159 せかいのおわるひに。
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― 在りし日 ―
えー! なんですって!!
[削岩機の音で近くにいるのに声が聞こえない。蛍光色の縞の作業服を着た同僚の話、話という以前に、届いていない声そのものを求めて強く聞き返す。 工事が続く限り、変わる事はない。無駄なやりとりをしていると互いに気付いたのか、苦笑を交し合ってから、誘導灯を手に、それぞれの持ち場の方向に向き直る。]
(+6) 2014/01/23(Thu) 01時頃
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お疲れ様です。 あまり時間もありませんし、お弁当食べちゃいましょう。
[雨天中止を挟んだ事で、工事日程が遅れている分、作業員、そして警備員達の休憩時間も削られている。コンビニで買った海苔弁当に、ペットボトルのお茶を一本取り出して、年配の同僚に差し出す。]
そう言えばさっきなんて言っていたんですか?
[割り箸を口に咥えたまま、自分の分のペットボトルの蓋を捻り、買った頃はまだ温かかったが、すっかり冷たくなっている中身を一口啜るように飲む。]
ああ、僕の話ですか? 僕は…。
[バイト初めの頃、一緒になった時の雑談で話した内容について興味を惹かれたらしく、詳しい話を聞かれる。芸能界にいた事は話していないが、TV局関連の話をポロリと漏らした事を覚えていたらしい。]
まあ、大した話じゃないですけど…。
[どうして聞きたがるのか、知識を仕入れたいのか、情報を知りたいのか、相手の意識の元をこちらも気になるあまり、他のバイト同士よりは会話を交わす相手になっていた。本業は他にあるのだという素振りの彼と、目指す先がある自分とでどこか感じるものがあったのかも知れない。*]
(+10) 2014/01/23(Thu) 01時頃
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えあ? ああ、あのプロモーションビデオですか。
[とあるギタリストのPVの仕事を請けた事がある。容姿がある程度それなりで、かといって自分より目立つのは困る。そんなギタリスト本人のリクエストから白羽の矢が立ったのが自分だった。本来の子が駄目出しされたからの急遽の代役という話もあったが、どっちが真相か、別に本当の事があるのかはわからない。
台詞などは無論なく、演技と言ってもただ用意された衣装を着て、駆け回るだけの単純なもの。表情に注文は受けなかった。それでも当時の自分は精一杯やっていたように思える。 そんな力の入れ具合があっていたのか、間違っていたのかは判らなかったが、駄目出しはされなかったらしく実際に採用もされていた。数少ない職歴に残せる仕事だった。]
それが、ですか…はぁ。
[それが目に留まったのだという。どれだけ昔の話だ。今の努力ではないのか。少し不安になる。]
(+17) 2014/01/23(Thu) 02時頃
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[あれから何度も電話でやり取りをする。近況の報告、スケジュールの確認。昔の共通の知人の近況。世界は拓けて来た。求めていた物が近づいていた。
その筈だった。]
………。
[あの頃の自分は、何でもなれると信じていた。 きっと。 選ぶことができると信じていた。
精一杯頑張れば。必死になれば。
それだけで、あっち側に立てると思っていた。 才能がある人間もいたが、明らかにない者もいた。 だから、才能の有無で分け隔てられるとは思って居なかった。
自分もそっちに行く――そう迷い無く感じられていたのは、いつが最後だっただろう。]
(+18) 2014/01/23(Thu) 02時頃
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そうですかね。
[ふと飛んでいた意識が、目の前の会話>>+14相手に戻った。]
ちょっとした事で大怪我しかねないですからね…。
[出かける前、そんなもんにょりとした電話を受け取り、気分を抱えていても、仕事場に出れば演じた自分に戻る。]
(大丈夫、上手くやれている。)
[近い将来、不遇の時代の苦労談を騙る這い上がった芸能人。そんな未来を得る為の、努力ではない、行動を続ける。ひたむきに歩き続ける。駆ける事無く、ただただ目的地に向かった。]
(+19) 2014/01/23(Thu) 02時頃
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[薄い膜に包まれているような世界。 大事に大事に育てている繭。
突き破る事の無いように、大切に扱おう。]
(ただ……)
[その果てにあるものは、果たして嘗て自分が目指していた目的地なのだろうか。]
(+20) 2014/01/23(Thu) 02時頃
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― 稽古場 ―
え、その曲……?
「ああ。昨日の打ち合わせで決めたんだけど、このシーンで流す奴、こっちに差し替えたから」
[団長の鶴の一声ということで、クライマックス間近に流される曲が変更された。主演級の自分に断り無く決められるのは構わない。構わないが、その曲はつい最近話題に上がった曲。]
「もうCD出てたんですか?」
[日曜朝の特撮アクションヒーロー物のエンディングに使われているもので、たまたま聞いていてこれだと思ったのだと語る団長と、急な変更に不平を漏らしつつ結局折れた共演者との会話は遠い。]
(+21) 2014/01/23(Thu) 02時半頃
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「TVで見ましたよ、これー」 「知ってる? これ昔のカバー曲なんだけど」 「へーえ」
[あのギタリストは結局どうなったか、カバーは違う人間がしている。聴きなれた部分と少し聞き覚えの無いズレが混ざりながらも、CDプレイヤーから流される曲が自分の周囲を覆う。]
「ん? どうかしたの? 具合でも悪い?」
いえ、ちょっと懐かしい気がして。 どこでだったかな。
[皆の会話に自然に加われるような言い回しを慌てて選択し、笑顔で話題に混ざる。なのに剥離していくのは、どこからだろう。最初からか。]
(+22) 2014/01/23(Thu) 02時半頃
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[あの時、駆けていた自分。今、歩き続ける自分。]
(どこだったのかな。)
[あの頃の無垢はもうどこにもなく、今抱えるあらゆるものはあの頃には手にしていない。どっちが重くて、どっちが必要あるものだったのか。]
(+23) 2014/01/23(Thu) 02時半頃
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[流れるCD音源。少しズレた部分がアレンジ。小細工に聴こえたのは、自分だけだろうか。**]
(+24) 2014/01/23(Thu) 02時半頃
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― 舞台 ―
どうせ死ぬのだから、何をしても無駄だと?
