308 【R18】忙しい人のためのゾンビ村【RP村】
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[ そのあとしばらくして、 ジャーディンは静かに立ち上がり、 覚束ない足取りで部屋に帰っていった。]
(+0) 2020/10/26(Mon) 10時頃
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[ あれから4日が経っていた。]
(+1) 2020/10/26(Mon) 10時頃
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[ 水道が止まった。]
(+2) 2020/10/26(Mon) 10時頃
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[ 少し前からいずれ止まるだろうと警戒して、 できるだけ水を貯めてはいたけれど、 無尽蔵に使えるわけではなくなってしまった。 あの日以来、 わたしたちはまたわずかな食糧で、 糊口をしのいでいる状態だった。 できるだけ長く生きるために。 今あるもので、できるだけ長く。]
(+3) 2020/10/26(Mon) 10時頃
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[ 平和的に過ごしている理由は、 それだけではなかったわ。 ジャーディンが降りてこなくなったの。 一日中、犬たちのいる部屋で過ごしてね。 毛布を一枚持ち込んで、 お手洗いに立つ短い時間以外、 部屋の壁にもたれかかるようにして、 じいっとその場を動かなくなってしまった。 食事の時間になるたびに、 わたしはあの子の分を部屋まで運んだ。 それから、時折犬にエサをやるときも。]
(+4) 2020/10/26(Mon) 10時頃
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[ もうとても毎日はやれなかったけど、 残り少ないエサをたまにやっていたのね。 それは必ずしもわたしの役割ではなくて、 部屋にいるあの子に任せてもよかったけど、 たぶんわたしはあの部屋に行く理由がほしくて、 度々エサをやりにいっていた。 わたしがエサ皿にフードを流す間、 ジャーディンは何一つ見逃すまいとするように、 じいっとこちらに視線を注いでいたわ。 そんな状態だったから、 誰もそろそろ≠ネんて言い出せずにいた。]
(+5) 2020/10/26(Mon) 10時頃
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[ けれど、もう限界だった。]
(+6) 2020/10/26(Mon) 10時頃
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[ 日に日にチビちゃんたちの口数が減って、 大人たちも塞ぎこむことが増えた。 お隣の息子さんはしきりに、 外へ出ようとご主人に訴えかけてたわ。 また何か見つけられるかもしれない。 また何か捕らえられるかもしれない。 その可能性に縋っているようだった。 あの手この手でそれを躱していたご主人が、 その日、ついにわたしの元へやってきたの。]
(+7) 2020/10/26(Mon) 10時頃
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わかっているでしょう。 もう、次の手を打たなくては
(+8) 2020/10/26(Mon) 10時頃
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[ それが何を意味しているかなんて、 火を見るよりも明らかだったわ。*]
(+9) 2020/10/26(Mon) 10時頃
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[ 扉を開けたわたしを、 あの子はじいっと見つめていた。 何も言わずに、ただわたしだけを。]
(+10) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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……ジャーディン、 [ 犬たちと寄り添いあうようにして、 ジャーディンは足を投げ出していたわ。 切れ長の目はこちらを向いていたけど、 そこにあまり力はなかった。 どこか気だるげにも見えたのね。 緩慢な動作で傍らの犬の毛を梳きながら、 それでもあの子はゆっくりと口を開いたわ。 平坦でいて咎めるような声色が、 はっきりわたしに向けられているのが分かった。]
(+11) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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……殺すの?
(+12) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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[ ああ、ジャーディン。 あなたはこのまま死ぬほうがマシだというの?]
