311 【RP】妖怪温泉『百夜の湯』
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[誰に語り継がれることもない とある梅の木における譚でございます。]
(*0) あけひー 2021/03/10(Wed) 22時半頃
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[一昔を百ほど重ねて更に古く、 神泉のほとりで唯一つ芽吹いた梅がありました。
泉の精気を取り込みながら育つ梅の木は ある年、初めて花を咲かせました。
まだ小さな梅の木です。 つけられる蕾の数も知れたもので、 それでもようやく咲かせられた花でした。
けれど泉を訪れるものはなく。 このまま何に見られることもなく散るのだろうと 梅の木は諦めていたのです。]
(*1) あけひー 2021/03/10(Wed) 22時半頃
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[一輪、一輪と散り落ちて とうとう最後の花を残すだけになった時、 泉を訪れるものがありました。
陽が西の空端に沈み切る頃、 どこからか飛んできた繡眼児が一羽、 梅の細い枝にとまったのです。
どこから来たのだろうか。 たった一羽でいるのだろうか。
意思を伝える口も術も持たない梅の木は、 幹に寄り添って夜風をしのぐ繡眼児に 何も尋ねる事ができません。
羽を震わせて寒さを耐える繡眼児を 一晩留めてやる事しかできませんでした。]
(*2) あけひー 2021/03/10(Wed) 23時頃
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[朝も明け切らぬ内に、 繡眼児は羽根をはばたかせます。
枝から枝へと跳んだ先には 最後の一輪がひっそりと咲いていました。
どこへ飛んでいくのだろうか。 何かあてはあるのだろうか。 その糧に、僅かながらでもなるのなら。
梅の木はまだ動かせぬ枝を力み 繡眼児に蜜を飲んでいくよう訴えました。]
(*3) あけひー 2021/03/10(Wed) 23時頃
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チチチ。チチ
[繡眼児は花弁の端をつついただけで、 蜜を飲みはしませんでした。]
(*4) あけひー 2021/03/10(Wed) 23時頃
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[一晩の宿を感謝するように くるりくるりと三回円を描いて飛んだ繡眼児は すぐに何処かへ消えてしまいました。
一輪の花を枝に残したまま、 梅の木は何も見えなくなった空を ずっと、見ていました。]
(*5) あけひー 2021/03/10(Wed) 23時頃
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[風で揺らがぬ立派な枝を伸ばそう。 夜露を防ぐ洞を作れる立派な幹を育てよう。 気兼ねする事なく蜜が飲めるほど花を咲かせよう。
出立をただ見送るのではなく、 囀りに応えられるような「かたち」を作ろう。
ほとりに唯一萌え出づる事が適った梅の木の想いを、 神泉は長い時間と共に叶えました。]
(*6) あけひー 2021/03/10(Wed) 23時頃
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[一年を通して梅が香り立つ『百夜の湯』は 毎日たくさんのお客を迎えては癒しを提供しています。
大黒柱である太い幹は屋根裏をも突き抜けて 広く枝を伸ばしていくその根本には。
小鳥が入れる洞がひとつ、 今も最初に訪れた客を待っているのでした。**]
(*7) あけひー 2021/03/10(Wed) 23時頃
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