75 サプリカント王国の双子
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ブローリン! 今日がお前の命日だ!
2012/01/16(Mon) 03時半頃
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――ハンス私室――
[逸らしていた視線は少し上にあげられる。 自分も小柄な方ではあるが、相まって自分より4インチ以上上背のある大男だ。 恐らく簡単にやりあえる相手ではないだろう。 そう思えば、おもむろに部屋の奥に進んでいく。]
――私は、客人のいる中申し訳ないが、お二方には私室を出ぬようにして頂いたほうがよいと思っている。 手口は巧妙だ。これだけの使用人と警察の動いている中、悟られずに殺害を繰り返しているわけだからな。
[赤い花に視線が向かっているのを見た。確認した。 ああ、ミッシェルにも花を届けよう。最後の花になるはずだ。 そろりと伸ばしていた手は、木槌に触れた。]
(2) 2012/01/16(Mon) 17時半頃
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――こんな、風にな!
[思い切り振りかぶる。 狙いは頭部だ。不意をついてそこを叩けば、多少の体格の差は差にならない。 金属質にも近い鈍い音がした。しかし、使用人室とはいえ防音の行き届いた城の個室で、扉を閉めて。どれだけ音が外に漏れたというのだろう。 ハンスの喉が生理現象に鳴く。シメオン、と名を呼ばれたかどうか、呼ばれてもそれは愉悦を呼び起こすものでしかない。]
(3) 2012/01/16(Mon) 17時半頃
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ご安心を。 シルヴァーナ様は私に任せてくれればいい。
[口元が嫌な笑みに歪んだ。 ニ度、三度打つうちに、どさりと体躯が沈んだ。 ハンマーは割れた頭蓋に滲んだ血で赤く染まっていた。 獲物は裁ち鋏に持ち替えた。 仰向けに転がして、他と同じく叫びも犯人の名を告げることもできないように、喉を裂いていく。 肉を抉る感覚には慣れた。調理用の肉と思えばいい。鋏で切るのが難しいだけだ。 びくり、びくりとその度腕が動くので、近くから絹のストールを一枚引き抜く。シルヴァーナの男性のラインが出やすい肩と首を隠す薄布。鋏で裂いて、ぎちぎちに縛った。 縛ったところで、ひとつ浮かんだ。]
(4) 2012/01/16(Mon) 17時半頃
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[こんな指は潰してしまおう。 己よりも美しく王女を飾る手を。
また、ハンマーに持ち替えて。ハンス自身の身体を台に、指を叩き潰す。衝撃で裂いた喉が血を噴いても、気にも止めない。 嫉妬と優越感。目の前のこの男を手にかけられることに、己の行なっている行為を超えた快楽があった。 一本。また一本。赤いハンマーは更にその色を鮮やかにする。 そうして十本を潰し終えて、もう動かないハンスに満足を覚えると、喉の深い傷に、銀のタイピンを突き刺した。 いつもは彼のクロスタイがある位置へ、深く、ふかく。
銀が血肉に濡れて、ぬらりと輝いた。]
(5) 2012/01/16(Mon) 17時半頃
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[裂いた布地の残った部分で、べたべたの手を拭う。 そうして、まだ赤黒く残ったものもあるままで、ハンスの部屋を一度出た。
向かうのは給仕場。 打ち合わせをするのに少しばかりの茶と茶菓子を用意する、といったポーズで。 紅茶を入れるのに、手を洗う。本来の目的はこれだけだ。 機嫌良く鼻歌でも歌いたくなりながら、状況が状況なので自重し。 氷で冷やしたアイスティーとショートブレッドを用意してから、ハンスの部屋の方へ歩いていく。
すう、と息を吸い込んだ。]
(6) 2012/01/16(Mon) 17時半頃
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ハンス!!
[紅茶を側机において、駆け寄った。 血濡れの身体をゆすぶれば、己に血が跳ねるのも見咎められまい。 慟哭の演技は慣れなかったが、そこまで見るものがどれだけいるか。]
(7) 2012/01/16(Mon) 17時半頃
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誰か! 誰か来てくれ!!!
