310 【R18】拗らせ病にチョコレヱト【片恋RP】
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― バレンタイン1週間前・ひとりきりの夜に ―
[探し人は見つかったか、あるいは。それから時間の経った深夜、デスクの前に腰掛けると、パソコンの電源を入れた。パスワードを入力した先のフォルダには、原稿やそれに伴う資料の一部が入っている。資料は紙の方が便利なこともあるが、データも検索の容易さという面も含めなかなか侮れない。しかし今、用があるのはこちらではなかった。カーソルは仕事用のフォルダを素通りし、その先、その奥、もっと深い階層へと潜っていく。
二重にかけられたパスワードを解除すると、『新しいフォルダ』と書かれた無名がひとつだけあった。マウスを滑らせ、指先で二度ノックする。
――その中には、恋があった。
001・002……とナンバリングだけが記されたファイルたちが何行にも渡って続いている。一番若い番号は10年以上前のものだった。母機が壊れても、何度も何度も引き継いできた想いの形だ。
一番新しいファイルを開く。眼鏡の奥にある瞳が恍惚に染まった。興奮に震える指がキーに触れて、バチリ、バチリ。 爆ぜる火花に似た音だけが響いている。]*
(2) 2021/02/14(Sun) 00時頃
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― 翌日朝・『202号室』前 ―
[夜が明けて、昨日よりも遅い朝。いつもなら就寝の迫る時間だが、今日はそうもいかない。 相変わらず空の冷蔵庫を確認し、空の腹を抱えて外に出る。手には原稿用紙をちぎった小さなメモが握られていた。そこには「202号室」と細身の文字が書かれている。引き戸を閉め、テープで固定すれば、何ともお粗末な部屋番号プレートの出来上がりだ。
以前、管理人である如月に部屋番号を記載してほしいと頼まれたことがある。どうやら配達員が引き戸の我が家を部屋だと認識できず、荷物を隣の203号室に届けてしまいそうになることがあったらしい。 その時はそんなのは1回きりだと軽くあしらったのだが、2回目はそう遠くない内に訪れた。
203号室の住人である三上はどうしたのだったか。当人からか、あるいは如月から迷子の段ボールを受け取って以降、荷物が届く日にはこうして簡易的に部屋番号を主張するようにしている。]
(3) 2021/02/14(Sun) 00時頃
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[プレートくらいなら手間ではありませんからね、と言われた。管理人としての立派な気遣いだ。それは己のためより、隣人である三上や大田のためだろう。彼女は正しい。 しかし、己は理解した上でそれを拒否した。]
俺は、此処がいいんですよ。
[あの時と同じ返答を口の中でくり返し、『朧の間』と書かれた木の板を見上げる。 ここがリノベーションされてどれくらい経っただろうか。少なくとも10年と少しの間、『朧の間』は自身だけのものだった。]*
(4) 2021/02/14(Sun) 00時頃
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地下軌道 エフは、メモを貼った。
2021/02/14(Sun) 00時半頃
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[ちょっとした回顧を終えて我に返ると、次に思案するのは荷物が届くまでの時間の潰し方だ。
到着は昼すぎから夕方でまだしばらく余裕がある。先に寝るという選択肢もあったが、途中で起こされるのはできれば避けたいところだ。それに一度目は未遂とはいえ二度目があった以上、三度目がないと言い切れる根拠はなかった。 三度目というのは本懐を遂げることもあるが、同じ轍を踏むこともある。謂わば別れ道なのだ。
選択肢を吟味していると、ふと以前のことを思い出し、三上宅と反対を向いた。202号室と間違えられることはない、2階の一番端。 もうひとりの隣人は役者をしているらしい。らしい、というのは彼が以前、チケットを手に声をかけてきた>>0:129ことがあるからだ。]
(11) 2021/02/14(Sun) 00時半頃
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[その時はちょうど〆切が迫っていて、内容を詳しく聞かないままに購入を了承していた。もし余裕があったなら、迷わず断っていたかもしれない。ある意味タイミングが良かったのだろう。 〆切を乗り越えた後、覚えのないチケットが資料の隙間から出てきた時は迷ったが、気分転換にと劇場に足を運んだ。舞台に立つ隣人の姿を見て、ようやく入手経路を思い出したなんてこともあったのだったか。
