162 絶望と後悔と懺悔と
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―回想・サミュエルについて―
[黙って首を横に振ると、食堂に微妙な空気が流れた。 これまで好き嫌いをした事がなかった子供が、 初めて何かを食べる事を拒絶した。
サミュエルが作った野菜が初めて食卓に載った日の事である]
……、……
[態度の変化に、好き嫌いを窘める声よりも なんで? と疑問視する声が多く上がった。 だから言った。]
かわいそう
[小さな畑を手入れして育てた事を知っていた。 知ったから、今まで食べて来たその他の全部が そうやって、誰かが大事にしてきたもののように思えた*]
(346) 2014/02/09(Sun) 15時半頃
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[――だから]
[これは違うと知っている>>*188>>*189]
[生きるために食べるという行いとあの一夜 決定的に何かが違うと解っている。]
[髪を引っ張られる痛みに顔を顰めた。 刺され、と願った。 願うだけでは何かが足りなかった。]
[――だから、少年が首を縦に振るとすれば、 家族の誰かから説得があった後だった*]
(*197) 2014/02/09(Sun) 15時半頃
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[首筋を穿たれて、短い悲鳴を上げる。>>*198 口の中の自分の血を微かに甘く感じた瞬間、 小さな傷は塞がり、その味は途絶えた。
血の儀式により、人ならざる速度で回復する体となり 心臓に巣食った血統が、従属のために頭を垂れる事を教えた]
(*202) 2014/02/09(Sun) 16時頃
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―後日―
[命日(と、密かに心の中で呼んだ)から少し経ち、 絶賛絶食中の零瑠に尋ねられて、>>*182
独特の間よりも長い、時間があった。 ――勿論、答えるかどうかを悩んだのだ]
『柊』は、鬼を刺す……ん、でしょう?
[元の色が黒檀だった故か、直後の血の真紅から、 少し暗い色に落ち着いた瞳を伏せて俯いた。
けれど、結局彼らは眉ひとつ動かさなかった。 髪を掴んだ金の月影も、少年を従僕に仕立てた黒百合も]
(*204) 2014/02/09(Sun) 16時頃
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―それからの年月―
[一晩で熱も傷も癒えた。
その足で即、城を出た。 どこかでまだ生きているかも知れない家族のために。
その結果が、無表情のまま指を震えさせる現状であった。
城の外にいた人々に石を投げられたのだ。>>177 既に眷属となっている少年を、監視も誰も助けない。 石つぶてで死ぬ筈もなければ不要なまで。
無様に身を縮めて城の中に駆け戻った事で、 脆弱な雛は『家畜以下に怯んで逃げる』という記録を立てた]
(*212) 2014/02/09(Sun) 16時半頃
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[時間が来る度、傍仕えが血を流す事を首を振って諌めたが、 給仕は命じられた行動をやめる事はなかった。]
……ごめんな、さい。
[受け入れる代わりに、掌を合わせる事をした。 家族の様子を訪ねて回っても真弓には会えない。>>*206
与えられる全部が見た事のないもの。>>*195 孤児院の暮らしではゆっくりと温かく育まれていた知と情が、 ひどく冷たく急速に注ぎ込まれていった。]
(*213) 2014/02/09(Sun) 16時半頃
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[ある日、久しく会えなかった家族の悲鳴を聞いた。>>*208 いつの間にか、耳は遠く微かな音まで捉えるように、 脚は一息で飛ぶように速くなっていた。 気付かぬ内に、男児の遊びを遠くで見ているだけの のろまな子供は姿を消している。]
――真、弓ちゃん。真弓ちゃん……?
[扉を叩く。ドアノブを掴んだが鍵が開くかどうか。 微かに漏れ伝う紅の香が、寒気を際立てていた。]
(*214) 2014/02/09(Sun) 16時半頃
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[くずおれる真弓に駆け寄る。>>*215 毛足の長い絨毯がびしゃりと音を立てた。
全身真っ赤の体を支えようと手を伸ばして、 どうしたら良いのか、と戸口を振り返った]
……真弓ちゃん……っ
(*216) 2014/02/09(Sun) 17時頃
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[緋色の双眸は艶やかな翳りを含んで、泣いて見えた。>>*217 自分が与えられる血に後ろめたさを覚えながら けれど、甘んじている間も、一人で耐えたのだろう。]
……僕は、真弓ちゃん、にも、生きてほしい。>>*205
だから、ねえ。
つらかったら、頼って――いいよ。 家族なんだよ……?
