22 共犯者
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記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/06(Fri) 00時半頃
記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/06(Fri) 00時半頃
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−森の中:柊の木−
[ざわざわと森が揺れるのを耳で聞きながら、柊の葉に指先を寄せた。]
「巡礼者」……そう。私は「巡礼者」。 最初からずっとそうだった。
[柊の葉を摘み、そっと口づける。 誰もいないその場所で、イアンはそっと囁く。]
聞こえているのでしょう?「あなた」には。 森に棲まう「あなた」。
(8) 2010/08/06(Fri) 01時頃
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記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/06(Fri) 01時頃
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−森の中>>11−
……いいえ。 別に貴方に食べられたい訳ではございませんよ。 この祭での出来事を、告発するつもりはございません。 彼女にそう告げたように。
[視線の先には、亡き骸になったマーゴがいる。 そう告げるイアンの表情は、無表情のようであり、また微笑んでいるようでもあった。]
貴方もまた、「かれ」と同じものなのですね。
(14) 2010/08/06(Fri) 01時頃
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−夜の森−
[「かれ」と同じだというヘクターの様子をじっと見つめる。ヘクターの口は平時より裂けており、中からは血に濡れた牙が見える。服と手を赤い血で染め上げ、鋭い爪で女の身を引き裂いたのだと容易に判った。]
最初にお会いした時に告げた通りです。 私はこの村の祭を「見に来た」のですよ。 「貴方」の正体と役割を知りたいと思うようになったのは、その後でしたけれど。
森を守護する者。 伝統あるヴァンルナールの一族の御子息が、このような形で森を護っていらっしゃるとは、思いも寄りませんでした。
皮肉ではありません。 合点がいった……という感覚の方が正しいでしょうか。
(20) 2010/08/06(Fri) 01時半頃
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―森の中 >>21― [頬に赤い血の筋が描かれる。 文字通り「目の前」にあるヘクターの目をじっと覗き込むイアンの顔は、何の色も浮かべてはいなかった。]
いいえ。 私は貴方の村のできごとに対しては、きわめて明確に「傍観者」ですから。必要の無い感傷は抱かないだけです。
ただ……不思議と興味だけは尽きぬのです。 村人に「御使い様」と呼ばれる、あなたがたの正体には。
[森の中を、血の匂いを帯びた生温い風が駆け抜ける。]
村の中に棲まう「御使い様」――…ヒトの姿をしていながらヒトにあらず、神の立場でありながら神の視点にはいない。
ヴァンルナールの家の者は、こうして代々「使い」であったというのだとしたら、それはひどく興味深いのです。
(29) 2010/08/06(Fri) 08時頃
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―森の中 >>24>>25― 「誰の為にこの史実を残すか」……それはひどく難しい問題です。私がこれをただの「仕事」として見られるとしたら、どんなにか楽だったでしょう。
私の興味は、いつの間にか、「ただの秘祭」から「御使い様」と「巡礼者」の関係性にシフトしていったのですよ。その「事実」だけを見届けることしか、今は不思議と考えられません。
私が新聞記者であることが悔やまれます。 学者としてここに来たならば、あなた方をゴシップの世界に投げ込むという可能性を少しは軽減できたというのに。
[ふと自嘲的に笑みを浮かべる。]
ああ、こんなことならば、師匠が私の研究成果を全て盗んでいったことを訴えなければ良かった。
このような人知を超えて起きた世界の話を記録できる栄誉を、私は無駄にしてしまったことを、後悔しているところです。
だから――別に私はあなた方に親愛の情を抱いているわけではない。私は「巡礼者」であっても未だ「生贄」ではありません。
それ故に、私はあなた方に余分な怒りや恐れなどを抱かずに済んでいる。それが、私が「御使い様」と「真摯に向き合っている」ように見える理由なのかもしれません。
(30) 2010/08/06(Fri) 08時頃
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―夜の森 >>28―
[ヘクターの外套の向こうにあったヴェスパタインが、突如視界に入り込む。まるで「かれ」自身が光を放っているように見え、目を細めて微笑んだ。]
こんばんわ、「あなた」。
――…今宵も月が綺麗ですね。**
(31) 2010/08/06(Fri) 08時頃
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記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/06(Fri) 08時頃
記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/06(Fri) 08時頃
記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/06(Fri) 12時半頃
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−昏い森:にて>>38−
……ええ。 もうすぐ月が満ちそうですね。以前「あなた」がそうおっしゃっていた通りに。
[微かに笑い、首を傾げる。]
「あなた」とその同胞の方と、思いもよらぬ頃合いにお会いできましたことを、光栄に思います。
[頬頬が血に染まったまま、イアンはふたりの「御使い」を見つめる。]
今宵の「生贄」は彼女ですか。 ヘクターは随分と親しげだった分、少しだけ不思議ではございますが。