(+13) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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ジャーディン、わたしは……、 [ わたしは……何と言いたかったのかしらね。 あの子に何を伝えたかったのかしら。 あなたに生きていてほしいってこと? それを伝えることに意味があるかはさておき、 確かにそれはわたしの最大の望みだった。 あの子が望むと望まざるとにかかわらず。 けれどね、 わたしがそれを口にすることは叶わなかった。 しびれを切らしたお隣のご夫婦が、 様子をうかがうように部屋の中に入ってきた。]
(+14) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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[ この間のように、 わたしが犬を連れだす算段だったのね。 けれどわたしはちっとも出てこないし、 あの子が部屋に居ついていることは、 当然彼らも知るところであったから、 自分たちで直接説得しようと思ったのかも。 とにかく、彼らは部屋に入ってきて、 それでもあの子はわたしを見つめていた。 視線ひとつとして揺らすことなく、 ただ、わたしの答えを待つようにして。]
(+15) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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[ そのときだったわ。*]
(+16) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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[約15日。 二週間と一日。 土日がたったの二回きり。
世界がこうなるのにかかった時間。]
(+17) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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[終わりなんてあっけないもんだ。]
(+18) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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[あれから俺は何度か元帥と外に出向いて 無い食料を探してはゾンビを殺し続けた。
ちょっと昔のホラーゲームに 主人公が永遠にゾンビを殺すエンドがあったけど ちょうどそんな風に、どこからともなく沸き続ける連中を 殴って殴って殴り続けた。
都内ってこんなに人住んでたっけ。 こじんまりしたかつての首都の中に 滅亡とゾンビがみっしり詰まってる。]
(+19) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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[元帥は相変わらず 何事にも関心がなさそうな冷たい目をしてたけど たまにゾンビを殺す俺を複雑そうに見るようになった。
聞いてみたら、元帥もまた、 ゾンビになった恋人を殺したんだそうな。
俺にシンパシーでも感じてんの、と笑ってやったら そんなわけねえだろ、とそっぽを向いていた。 へんなやつ。]
(+20) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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[ショッピングモールの中で 元気に遊んでた子供たちが倒れだす。
大人も動くことが減った。 「このままじゃもう保たない」と叫んで バリケードの外に出ていこうとした男が ゾンビの襲撃を恐れた人間たちに撲殺された。
限界がすぐそこに来ていた。 崩れるのはあっという間だ。
俺の楽しい大学生活が ゾンビに侵された時のように。]
(+21) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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[――だからその日は、ほんとにあっけなくやってきた*]
(+22) 2020/10/26(Mon) 20時頃
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[ それは終わりを告げるサイレンのようだった。]
(+23) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ 犬たちがけたたましく吠え出したの。 はじめは一匹。呼応するように次々と。
普段はそんなことなかったのよ。 そりゃ来客も少ない家だったから、 彼らを刺激するものも少なかったけど。
それにしたって、 思わずその場にいる誰も硬直するくらい、 尋常じゃない勢いだったの。
わたしたちは揃って数秒間、 あっけにとられたように固まっていたわ。 ジャーディンでさえ心底驚いた様子だった。]
(+24) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ その間も彼らは吠え続けた。 じきにガウガウと吠えたてる声に、 あおおおおんと遠吠えまで混ざりだした。
そのころになってようやく、 ご主人が慌てた様子で窓に駆け寄った。 ジャーディンも同じように窓を振り返った。 わたしと奥さんもあとに続いたわ。 犬たちはまだ叫び続けている。
どん、どん。 鈍い音がどこからか聞こえてきたの。 音は次第に大きくなる。どん、どん。どん。
わたしたちの見下ろす窓の向こうには、 門扉に群がる無数の影があったわ。 犇めき合い、波立つように押し、押され、 まるでひとつの大きな塊のようにも見えた。]
(+25) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ どん、どん、と何かのぶつかる音がする。 音? いいえ、地響きのように、 わたしたちの体の奥へと響くようだった。 鳴りやむ気配などまるでなかった。
やめさせてくれ!≠ニご主人は叫んだ。 叫んだはずよ。わたしにはそう見えた。 けれどその声さえも飲み込むように、 周囲には犬たちの鳴き声がこだましていた。]
──裏戸が。
[ つぶやいたのはわたしだった。 門扉が破られることは早々ないとしても、 裏は鍵をかけているだけの木戸なの。
きっと聞き取れなかったんでしょう。 ご主人が怪訝そうにこちらを見たわ。]
(+26) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ ああ、どうしましょう。 そう思ったときにはわたし、動き出していた。 たったひとり、ジャーディンの腕だけを取って。]
(+27) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ あっけにとられているあの子の手を引いて、 犬の声のこだまする廊下を進んだわ。
一生懸命走っているつもりだったけど、 ジャーディンは速足ですいすいとついてきた。
階段を降り切ったあたりで、 弟さんのお嫁さんが血相を変えて駆けてきた。
上階から響く犬の声と、 家を取り囲むような鈍い音、 それから誰かの悲鳴と銃声。 ありとあらゆる音が重なって、 彼女の声はとぎれとぎれに聞こえたわ。]