以降も〆切後タイミングがあえば舞台に足を運んでいる。 逆を言えば、仕事の執筆中は一切赴かなかった。つまり最近はすっかり足が遠のいていたのだが、さて、今は公演中だったか。
常連なんて烏滸がましいレベルの気まぐれな観客は、戸に寄りかかったまま思考を回顧から思案へと移した。]*
(12) 2021/02/14(Sun) 01時頃
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地下軌道 エフは、メモを貼った。
2021/02/14(Sun) 01時頃
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― 2階・202号室前 ―
[思案していた先の扉が開くとは思わず、ついまじまじと登場人物>>19を見つめてしまった。]
あァ、それは、まァ、そう。 さすがに2日まともなモン食わないと力抜けてきてね。
[部屋を出た一番の目的は買い出しではないが、それもまた必要なことではあった。ここ2日の食事が見知らぬ誰かの蜜柑1個となるとさすがの人間様も調子が悪くなってくるらしい。昼すぎ――今日届く荷物は昨晩注文した大量のレトルトセットだ――まで粘るのは厳しそうだと思っていた。 ちなみにデリバリーは一度で一食程度しか用意できないため、あまり利用することはない。ほら、毎回メモ貼るの面倒だし。]
そっちは……風呂ってとこか。
[手元にあるのは着替えだろうと推測できた。視線をそこに向け、根拠を示す。 こういった世間話を続けるのは、己にとって珍しいことだ。時折チケットを購入するというイベントがあるおかげで、大田とはここの住人の中でも会話する機会が多い。それでも顔を合わせる回数は常識からすれば、一切多くはない>>20のだが。]
(78) 2021/02/14(Sun) 16時頃
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……あァ、そう。今回はご縁がなかったな。 何の役だったんだっけ。たまに聞こえてたけど。
[己の職業を自ら明かすことはないが、別に秘密にしている訳でもない。必要がないから話さないだけだ。管理人である如月には事前に説明してある。家からほとんど出ず、稀に外出したと思えばド深夜なんて不審の塊だろう。共同生活において最低限の信用は重要だ。如月にも何かあれば職業を明かしていいと伝えてある。
大田が彼女から話を聞いたと知ったのは、廊下ですれ違った何てことない日だったか。記憶に残る特徴もない。強いて言うなら、雨が降っていたような気がする。 初めて舞台を鑑賞した後も、それから時折足を運ぶようになっても、己は感想を語らない。ただ行ける時に行き、行かない時は行かない。控室に顔を出すこともなく、アフタートーク含め幕が完全に閉じてから席を立つだけだ。
彼に脚本の評価を尋ねられた時>>20は、変わったことを聞くのだなと思った。合点がいったのは、小説について触れられた時だ。理由も想像できる範囲であった。あの管理人は、変わらぬ表情の下で住人をよく見ている。]
(79) 2021/02/14(Sun) 16時頃
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[――表情の変化が乏しいのは、目の前の彼もそうだ。舞台上を除いて、彼の表情筋が大きく動いたのを見たことがない気がする。 習慣めいた挨拶をする姿>>21を無言で見つめた。]
笑うことってあるの。
[それは水底から生まれた気泡のように、一瞬にして表出した疑問だった。脈絡のない言葉に最初に驚いたのは己の方だったかもしれない。片眉が僅かに跳ねた。]
……いや。 この前デカい図鑑落としたんだけど聞こえた? 早朝近くだったから、寝てたとは思うんだけど。
だから、まァ、別にいいよ。慣れたし。 お互い様でしょ。
[フォローというには些か足りない淡白さで、ひとつ前の言葉を塗り潰そうとする。否定も訂正もしない。正すものでもない。だから、黙殺する。]
(80) 2021/02/14(Sun) 16時頃
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夢を追いかけるってのは大変だねェ。 ま、今のうちに金稼いどくんだな。
[脚本の評価や書いている小説について尋ねられた時も、明確な答えは返さなかった。己が彼に関わるのは、チケットの売買とたまの世間話くらいだったか。ならば、それに準じよう。 意地の悪い一言を別れの挨拶にすると、何もなければその場を離れ、階段の方へ向かおうとした。]*
(81) 2021/02/14(Sun) 16時頃
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地下軌道 エフは、メモを貼った。
2021/02/14(Sun) 16時頃
エフは、レイはもう出勤したのだろうかと、姿の見えない廊下を眺めた。
2021/02/14(Sun) 16時半頃
