254 東京村U
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[ドアの向こう側から「みおんちゃん、どうしたの?」「どうした、みおん、だいじょうぶか?」という声がする。
声は心配という形式を音にのせたようなそれ。 けれど心配をされているという実感は無論わかない。 不気味さだけが押し寄せてくる。]
(189) 2016/09/28(Wed) 16時頃
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[ドアの向こう側で声が
「ねえ、ママたち何かしたかしら」
と言った。]
(190) 2016/09/28(Wed) 16時頃
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― 昼:805号 入間家 ―
[見知らぬ男女の声は、しきりにこちらへ話しかけてきている。
「みおん、どうした? ちょっとへんだぞ、いきなり逃げるなんて……」
「ねえ、出てきて話してみて、みおん。 なにかあった?ママたちで力になれるかもしれないから…」
あの両親面をした男と女は一体誰なんだ。泥棒なんだろうか? 入間は声を全部無視して、震える手でどうにかスマホを手から取り落とすことなく学生鞄から取り出した。 膝が、足が、がくがく震えている。スマホへ視線を落とすついでにそれが視界に入った。
電話をかける先は母親。 一度目のコール音。 それを聞く間も「早くでて!」と念じ続ける。 二度目のコール音が鳴り出すか、というタイミングで、ごく近くから携帯のバイブレーション音が聞こえ、入間は音に身を竦めた。]
(206) 2016/09/28(Wed) 17時頃
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[母親の携帯電話はこの部屋のなかにあるようだった。 電話を持っていっていないという事から、さまざまな考えがいっぺんに頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回していった。
入間は力の入らない役立たずの手足で、音のしたほうへ這って近づき、ベッドの下で光っているスマホを見つけて、それを引き寄せ、拾い上げる。 混乱していると同時、恐怖心と嫌さで泣きそうだった。
ベッドの下に、もうひとつ、スマホの光を反射しているうすべったいものが落ちていることにも気づいた。 手を伸ばして拾いあげると、それはプラチナ色のカードだった。 電話番号がかかれている。 入間はそれを見るも何の店のカードかはよく分からないまま、カードをポケットにとりあえず仕舞いこんだ。]
(207) 2016/09/28(Wed) 17時頃
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[父親にも電話をかけてみたが通じない。]
なんで出ないの……ばか!
[涙声でそういうも、その声へ声をかけてくるのは、今はドアの向こうの見知らぬ男女だけだ。]
そうだ、けいさつ
[こういう時は110番? いや。最寄りの交番の電話番号もアドレス帳に入っていたはずだ。入間はとりあえず交番に電話をかけた。]
(208) 2016/09/28(Wed) 17時半頃
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もしもしっ、あぁっ、ああ、あの、し、しらない人が! しらないひとが、家のなかにはいってて! 親のふり、す、するんです か、かぎ、しまってなくて、あの はやくきてください! あの人達おかしいの! たすけて!
[電話先で男のひとが「落ち着いて」「住所は」と言った。 入間は混乱しながら、つっかえつっかえ自宅の住所をこたえる。 混乱して古い住所を言ってしまいそうだった。]
(209) 2016/09/28(Wed) 17時半頃
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[祈るようなきもちで警察の到着を待った。 警察の到着は思ったよりもずっと遅くて、入間は警察のやくたたずと心のうちで何度も罵った。
暫しして、玄関の戸が開いた音。待ちわびた。 扉の前にいた二人は、母親の部屋の前を離れていった。 人の声が微かにするが、何をいっているのかまでは分からない。 とにかくこれでどうにか追い返してくれるはずだ。 もう射殺でもなんでもしてくれ。 身分をたしかめて、おかしなやつだって連れて行って一生牢屋から出さないでくれ。 スマホを握りしめている手は、力をいれすぎていて、真っ白になっていた。]
(210) 2016/09/28(Wed) 17時半頃
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[暫くして――ドアのむこうから聞こえたのは
「もう出てきていいよ、大丈夫」
という優しい警察の声ではなかった。
「どうしちゃったの、みおん……。 警察にまでいたずら電話するなんて。 パパもママも怒ってない。 ただみおんが心配なだけ。」
目の前が暗くなる、とはこういう感覚か。 眩暈がした。]
(211) 2016/09/28(Wed) 17時半頃
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🍀ぃるまぁ🍀 @xXamurirumaXx 3分 けいさつはやく だれかたすけてください!