(+28) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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ね ンビ い の かに る の
(+29) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ きっとわたし、立ち止まるべきだった。 立ち止まって彼女の声を聴くべきだったわ。
でもね、わたしはそうはしなかった。 立ち止まろうとするあの子の腕をぐいと引いた。 足早に廊下を進んで、ひとつの扉を開けたわ。 そして、中にあるデスクの引き出しから、 迷いなくあるものを取り出したの。]
(+30) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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──行って、ジャーディン。 ここはもうだめ、持ちこたえられない。
(+31) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ さっきまで引いていた手の中に、 わたしが強引に握らせた小さなものを、 ジャーディンは一瞬不思議そうに見た。 そして次の瞬間、勢いよく顔をあげたわ。
泣きそうな顔をしていた。 何かに怯えているようにも見えたわ。 本当に利口な子。その意味をきっと分かってる。
それは車の鍵よ。おじいさんの車の。 古臭くてぴかぴかの車を動かすための鍵。]
(+32) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ そして、それがわたしの答えよ。]
(+33) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ ジャーディン、あなたを生かすためなら、 ほかの何を犠牲にしたって構わないわ。]
(+34) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ わたしはジャーディンを急かすように、 入ってきたばかりの扉をまたくぐった。]
早く逃げて。とにかく一度車の中へ。 身を隠せるわ。音のほうに来るはずだから。
[ そう告げながら、廊下へ出たのね。 ガレージのほうへと導くつもりだった。
そのとき、おかしな音がしたわ。 音っていうのかしら、声? 低い声よ。 そう、家を取り囲むあいつらが出すような。
そして、ふとおかしなことに気付いたの。 どうしてさっき、銃声がしたの? 木戸が壊されて窓やドアを破られて、 家の中まで入ってこられるには早すぎる。]
(+35) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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[ わたし、声のするほうを振り返ったの。*]
(+36) 2020/10/26(Mon) 20時半頃
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― 隔絶された広い世界で ―
[割れた窓から入った風が頬を擽った。 その心地よさに、乾いた目を細めた。]
……。
[元より賑わいと無縁だった店内には、沈黙だけが満ちる。 コートのポケットに手を入れた。 ドアの側に落ちていたスマートフォンは縁が欠け、 表面にも亀裂が走っている。 指で画面をなぞってみても反応は何もない。]
(+37) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[スコップ片手に裏口を出た。 どんよりと曇った空の下、所々荒れた畑が広がる。 収穫を待つばかりのそれらを靴底で踏み潰して、 既に道のように平らになった区画へ出る。]
[轍の傍ら、土の山の前に膝をついた。 取り出したスマートフォンをその上に置く。 薄汚れた手を胸の前で組み、首を垂れて目を閉じた。]
[周囲には、他にも似たような土の山がある。]
[大柄な男が、土を掘っていた。]
(+38) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[店の裏にある小さな家へと入った。 動線を大きく取った室内には、元々物は多くなかった。 ハウスキーパーのドロシーが来たばかりだったのだろう。 床にも机にも書物が出しっぱなしだった形跡はない。 その中で唯一物が積まれているベッドへと向かった。
一人目の上着を取り、 二人目のマフラーを巻いた。 三人目のリュックには、 四人目の水筒と六人目の懐中電灯を入れた。 五人目は何も持っていなかった。
出て行く前に、使い込まれた様子の机の前に立った。 椅子はない。写真立ても、レターケースもなかった。 掌で木の質感を確かめると、手の形に埃が退き、 代わりに泥まじりの土と濁った色が線を引いた。]
あいしていたよ。
[返事をする者は、どこを探しても見つからない。]
(+39) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[トラックの運転席へ足をかけた。 取り替えたタイヤが凹んだ土をしゅわり、轢いていく。 ラジオのボタンを押すも、ノイズすら聞こえなかった。]
――♪
[だから歌を歌おう。 何もないこの場所で、歌詞も知らない誰かの歌を。
トラックは、先の見えない道を進んでいく。]**
(+40) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ そこには何かが立っていた。]
(+41) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ はじめに目に入ったのは、 ぼとりと無造作に取り落とされた、 赤と肌色の入り混じった物体だった。
よく見たらその先端は五つに枝分かれして、 つまり人の手と同じ形をしていた。 ほんの今まで齧りつかれて ところどころ白い骨が見えていた。
ひいっとジャーディンが小さく叫んだわ。 すると、ゆらゆらと揺れていた細い影が、 首を無理やりに傾けるようにこちらを見た。 そして、わたしたちを見つけた。
ず、ずずと足を引きずって、 それはゆっくりとこちらに近づいてくる。 穴の開いた顔をこちらに向け、細い腕を伸ばして。]
(+42) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ ああ、ノーリーン。]
(+43) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ ……まるで誰かを探しているようだった。]
(+44) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ 足がすくんでいる様子のジャーディンを、 わたしはぐいと逆方向へと押したわ。 ノーリーンがやってくるのとは逆へ。
奇しくもそれはリビングのほうだった。 キッチンの勝手口を抜けてガレージに行ける。]
いいわね、隙を見て車を出しなさい。 そして逃げるの。どこか遠くまで。
[ わたしがこれだけ言うのに、 ジャーディンはいやいやと首を横に振った。 わたしの腕を引くの。強い力で。 その間にもノーリーンは距離を詰めたわ。]
(+45) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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──行きなさい、ジャーディン!