何といいましょうか。 別にヘクターを蔑みたいわけではありません。 ただ……親しい御方をも「生贄」にすることができることに、多少驚いているだけです。**
(39) 2010/08/06(Fri) 13時頃
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記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/06(Fri) 17時半頃
記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/06(Fri) 20時頃
記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/06(Fri) 20時頃
記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/06(Fri) 21時半頃
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−夜の森にて:>>45−
……そうですか。 ヴァンルナールは全て人の子。貴方の他を除いては。 貴方の出自は突然変異なのか、或いは血が濃くなったか、それとも養子か何かか……そういうところでしょうか。
[蛇のように胸元を這う指を眺めていたが、己が口にした娘の件で、ヘクターが突如激昂した>>51
イアンは身じろぎせず、黙ってヘクターの双眸を見つめる。シャツは人ならざるものの鋭い爪に裂かれて悲鳴を上げ、胸には赤い傷が刻まれた。]
私は「事情」を申し上げたのみです。 貴方の「事情」の一切は、残念ながら存じ上げません。
(58) 2010/08/06(Fri) 21時半頃
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−夜の森>>40>>41−
[胸元から血を流しながら、「かれ」の方へと視線を流す。]
……ええ。 古来より、神話の世界のみならず、現世でも「生贄」の習慣はあります。真に信仰に由来するものとしては、己にとって最も大切なものを捧げることで神の赦しを得るという行為を指します。
しかし、飢えに困った末、口減らしの「口実」として、体裁を取るために宗教用語に類似した言葉を当てがって、子を殺害することも可能です。
……「生贄」という言葉は、実に便利なものです。
[くすりと笑い、肩を竦めた。]
しかし、私がしにきたのは、そんな茶飲み話ではございません。
(61) 2010/08/06(Fri) 22時頃
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−夜の森−
……あの時の答えを申し上げに来ました。
「私は、『人ならざるあなた』の正体を知ること」を選んだ。
これが私の本心です。
だからヘクター。 私は貴方の儀式を知ることを望みます。 さあ、その儀式の全貌をお見せください。
(64) 2010/08/06(Fri) 22時頃
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―早朝:教会―
[青年記者は広場には寄らず、教会に置いてあった鞄の中から換えのシャツを取り出し、傷がまだうっすらと痛みの声を上げているのも構わずにそれを纏った。]
……司祭様、ありがとうございました。 本日より、アレクサンデル家にお世話になることになりました。 ええ、資料をお借りすることもできそうですし、良かったです。
[鞄を手にして、ひとつ溜息をつく。]
ああ……それから。 この村で、アクセサリーを作っている方……或いは、その工房をご存じありませんか?
ええ……いえ。 少しだけ……思うところがありまして……
……どうしても、要り用のものがあるのです。
[寂しそうに微笑むと、イアンは教会を足早に去っていった。]
(72) 2010/08/06(Fri) 22時半頃
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記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/06(Fri) 22時半頃
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―アレクサンデル家―
[家主に許しを得て、イアンはアレクサンデルの屋敷の中へと入る。故・村長夫妻の屋敷とは雰囲気が大きく違っていたが、膨大な書物を保管してある書庫があるという点が共通しているという。
あてがわれた部屋に行き、荷物を置くと、続いてオスカーの部屋の扉をノックした。そして、扉越しに声を掛ける。]
……失礼します、オスカーさん。 その……ご気分が優れないとのことを伺って……
もし私がお邪魔でしたら、その時はおっしゃってください。 私ならば大丈夫です、こう見えても結構丈夫にできているのですよ。
それでは、少々書庫をお借りします。 昼頃になったら少し外に出かけて参りますので、それまでの間だけ。
(75) 2010/08/06(Fri) 23時頃
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―アレクサンデル家>>78―
……それはなかなか判断が難しいところですね。
[オスカーの方を振り向き、柔らかな笑みを浮かべる。]
私はここで起こったことを書き記していますが、祭の終わりまで村が閉鎖されている以上、記事を届けるのは祭が終わった後になります。
そして実際にどこまでを記事にするかは、編集長と相談した上で最終的に決定します。なんといっても、ここまで……外の世界で言うところの「人殺し」が連続して起こるとは、思いもよりませんでしたから。
ああ、少なくとも、祭に参加された方のお名前は全て伏せるつもりではあります。もしかしたら、私が書いた記事が、参加した方の今後の人生に悪影響を及ぼすかもしれませんから。扱いは慎重にならざるを得ません。
(82) 2010/08/06(Fri) 23時頃
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記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/06(Fri) 23時半頃
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―アレクサンデル家 >>84―
え……!?
