42 廃棄人形ーeverlasting love marionetteー
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―― 昨夜・自室 ――
いえ。 貰ったお薬は全部飲みました。
[宵も更けた頃合に自室にて。 担当医と父に囲まれて、問診は続いていた。 カルテらしきものにさらさらと記入するペンの音が 置時計の音と絡み合い、静かに時を流す。]
具合? ………頭痛と腹痛。 それと、下半身がずうっと痙攣して、ました。
[投薬後の具合を聞かれ、ぽつぽつと 思い出しながら、語る唇は痛みを思い微かに震える。]
(43) 2011/01/16(Sun) 02時半頃
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[本来であれば、診察は明日だった筈で。 わざわざ担当医から出向いてくる事など今までも無かった。 更に此度は父の監視付き、である。]
………ええと。 どうしようも無かった、から。
ベッドでじっと、してました。
[対処について、述べると。 担当医も父も、眉一つ動かす事は無かった。 ただ、無機質なペンの音が伝うだけ。]
(46) 2011/01/16(Sun) 02時半頃
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あの。
[ペンの音を遮るように、声を発する。 担当医と父の視線が此方へ向いた。]
お薬の量、減りませんか? せめて、飲む回数を減らす、とか。
[問う前から答えなど分かっていた。 けれど、聞かずには居れなかった。]
………そう、ですか。
[辿り着いた先は、思った通りの、ノー。]
(47) 2011/01/16(Sun) 02時半頃
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[担当医の説明が長々と始まってしまう。 幾度と無く聞いた、もの。 身体の為に必要なものだ、という話。]
はい。 ………ええ。 分かって、います。
[相槌も、変わらない。 結局は小さな世界をぐるぐると回っている。]
………え?
[けれど、唯一の違いがあったかと思えば。 それは寝耳に水の、一言。]
(49) 2011/01/16(Sun) 02時半頃
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厭。 ………厭です、そんなの。 厭――――。
[明日の診察次第では入院して貰う必要があるとの事。 厭だ、と首を振る所作はまるで子供の駄々の様。]
どうして、ですか? お薬もちゃんと飲んでる。 体調の良い日は、なんとも無い。
むしろ、お薬を飲んだ後のほうが ………体調が悪く、なるのに。
[こんな小さな世界でも。 更に狭められてしまうのは、何よりも厭だった。 普段は絶対にしない担当医と父への反発を確りと口にする。]
(51) 2011/01/16(Sun) 03時頃
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長い診察を毎日のようにするのでしょう? その都度、私は眠らなきゃ駄目?
[放たれた感情は留まる所を知らない。 流石にこの様子には父も担当医も驚いていた。 父に関しては驚きの理由が違うのだろうが。]
病院は、………行きたくない。 お父さま。
私は、厭です。 明日から、診察には罹りたくありません。
[父を睨みあげて、頑として意見を曲げない姿勢。]
(52) 2011/01/16(Sun) 03時頃
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[カリュクスの勢いに応じて。 父も怒号を発する程の勢いであれば良かった。 むしろ其れを何処かで期待していたのかもしれない。]
………そんな
[けれど、父は優しく穏やかに。 "娘"の身を案じての事だと、言い聞かせるように告げた。]
そんなの。 …………私は。
私は、死んでしまっても構わない。
(53) 2011/01/16(Sun) 03時頃
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例え短い間でも良い。 痛みも縛りも無い、時間が欲しい。 私は、
…………ただ。
自由が欲しいのに。 どうして?
それも駄目ですか、お父さま?