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― 『軌道』 ―
[書籍化の話が出たのは、年が明けてすぐのことだった。 担当との打ち合わせはメールがほとんどだ。時々ボイスチャットで会議することもあるが、直接会う機会なんて滅多にない。そんな中、新年一発目だからと会社に呼び出された。
亀のマークが目印の書甲羅社は都心との中間にある。久々の電車に疲れ果てた姿で訪れると、年若い担当に満面の笑みで迎えられた。特別小柄ではないのだが、背後に小型犬が幻視できる。 そして告げられた話に、己はどんな表情をしていたのだろう。向かいの表情が曇った。]
別に、嫌な訳じゃないさ。 予想してなかっただけで。
[SNSも活用していない己には、感想が届く機会は少ない。ごく稀に出版社宛に届いたメールが転送されることがあるが、辺境のHPでメールアドレスを探してまで感想を送る猛者はそういないのだ。実感がない。 知らない才能を己に見出している様子の彼にお世辞はいいと一蹴するには、あまりにもまっすぐな目をしている。作家の気分を上げることも担当の仕事だというのなら、彼はきっと優秀なのだろう。背後の犬がドヤ顔しているような気がした。]
(102) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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でも、そんな予算あるの。 この弱小出版社に。
[これは仕事だ。あるかも分からない才能だけでは成り立たない。必要なのは元手と、それを回収できる見込みだ。
話題にも上がらない作品を書店で見ただけで手に取る人間が、どれだけいるだろう。数億冊の中からたった一冊に選ばれる奇跡が、何度あるだろう。 今求められているのは奇跡を数回起こすことではなく、当たり前を何万回も繰り返させることだ。
それは彼も理解していた様子で、待ってましたと言わんばかりに企画書を出した。]
……Vtuber朗読企画?
[要するに関わりのないジャンルと組むことで、新たな客層を獲得しようという試みだろう。 とある会社>>76が主催するもののようで、候補のひとつとして会議にあげられるらしい。採用されれば、広大なネットの海に見知らぬ者の声で物語が放流される訳だ。話題性は十分。PRとして効果的だろう。]
(103) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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なるほどね。それで呼び出された訳か。 ……いいよ、別に。好きにして。
[作品そのものを用いる以上、作家本人の許可がなければ進められないプロジェクトなのだろう。許諾すると、担当の青年は安堵の喜びに彩られた表情を浮かべた。 だからどこぞの誰か>>75が口にしたことと同じ懸念は、歯の裏にくっついたままだ。]
(104) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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[幼馴染みの男女が共に成長していく中で芽生える恋。 友人がいる。ライバルがいる。障害もすれ違いもある。
恋は、結ばれなければならないものか。 恋は、伝えなければならないものか。 決められたものだけが、恋なのか。
ならばこの胸に残る痛みは、何だというのか。
物語は終盤に差し掛かり、抱え続けた恋心を ついに相手へ伝える場面が迫っている。
まるで最初からそうなることが決まっていたかのように 引き寄せられていく。 ここまで来たら、足を止めてもその先へ行き着くだろう。
人はそれを、運命と呼ぶのかもしれない。]
(105) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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[――そんな、どこにでもあるような、まるい話。 角も、棘も、どこにもない。ありきたりだ、と思う。 男が作品に落とす視線は、いつも冷め切っていた。]
(106) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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[口元が落ち着かずタバコに手を伸ばそうとしたところで、小さく舌打ちをした。その程度の抵抗では、懸念は口内にしがみついたままだ。 担当が苦笑して灰皿を勧めたが、手で制して首を振る。]
いい。人前では吸わないから。
[実際、シャツの胸ポケットは空だ。宙に浮いたままの手の着地点を探すように、担当の手元にある資料を示す。]
それ。朗読者候補? ちょーだい。
