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ヤカモトに4人が投票した。
みょんこに2人が投票した。
ヤカモトは村人の手により処刑された。
時は来た。村人達は集まり、互いの姿を確認する。
みょんこが無残な姿で発見された。
現在の生存者は、ヘイタロウ、ワット、ハルミチ、ヨーランダの4名。
[ そのあとしばらくして、
ジャーディンは静かに立ち上がり、
覚束ない足取りで部屋に帰っていった。]
[ あれから4日が経っていた。]
[ 水道が止まった。]
[ 少し前からいずれ止まるだろうと警戒して、
できるだけ水を貯めてはいたけれど、
無尽蔵に使えるわけではなくなってしまった。
あの日以来、
わたしたちはまたわずかな食糧で、
糊口をしのいでいる状態だった。
できるだけ長く生きるために。
今あるもので、できるだけ長く。]
[ 平和的に過ごしている理由は、
それだけではなかったわ。
ジャーディンが降りてこなくなったの。
一日中、犬たちのいる部屋で過ごしてね。
毛布を一枚持ち込んで、
お手洗いに立つ短い時間以外、
部屋の壁にもたれかかるようにして、
じいっとその場を動かなくなってしまった。
食事の時間になるたびに、
わたしはあの子の分を部屋まで運んだ。
それから、時折犬にエサをやるときも。]
[ もうとても毎日はやれなかったけど、
残り少ないエサをたまにやっていたのね。
それは必ずしもわたしの役割ではなくて、
部屋にいるあの子に任せてもよかったけど、
たぶんわたしはあの部屋に行く理由がほしくて、
度々エサをやりにいっていた。
わたしがエサ皿にフードを流す間、
ジャーディンは何一つ見逃すまいとするように、
じいっとこちらに視線を注いでいたわ。
そんな状態だったから、
誰もそろそろ≠ネんて言い出せずにいた。]
[ けれど、もう限界だった。]
[ 日に日にチビちゃんたちの口数が減って、
大人たちも塞ぎこむことが増えた。
お隣の息子さんはしきりに、
外へ出ようとご主人に訴えかけてたわ。
また何か見つけられるかもしれない。
また何か捕らえられるかもしれない。
その可能性に縋っているようだった。
あの手この手でそれを躱していたご主人が、
その日、ついにわたしの元へやってきたの。]
わかっているでしょう。
もう、次の手を打たなくては
[ それが何を意味しているかなんて、
火を見るよりも明らかだったわ。*]
【人】 頭蓋骨と骨 ヘイタロウ――砂漠荒野の建物にて―― (0) 2020/10/26(Mon) 14時半頃 |
【人】 頭蓋骨と骨 ヘイタロウ[男は色々と話してくれた。 (1) 2020/10/26(Mon) 14時半頃 |
【人】 頭蓋骨と骨 ヘイタロウ
(2) 2020/10/26(Mon) 15時頃 |
【人】 頭蓋骨と骨 ヘイタロウ
(3) 2020/10/26(Mon) 15時頃 |
【人】 頭蓋骨と骨 ヘイタロウ[そして、僕もそろそろ人探しをSNSでお願いしないといけないかもしれない] (4) 2020/10/26(Mon) 15時頃 |
【人】 百姓 ワット[それからは毎日、早朝に畑を管理して、 (6) 2020/10/26(Mon) 18時頃 |
【人】 百姓 ワット[既に廃車になったような車を見つければ (7) 2020/10/26(Mon) 18時頃 |
【人】 百姓 ワット[ぶるぶる首をふる。] (9) 2020/10/26(Mon) 18時頃 |
【人】 墓守 ヨーランダ― 秋葉原 ― (10) 2020/10/26(Mon) 19時頃 |
【人】 墓守 ヨーランダ[なんにせよ。 (11) 2020/10/26(Mon) 19時頃 |
【人】 卐黒帝會卐 ハルミチ[高校に避難してから、早4日。 (12) 2020/10/26(Mon) 19時頃 |
【人】 卐黒帝會卐 ハルミチ ……まぁ、そうだよな。 (13) 2020/10/26(Mon) 19時半頃 |
[ 扉を開けたわたしを、
あの子はじいっと見つめていた。
何も言わずに、ただわたしだけを。]
……ジャーディン、
[ 犬たちと寄り添いあうようにして、
ジャーディンは足を投げ出していたわ。
切れ長の目はこちらを向いていたけど、
そこにあまり力はなかった。
どこか気だるげにも見えたのね。
緩慢な動作で傍らの犬の毛を梳きながら、
それでもあの子はゆっくりと口を開いたわ。
平坦でいて咎めるような声色が、
はっきりわたしに向けられているのが分かった。]
……殺すの?
[ ああ、ジャーディン。
あなたはこのまま死ぬほうがマシだというの?]
ジャーディン、わたしは……、
[ わたしは……何と言いたかったのかしらね。
あの子に何を伝えたかったのかしら。
あなたに生きていてほしいってこと?