(*218) 2014/02/09(Sun) 17時頃
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―回想・周について―
[伸ばした手は、額に当たる。>>286 苦笑したような周の言葉に、一度は唇を結ぶ]
……で、でも。いつか。
[膝を曲げて貰わなくても手が届くようになるから、 という意味の、文脈上残念な回答をしつつ。 少し緩んだ口元を目敏く見つけて、嬉しかった*]
(376) 2014/02/09(Sun) 17時半頃
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―回想・円について―
[中身を尋ねられて、返答に窮した。>>368 うまい答えでさらりとかわす、なんて芸当は出来ない。
その間、純真な眼がこちらを覗き込んでいるけど、 やがてにっこりと笑ってそれを返してくれた]
ありがと……円は、やさしい。
[ぽんぽんと抱き締めて頬ずりすると、とても温かい。 そう、家族にさわっている感触は、とても*]
(377) 2014/02/09(Sun) 17時半頃
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[なのに今、真弓の手はひどく冷たい気がする。>>*219 謝罪に首を振り、手の甲をさすっていると、 彼女を連れて行こうと、後から人がやってきた]
だめ。
[それを制する自分の声も、どこか冷たい気がした。]
……大丈夫、真弓ちゃん。 いなくなったり、しないよ――大丈夫。
だから、行って、おいで。
[しかし、家族に傾ける時には変わらず温かく。 安心させようと、一度手を握って、湯に向かわせた]
(*222) 2014/02/09(Sun) 17時半頃
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落胤 明之進は、メモを貼った。
2014/02/09(Sun) 18時頃
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[給仕から血を差し出されることがなくなり、 周囲に『動く血』が放たれるようになってから、 一時、少年はぴたりと食事をやめた。>>*196
狩りやすいと見なされ初めに与えられた子供達を、 決して襲おうとはしなかったのだ。
耐えて、耐えかねて、初めて意志で手に掛けたのは、 いつだったか家族の陰口を叩いていた大人の男だ。 卑怯にも足音を殺して後ろから襲った。
初めて命を選んだその日、意外と呆気なくて 誰にも何も言えなかった]
(*223) 2014/02/09(Sun) 18時頃
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[故に、己の周囲に大人が配されるのは早かった。 体が変わった分、箍になるのは心の方で、 敵意を向けて来る者の方が襲いやすかった。
――故に、己にとって『人間』は、 己と家族に敵意を向けて来る者なのだと、
少しずつ、少しずつ――
染み込んで、そして上達は早かった。]
(*224) 2014/02/09(Sun) 18時頃
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落胤 明之進は、メモを貼った。
2014/02/09(Sun) 18時半頃
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[やがて黒百合から本格的な訓練を受けるようになる。>>*199 披露された怯える人間達に、眉を顰める少年は 畏れ多くも、儀式を施した主に口を挟んだ]
……それは、――いやです、
自分の罰、は、自分で…………っ!
[言うが遅いか、問答無用で刺し貫かれる少女に、 今度こそ言葉を失った。>>*201 強くかぶりを振る。
嫌なら真面目にやることだと、真紅が笑っていた。]
それなら、――お願いが、ありま、す。
うまく、できたら…………外に出させてください。
(*225) 2014/02/09(Sun) 18時半頃
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[願いが興をそそったか不興を買ったか。
いずれにしろ、手を変え品を変えて賜る洗礼を 死にもの狂いで受け入れる以外に道はない。
敷かれた道を斃れるまでゆくしかないのなら、 それはただ、家族のためにゆきたい、とだけ]
(*226) 2014/02/09(Sun) 18時半頃
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[されど、柊。
心の臓を服従に巣食われながら、
鬼を刺す木は雪深く、息をひそめている**]
(*227) 2014/02/09(Sun) 18時半頃
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落胤 明之進は、メモを貼った。
2014/02/09(Sun) 18時半頃
明之進は、ミナカタの背に、少しは追い着けただろうか――**
2014/02/09(Sun) 18時半頃
落胤 明之進は、メモを貼った。
2014/02/09(Sun) 20時頃
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―回想・サミュエルについて―
[目を泳がせたサミュエルの言葉に、一拍おいて>>398 深く深く首を傾げる。 ――別に、野菜は嫌いではない。 その一言が咄嗟に出ない性質だった。
それに加えて、明之進はあまり頭がよいとも言えず、 恐らく孤児院の中でも、ものを知らない子供だった。
かつて、母は明之進をあまり外に出したがらなかった。 外へは必ず母と一緒に出て、友達という存在も覚えがない。
皿から鍋に戻していくサミュエルの背中をひたすら見つめ、 後で養母さんにお小言をもらったのは言うまでもなかった。
多分サミュエルも、皆に好き嫌いをさせないようにと 養母さんからのお願いが行っただろう]
(410) 2014/02/09(Sun) 20時半頃
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[『いいがら、野菜をぐえ』>>198
やがて彼の野菜攻勢は手を変え品を変えて始まった。 残さず食べた方が喜ぶのだという事も知った。
なんとなく、それまで明之進の中で宙に浮いていた 『いただきます』と『ごちそうさま』が 畑で屈んでいるサミュエルの背中にぴとりと着地して、 野菜が嫌いな子供達もきちんと食べられるだろうかと 最後までじっと見守っているようになった*]
(411) 2014/02/09(Sun) 20時半頃
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[家族の様子を訪ねて回ると、リカルダは決まって 大丈夫だと主張して振る舞った。>>*229 少しでも笑顔が増すように、時々手を握った。
最後まで耐えた真弓は砕けてひかる氷になった。>>*221
理依や直円を訪ねる事は出来ただろうか。
零瑠が血を見て倒れなくなったと聞いて、 少年は少しの安堵を抱いたけれど、 彼自身は、それをどう思っているのか。]
(*237) 2014/02/09(Sun) 21時頃
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[そう言えば、この城に来てから初めて、 少年は自分ひとりの部屋をもった。
最初は四六時中を母と共にし、 孤児院では近い年頃の子達と寝起きしていたから]
ひとりだと、時々、暇だから、 ……時々で良いから、遊びに来て、くれる?
