191 忘却の箱
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せーの!
[共に声を掛け合い、塀から飛び降りる>>62。 押し殺したような呻きが隣から聞こえれば、はっとそちらを窺った。
大丈夫?
こちらを振り向いた彼に、唇だけで、問いかけて。 是の返事が返ってくれば、そうっと辺りを窺った。 壁越しの気配に、変化はない。
成功?成功!
唇の動きだけで、言い合って。]
ふふ…っあははっ
[何だかおかしくなってしまって、笑いが零れる。]
(64) 2014/09/12(Fri) 20時頃
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[呼ばう声に振り返れば、彼は素敵な提案をしてくれる。]
海…
[そっと、繰り返し。]
うん…!行こう…!
[取られた手をそのままに、たっと駆け出す。 後になり、先になりしながら、暫く駆けて。 程なくして見える、蒼く輝く水平線。]
あぁ…
[嘆息。 これほどに、自由を感じた瞬間が、あったろうか。]
(65) 2014/09/12(Fri) 20時頃
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――… 夏が過ぎ 風あざみ 誰のあこがれに さまよう 青空に 残された 私の心は 夏模様 …――
[のびのびとした気持ちで口ずさんだ歌は、もういつ覚えた物か、分からない。 けれど、何だかもう、ひたすらに気持ちよくて。 まるで遊び疲れた子供の様に、草原に足を投げ出すようにして座る。
そんな彼女の頭の脇で、白い花弁がそっと花開いた。]
(66) 2014/09/12(Fri) 20時頃
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ねーぇ、シーシャさん。
[傍らの彼は、立っていただろうか、座っていただろうか。 どちらにせよ自分より高い位置にあるその顔を、見上げて。]
こうしてると、何だか色んな事、馬鹿らしくなっちゃうね。
[ふふ、と笑って。 ほんのりと潮の香りのする風を、胸いっぱいに吸い込む。 彼女の頭に咲いた白い花が、すぅ、と閉じて、そのまま萎れた。 宿主の知らぬ間に、花の後に実が膨らむ。 ぽと、と落ちたその二つの実を、無意識に伸びた手が、捉えた。 両手に収まったリンゴは、黄金色。]
…食べるー?
[その実の意味を、既に知らない彼女は、片方を彼に差し出して、無邪気に笑った。**]
(67) 2014/09/12(Fri) 20時半頃
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[こんなに簡単なことだったのか、と拍子抜けしたような調子の彼に>>68。]
多分、人間ってねぇ。 その気になれば、大体の事、何でもできちゃうんだよ。
[生きてさえいれば。 そう、呟いた言葉は、誰に向けてのものだったろうか。
ちらりと見やった彼の瞳が、何だか澄んで見えた気がして。 良かったなぁ、と、無言の内に思った。
差し出したリンゴを、断られれば、ほんの少し、首をかしげて。]
そうぉ?
[答え、手元のリンゴを一口齧る。 何だか、少し、苦いような気のするそれは…失った記憶の、真の想いを示していたのかもしれなかった。 彼女自身には、分からぬことであるが。]
(75) 2014/09/12(Fri) 23時半頃
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[帰ろう、と手を引く彼に、大人しく着いて行きながら。 一瞬見せた寂しげな表情は、何が理由だろう、とぼんやり考えた。
地平線の向こうから吹いてくる風が、彼女の髪を通り抜け、色とりどりの花びらを散らす。 けれど… 思い出は散っても、そこにあった気持ちだけは、胸の内から消えることは、きっと無い。
出た記録の無い二人が、正面の扉に現れて一番驚いたのは守衛のおじさんだったかもしれなかった。 二人が消えたことで、あまり大きな騒ぎが起こったわけではなかったけれど、気付いていた人もきっといて。 心配をかけたことを、二人で謝るけれど、後悔は全くなかった。]
(76) 2014/09/12(Fri) 23時半頃
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[その日の深夜…ひどく、穏やかな気分で彼女は、一人廊下を歩く。 なんだかまるで、重たい荷物を全部おろしてしまったような。 それは酷く優しくて、心地よい、倦怠感に似た何かだった。
何かに誘われるようにして、中庭へと歩み出て。 ちりり、と左手に痛みを覚え、軽く持ち上げ目をやる。]
あら?
[その薬指に巻きつくように、緑の茎が姿を現していた。 その伸びた先に開く、紫の花。 その名を、シオン。]
あら、あら、あら。
[彼女は笑みを浮かべた。]
(85) 2014/09/13(Sat) 00時頃
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[それは、彼女がずっとずっと、望み続けた物だった。 望んで望んで、手に入らなかった物だった。
左手をかざすようにして、くるくると舞うように、四角い空を見上げる。 月明かりが、優しく彼女を包み込む。]
すてき。すてき。
[ざぁ、と吹きこんだ風が、彼女の髪を撫でる。
かつてその髪を撫でた手を かつて笑いかけてくれた顔を かつてその唇が紡いだ誓いを 過ごした時間を 交わした想いを 全て、全て、忘れてしまったけれど。]
(86) 2014/09/13(Sat) 00時頃
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私、今、幸せよ!
[彼女は笑った。 得られなかった誓いの指輪を愛でながら。
記憶が、思い出が、頭から消えてしまっても。 そこに感じた思いは、幸福は、心がきっと覚えている。
月明かりの下、くるり、回った拍子にスカートが風を孕んで膨らんだ。
ざぁっと風が彼女を包む。 ぶわりと舞い上がった花びらに、その姿が包まれて。
錦の風が通り過ぎた後、中庭の片隅に遺されていたのは、 枝に蔦を絡みつかせた、林檎の若木。 傍らに、控えめな紫の花をわずかに添えて…**]
(87) 2014/09/13(Sat) 00時頃
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