(+46) 2020/10/26(Mon) 22時頃
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[ わたしは強い口調でそう言った。 ノーリーンははっきりとこちらを見ていた。
いっしょに行こう≠チて、 この期に及んであの子が駄々をこねるの。 でももう無理よ。見つかってしまったもの。
この廊下の先に続いているのはリビングで、 そこにはチビちゃんたちがいるはずなのよ。 そんなの、だめに決まってるじゃない。
ジャーディンときたら、 本当に一度言い出すと聞かなくてね、 きっとこれは娘に似たのね。だって……、 あら、この話って前にもしたかしら。]
(+47) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ つまり、仕方がなかったの。]
(+48) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ わたしはノーリーンの眼前に、 自らの左腕を勢いよく突き出した。 ああ、少しかっこつけちゃったわ。 みっともなく腕は震えていたんだもの。
ノーリーンがそれに、 素早く崩れかけた顔を寄せるのと、 ジャーディンが何かを叫びながら、 千切れそうな勢いでわたしの腕を引くのと。
たぶん、ほとんど同時だったわ。 わたしの体はふたりで半分こできないし、 つまり、わたしは彼女に噛まれた。]
(+49) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ いのちにも優劣はね、あるのよ。]
(+50) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ こんな皺くちゃでまずそうなお肉で、 なんだかちょっと悪いわねえ、ノーリーン。
もちろんその瞬間のわたしに、 そんな余裕なんてこれっぽっちもなくて、 わたしは喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
お隣のご主人、 よくクーパーに噛まれて堪えたわよね。
わたしなんてもう半狂乱になっちゃって、 ジャーディンが一瞬怯んで力を弱めたくらいよ。
ひいひいとわたしはあえいでいたわ。 痛くて痛くて泣いちゃいそうなくらい。 でもね、わたしの顔を覗き込むあの子が、 あまりに痛々しい顔をしているから、 ほら、Nanaとしては泣いてられないでしょ。]
(+51) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ ノーリーンはまだわたしに夢中だった。 わたしという肉に。今がチャンスだった。
一向に動く気配のないジャーディンに、 わたしは声を詰まらせながらも言ったわ。]
……行くのよ、ジャーディン。 どこか、どこか遠くまで……、 そうね……、西がいいわ。 ずうっと西へ……どこまでも…… それが、わたしの最後のお願いよ……
[ いつもお願いを聞いてくれたじゃない。 とうとう涙をこぼしだしたジャーディンに、 わたしは何と言ってやればいいのかしらね。
ねえ、これがわたしの最後の役目だとしたら、 わたし、本当に光栄よ。信じてくれるかしら。]
(+52) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ けどね、わたしも人間だから、 最後に少し欲が出ちゃったのね。
お別れを惜しんでいる暇はないというのに、 最後にどうしてもこの手であの子に触れたかった。
痛みで全身がひきつけでも起こしてるみたいに、 無事の右手を伸ばすのも一苦労だった。
今日はちゃんと撫でさせてくれるのね。 少し固い髪も、丸みの減った滑らかな頬も、 全部全部、わたしの宝物だったわ。
わたしがいなくなっても、わたしの宝物を、 この広い世界を漂う見知らぬ誰かが、 守ってくれますように。愛してくれますように。]
(+53) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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……あなたはとても素敵な子だもの。 きっと助けになってくれる人がいるわ。
(+54) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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愛してるわ、ジャーディン。 あなたのことが大好きよ。 ……だからどうか、生きて。
(+55) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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あなたが生きていることが、 わたしにとっての幸せなの。
(+56) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ ……ようやく決心がついたように、 ジャーディンはゆらりと立ち上がったわ。
あんまり痛いやら悲しいやらで、 もうこれ以上目を開けてたら、 とめどなく涙が出てきそうだったの。
だからわたしは目を閉じたのね。 わたしが泣いたらやさしいあの子は、 心配して戻ってきちゃいそうでしょう。]
(+57) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ 足音が遠ざかっていくのを、 暗闇の中で懸命に聞いていたわ。
少し離れたところで、 あの子がウィレムとゾーイを呼んだわ。 ずいぶん焦った声で何か言ってる。 ああ、オッドもいたのね。よかった。 ぱたぱたといくつかの足音が遠のいてく。
ねえ、ノーリーン。 安心してね、あの子やさしいの。 一人っ子なのに面倒見がよくってね。]
(+58) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ ……ああ、ジャーディン。 もうやさしくなんてなくたっていい。 お利口になんてしなくていいのよ。 だからお願い、生きて。どうか生き抜いて。]
(+59) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ ……でもね、わたし本当は、 やさしくて利口なあなたが好きよ。]
(+60) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ けたたましい音が響いたわ。 何かしらねえ。もうよくわからないの。
人の声もするわ。 お隣のご主人かしら。それとも息子さん?