[家族には、そうお願いしてみた。 いつしか自然に、彼らには形見の事を打ち明けても良いと、 もっと言うと、打ち明けておきたいと思うようになった。 どこか、予感めいていた。]
(*241) 2014/02/09(Sun) 21時半頃
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[ある日、理依が真弓に声を掛ける。>>*239 めっきり口数の減った彼が珍しいな、と思ったら、 それは狩りの方法についての話題。
けれどせっかく話をしているならと、 歩み寄って耳を傾ける。>>*240]
(*242) 2014/02/09(Sun) 21時半頃
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[誰かが話している時、会話の狭間でじっとしている、 これは昔から変わらない。
何もして来ない人間が死ぬのは可哀想だけど、 家族に悪意を向ける人間には当然の報いを降らせる。 そういう事だと思っていた。]
(*246) 2014/02/09(Sun) 22時頃
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―ある日、自室にて―
……良い機会、だから、真弓ちゃんにも、見せるね。
[願いに応じて部屋を訪れてくれた真弓に告げて、>>*248 厚いカーテンをぴったりと閉じて蝋燭を灯す。 彫金の傘を被せると、部屋の陰影が深くなる。
懐から手鏡を取り出した。 裏面の花鳥図を指で撫でて、くるりと返す。
包む巾着は新しい、やはり上質のものに替えられて、 あの日、血に汚れた形見は引き出しの奥に仕舞っていた。
蝋燭の光をあてて暗い壁に向ける。]
(*251) 2014/02/09(Sun) 22時半頃
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――きれい、でしょう?
昔、隠れ切支丹が……お祈りをするために、 こういう細工を、使ったそうだよ。
[それはただの鏡ではなく、鏡面のごく僅かな歪みによって、 繊細な光の形をなすもの――
柊、ではない。牡丹の紋様だった。
それが意味するところを、今の持ち主は知らない。 知る筈の誰かのやさしさだけが朧に、雪の下に在る。*]
(*252) 2014/02/09(Sun) 22時半頃
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理依君、に? ううん――
僕は……難しい、んじゃ、ないかな。
[同じように苛烈な過程で練り上げられてきたものの、 明之進と理依の間には血の壁がある。>>*250]
……でも、練習なら。してみても、良いかな。
[案外、他の吸血鬼と組手するよりも良い練習かも知れない。
最近は安定して勝てるようになっていた。 始祖に献上するものの品定めにも同行させて貰えるよう 黒百合に願い、少しずつ叶うようになって来ている。
――ここまで、五年かかった。>>*254]
(*256) 2014/02/09(Sun) 22時半頃
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―初陣の前―
[召喚を受ける時は必ず、黒百合の後ろや、 理依や真弓や零瑠よりも下がった位置につく。>>*263
この習慣は、心臓の巣食いとともにすぐに覚えた。 不要な言葉も発しない。]
……承知しました。
[和装をすることは昔から変わらないが、 腰にある短剣は西洋の趣を備えている。]
(*265) 2014/02/09(Sun) 23時頃
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―回想・リカルダについて―
もちろん……夜でも、良いよ。一緒に寝る?
[眠りたいのに眠れない事があるのだと、察する。>>*260 自分が傍にいる事で、少しでも安らげるなら。 手を握り、頭を撫でる事が許されるなら。 形見の手鏡の事も、そうした晩に彼女へと教えた。]
――うん。
[リカルダが手を伸ばす時、どこかこわごわと尋ねる。 だからいつも、笑みを浮かべて許し、両掌を差し出す。 そうして、]
痛くは、ない? 痛くないなら……大丈夫だよ。
リッキィは大丈夫。
[尋ね返すのだ。*]
(*277) 2014/02/09(Sun) 23時半頃
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―回想・真弓について―
うん。 ――お母さんの、形見だったんだ。
[壁に近付く真弓によく見えるように、角度を変える。>>*268 何か祈るのかと尋ねられて、こくりと頷いた。]
……家族が皆、無事で、ありますようにって。
祈ってる。
[揺れる火には温度があった。 滑らかな頬を優しく照らしている。]
そう言えば、牡丹は、紙で折れるのかな……?
[彼女の部屋に散らされる千代紙を思い出す。 もし作れるのなら見てみたい、と願った。*]
(*280) 2014/02/09(Sun) 23時半頃
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――はい。
[出立するところ、零瑠に呼ばれた。>>*281
主である黒百合が己を呼ぶ様子がないのを見ると、 彼の元に控える。]
(*283) 2014/02/10(Mon) 00時頃
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