それを伝えることに意味があるかはさておき、
確かにそれはわたしの最大の望みだった。
あの子が望むと望まざるとにかかわらず。
けれどね、
わたしがそれを口にすることは叶わなかった。
しびれを切らしたお隣のご夫婦が、
様子をうかがうように部屋の中に入ってきた。]
[ この間のように、
わたしが犬を連れだす算段だったのね。
けれどわたしはちっとも出てこないし、
あの子が部屋に居ついていることは、
当然彼らも知るところであったから、
自分たちで直接説得しようと思ったのかも。
とにかく、彼らは部屋に入ってきて、
それでもあの子はわたしを見つめていた。
視線ひとつとして揺らすことなく、
ただ、わたしの答えを待つようにして。]
[ そのときだったわ。*]
[約15日。
二週間と一日。
土日がたったの二回きり。
世界がこうなるのにかかった時間。]
[終わりなんてあっけないもんだ。]
[あれから俺は何度か元帥と外に出向いて
無い食料を探してはゾンビを殺し続けた。
ちょっと昔のホラーゲームに
主人公が永遠にゾンビを殺すエンドがあったけど
ちょうどそんな風に、どこからともなく沸き続ける連中を
殴って殴って殴り続けた。
都内ってこんなに人住んでたっけ。
こじんまりしたかつての首都の中に
滅亡とゾンビがみっしり詰まってる。]
[元帥は相変わらず
何事にも関心がなさそうな冷たい目をしてたけど
たまにゾンビを殺す俺を複雑そうに見るようになった。
聞いてみたら、元帥もまた、
ゾンビになった恋人を殺したんだそうな。
俺にシンパシーでも感じてんの、と笑ってやったら
そんなわけねえだろ、とそっぽを向いていた。
へんなやつ。]
[ショッピングモールの中で
元気に遊んでた子供たちが倒れだす。
大人も動くことが減った。
「このままじゃもう保たない」と叫んで
バリケードの外に出ていこうとした男が
ゾンビの襲撃を恐れた人間たちに撲殺された。
限界がすぐそこに来ていた。
崩れるのはあっという間だ。
俺の楽しい大学生活が
ゾンビに侵された時のように。]
[――だからその日は、ほんとにあっけなくやってきた*]
[ それは終わりを告げるサイレンのようだった。]
[ 犬たちがけたたましく吠え出したの。
はじめは一匹。呼応するように次々と。
普段はそんなことなかったのよ。
そりゃ来客も少ない家だったから、
彼らを刺激するものも少なかったけど。
それにしたって、
思わずその場にいる誰も硬直するくらい、
尋常じゃない勢いだったの。
わたしたちは揃って数秒間、
あっけにとられたように固まっていたわ。
ジャーディンでさえ心底驚いた様子だった。]
[ その間も彼らは吠え続けた。
じきにガウガウと吠えたてる声に、
あおおおおんと遠吠えまで混ざりだした。
そのころになってようやく、
ご主人が慌てた様子で窓に駆け寄った。
ジャーディンも同じように窓を振り返った。
わたしと奥さんもあとに続いたわ。
犬たちはまだ叫び続けている。
どん、どん。
鈍い音がどこからか聞こえてきたの。
音は次第に大きくなる。どん、どん。どん。
わたしたちの見下ろす窓の向こうには、
門扉に群がる無数の影があったわ。
犇めき合い、波立つように押し、押され、
まるでひとつの大きな塊のようにも見えた。]
[ どん、どん、と何かのぶつかる音がする。
音? いいえ、地響きのように、
わたしたちの体の奥へと響くようだった。
鳴りやむ気配などまるでなかった。
やめさせてくれ!≠ニご主人は叫んだ。
叫んだはずよ。わたしにはそう見えた。
けれどその声さえも飲み込むように、
周囲には犬たちの鳴き声がこだましていた。]
──裏戸が。
[ つぶやいたのはわたしだった。
門扉が破られることは早々ないとしても、
裏は鍵をかけているだけの木戸なの。
きっと聞き取れなかったんでしょう。
ご主人が怪訝そうにこちらを見たわ。]
[ ああ、どうしましょう。
そう思ったときにはわたし、動き出していた。
たったひとり、ジャーディンの腕だけを取って。]
[ あっけにとられているあの子の手を引いて、
犬の声のこだまする廊下を進んだわ。
一生懸命走っているつもりだったけど、
ジャーディンは速足ですいすいとついてきた。
階段を降り切ったあたりで、
弟さんのお嫁さんが血相を変えて駆けてきた。
上階から響く犬の声と、
家を取り囲むような鈍い音、
それから誰かの悲鳴と銃声。
ありとあらゆる音が重なって、
彼女の声はとぎれとぎれに聞こえたわ。]
ね ンビ い の かに る の
[ きっとわたし、立ち止まるべきだった。
立ち止まって彼女の声を聴くべきだったわ。
でもね、わたしはそうはしなかった。
立ち止まろうとするあの子の腕をぐいと引いた。
足早に廊下を進んで、ひとつの扉を開けたわ。
そして、中にあるデスクの引き出しから、
迷いなくあるものを取り出したの。]
──行って、ジャーディン。
ここはもうだめ、持ちこたえられない。
[ さっきまで引いていた手の中に、
わたしが強引に握らせた小さなものを、
ジャーディンは一瞬不思議そうに見た。
そして次の瞬間、勢いよく顔をあげたわ。
泣きそうな顔をしていた。
何かに怯えているようにも見えたわ。
本当に利口な子。その意味をきっと分かってる。
それは車の鍵よ。おじいさんの車の。
古臭くてぴかぴかの車を動かすための鍵。]
[ そして、それがわたしの答えよ。]
[ ジャーディン、あなたを生かすためなら、
ほかの何を犠牲にしたって構わないわ。]
[ わたしはジャーディンを急かすように、
入ってきたばかりの扉をまたくぐった。]
早く逃げて。とにかく一度車の中へ。
身を隠せるわ。音のほうに来るはずだから。
[ そう告げながら、廊下へ出たのね。
ガレージのほうへと導くつもりだった。
そのとき、おかしな音がしたわ。
音っていうのかしら、声? 低い声よ。
そう、家を取り囲むあいつらが出すような。
そして、ふとおかしなことに気付いたの。
どうしてさっき、銃声がしたの?