あんまり騒がしいから、 ノーリーンがわたしを食べるのをやめて、 そちらへ向かうことにしたみたい。
ああ、床に転がっていると、 木戸を打つ音がよく体に響くの。 もうきっとだめねえ。 じきにここもまた騒がしくなるわ。]
(+61) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ べろりと何かが頬を舐めた。 やあねえ、くすぐったいわ。 そこにいるのは誰かしら。
犬たちの吠える声は、 今はてんでばらばらに聞こえるわ。
ごめんなさいね、こんな飼い主で。 あなたたちのことを守ってやれなくて。 わたしの一番にしてあげられなくって。
もう、逃げてもいいのよ。 こんなこと言って、 わたしは本当にひどい人間ね。]
(+62) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ 雑多に音が響く世界で、 わたしは静かに耳を澄ませて、 そのときを待って呼吸をしていた。]
(+63) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ そして、そのときはやってきた。]
(+64) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ ……ああ、よかった。 かすかに、エンジン の、音が──、**]
(+65) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[遠くで何かが崩れる音がした。
ショッピングモールの元噴水広場で 子供たちとサッカーをしていた俺は びくりと背を震わせて騒音の方を見る。 何してんの、とか、 もう耐えられない、とか、 そんな声が聞こえた気がして、 すっかり得物になってしまった金属バットを構えた。]
(+66) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ 最後に見渡した電子の世界は、 それでも綺麗事に満ちていた。 もう一度私は、私の中の毒を投稿しようとして。]
あれ───
[ 投稿画面ボタンを押したまま画面が止まる。 ローディング中のまま、何秒経っただろう。
「投稿に失敗しました」
無機質なメッセージが画面に表示されて気づいた。 携帯が圏外になっていた。]
ああ───もう。
[ 私の怒りは届かない。 恐らく近くの基地局がやられたのか、 そもそもインフラが死んだのか。 いずれにせよもう私の怒りは世界に届かない。]
(+67) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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―― とある非人間の日常 ――
[ヴゥン、ヴヴゥン。
鄙びた雑居ビルの一室で、 空調が低い唸り声を上げている。
――いいや、違った。
ボロボロのスーツ姿の男が喉を鳴らして 奇妙な呻き声を漏らしているのだ。
壁の配管に手錠で繋がれた男は ギョロ、ギョロと作り物の人形のように 充血した眼球を時折動かしている]
(+68) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ひとだったものを殺すことにすっかり慣れてしまった。 それでも、虫の知らせというか 嫌な予感には背筋が震えた。 駆け込んできたダンス部のJK――菜々緒が叫ぶ。]
「榎本さんが外に出て…… だめ、バリケード、崩されちゃった。 ゾンビたちが来るよ!」
――、 ……ああ。とうとうかぁ……
[悲痛な叫び声だった。 子供たちは悲鳴をあげて各々、 母親や父親と思いつく限りの隠れ場所へと向かう。
元帥、と、俺は噴水の傍で うたたねしていたそいつを揺さぶって 寝ぼけ眼に悪い知らせを叩きつけてやった。]
(+69) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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ま、ま……まるとく じょうほ…… れれれれれれいばんの さんぐぐぐらす げ、げ……ていにじゅううよ、よじかん とっ……………か、ににににせんよんひゃ…… えん おとく で
くくくくくくりっく
[けたけた。けたけた。
かつて人間だったものは愉快に繰り返す。 人間の声音とはかけ離れたそれは、 まるで壊れたレコードのようだった]
(+70) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[偽物のサングラスの入った 段ボールに囲まれて 男は仮初の命を享受する。
時折、血に飢えたかのように 自らの腕を齧る。 白い骨が、めくれた皮膚の合間から 見え隠れしていた]
(+71) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[痛みもない。苦しみもない。 ただただ、楽しくて。
仲間を増やさなきゃ。 なんだかおなかが空いたし。
この手錠、邪魔だな。外れない。 腕を捥いじゃおうかな。 今はやめとこう。
ああ、おもしろい。しあわせ]
(+72) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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「食料が尽きるかバリケードが崩れるか どっちが先に来るかって話だったな」
ねーえ、元帥。その通りだけどさ、 おまえさん達観しすぎでない? 「政府からの物資も届かなくなったし おまえだってわかってたんだろ? ジリ貧だってよ ……さて」
[元帥はあたりを一瞥する。
逃げ惑う子供たち。
ひとまず歳の小さいものの命を 優先しようとする女たち。
我関せずとありったけの食糧を持っていこうとする だらしのない男たち。]
(+73) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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……あは
[心底幸せそうに、それは笑った]**
(+74) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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「今俺達の目の前には選択肢が二つあるわけだ。 逃げるか、戦って死ぬか」
(+75) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[どうする? と元帥が死んだ目を向けてくる。 すっかり血の滲んだバットを肩にかけて 俺は力なくにっと笑って、 栄養不足気味の痩せた体で胸を張って 格好をつけてみせた。]
サイコーにカッコいい三択目。 戦って生き残る、に決まってんでしょ。
[男子よ、最期まで英雄たれ。
そう格好つけて言い放った直後。