[森を燃やすという言葉を聞き、息を飲んだ。]
さすがにそれは……まずいですよ。 だって、森にいるのは「御使い様」だけじゃないのですから。他の動物も、木々もある。それに……動物を狩ったり、木々を伐採して生活している方もいます。
オスカーさん。 貴方は村役として、この村を破壊する方向へと突き進んではいけない。貴方は村を護る為に、村役になったのでしょう。森を切り拓きたいと願うならば、兵器や火ではなく、もっと平和な方法を用いなければ。
それに……もし私が書いた内容がろくに本誌に発表されなかったとしても、私が残した「草稿」は残ります。いつか必要な時にそれを開示することだって可能です。その時に、貴方が森を焼いた犯罪者であるのと、立派な村役であるのとでは、説得力は段違いです。
……あとはわかりますね?
(87) 2010/08/06(Fri) 23時半頃
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記者 イアンは、双生児 オスカーの目の色を見て、焦りの色を隠せずにいた。
2010/08/06(Fri) 23時半頃
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―アレクサンデル家 >>91―
……そうでしたか……。 私の浅はかな考えをお許しください。 森があって生活できている方がいれば、その一方で、広大な森の「負の部分」を受けている方もいる。そのことに気づけなかったのです。
やはり森のことは、昨日今日来たばかりの人間には分からないのですね。何事も全てそう……付け焼き刃では理解のしようが無いことばかりだ。
[地下に向かう道のりで、オスカーにぽつぽつと告げる。]
貴方が犯罪者かどうかは、私には裁定できません。 貴方が何の理由もなくニールさんを殺したのなら、私は貴方を責めましょう。ですが、貴方はそうは見えない……
ヒトが為すことには、いかなることにも理由があります。もしかしたら、「御使い様」と呼ばれる者にも。
だから、私は貴方の罪を判断することができません。ましてや貴方は「祭」という文脈でニールさんを「還した」のです。その行為を無条件に責め立てることができるとしたら……それは貴方ご自身の心のみなのですよ、オスカーさん。
(96) 2010/08/07(Sat) 00時頃
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―アレクサンデル家―
――…ホリーさんの件は、心中お察し申し上げます。
[地下書庫の扉が開く。]
私には、あの森の好き嫌いも、善悪も分かりません。私にとっては、「ただそこに森があるだけ」なのです。
ですが、オスカーさんが「あの森を嫌いだ」とおっしゃることを、私は断罪しようとは思いません。そして、大切なお姉さんを喪った……貴方の人間らしい心を、私は馬鹿にしたりはしません。
せめて、ホリーさんが……今の貴方のことを見て哀しまないように……それだけを願っております。
(98) 2010/08/07(Sat) 00時頃
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記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/07(Sat) 00時頃
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―アレクサンデル家 >>102―
私はね。新聞記者をする前は、学者の卵だったのですよ。 その時代は、フィールドワーク……いわば学問の為の取材を行っていまして。そこでは「現地の方の言葉とルールに従え」とよく言われていたものです。だから「祭」のルールに則った場合、今ここで、貴方をどこまで追求すべきかが分からない。
もし貴方が、外から来た私に、己の罪を詰って欲しいとおっしゃるならば、話は別ですが……それはとても無意味なことです。
[胸ポケットにしまっていた眼鏡をかけ、1冊の本に目を通す。]
ホリーさんが悲しめるかどうか、本当の所は私も分かりません。
ですが様々な宗教において、形は違えど「死後の世界」というものが描かれている。それは大切な人を喪った後の世界を生きる人達の為に生まれた言葉であるかもしれません。その人のことを忘れないようにするために。
だから今はその先人の知恵をお借りしませんか?オスカーさん。ホリーさんの声が聞こえるかもしれないと……
[そう言いかけたところで、オスカーの呟きが聞こえる。とても細くて、弱々しい声が。]
仇を……?