[大声で叫ぶ。 誰が聞きつけるだろう。 使用人、客人、シルヴァーナ、ミッシェル。 はじめに駆け寄ってきたものに、ハンスに双王女の件で呼ばれ、話のために紅茶を淹れて戻った時には、と現状を真逆に話すだろうが。 惨状を見れば、何があったか察するものもあるか。 ピンが刺されていたり、指を砕かれたりと、他の遺体より何処か徒に痛めつけられているところまで目が行くものは、少ないかもしれないが。
しかし、本当にはじめにその声を聞いたのが、まだ静かに動き続ける、ハンスの心の臓とは気付けなかったのは、己の大きな失態だったろう*]
(8) 2012/01/16(Mon) 17時半頃
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[叫び声をまず聞いたのは使用人だった。 王女の私室の近くで声を上げて、ふたりともの耳に入らないとは、世話係は殺人犯のうろつく城で何をしているというのか。 ――聞かれてしまうのも、心苦しかったのだが。 使用人はどんな顔をしただろう。息を詰める音が聞こえた気がした。]
ハンス、が。
[その声に、はっとしたように使用人は駆け戻る。 すぐにぬる湯を用意し、身体を清めるように、と。 それから伝達はこちらで行うので、少し休んで、と。 二つのことを告げた使用人に、ありがとう、と弱く笑む。]
大丈夫です。 私が休んでいたらミッシェル様に申し訳が立たない。
[手を洗い、頬に胸にとんだ血を拭う。 駆けつけた警察に検分を任せて、部屋を出る。]
(42) 2012/01/17(Tue) 01時半頃
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――廊下――
[思わず、部屋を出てしまったが。 行く先はない。雲隠れする、という選択肢はあるかもしれないが、この警備の行き届いた王城の中どこに隠れるというのか。
まだ、自分は知らぬことであったが。 今回のハンス殺害は、自分以外の容疑者が必ず誰かと会っていた。 どんなに演技を繕っても、強い疑いを避けられないだろう。
まだ、確信は持てぬことであったが。 おそらく、はじめの女王の死因は徐々に暴かれ始める頃だろう。 となれば、女王殺害は長期計画であったことが知られるか。]
(53) 2012/01/17(Tue) 11時頃
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[そうだ、花を摘みに行こう。 ミッシェルの好きな 花を。
少しでも心安らかに。 そしてもしも奇跡的に貴女がただの巻き込まれた悲運な少女なのだと解放されるならそのはなむけに。 そうでないとしても、捧げられる最後の花だ。
雨の中でも凛と立つ花を選ぼう。
ふらり。 足取りは雨降る庭園へ。]
(54) 2012/01/17(Tue) 11時頃
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――庭園――
[雨打つ庭の隅で、金の髪はしとどに濡れていた。 雨よけに乱雑に手を突っ込んで、ペーパーナイフで花を切る。 花一輪。二輪。ささやかな愛らしい花をいくつか。 それらの茎に、リボン替わり襟のブローチピンの針先を刺して。
そうして作った小さなブーケを手に、空を見上げていた。]
(62) 2012/01/17(Tue) 21時頃
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――庭園――
[声をかけられて、緩く視線はそちらに向いた。 緩慢な動き。薄く貼りつけたような笑みは、使用人としては完璧なものだった。 けれどこの状況からすれば、その笑みだけがひどく異質だった。]
エゼルレッド氏。
[なんだ、一人か、と思うのは心のなかでだけ。 そろそろ群をなして警察やら使用人やらが寄ってくるかと思っていたのに。]
貴方もすっかり濡れてしまっていますよ。 お風邪でも召されたら大変です。
[にこり、自分の濡れるのなど全く構わないというように。]
(75) 2012/01/17(Tue) 22時半頃
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ミッシェル様はどうしました?
[いないのならばそれでよかった。 大切な世話係シメオン、のままでここを去れる。
けれど、かなうのならば。 最後の時まで傍にいたい、などと思う、薄っぺらな感傷。]
(76) 2012/01/17(Tue) 22時半頃
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[戻りましょう、と言われても、またゆったりと笑って否定した。 例えばもしもミッシェルが一人になった時、これからは傍にいるべきは自分でない。目の前の、金のいろ。 風邪を引けばどちらが問題か、なんて、真犯人を知る自分にしか通用しないのだろうけれど。
ミッシェルの行き先を聞けば、少しだけ困ったように。]
私を、探しているのですか―― いえ、何が起きたかは知っています。ありがとう。
[眉を寄せる様子を見て、心根の穏やかな男だ、と思う。 ああ、こんな男早く警察に捕まって、無実を晴らされてしまえばいい。 それが彼にとってもミッシェルにとっても幸せなのだろうと、ぼんやりと思った。]
良ければ、ここにいる、と伝えていただけますか。 きっと私の言葉より、貴方の言葉のほうがミッシェル様に近い。
(81) 2012/01/17(Tue) 23時頃
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……何でも、ありませんよ。
[それ以上は、詳しく語る気はなかった。 知られるのが怖いわけじゃない。気づかないなら、それでいいのだ。]
どうして、は、考えてみてください。 さあ、早く戻ったほうがいいですよ。 夏の夜の雨は体を冷やします。
[二人の過去を知らなくても、これから自分はミッシェルから一番遠い場所に、行こうとしている。 そっと彼から距離を取るように、言葉で背中を押した。]
(84) 2012/01/17(Tue) 23時半頃
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[ディーンはどうしただろう。 遠く城の方から聞こえ来るざわめき。 自分の名前を耳ざとく拾う。
『シメオンは危険だ』
ようやくか、と思いのうちが口元に浮かぶ。 その声を聞きながらにして笑うこの男を、人はどう見るか。]
(92) 2012/01/18(Wed) 00時頃
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ええ、そのつもり、です。 ミッシェル様は花がお好きなので。 良ければ貴方が届けに行って下さいますか?