木戸が壊されて窓やドアを破られて、
家の中まで入ってこられるには早すぎる。]
[ わたし、声のするほうを振り返ったの。*]
【人】 墓守 ヨーランダ[調達したのは軽トラ。 (14) 2020/10/26(Mon) 21時頃 |
【人】 墓守 ヨーランダ[咥え煙草のままアクセルを踏み込んで。 (16) 2020/10/26(Mon) 21時頃 |
【人】 卐黒帝會卐 ハルミチ[一部の者は、理科室や家庭科室で、苦痛の少ない死を選び。 (17) 2020/10/26(Mon) 22時頃 |
― 隔絶された広い世界で ―
[割れた窓から入った風が頬を擽った。
その心地よさに、乾いた目を細めた。]
……。
[元より賑わいと無縁だった店内には、沈黙だけが満ちる。
コートのポケットに手を入れた。
ドアの側に落ちていたスマートフォンは縁が欠け、
表面にも亀裂が走っている。
指で画面をなぞってみても反応は何もない。]
[スコップ片手に裏口を出た。
どんよりと曇った空の下、所々荒れた畑が広がる。
収穫を待つばかりのそれらを靴底で踏み潰して、
既に道のように平らになった区画へ出る。]
[轍の傍ら、土の山の前に膝をついた。
取り出したスマートフォンをその上に置く。
薄汚れた手を胸の前で組み、首を垂れて目を閉じた。]
[周囲には、他にも似たような土の山がある。]
[大柄な男が、土を掘っていた。]
【人】 百姓 ワット[町はといえば、 (18) 2020/10/26(Mon) 22時頃 |
[店の裏にある小さな家へと入った。
動線を大きく取った室内には、元々物は多くなかった。
ハウスキーパーのドロシーが来たばかりだったのだろう。
床にも机にも書物が出しっぱなしだった形跡はない。
その中で唯一物が積まれているベッドへと向かった。
一人目の上着を取り、
二人目のマフラーを巻いた。
三人目のリュックには、
四人目の水筒と六人目の懐中電灯を入れた。
五人目は何も持っていなかった。
出て行く前に、使い込まれた様子の机の前に立った。
椅子はない。写真立ても、レターケースもなかった。
掌で木の質感を確かめると、手の形に埃が退き、
代わりに泥まじりの土と濁った色が線を引いた。]
あいしていたよ。
[返事をする者は、どこを探しても見つからない。]
【人】 百姓 ワット
(19) 2020/10/26(Mon) 22時頃 |
[トラックの運転席へ足をかけた。
取り替えたタイヤが凹んだ土をしゅわり、轢いていく。
ラジオのボタンを押すも、ノイズすら聞こえなかった。]
――♪
[だから歌を歌おう。
何もないこの場所で、歌詞も知らない誰かの歌を。
トラックは、先の見えない道を進んでいく。]**
【人】 百姓 ワット[雷門のじーさんは、 (20) 2020/10/26(Mon) 22時頃 |
【人】 百姓 ワット
(21) 2020/10/26(Mon) 22時頃 |
【人】 百姓 ワット[いつだったか、随分前に (23) 2020/10/26(Mon) 22時頃 |
【人】 百姓 ワット
(24) 2020/10/26(Mon) 22時頃 |
[ そこには何かが立っていた。]
[ はじめに目に入ったのは、
ぼとりと無造作に取り落とされた、
赤と肌色の入り混じった物体だった。
よく見たらその先端は五つに枝分かれして、
つまり人の手と同じ形をしていた。
ほんの今まで齧りつかれて
ところどころ白い骨が見えていた。
ひいっとジャーディンが小さく叫んだわ。
すると、ゆらゆらと揺れていた細い影が、
首を無理やりに傾けるようにこちらを見た。
そして、わたしたちを見つけた。
ず、ずずと足を引きずって、
それはゆっくりとこちらに近づいてくる。
穴の開いた顔をこちらに向け、細い腕を伸ばして。]
[ ああ、ノーリーン。]
[ ……まるで誰かを探しているようだった。]
[ 足がすくんでいる様子のジャーディンを、
わたしはぐいと逆方向へと押したわ。
ノーリーンがやってくるのとは逆へ。
奇しくもそれはリビングのほうだった。
キッチンの勝手口を抜けてガレージに行ける。]
いいわね、隙を見て車を出しなさい。
そして逃げるの。どこか遠くまで。
[ わたしがこれだけ言うのに、
ジャーディンはいやいやと首を横に振った。
わたしの腕を引くの。強い力で。
その間にもノーリーンは距離を詰めたわ。]
──行きなさい、ジャーディン!
