84 戀文村
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−本屋− [本屋に届ける封筒は幾つか。 他の村の人間に届けるのとは少し違い どちらかといえば、仕事に関連するものが多い]
すまないね、こればっかりは。 その代わりに手紙が来ているが、中身はいつもの雑誌のようだねえ。
[少し厚みのあるそれは、恐らく雑誌だ。けれど娯楽性は殆どない。 中には行っている雑誌はプロパガンダの無料ペーパー。 これを店に出すかどうかは主次第。 あまりいい顔をしなかったのは、中身を知っていればこそ]
なんだい、預かっていくよ。
[渡した大振りな封筒と引き換えに受け取ったのは 村の中の伝言のようなその手紙。 それでも仕事であるし、悪い手紙ではないから 男は少しばかりの笑顔でそれを受け取った。 ヨーランダとすれ違ったのはちょうど本屋を出るときのこと]
(225) 2012/03/27(Tue) 00時頃
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[それらをクラリッサとミッシェルのところへ配達し、 すべての配達が終了したのは日が落ちるころ。 彼女たちがその中身を呼んだかは自分のあずかり知らぬところで、 耳に挟んだ色つきの手紙の話のことを忘れようとするかのように 男は早々に仕事を終えて眠ってしまった]
(227) 2012/03/27(Tue) 00時頃
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−路地−
…嫌だねえ。
[キッ、と、自転車が音をたてたのは ブレーキを強く握り締めたからだ。 例え村の中で誰が首を吊ろうと 例え、村の中で誰が泣いていようと 男は毎日の仕事を途絶えさせることはない。 それは今日も一緒で、けれど日に日にブレーキの異音が大きくなる。
サイモンが戦場ではないところへ旅立ったという。 配達先では、それをただ悲しむものもいれば 情けないと憤慨する相手もいる。 それでもただ男は彼の話を聞くたびに]
それしか、選べなかったのかもしれないねえ。
[困ったような、そんな苦笑と共に言葉を繰り返した。 それ以外の言葉は、選ばなかった]
(231) 2012/03/27(Tue) 00時半頃
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[雪は冷えた夜には氷になり それが朝になると融けて土がぬかるむ。 それだけでも、毎日決して同じではないのに 自分だけが毎日同じことを繰り返している]
…おっと。
[ブレーキを切った勢いで、メッセンジャーバッグが少しだけずれた。 ベルトを肩にかけなおして再びペダルを漕ぐ]
(237) 2012/03/27(Tue) 00時半頃
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[キュッ、と大きくまた一つブレーキが響く。 急に呼び止められることは少しだけ珍しい]
やあ、アンタかい。 自転車は相変わらずさ。 もう少し、春まではご機嫌取りが続くねえ。
[自転車に跨ったまま、男は肩を竦めつつ振りかえる。 春になれば泥濘は減る。 けれどその代わりに、春雨に悩まされるだろう。 その次は梅雨になって、それこそ新しいタイヤが待ち遠しい]
どうしたね、お役目はそっちのけでいいのかい。
[軍人であるならば、少しは忙しいだろうに、と]
(240) 2012/03/27(Tue) 00時半頃
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ベルはこいつとちがって供出しちまったからね。 まあ、春になるまでこいつがもってくれりゃいいよ。
[自転車のハンドルをポンポンと叩く。 ほっそりと言うよりは、少し骨ばってはいるが 男の手は毎日ハンドルを握り、毎日手紙を届け続けた。 土いじりをしないから、少し白くもあったけれど]
…。 それしか、選べなかったのかもしれないねえ。
[口にする。 それを選んだのは、彼ではなく上層の人間。 少しでも戦力を温存するために。 一か八かで最後の攻勢に持ち込むのならば なるべくは弱っている群であることを示すほうが良い。 それらを示すのに、民間人ほど最適な存在はない]
(245) 2012/03/27(Tue) 01時頃
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はっはぁ、優しい人間なら こういうときにはあんたたちに同調して頑張るもんさ。
[自分はそういう人間ではないのだと、男は言う。 それは嘘でも本当でもない答えだった]
何、手紙を集めて届けることしか知らんのよ。
[銃の扱いを知ろうと思ったことはない。 手榴弾のピンの上手い抜き方も教わったことがない。 ぼろぼろのメッセンジャーバックだけが いわば男にとっての装備であり武器なのだ]
さあ、解らんねえ。 何せこの方書いた事がない。 誰かが書き方を教えてくれたら書いてみようかな。
(248) 2012/03/27(Tue) 01時半頃
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そうかい? じゃあ、そういうことにしておくかねえ。
[軽く首を傾げると、くたびれた帽子が少しずれた。 色の幾等か褪せた鍔を骨ばった指で押し上げて 陽気な軍人の話すことを聞いていた]
人の手紙にかまけているとさ、 書いている暇もありゃせんのよ。 まあ、それでも構わんのだけどね。
[おっさん同士の文通。 その言葉が何だか不思議だったのか、首を一、二度かしげ やがて返事を一つ置くと男はまた自転車のペダルを やっぱりくたびれた靴で漕ぎ始めた**]
じゃあ、待っていようかね。
(251) 2012/03/27(Tue) 02時半頃
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