[眼鏡の向こうにあるイアンの瞼が、そっと下りた。]
(111) 2010/08/07(Sat) 00時半頃
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―アレクサンデル家 >>110―
あ……ミッシェルさん、こんにちわ。 私は本を読ませていただこうかと思ってここに来ていて……
[本を片手に、眼鏡を掛けたまま一礼する。]
あ、そう、だ。 ミッシェルさんにお願いがあるんですけれども、いいでしょうか? その……仕事の依頼といいますか……
(113) 2010/08/07(Sat) 00時半頃
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―アレクサンデル家 >>121―
………。
[オスカーの言葉には、ただ黙って俯くことしかできなかった。どんなにオスカーが哀しもうと、昨夜、自分が見たことの一部始終を話すことはできずにいたのだ。それ故に、イアンはオスカーを理屈で慰めようとするのだ。]
いいえ……お役に立てず申し訳ありません、オスカーさん。せめて貴方の心が少しでも安らげば……そう願わずにはいられません。
[口をついて出てくるのは本心。 しかし彼らに「かれ」のことを話す訳にはいかない。 ――胸の辺りが、ずきりと痛んだ。]
(124) 2010/08/07(Sat) 01時頃
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―アレクサンデル家 >>120―
ええ、そうですミッシェルさん。 その、貴女の職人としての評判をお聞きしたので、是非。できるならば女性の方にお願いしたいなと思っていたのですよ。
あの……できれば、その……皆様には、くれぐれも、ご内密にお願いしたいのですが……
[眼鏡の向こうにある視線がちらちらと不可思議な動きで泳ぐ。]
……ええと、できれば用途はお察し戴けると助かります。
(125) 2010/08/07(Sat) 01時頃
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―アレクサンデル家 >>122―
え……? ミッシェルさん。それは本当ですか?
どなたなんですか?「御使い様」は!
(126) 2010/08/07(Sat) 01時頃
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―夜の森 >>101 >>129―
……ええ、分かっております。 昼の陽が高く高く昇った頃に、またお会いいたしましょう。
私は、愚かにして現世に縛られた、ヒトの身。 ヒトとしてやり残したことがあるのです。 それを遂げたら、私は「あなた」の元へ参りましょう。
次にお会いするとき、私は――…
[そっと目を伏せ、絞り出すように言葉を紡ぐ。]
――…私はヒトとしての全ての未練を断ち切り、「あなた」の「巡礼者」としてこの大地に立つことになるでしょう。
[そっと目を開けると、そこにはイアンが呼ぶ「あなた」ではなく、「ヴェスパタイン・エーレ」と呼ぶ男が立っていた。]
……では、その時にまた。
[闇へと消える男の背を、黙って見送った。]
(133) 2010/08/07(Sat) 01時半頃
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―アレクサンデル家 >>131 >>134―
ヘクターが……?
[驚きの言葉を漏らすと共に、ミッシェルが告げた名が「かれ」のものではないことに、一瞬だけ安堵してしまう。だが…]
オスカーさん!?
[地下書庫から駆け出すオスカーの姿を認め、後を追う。しかし勝手を知らぬ他人の家の中であるせいか、そこに長年住んでいるオスカーの行方を見失ってしまった。]
あ……ミッシェルさん。 オスカーさんの様子が……。
いえ、分かるんです。彼が何を為したいのか。 ただ、先ほどの様子だと……
[ふるふると首を左右に振り、溜息をつく。]
……少しだけ、恐ろしいのです。 このまま彼が正気を取り戻せなくなるような気がして……
(138) 2010/08/07(Sat) 01時半頃
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―アレクサンデル家―
[オスカーを見失ったイアンは、再び地下書庫に戻っていた。そこで妙にさっぱりした顔をしたオスカーが、こちらを覗いたのだった>>136]
……はい、分かりました。 くれぐれも……お気を付けて。
[オスカーを気遣う言葉を投げかける。だがその胸の内で、イアンは異なることを考えていた。]
(彼が一人で向かって……ヘクターを討つのだろうか? そしてもしオスカーが「もう一人」を見てしまったら? 彼は間違い無く「もう一人」をも告発するだろう。
そうなる前に、私がそれを阻止しなければならない。 「かれ」に知らせなければ……!)
