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― ヴェス別荘(ジェレミー邸) ―
[真っ白な車に乗せるときも、翡翠の衣装は破れたドレスのままだった。
車内で男は彼に一切触れず、窓の外を眺めている。
やがて見えてくるのは高い壁、壁、壁。
何処か別の国の建物を彷彿とさせる屋敷には
所々にヴェスパタインの趣味が見え隠れしている。
車は石造りの門を越えて館の玄関前へと到着する。
芳しい花々が咲き乱れる少し小さな前庭には二羽ニワトリが居た]
Jade
今日たったいまから正式に御前の名前だ。
其れ以外の名も身分も忘れるんだね。
[到着と共に現れた二人の召使がドアを開ける。
男は地に立つなり青年へそう宣言した]
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― →ヴェス別荘(ジェレミー邸) ―
[カボチャも馬車もそこにはない。用意されていたのは白い車。
最悪のセンス、表情はそんな風に告げる。久しぶりの日は、少し眩しくて目を細めた。
遠くなるその場所を振り返る事はない。
ただ、気に入りのディスターシャが遠くなっていくことだけは少し後ろ髪を引かれた。
けれども今となってはそれを取りに戻るも許されない身分なのだろう。
窓の外を見る事はなく、ただ車が長い時間をかけて辿り着いた場所は、
自分の知っている場所とは違ったし、見覚えのある風景でもなかった]
…『買ったというなら、好きに呼べばいいだろう』
[返事をするかどうかは当然別だ。
返事は是でも拒否でもない]
勿論だよ?
好きにする為に買ったんだしね。
そうだね、Jade
先ずはその身を洗ってあげようか。
酒臭いよ。
[男は瞳を細めて哂う。
着込んでいた黒いジャケットを召使に渡し
会場で着ていたのと変わらぬ姿になって]
こっちだ。
[有無を言わせず手を引いた。
あとには二人の召使が続く。双子のように顔だちがそっくりだ。
少し進んだところで、玄関の扉が重い音を立てて閉まった]
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『…下らんことを』
[酒臭いと言われたところで、何かしようがあっただろうか。
酒を無理やり飲ませたのだって目の前の男だというのに]
『ッ、一人で歩けるといったはずだ…!』
[まだ酩酊は残っているけれど、それとこれは別だから。
手を引かれれば振りほどこうとするけれど、叶うのだろうか。
後ろからつかず離れずついてくる足音が二つ。
幾らか気味が悪い]
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ひとりで歩く?
まだわかってないんだな。
御前はもう御前の意思で歩くことすら許されないんだよ。
[腕を引く手は、振りほどこうとした彼の手首をつぶれるほど強く握った]
俺の命令だけが御前の全てになる。
俺の機嫌を損ねたら、御前の身体は少しずつ削られていく。
どこから切り刻んで欲しい? 指か、それとも耳か。
――…それが嫌なら精々気をつけるんだね。
逆らうのは利巧じゃないよ、Jade。
[話しかける内容は薄ら寒いもの。男の口調は至って本気だ。
やがて到着した浴室は、少し風変わりなものだった。
広さは三、四人が充分寛げるほどだが、膝ほどまでしか深さが無い。
其処に既にたっぷりと用意されている液体は琥珀色に輝いて、粘り気を帯びていた。
浴室からは甘いにおいが立ち込めている]
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───ぃ…ッ
[強くかかる力に、表情が歪む。
告げられる言葉が最終宣告に近いことだということも解っている。
だから、口を噤んだ。硬翠の視線だけは、決して屈することはなかったけれど。
小さな舌打ちと共に、引きずられるように連れて行かれた場所は
酷く甘い匂いがしていた]
───عسل(蜂蜜?)
[甘い匂いは独特だったから、自然と言葉が零れる。
体を洗うと言っていなかったか。なのにこの状態は何なのかとばかり。
訝しむような視線を濃い金色の髪の男へと向けた]
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[黙ってしまった青年を
男は一度さも愉しげに細めた瞳で見遣った。
そうして連れてきた場所で、此方へ向いた視線に頷いてみせる。
呟いた言葉が単語のみであれば、男とて世界中に”お使い”に出ている身。
一切わからないわけではない]
少し混ぜ物はあるけどね。
[そう言って、彼の無残なドレスに手をかけた。
自分で脱ぐといっても
御前に自由は無いと、同じ言葉を繰り返すだけだ]
御前たち、洗ってあげて。
綺麗に舐め取るんだよ。
[一糸纏わぬ姿まで剥くと、男は青年を浴槽に放り込んだ。
影のように控えていた双子の召使に命令を出す。
彼等は自ら衣服を取り去った。成人前だろう髪の長い召使にも短い召使にも、胸元の膨らみは無い。そしておかしなことに股間にも性別を主張するものは存在しなかった]
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[風呂に落とした青年のもとへ、忠実な召使たちは擦り寄っていった。
ねっとりとした液体は彼等のしなやかで傷一つ無い腕にも細い脚にも絡み付いている。
男はといえば、そんな光景を衣服も乱さず
入り口に立ちはだかったまま見ていた]
[混ぜ物。
その一言で、思う。食べ物に対してなんてもったいない事を。
生まれてこのかた空腹に泣いたことなんて一度か二度あったかないかだが
かといって飽食を好むわけではなかったから。
白いきぬは奪われて、今度こそ隠すものなんて何もなかった]
───な
[飛沫があがることはない。たぷんと、緩やかな波が上がっただけ。
派手に転んで塗れる事はなかったけれど、浴槽に満たされた蜂蜜に
しゃがみ込むように体勢を整えた少年は胸元まで浸かることになる。
男に指示を受けた召使たちに視線をやって、表情は驚きに染まる]
ああ、口に含んで不味いものは入って居ないよ。
混じってるのは少し良い気分になるクスリだけさ。
[此方まで重みのある液体が飛ぶことは無い。
男は広い浴槽の中、琥珀が塗された彼の肌を
瞳を細めてじっとりと見つめている。
双子の召使は男の命令通りJadeの身体に蜜を塗すために両脇から擦り寄って、その肌についた琥珀をざらりと舌で舐め取っていく]
この子たちは少し変わっているだろう?
お下がりなんだけど、気に入ってね。
珍しく壊さずに使ってるんだ。
『…クスリ?』
[持ち上げた両の手はとっくに蕩けた琥珀に塗れて、
両脇から近づいてくる姿に、幾らか訝しんでいれば
肌の上の蜜をなめ始める姿に不快感もあらわに]
『何を──』
[突き飛ばすのは簡単だった。
けれど、流石に二人一度につきとばせるほど器用ではない]
そうそう、その子たちにキズをつけたら
御前の同じ場所から皮膚を抉るよ。
[此処ではJadeよりも彼等のほうが価値があると言う風な台詞。
突き飛ばそうとする彼を見て男は先に忠告をひとつ。
召使たちは甘い香りと蜜に混じる薬でとろりと表情を蕩かせながら、彼の口元へも浴槽にたまる蜂蜜を掬って塗りつけていく]
…ッ!
[突き飛ばそうとした手が、力を失う。
傷をつけられること自体には男だから抵抗はないはずだけれど。
肌に塗りつけては舐め上げられ、口に運ばれる蜂蜜は甘くごく僅かに苦く。
酒精が抜けきっていない体が、暖められた蜂蜜の熱と
徐々に沁み込んでくる薬品の効果のせいで少しずつ重たく感じられた。
肌の上をなぞる舌の動きに、表情が酷く歪んだ]
[息を荒げた召使が、犬のように尻尾のない尻を振りながら
琥珀色を塗りつけては舐めている。彼等は幾ら昂っても処理する箇所を持たない。溜まる快楽は苦痛のようで、何時しか二人は青年に縋りつくようにして、それでも命令を守って行動している。
男は彼の表情の変化に気付き、二人を止めた]
――…効いて来たかな?