[言葉尻は涙交じりに。]
(54) 2011/01/16(Sun) 03時頃
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[父の大きな掌が頭に触れる。 何時もそうだった。 優しく暖かい掌が愛しむように撫ぜて行くのだ。]
―――――っ
[その温もりと共に"分かってくれ"と謂われれば。 娘、としてはもう、何も謂えなくなってしまう。]
………
[後は只。 父と担当医の会話を聞くでも無く、耳に入れていただけ。]
(55) 2011/01/16(Sun) 03時頃
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―― 翌朝・自室 ――
[朝も早く身支度をする姿が在った。 カリュクスは世間で起こっている事は何も、知らない。 自分の小さな世界と向き合う事で精一杯だった。]
………ジャン。
[庭先で愛犬が元気に駆けずり回っている。 其れを微笑で窓から見下ろした。]
暫く、逢えなくなるかもしれないね。 …………ごめんね。
[愛犬ですら、大事な"家族"だから。 何時ものように触れ合えば、それだけ別れが辛い。 我が身の未来を何となく察したからこそ、 "家族"には別れも告げず、静かに病院へと向かう。]
(56) 2011/01/16(Sun) 03時頃
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―― 広場・クレープ屋前 ――
……
[病院へ向かう道すがら。 クレープ屋さんの前で立ち止まった。 働いているのは以前のお姉さんだった。]
こんにちは
[ててっ、と歩いていって微笑で挨拶をする。 つ、とメニューを指差して]
ダブルクリーム生苺チョコ。 此れ、下さい。
[今日は問題無く買えるだけの金銭を持ち合わせて居たから。 叶わなかったものをひとつ、叶えてしまう。]
(57) 2011/01/16(Sun) 03時半頃
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[クレープが出来上がって行く様を見つめ、 お姉さんと暫しの会話に興じる。 内容はと謂えば、他者からすれば他愛の無いもの。]
あ。
[けれど、カリュクスにとっては愉しいもので。 出来上がったクレープに笑みを見せ、 両手で其れを確りと受け取ると]
ありがとう。
[礼を言い、手を振りながらその場を後にする。]
(58) 2011/01/16(Sun) 03時半頃
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[食べながら向かうのも悪くない。 歩き出し、口をつけようとした矢先。 向こう側から走ってきたのは、昨日の男の子だった。]
あっ。 ………何処行くの?
[聞けば、今から遊びに行く所だと謂う。 屈託の無い笑みを見て、眩しそうに瞳を細める。 手の中のクレープが羨ましいのか、 しきりに、"美味しそう"と連呼する男の子。]
食べる? ………私はまた今度食べるから。
良かったらあげる。
(59) 2011/01/16(Sun) 03時半頃
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[元気良く頷く男の子にクレープを手渡して。 小さく手を振りながら、その場を後にした。
手の中には何も無くなってしまった。 けれど。
少しだけ、代わりに何かを貰った気がした。 足取りは幾らか、軽く。 やがて病院へと辿り着く。]
(60) 2011/01/16(Sun) 04時頃
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―― 国立総合病院 ――
はい。
[病院に着けば、すぐに担当医のもとへ通された。 診察次第では、などと謂っていても。 たいした診察も無いあたり、 矢張り既に入院は決定事項だったのだろう。]
はい。
[特別、反発的な態度をとる事も無く 淡々と頷いては]
………わかりました。
[謂われるまま、傍の簡易ベッドへ横になった。]
(61) 2011/01/16(Sun) 04時頃
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[何時もの薬を点滴する、と言う。 腕に針が刺さり、静かに滴り落ちる雫。 其れを見つめていれば段々と眠気が身体を支配する。]
…………。
[ぼうやりとした意識の中で、 担当医の入院生活についての説明を聞く。 どうやら眠りから覚めれば身体は既に病室、らしい。]
………先生。 お願いが。
[唇を動かすのも億劫になって来る程の眠気。 けれど、一つ、伝えたくて一生懸命に動かした。]
(62) 2011/01/16(Sun) 04時頃
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愉しい夢を見れるお薬。 あれば。
………それが欲しいです。
[その言葉を最後に、意識は途切れて行く。 深い、深い、眠りの淵へ。]
(63) 2011/01/16(Sun) 04時頃
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[担当医は一つ溜息をついた。 目前のベッドに眠る、女を見下ろしながら。
愉しい夢を見れる薬。 そんなものは存在しないが。
あるのならばせめて、この子には。 この"人形"には投与してやりたい、と願う。
医療の更なる発展の為に その身を利用され続けたのだから せめてそれくらいの願いは、終わりの前に。
"廃棄"が決定された未来まで一時の夢を。]
(64) 2011/01/16(Sun) 04時頃
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お父、………さま
[小さな寝言。 傍に居ない温もりの名を呼んだ。 父に本当の"娘"がほかに居る事など知る由も無い。 その為の存在意義、だということも。 カリュクスにとっては実の父*なのだから*。]
(65) 2011/01/16(Sun) 04時頃
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