[アバターらしき写真とプロフィールが載っている。この中の誰かが己の世界に声を授けるのかもしれない。そもそも選ばれた場合の話だが。取らぬ狸のなんとやらだ。 数枚に及ぶ資料を眺めた後、三度折り畳んで空白の胸ポケットに押し込んだ。]*
(107) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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[それから2ヶ月程過ぎ、ついに選考会議が始まるらしいと昨晩届いたメールで知った。あの時言われたもうひとつの条件は、未だ満たされていないままだというのに。
――ペンネームを決めましょう。
Fなんてアルファベットでは、作者名が数多の言葉に埋没してしまう。先生らしい名前をお願いしますね、なんて無茶を言うものだ。 別に識別さえできれば、適当でもいいだろう。
そう思うのに、何度も開かれた形跡のある三度折られた紙の前で、返信用のメール欄はずっとまっさらなままだ。
何でもいいはずだ。何でもいいはずなのに。 己はまだ、自分に名前をつけることができないでいる。]*
(109) 2021/02/14(Sun) 18時半頃
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地下軌道 エフは、メモを貼った。
2021/02/14(Sun) 18時半頃
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― 2階・202号室前 ―
そーね。 冷蔵庫に直接物が届けば、わざわざ出なくてすむし。
[彼>>97の意見には、一歩ずらした同意を返した。 “人”と比べれば食に興味がない方だが、”彼“に比べればまだ人間味がある食欲を有しているつもりだ。 まるでロボットだな。とは、続く話に飲み込まれた干渉である。]
あァ、思い出した。人食い狼の話だっけ。 じゃあ人間役の方か。
[役の説明を受け>>98、芋づる式に部屋越しに聞こえた糾弾する声を思い出した。 前情報なしで観る舞台は、彼のセリフをピースのように当てはめながら鑑賞することも多い。 あの声がどんな顔で発せられているのかは、壁を挟んでは知り得ないことだ。]
(121) 2021/02/14(Sun) 19時半頃
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[そんなことを考えていたから、本来留まるはずの干渉が一滴落ちてしまったのだろう。 片眉分の驚きさえ彼>>99の表情にはない。こちらもそれ以上反応しなければ、両者の間で黒点はなかったものとして扱われる。新たな雪が降り積もれば、いずれ完全に存在をなくしてしまうのだろう。 面のような顔を前に、こちらから目を逸らした。]
ハ、生憎とお淑やかでね。 ご期待に応えることはできそうにないかな。
[舞台上で誰かが乗り移ったような彼を見ていると、火事についても本気で気づかないのではないかと思えてくる。 彼の世界があって、外界からの何もかもを遮断しているかのようだ。]
(122) 2021/02/14(Sun) 19時半頃
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君も大概引きこもりだよねェ。
……ヤバい時は壁三発。 あとは自分で気づくといい。
[皮の下を覗く技術も気持ちもなく、彼の返答が遅れた理由を理解できないまま、背中にかけられた声>>101へ乱雑に片手を上げた。 観劇の後と同じく、振り返ることはない。]*
(123) 2021/02/14(Sun) 19時半頃
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― 海辺 ―
[日が昇り、昼が近づく。冬の晴れ間はまだどこか薄暗く感じた。空が近いからだろうか。潮風に流れていく千々の雲を眺めながら、海沿いの道を歩く。観光スポットからはやや外れた場所だからか、車通りはないに等しい。
そんな外れの砂浜に人影>>84があれば、嫌でも気づくというものだ。木を隠すのが森の中ならば、人を目立たせるのは無人の砂浜だろう。
思わず足を止め、元来た道を戻ろうかと爪先に力を込める。しかし目的のコンビニはこちらにあるのだ。商店街のカフェにしようか。逡巡と躊躇は傍目に見れば一瞬だった。]
……ハァ。
[足先は前でも後ろでもなく、斜め前へ向く。長らく磨かれていない革靴が、砂浜へと沈んだ。]
木登りの次は寒中水泳でもするの。
[十歩は離れた場所から声をかけた。もし波の音にかき消されるようならあと一歩、もう一歩。半分の五歩にでもなれば、声だけでなくタバコの匂いが存在を伝えるだろう。
マフラーを巻いて、コートのポケットに両手を入れて。革靴に収まった両足を踏みしめたまま、素足のデキるオンナを見下ろしている。]**