本当はクスリを使う心算じゃなかったんだけど
ま、いきなり流血沙汰よりは
一度くらい愉しませてあげようと思ってね。
[靴もそのまま浴槽へ近づき、身を屈めて視線を合わせる。
それから琥珀に埋もれた彼の下半身へと目線を下げた。
反応がおきたかどうか、確かめる為に]
[蕩けた琥珀が肌の上に幾度も塗りこめられていけば、
そのうちに彼等が蜂蜜を舐めているのか、それとも自分の肌を
舐めているのか、その境目すら曖昧になってよく解らなくなる。
それこそ自分と蜂蜜と彼等の境すら曖昧になったかのようだった。
擦りよせられる肌も、縋りつくような舌も指先も、何もかもが
今の彼には歪んだ何かに感じられる]
…『冗談、じゃ…な、ぃ』…っ
[噎せ返るような甘い匂いの中、呻く声はごく僅かに熱を孕む。
尋ねる様な声にふるりと首を横に振った。
合わさる肌の合間から落ちる蜂蜜の滴が、音も立てずに沈むのが
酷く幻想的で、それ故に非現実的すぎて思考が幾らかぼんやりとしていた]
[塗り込めた蜜に混じる薬は確実に彼等を侵しているようだった。
一糸纏わぬ青年に絡む対の人形。
二人は両側からJadeに擦り寄ったまま、出口の無い快楽を抱えながらも動きを止めている。
何処か倒錯的なものを感じながら、男は唇を歪めた]
そう、残念ながら冗談じゃない。
俺は至って本気でね。
No5じゃ勃たなかったようだけれど、薬が入ればどうかな?
[間近まで顔を寄せれば、熱い吐息がかかる。
その変化に満足そうに、低く甘いバリトンが浴室に反響した。
その間にも体温を帯びて蕩けた蜜は彼の肌をゆっくりと流れていく。
男は肌色の違う彼の胸元に指を伸ばし、くいと軽い刺激を与え乍掬い取った]
[皮膚から直接吸収され、そして口で直接摂取させられた薬は
ゆっくりと、それこそ蜜の滴るほどの緩やかさで神経を染めていく。
持て余した熱がそうさせるのだろう、人形達の肌は酷く熱を持っていて
だから余計に頭の中がぼうっとしていた]
『何、す──』
[極僅か傍で覗きこむ視線に、睨みあげる硬翠は蜜のような彩を帯びる。
浴室に響く声は、酩酊する意識の中で更に反響して谺する。
伸ばされた指、掬いあげられる琥珀。
極僅かに、けれど確かに喉が小さく震えた]
ああ……あんなに鋭い眼をしていたのに。
[何処か物足りなさそうに
それで居て愉しそうに、男は彼を覗き込んで哂う。
声こそ上がらなかったが、胸元への軽い刺激に反応した彼を見遣り]
効いてきたね。
それじゃあ、入浴タイムは終わりだ。
着替えをあげるよ。
気に入ってくれるといいけど?
[身に力の入らぬ様子の人形達に命令を下す。
二人はふらつく足で浴槽から上がり、ねっとりと身体中に蜜を纏ったまま奥へ消えた。
暫く後、何事も無かったように衣服を着込んだ双子は現れ
男に黒い皮製のベルトを手渡す。紐の下着に似たそれは、本来男根を覆うはずの前布が無く、尻にあたる部分には細身のバイブが取り付けられていた]
『うる、さい』
[頭がぼうっとする。
睨む色は消えてはいなかったけれど、蜜に似た彩が添えられたせいもあって
幾らか鋭さはなりを潜めてもいた]
『着替え…?』
[今度は何を着せようというのだろうか。
そもそも、これでは体を洗うどころか余計に汚れてしまっている。
かといって裸で歩きまわる趣味はない。
仕方なくそのまま待つことにしたが、その間にも蜜は神経を侵す。
奥へと消えていった二人がしばらくして現れて、
男に何かを手渡すのを見た。けれどそれがなんなのかまではわからなかった]
そう、これを着けてあげよう。
立てるかい?
[たっぷりと蜜に塗れた青年の腕を掴み浴槽から引き上げる。
下着とは名ばかりの機具を手に、男は指示を出した]
壁に手をついて
足を広げて俺に背を向けてご覧。
[ゆっくりと流れ落ちる蜜を拭うことは許さない。
出来ないようなら双子に押し付けさせてでも、その体制をとらせる気でいた]
[腕を掴まれ、引き上げられる。
肌の上を流れる蜜が、まとわりついて酷く気持ちが悪い]
…ッ!?
[出された指示に苛立ちを通り越して滲むのは怒り。
冗談じゃない、と拒否するよりも、双子たちの行動のほうが早かった。
さっきまであんなにしどけなかった二人とは思えないような
男への忠実さを持って姿勢はあっという間に固定されてしまたt。
自分自身が意識やら姿勢をあまり保てていないというのもあったかもしれないが]
『離せ、冗談にもほどがある!』
[声を荒げたところで、双子たちの校則はちっとも緩みはしなかったのだけど]
[双子は見た目彼とほぼ変わらぬ年頃。
二人がかりで押さえつければ、彼に薬が回ってなくとも
逃がさずに置くことくらいは出来る。
ましてこの状態で彼が逃げられる可能性はゼロだった]
冗談じゃないって言っただろう。
俺は全部本気だよ。
[彼の背後から声をかけ、先ず細身のバイブの先端を
蜜のぬめりを帯びた秘所へ、幾度か緩く押し当てて]
さて、入るかな?
[くつくつと哂う甘い音と共に力を込めていく。
潤滑油のかわりに、あの蜜に混じる薬が直接粘膜から吸収されていくのが、彼にまだ理解できるだけの理性があるだろうか]
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[押さえつける力は存外に容赦なかった。
幾ら本調子ではない頭でも、今自分がとらされている姿勢が
どれだけ屈辱的かということぐらい把握できる]
『本気なら尚更──ッ』
[質が悪い。けれど言葉が喉の震えに消える。
何かが押しあてられる感覚。拒否を示すように首を横に振る]
『嫌、だ…ッ』
[はっきりと言葉で拒否を告げているにもかかわらず、
その行為が止められることはなく、逆に押し込まれる圧迫感に
喉からごく微かに悲鳴じみた響きが零れた。
琥珀に融けた薬が、神経に火をつけるのは時間の問題か]
メモを貼った。
嫌だ止めろはもっと言うといい。
聞き入れてはあげないけどね。
……逆に燃えるよ。
[悲鳴のような音を聞きながら奥まで深く埋めてしまうと、
バイブの固定された布の長い部分を股の間から前へ通し、腰のベルトに固定する。其処についた穴に細い鍵を差込み、くるりと回して留めた]
ああ、サイズは合ったみたいだね。
似合うよ、Jade?
[手についた蜜を、男は浴室にあるタオルで拭う。
決して自分では長時間触れも口にもしない]
さあ今日はもう遅い。
部屋に案内しようか。
[男は青年を連れて地下室へと足を進める。
蜜で汚れた床は後から召使が痕跡を残さぬよう拭っていくのだった]
[暗く光の差さない地下に部屋が幾つかある。
どれも鉄製の扉が厳重に入り口を守っていた。
最奥の部屋をあけると、中からは僅かな血のにおいがもれる。
石造りの部屋は独房にも似ていて
天井から吊るされた錠であったり
床にこびりついたどす黒い血の跡であったり
壁に備え付けられた数々の機具が、此処がどのような部屋かをあらわしていた]
今日は長旅で疲れたろう?