🍀ぃるまぁ🍀 @xXamurirumaXx 3分 こわい
🍀ぃるまぁ🍀 @xXamurirumaXx 4分 あたまおかしい人が家に
(216) 2016/09/28(Wed) 18時半頃
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[Twitterに思わず書いてしまったツイートにも、まだリプライはついていない。 なんで、どういう理屈で警察が追い返せてしまうんだ? 今までここに父も母も住んでいて、父の名前は祐輔、母の名前は祥子。新築だし近所と付き合いがあるわけではなかったけれど。 確かにここで生活していたのに。
父母と名乗る二人は、いまだにぶつぶつ外でいっているが、ついに「じゃあ、話す気になったら出てきてね」「夜、みおんの好きなものを食べよう?一緒に何か食べにいこっか」と言って、ドアの前を離れていくようだった。
今しかない。]
(217) 2016/09/28(Wed) 18時半頃
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[入間はドアに耳をくっ付けて息を殺した。 足音に耳をすます。遠くでリビングのドアが開いた音がきこえる。
心臓がまたばぐばくと音をたてていてうるさい。 怖すぎて酸素も血のめぐりもなにもかも足りていない。]
(218) 2016/09/28(Wed) 18時半頃
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(こわ……1、2の、3ででる、きめた、よし)
[いざ飛び出すとなると勇気がでなくて、自分にルールをつけた。 一度、目を思い切り瞑る。]
(219) 2016/09/28(Wed) 18時半頃
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(いちにのさん!)
[閉じ籠っていた母の部屋のドアのカギを開け、ドアを開いた。 思い切り駆け出したが廊下が滑るのを忘れていた。 また転びかけるも、どうにか堪えて廊下を走る。 後ろでリビングのドアが開く音がするが振り返らない。 玄関に靴下のまま飛び出すと、体を縮めて靴に指を引っ掛けた。 ドアを開け放ち、廊下まで靴下まま飛び出して、全力で走ってエレベーターに飛び込み、「1」のボタンを押して、扉の開閉ボタンの閉の字を歯を食いしばって何度も叩いた。 二人の知らない人間が追いかけてくる前にエレベーターの扉が閉まる。 持っていた靴を床に落とし、足の裏も払わずに足を突っ込む。 7階。6階。5階……階数がかわるたび、「とまるな」と祈った。 祈りが通じたのか、エレベーターは1階までおりる。 1階の扉が開く際に、生唾を飲み込んだが、人影はなかった。
入間はエレベーターから飛び出して、エントランスを出て、真っ白なタイルのそのマンションから思い切り逃げ出した。]
(220) 2016/09/28(Wed) 18時半頃
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― 午後:東中野駅 ―
(肺が痛い〜!!)
