242 【突発誰歓】桜が見せた夢
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あ。まどねえ?まゆ美だけど。 えっ? あ、うんその…
[声が聞きたかっただけなんて。 どこのメロドラマだと苦笑して。]
そういえば最近仕事はどう? 順調?
[誤魔化すように。なけなしの話題を絞り出す。 肯定の返事には、そっかと素直に頷いた。 誰からも好かれる自慢の叔母のことだ。 それはそうだよねと納得して。
裏に込められた感情には気付かない。]
(205) 2015/12/16(Wed) 13時頃
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(仕事、か)
[学生のうちから上手くいかない私が。 果たして社会に行ってやっていけるのだろうか。 先は、見えない。]
そういえば、杜中。 知ってた?取り壊し決まったって。
[少しでも話していたくて。 自分が知っていることを延々と告げていく。]
(そっか。なくなるんだっけ、杜中)
[思い出す。 幸福だった一年のことを。 全てが無くなってしまう前に、もう一度―――
もしかしたらその電話が、一つのきっかけだったのかもしれない。*]
(206) 2015/12/16(Wed) 13時半頃
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― 回想・上級生と ―
[放課後の教室。 ぽつんとあてがわれた椅子に座っていた。 時折手渡されたプリントを見ては、憂鬱そうに顔を顰める。 いつものことなのでクラスメイトは何も言わない。]
あ。
[一陣の風が吹く。どうにも悪戯好きだったらしい。 手に持った紙切れを吹き飛ばし。 そのまま開け離れていた窓から、外へ。
慌てて席を立つ。気に食わないからと言って、さすがに放っておくわけにもいかない。 一連の流れを見ていたクラスメイトは何も言わない。 正解だ。]
(232) 2015/12/16(Wed) 17時頃
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『探すの手伝おうか?』
[優しい言葉をかけてもらったところで 私がそれを否定するのは目に見えている。 窓から外を見れば
陸上部がトラックを走っているのが見えた。]
(233) 2015/12/16(Wed) 17時頃
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[私だって最初は部活に入っていた。 でもすぐに辞めた。 理由は言わずもがな。
大地を駆ける陸上部が、ひたむき汗を流す姿が眩しかった。 羨ましいなんて、思わない。 速やかに思考をシャットアウト。すたすたと土の上に降り、目的の物を拾う。 安堵したのもつかの間で。なんだか気まずい。 いきなり校庭に制服を着た女が現れれば、注目を集めもするだろう。
不意に誰かと目が合った気がした。 一人の少年。それにしては何とも可愛らしい顔立ちをしている。 ジャージを見れば三年生。最上級生だ。
罰の悪さを隠すように 私は、ゆっくりと口を開いた。]
ただ走るだけの何が面白いんですか?
(235) 2015/12/16(Wed) 17時頃
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[ぺたぺた。ぺたぺた。 静まり返った校舎内に、足音だけが響いていく。]
どこにやったんだろう…?
[無くした靴と手帳の行方を求め。 心当たりを模索する。
瞬間、浮かぶのは。 青空の下の屋上。]
――――!
[咄嗟に首を横に振り、その場に座り込んだ。] ……そんなわけない。 だって私、屋上になんか行ってない。
[嘘つき。 ね。本当は気付いてるんじゃない?]
(272) 2015/12/16(Wed) 21時頃
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―――うるさい!!!!
[咄嗟に声を荒げ せえはあと肩で息をする。
日が落ちる。 闇が満ちる。 そうすれば。
生きてはいない者たちの時間が、やって来る。*]
(273) 2015/12/16(Wed) 21時頃
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[ふわり、漂う。
懐かしい芳香。 産まれた頃から知っているにおい。
ただいつもとは、ほんの少しだけ違ってて。]
まど、ねえ…
[戸惑いつつも顔を上げると。 そこにいたのはやっぱり叔母だった。]
煙草…吸うんだ。 知らなかったな。
[ぼんやりと焦点の合わない眸でこぼす。
それでも優しい声と笑顔はいつもの彼女で。 見ていると安堵感から、はらはらと涙があふれた。]
(284) 2015/12/16(Wed) 21時半頃
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[愚痴でもなんでも聞くと、その言葉に ぷつり、張り詰めた糸が切れる。 幼子が母のぬくもりを求めるようにわぁと抱きつけば、堰を切ったように吐き出した。]
なんだか怖い夢を見た気がする。 ううん。ずっとずっと怖かった。
私ね。上手くいかないの。 どうしても、みんなと同じように、できないの。
[どうしてだろう。 皆当たり前のように、やっているのに。 何で私は駄目なんだろう。]
会話して、関係を築いて、社会で生きていくことが ………生きるってことが 私にとっては、とても難しくて。 だったらいっそ終わりにしちゃえばいいって…――本当はずっと思ってた。
[初めて他者にさらした本音。]
(285) 2015/12/16(Wed) 21時半頃
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でも母さんにも、父さんにも。 まどねえにも言えなかった…
[心配かけたくなかったから。 いや、違う。]
……ばれるのが怖かったんだ。 「私」が「みんな」と違うって。 知られて軽蔑されるのが、こわかった。
[叔母はどんな顔をしているだろう。 確認するのが恐ろしくなり。 胸に顔をうずめようとする。]
だから私は…成人したのをきっかけに 終わらせようって、ここにきて…屋上から…
…それから、それから ―――あれ?