ショッピングモールの入り口付近のバリケードが 大きな音を立てて崩落するのが聞こえた。]*
(+76) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ 頭をぐしゃぐしゃとかきむしり、 血に濡れた布団をベッドから蹴り飛ばす。
──アーサーがそうしていたように、 私はベッドの上に横たわり、そのまま丸まった。
"あいつら"が来たらどうしよう。 ちらりとよぎった思考は、すぐに溶けていった。]
(+77) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ そのまま何度か、目覚めては非常食を食べて。 食べたらまた寝て。 マンションの貯水槽はまだ無事らしく、 トイレは普通に使えた。 水の色は濁った赤錆色で、とてもじゃないけど 飲む気は起きなかったけれども。]
(+78) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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[ 眠っているときに夢を見た。]
(+79) 2020/10/26(Mon) 22時半頃
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「あんたは可愛げのない子ね」
[ 夢の中で顔の見えない女性が言う。]
「譲ってあげなさい。あんたはいらないでしょ」 「こんなものいらないでしょ。捨てといたわよ」 「いつまで泣いてるの、面倒な子ね」
[ その女性も悪い人ではない。 ただ───私がうまくやれなかっただけ。
単に、合わないだけ。
だから。
いつの間にか女性の足元には、 私が我慢した物がうずたかく積もっていく。 その山が高くなるほど、女性と私の距離は広がる。]
(+80) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[「わたし」はもう戻ってこなくなっちゃった。
身も心もゾンビになってしまったら もう思考も、言葉も、 わたしが人間である証は なんにもなくなってしまって。
血だまりのなか転がってた母は しばらく経つと立ち上がって ふらふらと外へ歩いてった。
そういえば 母の肉を口にした瞬間だけ。
身体中の痛みと、心の空虚が 癒える気がした。
だから母も、きっと、探しに行ったのだ。]
(+81) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[―――運転を始めた最初は酷いものだった。 運転技術なんてないに等しいってのに、 ゾンビがそこらじゅうを徘徊し、 窓ガラスは割れ、ごうごうと煙をあげるビルの横を 見ないフリをして、走らなきゃいけなかった。
郊外とはいえ、ここは東京のはしくれだ。 >>2:*4東京はこの感染騒ぎの筆頭だっていうのに 自分の住んでいるところはまだ大丈夫だろうと きっと、生き残りが集まっている場所があると、 そんな風に思っていた。
数日分の食糧の用意だけはしておいて、 この期に及んで、僕は、 すぐに頼れる人が見つかると期待していたんだ。]
(+82) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[町中に無事な人は、居ないに等しかった。]
(+83) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[もしかしたら、かつての僕のように、 建物内に籠っている人はいたかもしれないが。 そんな人を探す余裕がないぐらい、 町はゾンビで溢れかえってしまっていた。
東京の郊外は、都心で働く人の住む家が多い。 それを考えると……今、この地区の有様は、 当たり前の結果のように思えた。]
(+84) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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「いらないでしょ、全部」
[ 女性の手元には小さな猫がいる。
取り戻そうとする私の手足が粘った物に掴まれる。 それは腐った肉。 それは、"それ"だ。
いやだ。返して。私は叫んで、 思い切り"それ"にモップの柄を振り下ろし。
その瞬間、私は目を開いた。]
(+85) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[馴染みのスーパーを通り過ぎるとき、 まだ"人間"である人がゾンビに喰われながら 僕の方へ手を伸ばしたのが見えたけど。
そうなってしまったら……もう、助からない。 僕は、それを身をもって知っている。]
……ごめんなさい。
[喰われていく人々から遠ざかるために、 アクセルを強く捻り、バイクが加速する。
出来る限り生き延びてやる。 そう、決めた決意は今も揺らがない。 でも……町の惨状は想像以上に残酷で。 何もできない無力感か。辛いのか、苦しいのか。 自分でも訳の分からないまま涙を流しながら――
車同士がぶつかり横転した横をすり抜け ひたすら、道路を走っていって。]*
(+86) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[それから、何日が経ったっけ。]
(+87) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[―――風を切りながら、少し上を見上げれば 夜空の星々が眩しいぐらいに輝いている。 道を照らす証明灯はたまについていたけれど 消えている区間の方が多いような。
僕は、そんなどこまでも続くような高速を、 ひたすら真っすぐ、走っていた。]
(+88) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[ 目覚めた私はスマホの日付を確認する。 電波が途絶え、ただの時計になったスマホは あれから5日ほど経ったことを示していた。
怒りはまだ、消えていない。 くそったれ、私は絶対"お前ら"にならない。
絶対に。 **]
(+89) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[世界各地で起きている、混乱と絶望。
ゾンビ増え続ける。 そらに死傷者も増え続ける。]
(+90) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[ 「取る時のコツは、そっと、さっと、よ。」 ]
(+91) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[果たして、どれだけの人々が悲しみと苦悩に囚われてしまったのだろう。
また、この少女も。 もう少女としては、存在していない、それ。
それは、空腹を満たすためだけの、存在。]
(+92) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[ 「やだっ!こわいよぉ!つっつかれる!」 ]