[ わたしは強い口調でそう言った。
ノーリーンははっきりとこちらを見ていた。
いっしょに行こう≠チて、
この期に及んであの子が駄々をこねるの。
でももう無理よ。見つかってしまったもの。
この廊下の先に続いているのはリビングで、
そこにはチビちゃんたちがいるはずなのよ。
そんなの、だめに決まってるじゃない。
ジャーディンときたら、
本当に一度言い出すと聞かなくてね、
きっとこれは娘に似たのね。だって……、
あら、この話って前にもしたかしら。]
[ つまり、仕方がなかったの。]
[ わたしはノーリーンの眼前に、
自らの左腕を勢いよく突き出した。
ああ、少しかっこつけちゃったわ。
みっともなく腕は震えていたんだもの。
ノーリーンがそれに、
素早く崩れかけた顔を寄せるのと、
ジャーディンが何かを叫びながら、
千切れそうな勢いでわたしの腕を引くのと。
たぶん、ほとんど同時だったわ。
わたしの体はふたりで半分こできないし、
つまり、わたしは彼女に噛まれた。]
[ いのちにも優劣はね、あるのよ。]
【人】 卐黒帝會卐 ハルミチ「おーーーい、ペンキ持ってきたぞ!」 (25) 2020/10/26(Mon) 22時半頃 |
[ こんな皺くちゃでまずそうなお肉で、
なんだかちょっと悪いわねえ、ノーリーン。
もちろんその瞬間のわたしに、
そんな余裕なんてこれっぽっちもなくて、
わたしは喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
お隣のご主人、
よくクーパーに噛まれて堪えたわよね。
わたしなんてもう半狂乱になっちゃって、
ジャーディンが一瞬怯んで力を弱めたくらいよ。
ひいひいとわたしはあえいでいたわ。
痛くて痛くて泣いちゃいそうなくらい。
でもね、わたしの顔を覗き込むあの子が、
あまりに痛々しい顔をしているから、
ほら、Nanaとしては泣いてられないでしょ。]
[ ノーリーンはまだわたしに夢中だった。
わたしという肉に。今がチャンスだった。
一向に動く気配のないジャーディンに、
わたしは声を詰まらせながらも言ったわ。]
……行くのよ、ジャーディン。
どこか、どこか遠くまで……、
そうね……、西がいいわ。
ずうっと西へ……どこまでも……
それが、わたしの最後のお願いよ……
[ いつもお願いを聞いてくれたじゃない。
とうとう涙をこぼしだしたジャーディンに、
わたしは何と言ってやればいいのかしらね。
ねえ、これがわたしの最後の役目だとしたら、
わたし、本当に光栄よ。信じてくれるかしら。]
[ けどね、わたしも人間だから、
最後に少し欲が出ちゃったのね。
お別れを惜しんでいる暇はないというのに、
最後にどうしてもこの手であの子に触れたかった。
痛みで全身がひきつけでも起こしてるみたいに、
無事の右手を伸ばすのも一苦労だった。
今日はちゃんと撫でさせてくれるのね。
少し固い髪も、丸みの減った滑らかな頬も、
全部全部、わたしの宝物だったわ。
わたしがいなくなっても、わたしの宝物を、
この広い世界を漂う見知らぬ誰かが、
守ってくれますように。愛してくれますように。]
……あなたはとても素敵な子だもの。
きっと助けになってくれる人がいるわ。
愛してるわ、ジャーディン。
あなたのことが大好きよ。
……だからどうか、生きて。
あなたが生きていることが、
わたしにとっての幸せなの。
[ ……ようやく決心がついたように、
ジャーディンはゆらりと立ち上がったわ。
あんまり痛いやら悲しいやらで、
もうこれ以上目を開けてたら、
とめどなく涙が出てきそうだったの。
だからわたしは目を閉じたのね。
わたしが泣いたらやさしいあの子は、
心配して戻ってきちゃいそうでしょう。]
[ 足音が遠ざかっていくのを、
暗闇の中で懸命に聞いていたわ。
少し離れたところで、
あの子がウィレムとゾーイを呼んだわ。
ずいぶん焦った声で何か言ってる。
ああ、オッドもいたのね。よかった。
ぱたぱたといくつかの足音が遠のいてく。
ねえ、ノーリーン。
安心してね、あの子やさしいの。
一人っ子なのに面倒見がよくってね。]
[ ……ああ、ジャーディン。
もうやさしくなんてなくたっていい。
お利口になんてしなくていいのよ。
だからお願い、生きて。どうか生き抜いて。]
[ ……でもね、わたし本当は、
やさしくて利口なあなたが好きよ。]
[ けたたましい音が響いたわ。
何かしらねえ。もうよくわからないの。
人の声もするわ。
お隣のご主人かしら。それとも息子さん?
