまで打ちかけたが、返信があったので、それを消して、別の文字を打ち込んだ。]
『ありがと✨ ほんとにごめん!🙏』 『ごはんは、みおんがご馳走したほうがいいね🐼💦』 『まってるね』
[一二三の返信や到着を待ちながら、合流が難しい気配濃厚の従兄に『友達がきてくれるって言ってる!着いたらそっちと一緒にいるかも』と送った。 キルロイ先生からの朗報(とも限らないが、期待はしておく)を待ちながら、人の言葉が恋しくて、Twitterを眺めた。]
…………あ。
[誰かRTしたツイートだ。
【閲覧注意】『知らない街ニキ』の遭遇・目撃情報【都市伝説】 - NEVER まとめ
『知らない街ニキ』と呼ばれている変人についてのまとめ。 誰彼構わず話しかける困った人で、入間自身も友達と一緒にいるときに遭遇した。]
(253) 2016/09/30(Fri) 20時頃
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[急な絡みに腹がたって、その時は動画まで撮ってやった。 変なことをされたら、警察に届けてやろうと思ったからだ。]
………、……。
[RTした者によれば、『知らない街ニキ』は居なくなったらしい。 いつ何時しょっぴかれて居なくなってもおかしくなさそうな変人と一緒にしたくはないが、父母と連絡がつかない状態で聞く『いなくなった』という言葉は、その言葉だけでも具合が悪くなりそうだった。 こんなタイミングで、聞きたい情報じゃなかった。]
(254) 2016/09/30(Fri) 20時半頃
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[『知らない街ニキ』のまとめの導入だけ眺めた。 そこには、入間も言われた内容が書かれていた。 誰にでも言っているらしい。
「知らない街だった。」 「まだ、その街から出られないんだ。」 「おまえだって、そうなんだろう?」
思い起こしていると、だんだん、胸がむかむかしてくる。 鎖骨の少し下を、さすった。]
(277) 2016/09/30(Fri) 20時半頃
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きもちわる……。
[知らない――あんな人たち知らない。
あの知らない顔の女は言った。「どうしちゃったのみおん。」 あの知らない顔の男は言った。「何かあったのか…?」 駅前の交番の警官がいう。「お父さんたち心配してたよ」 でも、近所の小太りのおばさんは知っているようで――
まるで、こちらの方がおかしいような扱いだった。]
(278) 2016/09/30(Fri) 20時半頃
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(知らない街なのかな)
[そう思ってしまった途端、あの『知らない街ニキ』は間違いなく変な人だったと思っていたはずなのに、もうあれを変人と呼べる気が、しなくなっていた。]
(280) 2016/09/30(Fri) 21時頃
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[母の携帯に電話があった。 ぎくりとしたが「キルロイ先生」と表示されている。 おそるおそる、電話をうける。]
もしもし。 あの。何かわかりました?
(281) 2016/09/30(Fri) 21時頃
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