ゆっくり休むといいよ。
[言葉はねぎらうように優しく。
男は彼の手を拘束すると天井から吊るされた鎖に繋ぐ。
少しばかり鎖が長いが、完全に座ることは出来ないだろう。
尻に嵌まったバイブのスイッチを押すと
ひらりと手を振って男は彼を置き去りにする。
電池が切れるまでか、朝日が昇るまでか
彼の夜はまだ*始まったばかり*]
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[うずめられたものに対する違和感は酷く。
表情を歪めて、その圧迫感と羞恥に耐えるしかなかった。
頭の中でとりあえず離れていこうとする理性を必死に繋ぎとめ]
『相、変わらず、最悪の、センスだ』
[まるで気紛れに花を愛でるかのような言い草に、
まだ壁に押さえつけられたまま男を睨んだ。
手をぬぐうその姿に、二度とこの男を言うことだけは
信用するまいと固く心に決めた。
元々信用などしていなかったに等しいのだが]
『檻の、間違いじゃないのか』
[床の上に琥珀の足跡を残しながら、連れて行かれるままに向かう。
部屋なんてそんな上等なものを寄越すはずがない。
そんな風にある程度は見越してもいた。
けれど、実際に連れて行かれた場所に流石に言葉を失った]
[続く鉄の扉の最奥の一枚。開かれたその場所は鉄と、血の匂いと。
石造りのその場所は冷えていて、体が自然と小さくなる。
そのせいで、穿たれたものの存在を余計に体に知らしめて
表情の歪みが少しだけ濃くなった]
『休む?』
[こんな状態で、こんな部屋で。
ましてや拘束されて、こんな状況で。
休めるはずがない。ありえない]
──ッ
[拘束された両の手は吊りあげられ、僅かに吊るされる。
酷く不安定な姿勢に加えて、玩具のスイッチ。
ガシャン、と手元で金属が抗議するかのような音が響く。
遠くなっていく背中、取り残されるその場所。
肌の上に残るも押し込められた玩具が蠢いて中に塗り込めるようのも蜜。
ゆっくり燻り続ける熱を持て余すも、声を上げる事はない。
ただ、石造りの壁に沁み込むのは微かな吐息と金属の歌だった*]
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[寝台なんて無い、地下室は奴隷部屋というよりも
拷問部屋といったほうが正しい。
男は部屋に戻り、モニターのスイッチを入れた。
4つに別れた画面に映し出されるのは燻った熱に悶えるJadeの姿。
四方から映し出された彼の痴態に、薄く笑みを浮かべる]
声を出せば少しは楽になるだろうに
それとも嗚呼、若しかして後ろは経験済みだったか
あれでは細すぎて届かないのかな?
[自室で呟いたところで彼には聞こえない。
じわりと浮き出た汗で蜜が流れていく。
臍を伝い、そのまま下へ――茂みを重く濡らす。
彼の中心は流石に反応を示し始めていたか
抑えたような吐息を上げる翡翠の表情を眺めながら
男は部屋で紅茶を愉しんでいる]
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―地下室―
───…ッ……
[モニタリングされているなんてまさか思いはせず。
かと言って、声を上げるわけではない。
神経を支配する熱に抗うように、
首を時折緩く横に振った。喉が震える]
(──苦し、い)
[無理矢理飲み込まされた細い杭は、
馴れない体を、狭い蕾をゆっくりと嬲る。
苦しくて、熱い。体が自分のものではないようで、
それが堪らなく気持ち悪くて仕方がない。
薄く滲んだ汗は蜜を浮かせてゆっくりゆっくりと流す。
性は本当に僅かに反応を見せるにすぎなかった]
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[とうに薬は身体中を侵しているだろうに。
其れでも反応の薄い中心を長め]
ふぅん。
[男は更に時間をおいて、地下を訪れた]
……やあ、Jade
気分は如何?
[天井から吊るされた手枷で拘束されている彼を眺めながら
白濁の散らない床を見下ろすと、のんびり口を開いた]
随分我慢するね。
それとも刺激が足りないのかな?
……っ…
[喉が小さく震える。
どれくらい時間が経ったのか数えることもない。
正確にはそんな余裕がない。
ただ、自分の神経を宥めるのに必死だった]
……、…?
[扉の開く音がした。
濡れて、それでもなお視線は男を睨む]
『……最悪、だ』
[機嫌がいいはずなんてない。
続いた問い掛けにも答えないまま、
視線を逸らした]
……辛そうだね?
[睨みつけてきた翡翠に、男はしかし満足そうに哂った。
靴音をさせ、彼の元へと近づき
恐らくはもう痺れて感覚が無いだろう腕に手を伸ばす。
枷と鎖を繋ぐ連結は緩んでおらず、彼はどれほど力が抜けようと座ることは許されない]
して欲しい事があれば聞いてやっても良いよ。
俺はいま気分が良い。
[薄暗く冷たい石造りの部屋には、彼へ嵌めた貞操帯から振動音がもれ聞こえている。
節ばった指先で、汗で流れる蜜を掬い
僅かに反応を示した彼のペニスの先にこすり付けながら]
お願いしますご主人様、って言ってご覧?
そうしたらひとつ願い事をかなえてあげるから。
[くすくすと見下すように哂った]
『…ッ』
[腕に伸びてきた手に、避けようとすれば鎖が鳴いた。
硬翠は睨んだまま。ただ、声なんて出すまいと。
相手の望むようになんかなってやらないと]
『触るな…!』
[肌をなぞる指先に唇を噛む。
男の指が塗り込める仕草に、拒否を示すように首を横に振った。
その間にも後ろは玩具によって蹂躙され続ける。
細い喉が幾らか震えたけれど、それでも喘ぎは欠片も零さなかった。
言葉を信じるには、余りに印象が悪過ぎたし]
『断る』
[買われたからと言って、そう簡単に折れるつもりも更々なかった]
[拒絶を聞いたところで指は止まる事はない。
腕からなぞるように頬へ手をかける。
芯に絡めた指は、先端へ蜜を塗りつけていく。
とろりとしたそれが滑りを助けてくれる。
震わせた喉元に男は唇を寄せ、軽く歯を立てた]
困ったね。
そう言われると他の方法では御前を解放する気が無くなった。
Jadeは一生このままで居るつもりかい?
後ろに道具挿れられた惨めな格好で
鎖に繋がれたまま此処で干からびたい?
[Yesと言われたなら本当にそのまま永遠に放置するような口ぶり。
顔を上げ視線を合わせた男の褐色の瞳は笑っていなかった]
『触るな、と、言った、はずだ』
[頬に寄せられる指先が嫌で、首を横に振る。
蜜の甘い匂いは、指が塗り込めるたびに感じられる。
絡める指と、薬の効果は確実に、少しずつ性の形を変えていった。
気分が悪くて、耐えられない。けれど思い通りになんかなりたくない。
喉に重なる歯の感覚に、微かに体が震えた]
…っ
[聞こえる宣言に、硬翠が微かに揺れる。
其れは恐怖でしかなかった。
このまま弱い火で焙られたような感覚に耐え続けながら、
一生、このままだなんてそれこそ拷問に等しいけれど]
『お前、に…頭を、下げる、くらいなら……
耐えるほう、が、ずっと、マシだ』
[相手の瞳の気配なんか、関係ない。
硬翠は、それでもまだ睨み返すことを選ぶ]
触るな、って言いながら
此処は期待してるみたいだけど?
[後ろの機具は止まらないまま。
少しずつ空間に振動音の他、水音が混じり始める。
絡めた指は確実に追い詰めていった]
怖い? まあ、そうだろうけど。
そのまま放置されたらどうなるか、教えてあげようか?
機具が外せないと排泄が出来ない
張り付いた蜜で皮膚が爛れるかもしれない。
ああ、ついでに蟲でも放置してやろうか?
身体中を蟻が這い回り蝿が飛び交うのは耐えられるかな。
此処は物音も光もとどかない。
まあ、間違いなく気が触れるね。
どれだけ御前が強情でも、24時間持てば奇蹟さ。
本屋 ベネットの喉元を歯で擽りながら、吐息交じりに残酷な未来を告げた。
───ッ
[不快感を訴えるかのように鎖が小さく鳴いた。
聞こえるのは粘質な音、それが自分の体が関わっていると解れば
余計に不快でたまらない。
耳に届くのは睦言なんてものとは程遠い不愉快な囁き。
蜂蜜は肌に塗るくらいだから心配はないが薬が入っているとなれば話は別。
排泄は、胃も空っぽだからあと二日くらいはどうにか耐えられるだろう。
虫が一番耐えられないと思った。蠅よりも蟻だ。
体を動かせば飛んでいくものとは違って這うのを落とすには労力がいる]
『……っ』
[喉元から伝わる振動に、眉をひそめたまま息を飲みこんだ。
ただでさえ薬と不快感でぼうっとする頭に、余計な事を考えさせないでほしかった]
[息を呑む気配を感じ、男は吐息を漏らした。
触れている指先には熱も伝わっていて
少しずつ思考力が曖昧になっているのは観察していればわかる。
だからこそ、脳裏に描きやすいようわざわざ声にしていた]
どうするかい?