あんまり騒がしいから、
ノーリーンがわたしを食べるのをやめて、
そちらへ向かうことにしたみたい。
ああ、床に転がっていると、
木戸を打つ音がよく体に響くの。
もうきっとだめねえ。
じきにここもまた騒がしくなるわ。]
[ べろりと何かが頬を舐めた。
やあねえ、くすぐったいわ。
そこにいるのは誰かしら。
犬たちの吠える声は、
今はてんでばらばらに聞こえるわ。
ごめんなさいね、こんな飼い主で。
あなたたちのことを守ってやれなくて。
わたしの一番にしてあげられなくって。
もう、逃げてもいいのよ。
こんなこと言って、
わたしは本当にひどい人間ね。]
[ 雑多に音が響く世界で、
わたしは静かに耳を澄ませて、
そのときを待って呼吸をしていた。]
[ そして、そのときはやってきた。]
【人】 卐黒帝會卐 ハルミチ[全員分揃ったところで、皆で学ランを羽織り、気に入った武器を持った。 (26) 2020/10/26(Mon) 22時半頃 |
[ ……ああ、よかった。
かすかに、エンジン の、音が──、**]
【人】 卐黒帝會卐 ハルミチ ─────ッしゃ行くぜェーーーーーッ!!! (29) 2020/10/26(Mon) 22時半頃 |
[遠くで何かが崩れる音がした。
ショッピングモールの元噴水広場で
子供たちとサッカーをしていた俺は
びくりと背を震わせて騒音の方を見る。
何してんの、とか、
もう耐えられない、とか、
そんな声が聞こえた気がして、
すっかり得物になってしまった金属バットを構えた。]
[ 最後に見渡した電子の世界は、
それでも綺麗事に満ちていた。
もう一度私は、私の中の毒を投稿しようとして。]
あれ───
[ 投稿画面ボタンを押したまま画面が止まる。
ローディング中のまま、何秒経っただろう。
「投稿に失敗しました」
無機質なメッセージが画面に表示されて気づいた。
携帯が圏外になっていた。]
ああ───もう。
[ 私の怒りは届かない。
恐らく近くの基地局がやられたのか、
そもそもインフラが死んだのか。
いずれにせよもう私の怒りは世界に届かない。]
―― とある非人間の日常 ――
[ヴゥン、ヴヴゥン。
鄙びた雑居ビルの一室で、
空調が低い唸り声を上げている。
――いいや、違った。
ボロボロのスーツ姿の男が喉を鳴らして
奇妙な呻き声を漏らしているのだ。
壁の配管に手錠で繋がれた男は
ギョロ、ギョロと作り物の人形のように
充血した眼球を時折動かしている]
[ひとだったものを殺すことにすっかり慣れてしまった。
それでも、虫の知らせというか
嫌な予感には背筋が震えた。
駆け込んできたダンス部のJK――菜々緒が叫ぶ。]
「榎本さんが外に出て……
だめ、バリケード、崩されちゃった。
ゾンビたちが来るよ!」
――、
……ああ。とうとうかぁ……
[悲痛な叫び声だった。
子供たちは悲鳴をあげて各々、
母親や父親と思いつく限りの隠れ場所へと向かう。
元帥、と、俺は噴水の傍で
うたたねしていたそいつを揺さぶって
寝ぼけ眼に悪い知らせを叩きつけてやった。]
ま、ま……まるとく じょうほ……
れれれれれれいばんの
さんぐぐぐらす
げ、げ……ていにじゅううよ、よじかん
とっ……………か、ににににせんよんひゃ……
えん おとく で
くくくくくくりっく
[けたけた。けたけた。
かつて人間だったものは愉快に繰り返す。
人間の声音とはかけ離れたそれは、
まるで壊れたレコードのようだった]
[偽物のサングラスの入った
段ボールに囲まれて
男は仮初の命を享受する。
時折、血に飢えたかのように
自らの腕を齧る。
白い骨が、めくれた皮膚の合間から
見え隠れしていた]
[痛みもない。苦しみもない。
ただただ、楽しくて。
仲間を増やさなきゃ。
なんだかおなかが空いたし。
この手錠、邪魔だな。外れない。
腕を捥いじゃおうかな。
今はやめとこう。
ああ、おもしろい。しあわせ]
「食料が尽きるかバリケードが崩れるか
どっちが先に来るかって話だったな」
ねーえ、元帥。その通りだけどさ、
おまえさん達観しすぎでない?