(143) 2010/08/07(Sat) 01時半頃
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―アレクサンデル家・書庫>>139―
……へ?「どっちの側」?
[ぼんやりしていたせいか、ミッシェルの言葉に、間の抜けた答えを返した。]
んー…… 私は「どちら側であるか」を考えてはいけない立場だと思います。 私が「ヒトの身」と「ヒトの魂」を持ち合わせている限りは、ことの様子を見守ることしかできないのですよ。
ぼけーっとしているなあとか思われてしまいそうですけれども、ね。
(145) 2010/08/07(Sat) 02時頃
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あっ!そうだ!
[突然大声を上げたかと思うと、次にはミッシェルに顔を近づけ、ぼそぼそと小声で喋り始める。]
ミッシェルさん。 先ほどの話の続きなんですが……
「飾り職」としての仕事の依頼、です。 こんな場所でお願いするのも変な話なんですが。
あの……ですね。 ネックレスをひとつ、つくって欲しいんですよ。 ……女性に贈る類のものを。
(148) 2010/08/07(Sat) 02時頃
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―アレクサンデル家・地下書庫―
……そうですか。
[ふと表情が緩む。何かを誤魔化そうとして叫んだ己の言葉に、胸が小さく疼いた。]
ええ、できれば今すぐにでも。
[薄闇の中で、ぽつぽつと俯く。]
もし私のリクエストを受けていただけるならば、綺麗な碧色の石を使っていただけませんか?彼女はとても綺麗な碧色の目をしているのです。そして、彼女の身を護ってくれる力を秘めたチャームがあると嬉しいです。
……すみません、我が儘で。
そして、もうひとつ……
[ポケットの中からメモ帳を取り出し、英語で何かを書き付けた。]
(155) 2010/08/07(Sat) 02時半頃
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記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/07(Sat) 02時半頃
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―アレクサンデル家・地下書庫―
[財布から、少し多めに紙幣を取り出す。 そして、英語で書かれたメモと共に、ミッシェルの掌の中に押し込んだ。]
そこには、送り先の住所と名前が書かれています。 できあがったら、私に渡すのではなく、どうかそちらに直接送ってください。
もしかしたら私も命を落としてしまうかもしれない。私は「あの場所」にはもう帰れないかもしれない。
だから……
[薄闇の中で、時折言葉を詰まらせ、声を絞り出すように呟く。イアンの右手は、口許をおさえていた。]
そうなる前に、せめて彼女に…… 私の想いを……偽らざる願いを……
[口許をおさえる指の隙間に、小さな水滴が零れ落ちた。]
(157) 2010/08/07(Sat) 02時半頃
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―アレクサンデル家・地下書庫 >>159―
……ありがとう。 そう言っていただけるだけで、救われる心地がします。
[絞り出すような声で告げると、眼鏡についた水滴を指で払い、ポケットにしまった。]
それではミッシェルさん。 また、今宵の「祭」の時にお会いしましょう。
[読んでいた本を戻し、顔を上げてミッシェルに笑みを見せ、地下書庫を出る。
そしてイアンは、真昼の森の中へと向かっていった――**]
(160) 2010/08/07(Sat) 03時頃
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記者 イアンは、メモを貼った。
2010/08/07(Sat) 03時頃
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―真昼の森―
[ざわざわと揺れる森の影の間を縫うように、青年記者は転た寝をしていたあの倒木の元へとやってくる。]
――…こんにちは。 約束通り、やって参りました。
[森を駆け抜ける風が、そっと頬をなぞる。 イアンは「かれ」の髪がたおやかにそよぐのを、ただじっと見つめて居た。]
(166) 2010/08/07(Sat) 10時半頃
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