此処も随分辛そうだね。
[滑る肉棒の先を爪で弾き、男は問う]
逆らい続けるのも、悪くないけどね。
何処かで折れる所を覚えてくれないと困るなぁ。
一言服従すれば済む話じゃない。
強情ばかり張っていても良い事は何もないよ?
[頭がぐらぐらする。
熱のこもった溜息が自然と零れた]
『うる、さい……ッ』
[爪ではじかれれば流石に表情が大きく歪んだ。
ゆっくりと息を吸って、どうにか思考力を取り返そうと足掻く]
『良い事、なんか、どちらに転んだって、
ありもしない、こと、くらい、わかっている』
[痺れ切った手を、握り締める。
意識のあるまま屈するのは己の矜持に反すること。
苛立ちは、掌に傷を作って赤を滲ませた]
[少しずつ相手が追い詰められているのは
指を絡めた其処の反応と、もれる吐息で感じている]
俺だってただ虐めたいだけじゃない。
御前にとって良い事ではないが
少しマシな待遇は用意しているんだよ?
[平静を取り戻そうとしている相手に気付くと
男は空いた手で頬を撫ぜる。
拳に滲んだ朱に気付いて片手の掌を開かせ、
指先を絡めて握りこむ]
駄目じゃないか
俺に無断で傷を付けちゃ。
[その間にも後ろを犯す細い機具も、
彼の中心を擦り上げる手も止まる事は無い]
[駆動音が、虫の羽音の用で酷く煩わしい。
頬に触れる手に硬翠は睨むけれど、ずっと弱くなってしまっている]
『…マシ。
よく、言う。物は言いよう、だろう。
どうなったって、そう、変わらんだろう、さ』
[吐いて捨てるかのように、言葉を作る。
あてにしてなどいない。信用もしていない。
その感情が、口元に嘲りの笑みを作る]
『…俺の体は、俺の、物だ。
誰の…指図も、受け、ない…ッ』
[大きく息を吸い込んで、吐き出す。
持て余した熱で上がる体温が、酷く気持ち悪い]
[此方へ向けられる視線が熱に侵されているのがわかる。
歪んだ口元を見遣り
男の声は甘くも冷えた音を漏らした]
――…先ず教えてやるよ。
[追い詰める手は止めない。
息を吸おうとする唇を塞ぐように、男は自らの薄い唇を重ねた。
強く吸い上げると同時、擦りあげていた中心を根元から握り射精に到達出来ぬように締め付ける]
Jade
未だ立場が理解出来ていないようだね。
いいかい、お姫様
御前は俺に買われて此処にいる。
御前の身体は頭の先から爪先まで全て俺の管理下にある。
俺の指図なしじゃ、この拘束すら解けないのさ。
其れでも俺が一度望みをかなえてやろうって言うのに
……イラナイんだね。
なら、俺は俺の好きなようにするけど。
[顔を上げた男が先ずこの薄暗く寒い地下室で
目に付けたのは、まだ冷えた鏝]
その生意気な口
喋れなくしてやろうか。
[薄甘い声が、聞こえた。
追い上げてくる手に、それでも、嫌で声だけはこぼさなかった。
次に口を塞がれたのを理解する。薄くて冷たい唇。
噛みついてやろうと思ったけれど、締めつける痛みによって叶わなかった。
漸くまともに吸いこんだ酸素も、薄く鉄錆の味がした。
落とされる言葉も、声も、もう半分ぐらい理解できていない。
ただ、持て余した熱と不快感だけで視線がまた少し弱くなる]
…、……?
[問いかける言葉さえ、今は口に出すのが億劫だった。
まだ体に直接響いてくる虫の羽音に煩わしさを感じながら]
『喋れ…なく……?』
[何をする気なのだろう。
自分の位置からでは、今の視界からでは、そこに何があるのか見えない]
[男は一度彼の身から離れる。
羽虫のような音は少し威力を弱めていた。
電池の切れる時間が近い。
穏やかになった動きは逆に彼へその納まっている機具の形を感じさせる事になるだろう]
そう、良い声で鳴かないなら
声はいらないだろう?
[冷えた鏝を手に、再び彼の前に立つ。
見せ付けるように、威力をなくした瞳の前へ翳してやった]
熱して御前の口に突っ込んであげる。
折角召使に用意させてるご飯が無駄になるけど、仕方ないね。
簡単に死なないように、点滴で栄養だけは送ってあげるから。
[褐色の瞳を細めて、鏝から伸びるコードをコンセントに差し込んだ。電源が入りじわじわと鉄が赤く色を変えていく]
最後にもう一度だけ聞いてあげよう。
お願いする気は、あるかい?
[男は最終宣告を突きつけた。
これでまだ折れぬなら、熱した鏝は確実に彼の咽を使い物にならなくさせる]
[伝わる響きが弱くなる。まるで、焦らされているみたいだった。
これ以上、耐えられる自信はないけれど、
けれど屈するつもりがないからこそ、余計に耐えなくてはならない]
…ッ
[声。喉を潰すのだろうか。でもどうやって。
薬や何かというわけではないように思えた。
少し霞のかかった視界に、何かが映った。
金属の塊。それで、何をするのか。
そんな事を考えているよりも先に聞こえた使い方。
硬翠の瞳には嫌悪よりも先に怯えが浮かんだ]
『何───』
[虚勢を張ろうと思ったが、もう遅かった。
歯が、小さくかちりと音を立てた。震えだと解るまで時間はかからない。
ゆっくりと赤くなっていく其の熱はもう恐怖の対象でしかない]
[認めたくない。けれど、それは怖い。
その言葉を出してしまえばきっと、今目の前の恐怖からは逃れられる。
でも、屈したくない。それだけが今の自分を繋ぎとめる感情。
どれぐらい時間がかかっただろう。
後ろから聞こえてくる羽音も随分弱くなった]
『──…ッ、──』
[震える。涙が落ちる。
でも、もう、限界だった。
赦して、と。
本当に。本当に小さな、声が零れた]
さあ……どうする?
御前が俺に跪いて助けを請うなら、止めてあげても良いよ。
ああ、ごめんこの鎖の長さじゃそれは無理だね。
[じわじわと鉄芯が熱を帯びて紅く色を変えていく。
鏝を彼の目前に指し示したまま、震えだす青年を眺めていた。
ゆっくり優しく囁く声音は余計に彼の恐怖を煽ったのだろう]
―――…
[羽音はもう聞こえない。
しゃくりあげるような音に続いて
小さな声が聞こえたが]
聞こえないよ。
それに肝心な言葉が抜けている。
[首を振って、男は彼の顎に手をかけた。
まだ力は込めていないが
無理矢理に口を開かされた過去が思い出される筈]
[鎖の中途半端な長さは膝をつくことも出来ない。
かけられた言葉に、今だけは縋ってしまいたくもあった。
縋ったところで楽になれるかなんて分からないけれど、でも]
『──ッ』
[やっとの思いで出した言葉も許されない。
悔しさで喉が震える。顎を捕らえられて、涙がまた落ちた]
『お願い、です』
[自分の中から、大切なものが失われて、
剥がれ落ちていくみたいだった。
幼い子供みたいに、涙が止まらなかった]
『……ごしゅじん、さま』
硬翠の瞳を伏せて、また掌に一つ傷を作った。
[涙腺が決壊した様に雫が落ちていくのが見える。
褐色の瞳は、一度満足そうに細められた]
ん
[顎を掴んでいた手は其のまま首筋をなぞり下りていった]
よく出来ました。
[目の前に差し出していた鏝を
一度残念そうに落とす。
金属の鈍い音が石造りの部屋に響いた]
じゃあ鏝は止めておこうか。
どうして欲しいか希望はあるかい?