「政府からの物資も届かなくなったし
おまえだってわかってたんだろ? ジリ貧だってよ
……さて」
[元帥はあたりを一瞥する。
逃げ惑う子供たち。
ひとまず歳の小さいものの命を
優先しようとする女たち。
我関せずとありったけの食糧を持っていこうとする
だらしのない男たち。]
……あは
[心底幸せそうに、それは笑った]**
「今俺達の目の前には選択肢が二つあるわけだ。
逃げるか、戦って死ぬか」
[どうする? と元帥が死んだ目を向けてくる。
すっかり血の滲んだバットを肩にかけて
俺は力なくにっと笑って、
栄養不足気味の痩せた体で胸を張って
格好をつけてみせた。]
サイコーにカッコいい三択目。
戦って生き残る、に決まってんでしょ。
[男子よ、最期まで英雄たれ。
そう格好つけて言い放った直後。
ショッピングモールの入り口付近のバリケードが
大きな音を立てて崩落するのが聞こえた。]*
[ 頭をぐしゃぐしゃとかきむしり、
血に濡れた布団をベッドから蹴り飛ばす。
──アーサーがそうしていたように、
私はベッドの上に横たわり、そのまま丸まった。
"あいつら"が来たらどうしよう。
ちらりとよぎった思考は、すぐに溶けていった。]
メモを貼った。
[ そのまま何度か、目覚めては非常食を食べて。
食べたらまた寝て。
マンションの貯水槽はまだ無事らしく、
トイレは普通に使えた。
水の色は濁った赤錆色で、とてもじゃないけど
飲む気は起きなかったけれども。]
[ 眠っているときに夢を見た。]
メモを貼った。
「あんたは可愛げのない子ね」
[ 夢の中で顔の見えない女性が言う。]
「譲ってあげなさい。あんたはいらないでしょ」
「こんなものいらないでしょ。捨てといたわよ」
「いつまで泣いてるの、面倒な子ね」
[ その女性も悪い人ではない。
ただ───私がうまくやれなかっただけ。
単に、合わないだけ。
だから。
いつの間にか女性の足元には、
私が我慢した物がうずたかく積もっていく。
その山が高くなるほど、女性と私の距離は広がる。]
[「わたし」はもう戻ってこなくなっちゃった。
身も心もゾンビになってしまったら
もう思考も、言葉も、
わたしが人間である証は
なんにもなくなってしまって。
血だまりのなか転がってた母は
しばらく経つと立ち上がって
ふらふらと外へ歩いてった。
そういえば
母の肉を口にした瞬間だけ。
身体中の痛みと、心の空虚が
癒える気がした。
だから母も、きっと、探しに行ったのだ。]
メモを貼った。
メモを貼った。
[―――運転を始めた最初は酷いものだった。
運転技術なんてないに等しいってのに、
ゾンビがそこらじゅうを徘徊し、
窓ガラスは割れ、ごうごうと煙をあげるビルの横を
見ないフリをして、走らなきゃいけなかった。
郊外とはいえ、ここは東京のはしくれだ。
>>2:*4東京はこの感染騒ぎの筆頭だっていうのに
自分の住んでいるところはまだ大丈夫だろうと
きっと、生き残りが集まっている場所があると、
そんな風に思っていた。
数日分の食糧の用意だけはしておいて、
この期に及んで、僕は、
すぐに頼れる人が見つかると期待していたんだ。]
[町中に無事な人は、居ないに等しかった。]
[もしかしたら、かつての僕のように、
建物内に籠っている人はいたかもしれないが。
そんな人を探す余裕がないぐらい、
町はゾンビで溢れかえってしまっていた。
東京の郊外は、都心で働く人の住む家が多い。
それを考えると……今、この地区の有様は、
当たり前の結果のように思えた。]
「いらないでしょ、全部」
[ 女性の手元には小さな猫がいる。
取り戻そうとする私の手足が粘った物に掴まれる。
それは腐った肉。
それは、"それ"だ。
いやだ。返して。私は叫んで、
思い切り"それ"にモップの柄を振り下ろし。
その瞬間、私は目を開いた。]
[馴染みのスーパーを通り過ぎるとき、
まだ"人間"である人がゾンビに喰われながら
僕の方へ手を伸ばしたのが見えたけど。
そうなってしまったら……もう、助からない。
僕は、それを身をもって知っている。]