(287) 2015/12/16(Wed) 21時半頃
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確 か に 、 飛 び 降 り た は ず な の に 。
ど う し て 、 わ た し は 、 い き て る の ?
[ねえ教えてよ、まどねえ。
優しい叔母は昔から何でも答えてくれたから。 きっと今回もそうだろうって。
震える手で、ぎゅっと小さな体に縋りついた。*]
(288) 2015/12/16(Wed) 21時半頃
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― 回想:堀川先輩と>>276>>278>>279 ―
え、ちょ――
[憎まれ口の代償か。 いつの間にか先輩と手を取って走り出すという事態になっていた。
これ。すごく恥ずかしいんだけど!!!!
それでも隣を走る人はどこか楽しそうで その横顔に――ほんの、一瞬だけ見蕩れてしまった。]
ぜえ、ぜえ。
[手加減はしてくれたのだろうが 陸上部のエースと帰宅部の差は大きい。
反省はしてくださいと、恨みがましい目で 涼しい顔をしている人を睨み付けた。]
(296) 2015/12/16(Wed) 22時頃
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よくわかりません ……めちゃくちゃ恥ずかしかったのでそれどこじゃないです。
[どうだったと問われば 感想としてはそんなものだ。 そのまま顰め面でプリントを受け取った。 制服姿の女子が陸上日に手を引かれて走る姿は、さぞかし目立っただろう。]
……とりあえずあなたが変な人ってことは分かりました。 それと。
[縫い合わされたゼッケンを見る。]
――女子だったんですね、堀川先輩。
[うわ。これ普通に失礼だ。 自分で自分にどんびいた。 それでも目の前の先輩は起こる様子もなく。 からりと晴れやかで。]
(297) 2015/12/16(Wed) 22時頃
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よくわからなかったので ……今度、恥ずかしくないときに 気が向いたら、試してみます。
[横を走る、楽しそうな笑顔を思い出す。 私もあんな顔、できたらいいなって、そう思って。
なんとか返せたのはこんな答え。*]
(298) 2015/12/16(Wed) 22時頃
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[まどかの手は暖かかった。 人肌ってこんなに安心するんだ。
抱きしめてもらうなんて 母相手だってずっと幼い頃に卒業したから 本当に久しぶりに触れた、人のぬくもりだった。]
(謝らないで、まどねえ) (誰も悪くないから) (私が、弱かっただけで)
[口に出す代わりに、ありがとうと、消え入りそうな声で。 でも一つだけ心の中で否定する。
嗚呼、そうだ。 やっぱり私は―――もう、いないんだ。]
[突如奏でられた誕生歌に 目をぱちくりさせる。 やがてぷっと吹き出して。]
(304) 2015/12/16(Wed) 22時頃
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私、煙草吸ったことない。
[それでもまどかの手にあるのを見ると 何だか魅力的なアイテムに思えて。 ライターはまどかに借りられただろうか。 こくりと頷くと、加えて紫煙を曇らせる。
すぐに、むせた。]
よくこんなもの吸ってられるね。
[恨みがましい目で言いのけた私は、二十歳になったとはいえやっぱり子供だったのかもしれない。 大人は時にニコチンに逃げたくなるってことも、知らないくらいには。]
身体にもよくないし やめられるなら、やめた方がいいんじゃない? ………長生きしてよ、まどねえ。
[それは死者から生者へ贈る言葉。*]
(305) 2015/12/16(Wed) 22時頃
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うんクッソまずいね。 禁煙頑張ってよ、まどねえ。
大学の子が 「煙草のせいでキスがまずいって彼氏に振られた」 って愚痴ってたし。
素敵な恋人作りのためにもいいんじゃない?
[なんて話をしているうちに、怒らせてしまった。 ごめんねまどねえ。
私はいつもこうだ。 人を怒らせてばかりで…こんな自分がずっと嫌だった。
それでも まどねえに怒られるのはなんだか嬉しいなって 口に出したら、さらに怒らせてしまうかもしれない。]
(315) 2015/12/16(Wed) 23時頃
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私もね まどねえのこと、大好きだったよ。
[不思議だね。 あんなにも難しい一言が あなたに対しては、いつも素直に口にできた。
それはきっと、大塚まどかという存在が 私にとって
叔母であり、姉であり そして誕生から見守ってくれた
―――もう一人の、お母さんだから。]
[5歳しか違わないのに、失礼だったかな。*]
(316) 2015/12/16(Wed) 23時頃
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[なにやら困らせてしまったようだ。 しかしその理由に至るわけはなく。 黙って受け取った煙草を鞄に入れた。]
昔から、まどねえには叶わないな。 お見通しだ。
[ぽつりぽつり語るのは。 こんな私にも、唯一人 友と呼べる相手がいたこと。 その絆すら、些細な嫉妬で壊してしまったこと。]
だから約束なんて本当はしてない。 無理なのは知ってた。それでも最後に会えたらと思った。
[不器用な笑みに こちらもぎこちなく返して。]
(320) 2015/12/16(Wed) 23時半頃
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……なんとなくだけど きっと夜が明けるときが 私が本当に、いなくなるとき。
まどねえの禁煙成功まで見守りたかったけど。
[それはきっと無理だから。]
だからまどねえのタイムカプセルが無事発見されて 明里さんの卒業式を見たら。 私は、行くね。
[残る未練と言えば、それくらいだから。*]
(321) 2015/12/16(Wed) 23時半頃
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