[伏せた視線の先にはまだ紅い鉄の鏝が転がる。
男はちらと手枷に掌から滲んだ朱が流れているのを見遣った]
メモを貼った。
───ッ
[金属が石の床に落ちる音に、身を震わせる。
どうみても、それは怯えの形をしていた。
肌の上を手が滑り落ちていく。
ひくりと、小さく喉が震えた]
『……き、ぼう?』
[涙を含んだままの睫毛がゆっくり持ち上がる。
幾らか唇が震えた]
『……うしろ、抜いて…。
も…や、だ………ここから、出たい…
国に…帰り、たい…ッ』
[一度弱音をはけば、二つ三つとこぼれ落ちる。
帰る場所があるかどうかよりも、
ただ生まれた場所に帰りたいと。
そんなことを願うほど心が弱くなってしまっていた]
[目に見える怯えに、男は咽の奥で哂う]
国に帰って……どうする気?
随分素直になったね。
でも欲張り過ぎるのは未だ問題かな。
[伏せた視線がまた此方へ向く。
長い睫毛から毀れる雫を吸い取るように頬へ唇を寄せた]
一つだけ、って言った筈だよ俺は。
一番の願いはこれかな?
[汗ばんだ相手の身を壁に押し付けるように密着して
取り付けた貞操帯の上からコツコツと動きを止めた機具を叩く]
……『でも』
[帰りたい。
言葉は分かるけれど慣れない国にいるのは、
怖くて嫌だと声は続ける。
頬に滑る唇の冷たさに、微かに肩がはねる。
実際には自分の体温が上がり過ぎているだけだったけれど]
……。
[一つだけ、と言われて幾許かの間を開けてから小さく頷いた。
石肌に押しつけられたその微かな痛みに眉を寄せる。
こつ、と直接響いて来る振動に、さらに眉がよった]
[頷くまでの彼の様子を、間近で見つめていた]
もういい加減自覚してもいいと思うよJade。
御前は此処から出られないんだ。
ああでもそうだね
いい子にしていたら、そのうちご褒美をあげようか。
[男のシャツ越し、相手の体温が大分上がっているのを感じる。
衣服の汚れに眉を寄せながら、下着の役割を果たさぬ拘束具の鍵を外した。
紐状のベルトは重力に逆らう事なく垂れ下がる。
皮は青年の体液で湿っているようだった。
其れを片手で引くと、繋がっていた細い機具はずるりと滑る。
男は秘所から抜けるギリギリのところで手を留めた]
[出られない。
その言葉に、また涙が落ちた。
17歳という年齢は、籠の鳥として育てるには自我が育ち過ぎていたし、
仕方ないと割り切って諦めるにはまだ幾分子供過ぎた]
『ごほうび……いい…子……?』
[鳥のように言葉を繰り返す。
軽く首を傾げると、硬翠に紗をかけるように
前髪が僅かに影を作った。
掌の傷が引きつれて、少しだけ痛む。
漸く自分の中から取り除かれるらしいものに、
唇を湿らせるかのような緩やかな溜め息が零れた]
そう、いい子にしていればね。
後で御前が着ていたのと同じ服を届けさせるよ。
[幼く見える仕草の鸚鵡返しに、ご褒美のひとつを軽くあかす。
青年とも少年とも呼べる境目の彼を嬲りものにしているこの状況に男は幾らか酔っていた。
バスバリトンは相変わらず甘い音を紡いでいる]
気持ちイイのかな?
そんな溜息を出して……抜いて欲しいんじゃなかったの。
[ギリギリまで引き抜いた機具を、男は意地悪く幾度か上下させる。
弄られてすっかり柔らかくなった入り口からは粘着質な音が漏れている。
男は彼に身を寄せたまま、恐怖で萎えただろうかと彼の肉棒へ己の下半身を押し付けるようにして確かめた]
[同じ服。それは、ディスターシャのことか。
それとも、あの白いドレスのことだろうか。
前者ならいいとは思ったけれど、もう期待するのにも疲れていた。
だから、小さく頷くだけに変わる]
…ち、が……っ、『抜い、て』…
[気持ちいいのかなんてわからない。
でも、男の手が動くたびに、背筋がピリピリとして眉が寄る。
押しつけられた体、そのせいで今自分がどんな状態かも解る。
少なくとも、あの舞台で強制的にショウに参加させられていた時よりも
まともに機能しているようだった]
翡翠のあれは似合っていたからね。
[名付けた元になったいろ。
頷いた彼に囁いた声で、一つ期待を叶えている事を男は知らない]
違う?
でも此処は元気になっているみたいだけど。
薬の所為かな。
[眉を寄せる顔が間近にある。
吐息が交じり合う位置で、男は愉しげに笑い
僅かに鎌首を擡げている自身を彼の熱を帯びた身に押し付けている。
問いかけに口を開く瞬間を見計らい
一度機具を引き抜くと、勢いをつけて奥まで押し込んだ。
咄嗟のことに声を抑えることが出来たかどうか、さて]
[翡翠。
それなら多分、あの懐かしいうすきぬにまた触れることになるのだろう。
微かに息を吐いたところで、小さく喉が震えた。
押しつけられる熱に、視線がさまよう]
…『知ら、な』────ッあ…!!
[それは、どれぐらいぶりの感覚なのだろう。
そんな風に思いださないと思い出せないほど前の感覚。
自分の体が熱を持っているというのは、
薬のせいだというのが解っていてもやはりまだ気分が悪い。
緩く開いていた口から声が落ちる。
流石に、不意打ちにまで注意を回すことができない。
ぼんやりとした頭の中なら尚更。
こんなことは認めないというように、強く目を瞑って
抗うかのように首を横に振った]
[狙い通りに上がった声は思ったより高い。
彷徨う硬翠を捉えるように、顔を此方へと向けさせた。
閉じられた眼に気付き、小さく哂う。
視界が閉ざされれば逆にその他の感度が増すというのに]
知らない?
じゃあ教えてあげよう。
[男は彼の尻を機具で掻き乱す。
中心で主張を始めている熱には己の下半身をこすりつけるようにして刺激を加えていった。
乱れた彼がつながれた鎖の音と、秘所から聞こえる水音。
衣擦れと、愉しげな低く甘い声]
鎖につながれて尻の穴にバイブ突っ込まれて
勃起してるんだよ、御前。
イイ声で鳴けるじゃない。
とんだ変態だね。
[背けた顔を元に戻されるけれど、それでも瞳を開く事が出来ない。
逃れようと首を緩く横に振るけれど、薬で弛緩した体では
碌に力も入らない]
『聞きたく、ない…っ』
[言葉は拒否する。嫌だ、と。認めない、と。
中を掻き回す玩具の感覚。声を上げまいと、また歯を食いしばる。
その代わりとばかりに、鎖が幾らか音を立てていた]
『…いや、だ』
[抜いてくれるといったはずの癖に、約束はどうなったのだろう。
押しつけられて、掻き回されて、頭がおかしくなりそうだった]
聞きたくないって言われても、ね。
[ぬるりと一度引き抜いた機具をずぷりと奥まで嵌め込む。
歯を食いしばる様子に、くすりと吐息を漏らした。
耳を塞ぐ為の両手は彼の頭上で繋がれている]
No4に盛った薬ほどじゃないけど
これもよく効くみたいだね。
ほら、我慢しないで
一度イってしまえば楽になるよ?
[衣服を彼の体液と蜜で汚しながら、男は首を傾いで彼の様子を観察する]
それとも、これじゃあ太さが足りないかい?
さっきの鏝でも嵌めてやろうか。
───ッ…!!