(+93) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[たくさんの生の形を成してきて、今は死の形と言うべきか。
少女の魂は、何処。
死んでしまった人々の魂は、一体何処へ。]
(+94) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[ 「きちんと扱えば、火は大きくもできるし、小さくもできる。」 ]
(+95) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[再び、生を得られるのだろうか。それは、]
(+96) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[ 「ほわ〜。あったかーい。キレーだねぇ。」 ]
(+97) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[誰にも分からない。]
(+98) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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[何処からか。
在りし日の声が、風に乗って聞こえてきたかもしれない**]
(+99) 2020/10/26(Mon) 23時頃
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――回想――
「英雄になるための条件? はは、なんだよ、それー」
[昼下がりの教室の中。 学ランを着崩した中学生一年生の進が、 クリームパンをほおばりながらけらけらと笑っている。
対する俺は大真面目だ。 焼きそばパンをもぐつきながら 大学ノート(黒歴史)に 下手くそな字を書き綴っている。]
(+100) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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いやさ。俺、気づいたんだよね このままマンゼンと日々を生きていただけじゃ ぜーーったいに英雄になんかなれやしないって。
紛争地帯に行くとか あとは地球の危機的状況に ガイアの力に目覚めるとかしないと
「ウル●ラマンの見過ぎだろ。古いぞ? せめて仮●ライダーにしとけ?」
とーもーかーくーもー、俺は大真面目なんだってぇ!
「そんな風に気張らなくても、 秋は十分かっこいいだろ。 沙良が迷子になったらすぐ探しにいくしさ」
(+101) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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[あはは、と進は笑って、 残ったクリームパンを口に放り込む。
そうだな、と、俺より少し大人びた様子で首を傾げて 俺がくっだらない書き物をしていたノート(元数学用)に さらさらりと、綺麗な字で何事かを書いた。]
(+102) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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ん? なんだ?
『弱い人は率先して助ける』 『怖い時でも笑っていられる』 『挫けても何度でも立ち上がる』
……なんか、地味くない?
「ただの人間が突然へんな力に目覚めるわけないだろ。 地道なところからコツコツとだよ」
[進は、くっだらねー考え事に付き合いながら 俺を見て、に、と目を細めた。]
(+103) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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「――――秋なら、できるよ。
俺が保証する。」
*
(+104) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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――現在/ショッピングモール薬品売り場――
まっすぐ走って非常口から一階に逃げろぉおお!
「は、はい!」
[若い女の首に噛みつこうとしたゾンビの その顔面にバットを叩き込みながら、 俺はめいいっぱい叫んでいた。
人間しかいなかったはずのショッピングモールには いつのまにかわらわらと 死神のようにゾンビがたむろしている。
……どいつもこいつも楽し気にニタニタ笑ってんのは 生理現象なのかなんなのか、わかんねえな。 ゾンビって楽しいのかな。]
(+105) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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[……この数日で、何度死んだと思っただろう。
ある時は、もうそろそろガス欠というところで やっとゾンビの居ないガソリンスタンドを見つけ。 ギリギリ1台分残ってたガソリンを給油してたら 休憩室の中に潜んでいた奴が突然駆けてきた。
腕は半分鎖落ちていて、服もどろどろ。 酷い腐臭を纏いながら近寄ってくるそいつへ 近くにあったバケツをなげつけたのに、 全く怯みもせず向かってくるゾンビに悲鳴を上げて 僕は半べそで、バイクの後ろを掴まれたまま発進した。 (後ろのフレームは手の形に少し凹んだままだ)]
(+106) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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[人が居なくなって荒れ果てた大型家具屋に入り込み あまり汚れていないベッドを見つけたから。 疲れたし小休止……と思って横になり。 少しのつもりが目覚めた時には既に朝。 ゾンビに襲われなかったのはよかったが、 自分の不用心さに肝を冷やした。
その後安心しきって店を出た時に バイクの近くにゾンビが居た時は終わったと思った。
家具屋にあった目覚まし時計を鳴らして 遠くに投げたらそっちにいったからよかったけど。 慣らした瞬間に、ゾンビがこっちを向いて 白く濁った目と目が合ったときには ほんともう駄目だと思った。 あいつらの目が悪いことを、それで初めて知った。]
(+107) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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[真っ直ぐ走ってきたゾンビの拳が 思いっきり俺の肩口を打った。 つっかえるような悲鳴をあげて壁に叩きつけられる。]
「ああ゛あぁああ゛ぁぁあ゛あぁぁ゛ぁ゛!」
――うるっせぇ、近所迷惑で訴えんぞ!!