……ごめんなさい。
[喰われていく人々から遠ざかるために、
アクセルを強く捻り、バイクが加速する。
出来る限り生き延びてやる。
そう、決めた決意は今も揺らがない。
でも……町の惨状は想像以上に残酷で。
何もできない無力感か。辛いのか、苦しいのか。
自分でも訳の分からないまま涙を流しながら――
車同士がぶつかり横転した横をすり抜け
ひたすら、道路を走っていって。]*
[それから、何日が経ったっけ。]
[―――風を切りながら、少し上を見上げれば
夜空の星々が眩しいぐらいに輝いている。
道を照らす証明灯はたまについていたけれど
消えている区間の方が多いような。
僕は、そんなどこまでも続くような高速を、
ひたすら真っすぐ、走っていた。]
[ 目覚めた私はスマホの日付を確認する。
電波が途絶え、ただの時計になったスマホは
あれから5日ほど経ったことを示していた。
怒りはまだ、消えていない。
くそったれ、私は絶対"お前ら"にならない。
絶対に。 **]
メモを貼った。
[世界各地で起きている、混乱と絶望。
ゾンビ増え続ける。
そらに死傷者も増え続ける。]
メモを貼った。
[ 「取る時のコツは、そっと、さっと、よ。」 ]
[果たして、どれだけの人々が悲しみと苦悩に囚われてしまったのだろう。
また、この少女も。
もう少女としては、存在していない、それ。
それは、空腹を満たすためだけの、存在。]
[ 「やだっ!こわいよぉ!つっつかれる!」 ]
[たくさんの生の形を成してきて、今は死の形と言うべきか。
少女の魂は、何処。
死んでしまった人々の魂は、一体何処へ。]
[ 「きちんと扱えば、火は大きくもできるし、小さくもできる。」 ]
[再び、生を得られるのだろうか。それは、]
[ 「ほわ〜。あったかーい。キレーだねぇ。」 ]
[誰にも分からない。]
[何処からか。
在りし日の声が、風に乗って聞こえてきたかもしれない**]
メモを貼った。
【人】 百姓 ワット[健司が小さい頃には、 (30) 2020/10/26(Mon) 23時半頃 |
【人】 百姓 ワット[俺へと目掛け思いっきり走ってくるソイツに対して、 (31) 2020/10/26(Mon) 23時半頃 |
【人】 百姓 ワット
(32) 2020/10/26(Mon) 23時半頃 |
メモを貼った。
【人】 墓守 ヨーランダ[車に乗り込んで。 (33) 2020/10/26(Mon) 23時半頃 |
――回想――
「英雄になるための条件?
はは、なんだよ、それー」
[昼下がりの教室の中。
学ランを着崩した中学生一年生の進が、
クリームパンをほおばりながらけらけらと笑っている。
対する俺は大真面目だ。
焼きそばパンをもぐつきながら
大学ノート(黒歴史)に
下手くそな字を書き綴っている。]
いやさ。俺、気づいたんだよね
このままマンゼンと日々を生きていただけじゃ
ぜーーったいに英雄になんかなれやしないって。
紛争地帯に行くとか
あとは地球の危機的状況に
ガイアの力に目覚めるとかしないと
「ウル●ラマンの見過ぎだろ。古いぞ?
せめて仮●ライダーにしとけ?」
とーもーかーくーもー、俺は大真面目なんだってぇ!
「そんな風に気張らなくても、
秋は十分かっこいいだろ。
沙良が迷子になったらすぐ探しにいくしさ」
[あはは、と進は笑って、
残ったクリームパンを口に放り込む。
そうだな、と、俺より少し大人びた様子で首を傾げて
俺がくっだらない書き物をしていたノート(元数学用)に
さらさらりと、綺麗な字で何事かを書いた。]
ん? なんだ?
『弱い人は率先して助ける』
『怖い時でも笑っていられる』
『挫けても何度でも立ち上がる』
……なんか、地味くない?
「ただの人間が突然へんな力に目覚めるわけないだろ。
地道なところからコツコツとだよ」
[進は、くっだらねー考え事に付き合いながら
俺を見て、に、と目を細めた。]
「――――秋なら、できるよ。
俺が保証する。」
*
――現在/ショッピングモール薬品売り場――
まっすぐ走って非常口から一階に逃げろぉおお!