[運命の日、火に巻かれて死ぬという予言をしていた黒いカーテン生地を刺繍して被った悪魔を模した装束と正対するように、訴えかける。]
生き物は全て死ぬ定めではないか。 ならば、生きているものは全ていつかは死ぬのだから、生きていることが無駄だと言っているのとどう違うというのだ。
[薄暗いホールの中、ギラギラと輝く照明の下、来場者からの注目を浴びる。多くの人の目が自分を見ている。自分を、見て、いる。]
僕が為す事の価値は僕が決める! その意味も、その意義も、意志と共に在る。
[視線を意識していたことで、余計に力み過ぎて早口になっている。時間を頭に入れ、次の台詞への間を、余計に取る。]
(+26) 2014/01/23(Thu) 21時頃
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例え志半ばであろうとも、成し遂げられぬものであっても、それはお前なんかに言い渡されるものじゃない。
僕が悩み、僕が考え、僕が選んで掴み取るものなんだ。 それこそが希望。それこそが夢。 それこそが、人生というものだ。
[十字架を翳し振り回せば、黒い悪魔は幕の向こうへ消えて行く。]
汝の好む絶望になど、用は無い。 去ね、悪魔!!
(+27) 2014/01/23(Thu) 21時頃
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[都市での公演に先駆けて、ボランティアスタッフからの要望もあり地元で行われた劇。見ていた者>>35は多くは無かったかも知れないが、手を抜く事は無い。]
妹、嗚呼、妹よ。 僕の死に嘆く事はない。 僕は恵まれているのだ。
死ぬ覚悟を持って、死ぬまでの時間を知ることができたのだ。 こんなに素敵なことはないではないか!!
[照明が自室に取り残された自分ひとりを照らす。羊皮紙に羽ペンを走らせ、遺言状を書いていく。]
君の死を見ずに死ねるのだ。 僕はなんと言う果報者だろう。
そして僕は……なんという……。
[声を詰まらせて、笑顔を作った。]
(+28) 2014/01/23(Thu) 21時半頃
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― 都内某事務所 ―
あ、お久しぶりです。
[昔通っていた事務所は移転していて、新しい建物になっていた。迷う事はなかったが、早くつき過ぎて邪魔をしてしまったかと不安になる。]
はい、それで一体どういう…。
[用意されたお茶をテーブルの隅に寄せ、代わりに広げられた資料一式。打ち合わせが、始まる。]
(+29) 2014/01/23(Thu) 21時半頃
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……彼の推薦、です…か。
[切欠はあのカバー曲。あの映像を見たお偉いさんが、今自分はどうしているのかと尋ねたのが最初。引退した自分が劇団に潜り込んでいる事を知っていたものがいて、そんな自分にオファーを出したのは嘗ての子役仲間。今はアイドルとして一線で活躍している人物が主演するドラマの話だった。]
あ、はい。勿論です。
[同窓会気分――という言い方は一遍的だ。彼は自分を厭っていたのだから。だが、どんな理由や事情、きっかけであれチャンスには違いない。掴むべきだ。頑張ってきたのだから。
幾つか騒がしたスキャンダルの風聞で判断する限り、彼があの頃と変わりない、それどころか悪化していたとしても、相手が望むように平伏して感謝の意を述べられる自信はある。]
「それで、役なのだけれどね」
[まだ未完成と言いながら、自分の出番分は全て終わっているらしい。コピーを束ねただけの台本が差し出される。]
(+30) 2014/01/23(Thu) 21時半頃
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………。
[最初は端役だろう、そんな予感は違っていた。*]
(+31) 2014/01/23(Thu) 21時半頃
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[スラウィング・アリヅカという薬物末期中毒者。 僅かな薬代欲しさに犯罪を犯し続け、逃亡生活を続ける男。愚図で短絡的だが、薬が効いている時は暴力的だったりする。逃亡中の彼が主人公の恋人に一目惚れをし、強姦する事から物語は始まり、序盤に主人公に追い詰められ、逃げようとして転落死する。]
あはは、これはまた…強烈ですね。
[悪役だが印象の強い役だ。彼がどういう思惑で自分を推薦したのかは判る気もするが、これは悪くない。決して悪くない。ただ、間違いなく言えることがある。]
これ、頂いても構いませんか? ええ、まだ未完成なのは承知しています。
[これに関わった誰もが、今の自分の姿を見ていない。知っていない。
嘗ての自分の名残と、関係、因縁だけでこれが存在している。だからちょっと思ってしまう。]
(+45) 2014/01/24(Fri) 00時頃
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(こんなもの――か。)
[歩いてきた道の先は。ゴールはまだ見えていない。けれども、たどり着ける先には、あるのだろうか。それとも――**]
(+46) 2014/01/24(Fri) 00時頃
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