[痛みをこらえながらゾンビの頭蓋を叩き割る。 とうとう愛用のバットが 使い物にならないくらい折れ曲がった。
それを好機ととらえたもう一匹が 俺めがけて爪を振るおうとしてくる。
――直後、その頭が綺麗に天井まで飛んでいった。
ネコ元帥が鉈でゾンビの頭を跳ね飛ばしていた。]
(+108) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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[雨が降った時や夜に冷え込んだ時なんかは、 防水素材の厚手の上着を着てて本当によかった。 それでも夜は寒かったけれど、 無いよりはマシ、というやつだ。]
(+109) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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「クシャミ、そっちの避難状況どうだァ?!」
ああ元帥。順調だよ。おかげさまでなあ……っと!
[元帥から投げ渡された得物に瞬いてから そんな状況でもないのにげらげらと笑い出した。
ちょっと昔のホラーゲームで 医者のキャラクターが武器にしてたものと同じものが 俺の手の中にある。]
(+110) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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[―――そして、忘れもしない。 ある日の夜、無人の公園でのことだ。 人一人が入るのに丁度良さそうな土管を見つけた。 今日はここに入って夜を凌ごうと そう思って覗きこんだ時。]
ひ、ゃ……っ!!
[僕は驚いて、その場に尻もちをついてしまう。 "先客"が僕の方をじーーっと見ていて、 そのまま土管から這い出して、腕を伸ばしてくる。
僕はもう、駄目だと思った。 走馬灯のように今までのことが頭を駆け巡り。 (……兄貴。ごめん。)]
[ぎゅ、と目を瞑ったんだ。]
(+111) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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ねえ、ネイルハンマーなんだけど! 白衣もってきて! てか射程短すぎでしょ! 信じらんねえ これでゾンビと戦えって?!
「それしかなかったんだよばーか! お前今すぐ全国のファンに謝るか ジャガー燃やされてこい」
都内住みの大学生だぞ! 車持ってるわけねーだろバーカバーカ!
(+112) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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[ぎゃあぎゃあ喚きながら 襲い来るゾンビたちに得物を振り下ろす。
気づけば、俺の体にも元帥の体にも ゾンビの歯型が赤々とついている。
あんなに体液に気を付けてきたってのにな。 あっけないもんだ。]
(+113) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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[それでも俺達は、ただ、笑っていた。**]
(+114) 2020/10/26(Mon) 23時半頃
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― 高速を北へ向かって ―
[風を切る音に交じって、聞こえるものがある。
高速の脇にある林から聞こえてくる呻き声は もう泣くこともなく聞き流せるようになった。 たまに通り過ぎる車を見れば、 彼らの行く先に平和がありますようにと祈った。
……でも。それよりも。今耳を澄ませるべきは。]
「えーちゃん、次止まるの、どこー?」
[背後から聞こえるのは、幼い少年の声。] [僕の代わりにリュックを背負って。 僕の背中にしがみつき、必死に声を張り上げる。]
(+115) 2020/10/27(Tue) 00時頃
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[残りのおにぎりはこの子にあげてしまった。 無人になって荒れ果てたコンビニから 持ち出してきた飲食物ももう残り少ない。
この子は、僕と同じように思えた。 逃げる間に両親とも兄弟ともはぐれて、 一人で公園の土管で震えていたそうだった。 食料やバイクの燃費のことを考えれば、 助けるべきではないのだろうけれど。]
パーキングエリアがもうすぐだって! ゾンビ、居ないといいな!! [僕は、後ろの声に負けないぐらい 普段あまり出さないような大声を返した。]
(+116) 2020/10/27(Tue) 00時頃
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[―――この子は、絶対に守ってやる。] [僕は……既に、助けられた身だ。 何もできないまま死ぬのは嫌だと、 家から出るときも、今まで逃げる間も、 そう、強く思ってきたから。]**
(+117) 2020/10/27(Tue) 00時頃
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