[上がりそうになった声を、また、飲みこむ。
苦しくて、それよりも、自分自身がどうにかなってしまいそうで。
掌はどれぐらい赤くなっているのだろう。
もう、そんなことまで把握している余裕もない。
イってしまえ、と言われても、最初は首を横に振る。
そんな事を誰かに見られることなんてとてもじゃないけれど耐えられない]
───や…『嫌、だ…ッ』
[そんなことされなくても、限界は近づいている。
鏝だって、まだ冷え切ってもいないだろう。
そんなものを体の中に入れるなんて、考えたくもなかった]
[息を呑む彼の様子は、男を愉しませた。
掌から滲んだ赤は此方からも確認できる程ではあるが
其れを注意するのはもう止めた。
足元に転がる鉄の鏝は、未だ先の部分しか冷えていない]
嫌だ、やめろ、ね。
拒絶すればするだけ俺を悦ばせてるのに。
[首を振るのにはじゃあどうして欲しいのかと褐色の瞳を向ける。
未だ電池で規則的に動いていたほうが快楽もやり過ごせただろう
細さ故、縦横無尽に扱うことの出来る機具をかき回しながら
男は溜息をひとつ]
鏝が嫌なら何がイイの
うん?
[少しずつ鈍くなっているだろう彼の思考に、囁き問う言葉。
抜いて欲しい、ではなくて何を挿れて欲しいのか
男はそう問うた]
[自分の仕草が、相手を楽しませているなんて
少年は微塵も理解できていなかった。
だから、声を飲みこんで、一緒に考えることまで飲みこんで。
中で好き勝手に遊ばれるのが一番今は苦しい]
…、……?
[小さく息を吐きだす。
何ならいいのか。そんな事を言われたところで解らない。
聞こえた溜息に、ゆっくりゆっくりと瞳を開く。
そこに褐色の瞳があるなら、半ば縋る様な色で見上げただろう]
『…選択肢、は?』
[多分、自分が達するまで恐らくこの行為は続くのだろうとそれだけは解る。
とにかく抜いて欲しくて、それでも叶わないならどうすればいいのだろう。
震える溜息を一つ落として、問いかける]
選択肢が欲しい?
[尻を犯す手を止めぬまま、男は間近で問われた声に首を傾ぐ。
きょろりと辺りを見渡し]
じゃあ、さっきの鏝かあの鞭の柄。
[機具の並ぶ一角を指差して告げた。
茨のついた鞭は恐らく一振るいで彼の身を裂くだろう。
その柄は鏝よりも僅かに細いが。
男は彼の下半身に押し付けている昂った自身を選択肢に含めなかった]
選ばないならこのままイくまで続けるよ。
[実は最初の約束はとうに果たした気でいる。
だって男は一度機具を引き抜いているのだから]
[嫌だ、といえる状況でないことは十分に体で理解させられていた。
けれど、聞こえた選択肢に、どちらも嫌だと首を横に振った。
一番欲しかったのは、抜くという選択肢。
けれどそれは与えられることはなかった。
選ばないのではなくて、選べないというのが正しかった]
『も…嫌、だ…っ』
[縋るにも腕はとらわれたままだし、これ以上どうすればいいのだろう。
いっそ押しつけられているものでも選べばいいのかもしれない。
それとも、また泣いて嫌がれば少しは考え直してくれるだろうか。
けれど其れを乞うには、きっとまたあの屈辱的な言葉をきっと口にしなくてはならない。
結局はどれも選べず、玩具によって蹂躙され続けたまま]
うん、じゃあこれでイイんだね。
[嫌だと言う言葉を選べないととって、男は細い機具でぐるりと入り口をなぞるように動かした。
前立腺には届くか届かないかの刺激が続く]
どうして欲しいのか
お願いごとがあるときは――教えたよね?
[足の力を抜けば鎖に繋いだ手に体重がかかる。
彼の体力は後どれ程持つだろう]
[いいはずがない。嫌で首を横にふった。
けれど、それでも赦してはくれなかった。もう、何もかもが限界で]
…、
[声が震える。鎖が揺れれば、掌に出来た赤いみずたまりから筋が一筋二筋と零れる。
ただ、今はもう楽になってしまいたかった。弱い刺激に、息まで震えた]
……『ご、しゅじん。さま』
[もう、意識が朦朧としてしまえば、意外と口に出せてしまうものだと
頭のごく端のほうで、人ごとのように思っていた]
『らく、に、なりたい…も、くるしい…』
[硬翠は霞を帯びたまま、褐色を朧気に見上げた]
『いき、たい』
[願いを、こぼす]
[本当に限界まで耐えたらしい青年が
漸く屈服した瞬間に、男は醒めたような表情を浮べる。
褐色に向いた翠には靄がかかってどれ程感じられたかは定かでない]
ああ、ちゃんと覚えていたね。
イイ子だ。
[声音は変わらず低く甘く響く]
感謝するんだね、今日の俺は気分がいいから
酷いことはしないよ。
[充分いままでを酷いと思っているなら
彼は男の機嫌を損ねた瞬間に世界観を変える事になるだろう。
絶え絶えに毀れた願いと、自らを主人と呼ぶ声に
男は後ろで遊んでいた器具を今度こそ引き抜いて、冷たい床に転がした]
[それから、腕まで赤の伝う彼の手枷を外す。
力をなくしてしまっているだろう彼の身を抱き留めながら
冷たい床の上に、うつ伏せに這うような体勢を取らせてやる。
天井から釣り下がっていた鎖が宙でふらふらと揺れた]
これしきで……随分堪えたようだね。
俺のモノを勝手に傷つけたお仕置きもしなくちゃな。
[掌に出来た傷を見遣り、男は呟く]
[ぼんやりとした視界の中、相手が浮かべた表情は良く見えなかった。
もしかしたら無意識的に、見なかったのかもしれない]
……。
[いい子。褒める言葉は、耳に遠く聞こえた。
怒られたり、酷い事をされないのであれば、
それは受け入れてもいい気がする。
漸く引き抜かれた玩具が床に転がる音に、小さく息が零れた。
それは、漸くこぼせた安堵のため息。
手首の枷が外されて、石の床の上に赤い水玉がいくつか出来た。
膝が笑って、崩れ落ちそうな身を抱きとめられたのは少しだけ予想外だったのだけど。
お仕置き、という言葉に、血が巡り始めた指先が微かに震える。
石の床は冷たくて、血と、零れ落ちた蜜の匂いとが混じって
寝床と呼ぶには酷く質の悪い状態。
そのまま眠ってしまわなかったのは、未だに燻り続ける緩やかな熱のおかげ]
[声を出そうと、微かに唇が震える]
…。
[けれど、謝る言葉は、出てこなかった。
ただ、痺れた指先を怯えるように小さく握りこむことが出来ただけだった]
[床にうつ伏せた青年の尻を高く上げさせる。
謝罪の無い様子に、一度平手を張った。
高い音が響く]
仕置きは後にしておこうか。
先ずは――
[そうして背後に回った男は、彼の熱を帯びた中心に手を這わせた]
イきたいんだったね。
望みどおり、一度解放してあげよう。
エネマグラ、って知ってるかい?
アレなら左程時間はかからないよ。
[彼の尻にあたる男の股間には主張するほどの熱が溜まっておらず、さて何処においたかなと部屋を見渡す様子は
背を向けている彼にはわかるまい]
ッ
[痛み。それは、少しだけ、ぼんやりとした意識を現実へと引き戻す。
床に落ちた赤い滴が触れて、口元を少しだけ汚した]
…?
[後ろで聞こえたのは耳慣れない単語だった。
その単語が解らない代わりに、今理解できるのは男の手が
自分の性に手を這わせたこと。
微かに息を飲みこんだ。喉が小さく震える。
余計な事を考えるほどの気力はなかったから、
後ろで彼がどんなふうにしてるかなんて確認する事もなかった]
此処を使わずにイく事が出来るんだよ。
ドライオーガズムって言えばわかるかい?
Jadeの国ではあまり知られていないかな?