「は、はい!」
[若い女の首に噛みつこうとしたゾンビの
その顔面にバットを叩き込みながら、
俺はめいいっぱい叫んでいた。
人間しかいなかったはずのショッピングモールには
いつのまにかわらわらと
死神のようにゾンビがたむろしている。
……どいつもこいつも楽し気にニタニタ笑ってんのは
生理現象なのかなんなのか、わかんねえな。
ゾンビって楽しいのかな。]
[……この数日で、何度死んだと思っただろう。
ある時は、もうそろそろガス欠というところで
やっとゾンビの居ないガソリンスタンドを見つけ。
ギリギリ1台分残ってたガソリンを給油してたら
休憩室の中に潜んでいた奴が突然駆けてきた。
腕は半分鎖落ちていて、服もどろどろ。
酷い腐臭を纏いながら近寄ってくるそいつへ
近くにあったバケツをなげつけたのに、
全く怯みもせず向かってくるゾンビに悲鳴を上げて
僕は半べそで、バイクの後ろを掴まれたまま発進した。
(後ろのフレームは手の形に少し凹んだままだ)]
[人が居なくなって荒れ果てた大型家具屋に入り込み
あまり汚れていないベッドを見つけたから。
疲れたし小休止……と思って横になり。
少しのつもりが目覚めた時には既に朝。
ゾンビに襲われなかったのはよかったが、
自分の不用心さに肝を冷やした。
その後安心しきって店を出た時に
バイクの近くにゾンビが居た時は終わったと思った。
家具屋にあった目覚まし時計を鳴らして
遠くに投げたらそっちにいったからよかったけど。
慣らした瞬間に、ゾンビがこっちを向いて
白く濁った目と目が合ったときには
ほんともう駄目だと思った。
あいつらの目が悪いことを、それで初めて知った。]
[真っ直ぐ走ってきたゾンビの拳が
思いっきり俺の肩口を打った。
つっかえるような悲鳴をあげて壁に叩きつけられる。]
「ああ゛あぁああ゛ぁぁあ゛あぁぁ゛ぁ゛!」
――うるっせぇ、近所迷惑で訴えんぞ!!
[痛みをこらえながらゾンビの頭蓋を叩き割る。
とうとう愛用のバットが
使い物にならないくらい折れ曲がった。
それを好機ととらえたもう一匹が
俺めがけて爪を振るおうとしてくる。
――直後、その頭が綺麗に天井まで飛んでいった。
ネコ元帥が鉈でゾンビの頭を跳ね飛ばしていた。]
[雨が降った時や夜に冷え込んだ時なんかは、
防水素材の厚手の上着を着てて本当によかった。
それでも夜は寒かったけれど、
無いよりはマシ、というやつだ。]
「クシャミ、そっちの避難状況どうだァ?!」
ああ元帥。順調だよ。おかげさまでなあ……っと!
[元帥から投げ渡された得物に瞬いてから
そんな状況でもないのにげらげらと笑い出した。
ちょっと昔のホラーゲームで
医者のキャラクターが武器にしてたものと同じものが
俺の手の中にある。]
[―――そして、忘れもしない。
ある日の夜、無人の公園でのことだ。
人一人が入るのに丁度良さそうな土管を見つけた。
今日はここに入って夜を凌ごうと
そう思って覗きこんだ時。]
ひ、ゃ……っ!!
[僕は驚いて、その場に尻もちをついてしまう。
"先客"が僕の方をじーーっと見ていて、
そのまま土管から這い出して、腕を伸ばしてくる。
僕はもう、駄目だと思った。
走馬灯のように今までのことが頭を駆け巡り。
(……兄貴。ごめん。)]
[ぎゅ、と目を瞑ったんだ。]
【人】 墓守 ヨーランダさあ。 (34) 2020/10/26(Mon) 23時半頃 |
ねえ、ネイルハンマーなんだけど!
白衣もってきて!
てか射程短すぎでしょ! 信じらんねえ
これでゾンビと戦えって?!
「それしかなかったんだよばーか!
お前今すぐ全国のファンに謝るか
ジャガー燃やされてこい」
都内住みの大学生だぞ!
車持ってるわけねーだろバーカバーカ!
[ぎゃあぎゃあ喚きながら
襲い来るゾンビたちに得物を振り下ろす。
気づけば、俺の体にも元帥の体にも
ゾンビの歯型が赤々とついている。
あんなに体液に気を付けてきたってのにな。
あっけないもんだ。]
[それでも俺達は、ただ、笑っていた。**]
【人】 墓守 ヨーランダ[ゾンビが集まってきたあたりで。 (35) 2020/10/26(Mon) 23時半頃 |
― 高速を北へ向かって ―
[風を切る音に交じって、聞こえるものがある。
高速の脇にある林から聞こえてくる呻き声は
もう泣くこともなく聞き流せるようになった。
たまに通り過ぎる車を見れば、
彼らの行く先に平和がありますようにと祈った。
……でも。それよりも。今耳を澄ませるべきは。]
「えーちゃん、次止まるの、どこー?」
[背後から聞こえるのは、幼い少年の声。]
[僕の代わりにリュックを背負って。
僕の背中にしがみつき、必死に声を張り上げる。]
[残りのおにぎりはこの子にあげてしまった。
無人になって荒れ果てたコンビニから
持ち出してきた飲食物ももう残り少ない。
この子は、僕と同じように思えた。
逃げる間に両親とも兄弟ともはぐれて、
一人で公園の土管で震えていたそうだった。
食料やバイクの燃費のことを考えれば、
助けるべきではないのだろうけれど。]
パーキングエリアがもうすぐだって!
ゾンビ、居ないといいな!!
[僕は、後ろの声に負けないぐらい
普段あまり出さないような大声を返した。]
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