[泣き言はいくらでも言いたいが、そんな場合じゃない。 とにかく電車に乗って、この駅を離れるところから。 今日ほど入間はこの家が「駅チカ物件」だったことを感謝したことはない。
駅まで走り続け、改札にスイカを押し付けた。 電車の音がしている。
入間は中央総武線各駅停車の電車の扉が閉まるぎりぎり手前、どうにか体を滑り込ませ、短いスカートからパンツが見えてしまうかどうかなどお構いなしにへたりこんだ。]
(221) 2016/09/28(Wed) 18時半頃
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[息を整え、立ち上がる。]
………、……
[電車内にいる見知らぬ人がこんなにも何を考えているか分からず怖いことなど、今まで一度だって経験したことがない。 ちらちらと電車内のひとに視線をくばるも、何もわからない。 素性の知らない誰かしら。 それ以上になるには、この途方もない数の人の生活人生立場その他諸々を知る他ないのかもしれないし、知ったところで更に嘘か本当かなど、どう分かったらいいのだろう。 なにせあのぽっと沸いて出た謎の偽親が、交番の警察官に「入間澪音の父と母だ」と一時的にも認められるような事があるくらいなのだ。 本当の父と母は大丈夫なんだろうか。 入間は、不意に今朝書いたアンケートを思い起こした。]
(222) 2016/09/28(Wed) 19時頃
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[そうだ。 そういえば書いた。>>0:55
項目1 どんな未来をご希望になりますか。 『ケンカしないマトモでやさしい親のいる未来!』
ぞっとして、また体が小刻みに震えだす。]
(223) 2016/09/28(Wed) 19時頃
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ま、まって
[コトダマとかいう迷信だろうか。 勿論、こんな事が起きてほしくて書いたことじゃない。 アンケートを書いたからってこんな変なことが起こるわけもない。 要は自分が記入したのは、ただの愚痴だ。]
(224) 2016/09/28(Wed) 19時頃
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[冷や汗で背中がつめたい。 青ざめながら入間は、家から持ち出した母親の携帯の通話履歴を見始めた。せめて会社に行っているとか、どこかで仕事をしているとか、無事を確かめたい。 通話履歴の最後にかけた相手は――**]
キルロイ先生…?
……が 外人?
(225) 2016/09/28(Wed) 19時頃
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PPP イルマは、メモを貼った。
2016/09/28(Wed) 19時頃
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[母は出版関係の仕事をしている。 どんな本を作ってるとか、そんな事はよくしらない。 入間はホラーもミステリもその他学術書だろうとエッセイだろうと興味がなかったし、それ以前に読書をしない。 電話をかけるまえ、ばくばくと心臓が大きな音をたてる。 この人だって、家にいた変人たちの知り合いかもしれない。 そう思い始めたら、電話をかける手が止まってしまった。
かわりに自分のスマホを半べそで見た。]
(226) 2016/09/28(Wed) 19時半頃
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[入間が次に連絡をとろうと選んだのは、年上の従兄だ。 ラインに「大変なことがあって」と一言送った。 続けて「家に変な人が入ってきて逃げてきた」と送信。
自分はどうなってしまうんだろう。 友達関係にも怖いことがあったとラインしてみたが、彼女たちに助けて貰えそうな気もしなければ、家に自分の親だと名乗る謎の他人が現れたと言ったところで、みんなが自分の親の顔など知るわけもない。
だからまずは親類に。 それも、東京に居るはずの彼ならば、と考えた。]
(227) 2016/09/28(Wed) 19時半頃
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[従兄からの返事を待つ間、また母の携帯をみる。 そうこうしている間に電車は大久保駅を通り過ぎていた。 次は、新宿……電車内のアナウンスを聞き、新宿で降りたら、このキルロイ先生という人に電話をかけようと決める。 静かに、長く息を吐きだす。 やっぱり無事かどうかが心配だ。 会社や仕事関係のひとにあたってみて、一緒に居るなら直に会って、大丈夫だと安心したい。]
(228) 2016/09/28(Wed) 20時頃
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(いちにのさんっ)
[入間は新宿駅で止まった電車から降りながら、頭の中でそう掛け声をかける。 『キルロイ先生』に電話をかけた。]
(229) 2016/09/28(Wed) 20時頃
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(お願いっ、日本人で日本人で日本人でおねがいっ)
[周囲の人、電車の音、注意喚起のアナウンス、さまざまな音でうるさい駅構内で、母の携帯電話から聞こえるコール音に耳をすませた。 すぐに『キルロイ先生』は出た。 男のひと。そんなに歳がいっているという感じはしない。]
あ―― あの 急にすみません。
アタシ、入間祥子の娘なんですけど、 母が、そちらにいっていませんか?