[ニ三度扱くと一度軽く其処を握る。
熱を帯びた体から離れ、道具の並ぶ棚から
角度のついたバイブに似た形の器具を手にとって
青年の横へ膝をついた]
尻に入れれば丁度先端が前立腺を刺激するんだ。
此処を締め付けたり開いたりするだけで充分気持ちよくなれるよ。
まあ言ってみれば自慰用の玩具かな。
やってみせて。
[男の声音は変わらない。
自由になった傷付いた手にその器具を握らせ、薄く笑んだ]
…『知ら、ない』
[良く解らなくて、床に頬をつけたまま緩く首を傾げた。
性に興味を見いだせなくなってかなり久しいから、
そんな事を学ぶつもりもなかった。だから、知らない。
やって見せて、と言われたところで先に先行するのは戸惑いで。
ただ、ここで拒否したらまた機嫌を損ねるのだろうというのは解る。
それだけは理解できた幾らかおぼろげな頭で、説明されたとおりにしてみる。
幾らかぎこちない手付きは、知らないが故に、時々困ったような顔をしただろうか]
仕方が無いな、教えてあげるからその通りにするんだよ。
[戸惑ったような顔の青年に、一から十までのやり方を教えていく男はまるで経験者のような語り口]
先ずはしっかり其れを舐めて濡らしてご覧。
穴は……充分ほぐれてるから、そのまま挿れても問題ないけどね。
そう、持ち手のところまで全部埋めて。
出来たら深呼吸しながら尻を締めるんだよ。
[言う通りにすれば、彼の窄まりの奥
感じるその場所を先端が幾度も刺激して
体全体が硬直したり痙攣するような激しい快楽が襲うだろう。
一旦達すれば其れを引き抜かない限りは幾度も幾度も絶頂は訪れる。射精することなく絶頂を極めた青年が意識を保っていられるかは怪しいところだ*]
メモを貼った。
[言われたとおりに。その言葉にしたがって小さく頷く。
口にするには幾らか抵抗もあったけれど、自分が強請った以上は
やらなければ、また鏝でも引き合いに引っ張り出されそうで、それが怖い。
体の中に自分で埋める事に酷い羞恥を感じる。
自分を買った男の表情が見えなくて良かった、とこんな時だけ思った]
…っ
[意図的に締めるなんて、した事はないが、
ただそうするように言われたからその言葉通りに。
暫くすれば、血と蜜の匂いが薄く残る石室には今まで抑えていたのが
嘘のようにあられもなく喘ぐ響きが沁み込んでゆく。
元々精神的に限界だった事もあって、意識を失うまでそう時間はかからなかった*]
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
ひとり愉しそうじゃない。
[びくびくと跳ねる体を男はただじっと見つめていた。
此方の声など反応している場合ではなかったのだろう。
あれほど我慢していた声が石造りの部屋に響き染み入る。
糸がぷつりと切れた操り人形のように崩れてしまった青年を
荷物のように抱えれば、モニターで看視しながら控えていた双子の召使がやってくる。
彼等に手伝わせて彼の身を清めると、薄暗い地下から一度運び出すことにした。
連れて行った先は日の光が降り注ぐサンルーム。
重なり合うシルクのカーテンが揺れる其処には中東から仕入れた絨毯が敷いてある。薄暗い地下とは正反対の場所。
この部屋の雰囲気は若しかしたら彼の国に似ているのではないかと思った。
当然温情で連れてきたわけでなく
男に思いついた遊びがあったからではあるが]
メモを貼った。
[彼に新しい衣服はまだ与えていない。
青年を絨毯の上に転がすと、
男は蜜で汚れた自身の衣服を着替えに
その場を出て行った。
後には双子の召使が彼の両脇に座り
彼が目覚める様子をじっと見ている*]
[体が完全に、自分のものでなくなっていた。
熱さと苦しさでいっぱいになる。
その感覚で壊れてしまうと感じた意識は次には
悲鳴じみた嬌声を残して闇に沈んでいた。
気がつくまで、どれくらいかかったのか。
気がつくと、絨毯の上に転がされていた。
枷はなかったけれど、見張りはあの二人。
全身が疲れ切っていて起き上がる気にもなれなかった]
[2人の召使は彼が意識を取り戻した事に気付くと
翡翠いろの薄絹を差し出す。
彼が待ち望んでいただろうディスターシャは
しかし上に着る長い法衣のような其れ一枚だけ。
光の差し込むサンルームは温かく、仄かに香が焚かれていた。
男の姿は無い]
…。
[重い体をどうにか起こしながらきぬをうけとる。
差し出されたのは長衣だけ。下履きも肌着もない。
それしかわざと用意しなかったのだろうことは想像にかたくない。
受け取ったそれに袖を通す。
ふと、香の匂いに気付く。仄甘い匂いだ。
暖かな光は、母国を少しだけ思い起こさせた]
[青年が衣服に袖を通すのを見届けると、髪の短い方の双子が立ち上がり部屋を出て行く。
大分間をおいて、二つの足音と共に戻ってきた男と召使の手には大きな皿に乗った料理があった]
ああ、やっぱり似合っているよJade
前の身分は忘れろといったけれど、
そういう衣装を着せたまま貶めるのも悪く無いと思ってね。
まぁ、お仕置きの前にご飯にしようじゃない。
もうどれくらい食べてないのかな、お腹空いただろう?
[そう言いながら絨毯の上に並んでいくのは手づかみでも食べられそうな、男にとっては異国の料理。
香辛料を効かせた肉や野菜をブドウの葉で包んだもの。
ピザに似たひき肉のパイや、ミルフィーユに似た菓子。
青年の前に胡坐をかいて座り、薄い笑みを浮かべて見せた]
[髪の短いほうが部屋を出ていく。長いほうが部屋に残る。
何をどの言葉で喋ってもいいか解らないので、幾らか気不味い。
無言の時間は、確実に重たくて、腹立たしくも見慣れた顔に少しだけほっとした]
『…相変わらず、趣味の悪いことで』
[意識が戻ってくると、言葉も視線の鋭さもだいぶ戻ってくる。
並べられた皿に、幾らか瞳を瞬かせる]
『……ギリシャ料理?』
[少なくともドルマとバクラヴァぐらいはぱっと見て理解できた。
ひき肉が乗っているものが、ムサカかどうかが自信がないくらいで。
何でこんな料理が出てくるのかが不思議で、目の前で胡坐をかく男に
ちらりと視線を向けてみる。答えは、あまり期待していないけれど]
趣味が悪い?
Jadeが着ていた服に似せて作らせたんだけどね。
[硬翠に力が戻っているのがわかる。
衣服を作らせ、料理をつくるほどの時間が経過していたのは、彼にも理解できるだろう。
恐らくあの弱い薬は殆ど抜けている。
彼の問いかけに男は頷いた]
御前と同じような白い服を着ていた商人にご馳走になった料理だよ。
つくるにあたって多少アレンジはしたけどね。
何しろ此処じゃ手に入らないスパイスもあるから。
صفيحة
……だったかな、これは。
[スフィーハという発音になった其れはひき肉のパイを指差して。男は手をつけようとしない彼に首を傾いでみせた]
食べないのかい?
『そうじゃない。
服に関しての文句を言っているわけじゃない』
[しようとしていることが気に入らない。ただそれだけのことだ。
自分と同じような、と言われて、ああそうか、と何となく理解した。
恐らくこれは自分達の国よりもう少し上のレシピに近いのだろう]
『…。貰う』
[空腹なのは事実だったから。
そう言えば、肉料理と気づいて一瞬指を止めかけたが、自分と同じような姿の人間が
食べていたというなら、おそらく肉の種類も大丈夫なのだろう。
どうせ父も兄姉もいないのだから種類なんて気にせず口に運ぶことにした。
自分と母は肉を選ぶ宗教ではなかったけれど、流石に宗教が違う家族が
いる時は気にして食べていたから]
うん?
服じゃないとするとなんだろう。
[首を傾ぎ、青年の手が料理に伸びるのを見て、頷いて見せた]
ああ、どうぞ。
なるべく忠実に再現してはみたけどね。
[肉料理に伸びた手が一瞬止まったのに気付いたが
男は小さく笑うだけ。
傍らに双子の召使を侍らせて、彼が食べる様子を
胡坐をかいて観察している。
男が料理に手を伸ばす様子は無い]
飲み物にリクエストはあるかい?