(129) 2021/02/14(Sun) 20時頃
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地下軌道 エフは、メモを貼った。
2021/02/14(Sun) 20時頃
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[10年以上ここに住んでいるが、海辺に足を運ぶことはそう多くはなかった。そも外に出ることが少ないのに、わざわざ窓から一望できる海に行くなんて貴重な機会を無駄にするようなものだ。 おかげで革靴では砂浜が歩きにくいことも忘れていた。足の長さに比べ、歩調は明らかに遅い。
そういえば、昨日慌てん坊>>0:114が話していたのはこの辺りのことだろうか。 飛びかかるボスに心当たりはないと思っていたのだが、ふと、あの犬のことだと気づいた。昨晩のイレギュラーが浮かぶ。]
(141) 2021/02/14(Sun) 22時頃
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― 前日・日没頃:202号室の窓際 ―
[賀東荘の前の道はぽつりぽつりと街灯が立ち並ぶばかりで、灯り自体はそう多くない。日が沈めば、途端道の先を見通せなくなる場所もある。
犬の鳴き声>>51が聞こえた。人影がある。 重ねた日常に、見失っていた時間を知る。
それだけだった。一方的な役目を終えた影ふたつは、いつもと変わらずその場を通りすぎていくのだと思っていた。 シルエットが止まる。暗闇に慣れた目には、その顔がこちらを向いたように見えた。手が上がる。揺れる。間違いなく、こちらを見ている。
こちらから手を振り返すことはしなかった。ただその形を一瞥していると分かるくらい静止した後、壁から背を離し、窓を閉じた。 残りの蜜柑を一気に口へと放る。喉の奥でひしゃげた呻き声をあげた。]*
(142) 2021/02/14(Sun) 22時頃
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― 現在・海辺 ―
[五歩分の距離が詰まり、声>>136が聞こえたところで思考を現実へ戻した。 座ったまま振り向いた美人はスマホを何か操作していたようだったが、上からとはいえその手元は見えない。]
へえ。
[素足であることは、背中ひとつでは隠せないのだが。挨拶と豆知識、そのふたつをたった二文字で片づけてしまうと、不躾な視線を傍に置かれたヒールと布の塊に向ける。]
冬なんですよね。
[同意するように言葉を繰り返した。 彼女がこのシェアハウスに住むようになって数年が経つだろうか。数件隣の彼女との交流がないに等しかったのは、ひとえに生活時間の違いが大きい。ここ2日が珍しいのだ。 もしこれまでも何度も顔を合わせる機会があったなら、木登りや寒中水泳に並ぶ何かを目撃することがあったのかもしれない。 バケツを頭から被り、徐々に濡れて色が変わっていくのを眺めている気分だった。]
……風邪ひくぞ。
[たっぷりの沈黙の後、それだけ告げて踵を返す。腹が弱々しく鳴いたからだ。寄り道している場合ではなかったし、きっと必要もなかった。くそ。 靴底をぎゅいぎゅいいわせて砂浜を脱出しようと足を動かす。]*
(143) 2021/02/14(Sun) 22時頃
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地下軌道 エフは、メモを貼った。
2021/02/14(Sun) 22時頃
エフは、ヨスガに話の続きを促した。
2021/02/14(Sun) 23時半頃
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[嘗めてはいませんが、ちょっと呆れました。
子どもの頃に褒められたことは大人になっても褒められていいと思うが、子どもの頃にできたことが大人になっても変わらずできる訳じゃない。 木登りも、冬の水遊びも、雪を素手で触って痒くなるのも、公園のブランコでどこまで遠くに飛べるか競争するのも。 酒やタバコ、車の運転など多くのことを許されるようになった分、大人には許されなくなったことだ。 と、思っている。
彼女について一番よく知っているのは、廊下ですれ違う時の背景と釣り合わない程の完璧さだったから。 これは2日に渡って突飛な行動を目撃してしまった己の、身勝手な落胆なのだ。]
(168) 2021/02/15(Mon) 00時半頃
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[自然と溢れたため息には、自分への自嘲も混じっていた。 好き勝手言われた彼女>>160>>161は言葉を失っているようだったが、所詮知り合いにも満たない男の一言などすぐに忘れてしまうだろう。 さっさと温かくしてくれればそれでいいと、背後から聞こえた声>>162にも振り返ることはなかった。]
――は?