[花を止めるピン。そのピンについた紋章が何を意味するのかは、この青年は知っているのだろうか。 それごと渡そうとしているのだ。]
できません。
[会いに行って、と顔を歪ませる青年の言葉は、短くたったそれだけで否定された。 会いに行くなど傲慢にもほどがある。 もうこれだけの騒ぎだ。そろそろ己にかかる濃い容疑がミッシェルの耳にも届く頃だろう。 その上でどうして会いに行けようか。]
(95) 2012/01/18(Wed) 00時頃
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[――――なのに。]
(96) 2012/01/18(Wed) 00時頃
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[声がした。 はっと顔を上げた。 ドレスを翻して降りる姿。]
なりません!!!
[なりふり構わず、思わず声を張り上げた。]
(97) 2012/01/18(Wed) 00時頃
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――どうして、来てしまうんですか。
[ふるえるような、絞まるような思いが、ぎりぎりと胸に突き刺さった。
どうして来てしまうんですか。 私は貴女に追いかけてもらえるような人間ではないんです。]
(*0) 2012/01/18(Wed) 00時頃
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そんな顔をなさらないで。 ほら、ドレスも髪飾りも、そんなに崩されては職人が悲しみます。
[触れようとした手は迷って止まった。 泣きそうな二人がなぜか少しだけおかしかった。]
私からも、お願いします。 どうかご内密に。 貴方になら、心配ないとは思いますが。
(105) 2012/01/18(Wed) 00時半頃
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[しあわせになれ、と願う権利はあるのだろうか。]
(*1) 2012/01/18(Wed) 00時半頃
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引きずられる前に逢えてよかった。
[などと嘯いて、笑みは崩さないままに。]
一度にたくさんの質問をされても答えられませんよ、ミッシェル様。
ひとつめ。貴女のために花を用意しておりました。 庭師も容疑で出入りが難しくなっておりますから、私が直々に。 ふたつめ。時には雨に濡れるのも心地よいと思いませんか。 何もかも洗い流してくれるようで。
みっつめ。
(107) 2012/01/18(Wed) 00時半頃
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いいえ、と言ったら、貴女は信じますか。
[ミッシェルに敢えて、問う。 否定してほしい。突き放してほしい。 そうしてこんな下衆のことは忘れて、どうか知らぬ所でしあわせに。]
――――それが真実です。
(108) 2012/01/18(Wed) 00時半頃
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お優しい、ミッシェル様。 今この期に及んでこれだけ平然としている私が、貴女の前で胸を張って全てを否定することなど、容易いと思わないのです、か――
[そう、容易い。そう思って、心を隠して、冷たいまま、笑っていた。 なのに。 どうして今言葉に詰まってしまうのだろう。]
耳を塞いでいてください、などといっても、無駄なのでしょうね。
――はい。
[いいえ、に相反する言葉だけが、答えとして口から零れた。]
(114) 2012/01/18(Wed) 01時頃
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どうして。 難しい質問ですね。
[貴女を救いたかった、などというのは違う。 救えてなどいないのだから。 貴女を開放したかった、これも違う。 むしろ苦しみ嘆いているではないか。 貴女の願いをすべて叶えてあげたかった。 こんな、ことは、望まれてなんかいない。]
私の自己満足、でしょうか。
(119) 2012/01/18(Wed) 01時半頃
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[はじめにほんのかけらでも伝えられたら、よかったのだろうか。]
――愛していました。
[けれど、もう遅い。 呟きは雨にかき消されて、涙は雨粒に溶ける。]
(*4) 2012/01/18(Wed) 01時半頃
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