(250) 2016/09/28(Wed) 22時頃
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イルマは、キルロイが日本人で内心ほっとした。
2016/09/28(Wed) 22時半頃
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そう、ですか。
[電話先の声は、こんな電話に驚いているようだった。 落胆。すぐ見つかってほしかった。声のトーンが沈む。 それでも「入間祥子」の名前を否定されはしなかった。 入間祥子が知り合いのつもりで話してくれている。そこには安心を得られた。]
……えと
[どうしようか入間は迷った。 家であんなことがあった後だから、知らない人に話していいのかどうか。でも一人で、誰が誰ともわからず、母の知り合いなんて全然しらずに、どう無事を確認したらいいというのだろう。]
な、なんでもいいから知りませんか!? 何処に行く予定だったとか、 普段仕事でどういうところに行くとか!
(254) 2016/09/28(Wed) 22時半頃
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[入間は不安から、結局さらに言葉を続けてしまい]
け、携帯が。 家に置きっぱなしになってて。 それで、 家に知らない人がいて。
(256) 2016/09/28(Wed) 22時半頃
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警察のひとには来てもらったんですけど!
[あの役に立たない警察! そう思って、つい声が大きくなる。]
その変なひと、アタシも最初泥棒かなって思って。 そのひとたち、す……すごく普通に台所にいて。
[思い起こすに、気持ちの悪い光景だ。 思わずそわそわと周囲を見回す。]
アタシの名前まで何でか知ってて。 そいつら、自分たちのこと、
――アタシのパパとママだっていうんです。
(261) 2016/09/28(Wed) 23時頃
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そんなの、泥棒でも変じゃないですか!? 意味わかんなくって、怖くて。 怖かったし、ヤバい人たちかとおもって アタシ、母の部屋に隠れて、警察に電話したんです。 変な人がいるから来て!たすけて!って!
隠れてたから、警察がホントに来てたのかわかんないけど…… だれか人が来た音はしてたんです。
警察のひと、帰っちゃったみたいで。 その家に勝手に入ってた人たちに 「どうして警察にいたずら電話なんてしたの」とか そんな風に言われて……
[こんな話、子供の妄言と思われてしまうだろうか。]
(264) 2016/09/28(Wed) 23時半頃
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はい。帰ったら、オバサンのほうがお皿をふいてました。 オジサンのほうは、お風呂場のほうから出てきたっぽいので、 ちょっとわかんないです……アタシもてんぱってたから。
あの、母とは会ったことありますか? だって、そもそも、見た目がぜんぜん――
[そう思ったときに、黒の長い髪をよく纏めていたことや、体型、眼鏡などのわかりやすい言葉がつかえないことで、ぞっとする。 父もそうだ。白髪交じりの短い髪。ひげはちゃんと剃っていて……]
ち、ちがってたんですよ! すくなくともあんなに癖毛みたいなかんじじゃないし…… 顔だってぜんぜん違ったし……
[今日の気温なんてしらないが、何だか寒気がする。]
(277) 2016/09/29(Thu) 00時頃
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たぶん、そうだと思います。 遠くてよく聞こえなかったけど……話し声はしてたから。
[警察を追い返してしまったという電話先の相手の言葉を肯定する。]
家に居たら危ないかもって思って、逃げてきました。 いまはとりあえず、新宿に……
[そういうと、相手は会って話ができないかと言ってきた。 正直一人はもう不安で不安でしかたなく]
あ、あの……えと、じゃああとで、 この携帯にまた電話してください! さっき言ってた作家さんへの連絡、よろしくおねがいします。
(281) 2016/09/29(Thu) 00時頃
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あと……その
知り合いは、まだ……返事がきてなくって。 パパにも連絡ついてないし……。
[だから、正直、ひとの声がきけて、話をきいてもらえるのが、ありがたかった。]
(285) 2016/09/29(Thu) 00時頃
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