[ >>163ばしゃん、 ]
[なかったはずなのに。 予想外の音が、予定を狂わせる。]
(169) 2021/02/15(Mon) 00時半頃
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[落ち着いた色のジャケットが中身を失って、砂の上に伏した。その向こう、穏やかな波模様に一箇所、真白い泡が立っている。 直前までそこにいた女の姿は見当たらない。]
ばっ……!
[思わず駆け出していた。躊躇より先に足先を海に突っ込むと、革靴の隙間から容赦なく海水が押し寄せてくる。途端、一歩が格段に重くなった。両足に錘をつけたような心地で膝の辺りまで海水に浸かる。ほら見ろ。冷たいじゃないか。 寒さに頭がバグったのか、このタイミングで昔彼女が扉に向かってヘドバンしていた>>165のを思い出した。]
ハ、昔からヤバいオンナじゃないか。
[忘れていたのか、わざと置いてきたのかはわからない。そんなことはどうでもいい。 一番泡立っている場所を探しながら、口元には皮肉めいた笑みが浮かんでいた。]
(170) 2021/02/15(Mon) 00時半頃
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……やっぱり、全然似てないわ。アンタ。
(171) 2021/02/15(Mon) 00時半頃
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[それからすぐ、彼女>>164の頭は海面に現れたのだったか。暫くそのまま眺めていたが、元気よく泳ぐ姿に安堵よりも脱力感が湧き上がってきた。 ざぶざぶと豪快な音を立てながら岸へ戻り、靴を逆さまにする。靴下も絞り、海水を追い出した靴に詰め込んだ。]
冬なんだよなァ。
[結局、さっきの彼女と同じ状態になってしまった。足元がずぶ濡れな分、こちらの方が分が悪いかもしれない。優勝はバケツを被るより全身ずぶ濡れになった今の彼女だが。 足裏に貼りつく砂の感触に眉を顰めながら、砂の上に残ったジャケットを見下ろした。裾が僅かに濡れたコートとマフラーをその隣に落とす。冬の潮風に舌打ちしながら、今度こそその場を後にした。]*
(174) 2021/02/15(Mon) 00時半頃
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[家が海から近くて良かった。とは、こんな場面で使うものではないだろう。 裾を捲り上げた足で帰宅を果たすと(当然裸足だ)、如月は変化の乏しい表情ながら明らかにこちらを見ていた。やめろ。今は見るな。 結局また目的地には辿り着けないまま階段を登っていく。木の床には暫く裸足の足跡が残っていたかもしれない。]
はァ……。
[全身適当に着替えて、足先はタオルで雑に拭って。全部洗濯カゴに放り込む。今から風呂に入る気にはならなかった。身体が重い。 そのままベッドへ倒れ込むと、荷物の到着を知らせる声が聞こえるまで意識を飛ばした。]**
(176) 2021/02/15(Mon) 00時半頃
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地下軌道 エフは、メモを貼った。
2021/02/15(Mon) 00時半頃
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[初恋は幼稚園の頃、同じ組の女の子に。 ――ということになっている。
その子の大事にしていたぬいぐるみを何度も奪っては泣かせていたらしい。大人たちは相手の気を引きたかっただけなのだと相手の親に説明と謝罪を重ね、当の女の子からはこれでもかと嫌われた。
本当は、あの子のぬいぐるみが欲しかっただけだ。]
(208) 2021/02/15(Mon) 18時半頃
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