[そう問いかける今は、今だけは
まるで奴隷に対する扱いではないように見せていた]
『…もういい』
[葡萄の葉の包みを口に運ぶ。刻んだ香辛料の香りが肉や野菜に染みていて、
其れは久しぶりに食べものを胃に入れたこともあって随分上手く感じられた。
小さい包みだから、二つ三つとすぐに消えていく。
ちょっとぱりぱりとしたスフィーハも、ピスタチオの緑が鮮やかな甘いバクラヴァも、
どこか故郷を思い出させて時々指が止まったりもした]
…『薄荷茶』
[飲みものを、と聞かれたので少し考えてから素直に答えた。
酒はあまり飲まない。食事をしながら甘いものも苦手だった]
ふぅん。
……しかし、御前がそうしているところを見ると、此処が異国のように感じるよ。
[軽く流すと、男は彼の注文に双子を振り返る。
同じタイミングで頷いた召使二人は音も無くサンルームを後にした。
時折手を止めながらも食事は進んでいく。
餌を与える飼い主はそんな彼の様子を口元に笑みを浮べて見つめていた]
味は気に入って貰えたかい
御前、餌は他に何が食べられる?
[男の言葉は暗にこれからも食事は与えられるという事を示している。
交わす会話内容をよく聞いていれば、その食事を男が作っている事が理解出来るだろう。
暫くして、薄荷のスキっとした香りの茶が運ばれてくる。
双子は一礼してサンルームを後にした]
[スフィーハの、ソースを吸っているのに少し焦げてぱりぱりとした耳が好きだ。
これはちょっと気に入ったので、少し時間をかけて食べる]
『そうさせているのは、お前だろう』
[小さな破片を口に運ぶ。
食事も、服も。こんな風にされるなんて思ってもみなかったし、
逆に、買われた身分にしては手を掛けられている気がしてそれがどうにも違和感があった]
『…悪くは、ない』
[破片や細かい屑が膝に落ちないように、軽く手を添えながら食事は進む。
何が食べられると聞かれて、幾らか間をおいて、大抵のものは、と告げるだろう。
香の中に薄荷のひんやりとした香りが混ざれば顔を上げる。
相変わらず声を発しないその二人が出ていくのを見てから、
ポットから注がれた薄荷茶の碗を傾けた]
ああ、そうだよ。
御前を少し着飾ってみたくなってね。
[手をかける真似事をしたのは、あの場で育てる者に会ったからかもしれない。単なる気まぐれの一つ。
どうやらピザのような料理は彼の気に入ったらしいと観察しながら男は記憶する。
食事の進め方も矢張り身分の差を見ているようでそれが男の深い部分で仄かに燻る]
そう?
美味しいならつくった甲斐があるね。
確か牛だったか豚だったかは食べられないと聞いたけど
それも大丈夫かな?
[悪くないと、碗を傾ける青年に笑い]
御前を飼うにあたっては
少しばかり時間をかけて見ることにしたんだ。
そう簡単に殺さないから、安心するといい。
[食事が終わる頃合を見計らって、低い声で未来を語る。
殺さない、とは言うが、壊さない、とは言わない]
……。
[あからさまに嫌そうな顔をしただろう。
多少立場上見目に意識を使うこともあったけれど、着飾るのは範疇外だ。
唇と指に残ったピスタチオを舌で舐めとる仕草は子供のようでもあったか]
『俺は異兄姉達とは信仰が違うから問題ない。
こちらの血も混ざっているから普通に牛も豚も食える』
[こちら、とは言ったが果たしてこの場所が欧州なのかは解らない。
甘い残り香を薄荷の香りと共に飲み込む聞こえた言葉に幾らか睨んだ。
命以外は持っていかれる可能性があると、言葉を聞いて判断したからだ]
[紅い舌が覗く仕草には、少年らしさと同時
誘う意図をも読み取る。恐らく彼は無意識だろうと思いつつ]
へえ……? 混血児ってやつかな。
兄弟多いんだね。
[彼の身分を確かに知っているわけではない。
男はそんな風に語りかける。
此方へ向いた鋭い視線には、褐色を細めて笑んだ]
――聡い子は嫌いじゃないよ。
俺の機嫌を損ねないように、気をつけるんだね。
殺さないってことは
どんなに痛くても辛くても死ねないって事だから。
『母は、こちらの人間だ。
兄姉は……数えたくもない』
[数を上から数えようとして、両手両足でも足りないと気づいてやめた。
どうせ買われた今となっては帰る事も多分ないのだろうから]
『喜ばしい展開でないことだけは確かだとは、理解している』
[あの格子の中に放り込まれた時点で、碌な運命にならないと解っている。
ただ決めているのは、ひとつだけ]
『そう簡単に飼いならされるつもりはない』
Jadeの父親はハレムでも持ってたのかい。
[男は小さく笑った。
今更思い出させたのにも幾らかの意味はある]
そうでもないよ?
御前にとって悦ぶ事も用意してあるし。
[青年の宣言には、愉しげに頷いた]
直ぐに服従する奴隷が欲しかったわけじゃないんだ。
生意気そうなのが一つ欲しくてね。
……でもただ生意気なだけじゃ壊して終わりだ。
御前みたいなのが欲しかったんだよ。
でもまあ……早速おねだりが聞けたし
はしたなくひとりでオナニーショーも見せてくれたし
飼い慣らされない心算でも
服従せざるを得ないいまのこの状況
どんな気分だい?
[男は青年の前に胡坐をかいたまま。
薄荷茶を碗に注ぎ、唇へ寄せながら問うた]
『…持っていたら、どうなんだ』
[否定はしない。そこまで辿らせた意味は何なのだろう。
自分も、足を開いて父を待つ母達と同じなのだと示したいのだろうか。
悦ぶ。其れはどういう意味なのだろう。
首を傾げると前髪が硬翠に薄く紗を掛けた。
お前みたいなの。
そう言われて、不機嫌そうに口元が歪む。
言葉を吐くことはなかったが空になった皿を少しだけ押しやり、
それからまた薄荷茶を口に運んだ]
[小さくむせた。
聞こえる言葉に、苛立ちもあったけれど微かに表情に乗るのは羞恥]
『不愉快だ』
[いい気分でないのは確かだ。
ただそれだけははっきりと口にする]
いや?
そんな身分の父親が居たなら、御前も手解きくらい受けてるのかと思ったんだけど。
[青年の容貌を改めて見遣る。
笑みを深め、皿が押しやられるのに気付いて腰を上げた。
リン、とベルを鳴らす。
サンルームの外へ聞こえはしないだろう小さな音ではあったが、間も無く二人の召使は現れる。
長い髪の片方がむせた青年へ白いナフキンを差出し、短い髪の片割れが黙々と片付けていく]
だろうね。
御前言葉通りお姫様だったんだろう?
それが今、奴隷として此処にいる。
しかも買ったのは金持ち貴族じゃないとくれば、さ。
『…あまり、父とはそういう話をしなかった』
[それ以上は思い出したくなかったから口を噤んだ。
元々性的なことにそれほど興味がなかったし、軽い苦手意識の様なものもあった。
体が育ってからは、それだけでは済まなかったこともある。
思考を中断したベルの音は、香の中で清かに響く。
視線を持ち上げれば、白いナフキンが差し出されて、
軽い戸惑いと共に受け取る。礼の言葉はどちらで言えばいいのだろう]
『女になった覚えはない』
[姫、という言葉は酷く気に入らない。
蔑み交じりに兄姉達にそう呼ばれていた事もあったから]
『別に、誰に買われたところで不愉快なものは不愉快だ。
貴族だろうが、賎民だろうがそんなもの関係ない』
おや、跡継ぎと言うわけではなかったかな。
……嗚呼、尻のほうが感じるみたいだったしね。
女になった覚えはなくても
Jadeはお姫様だ。
[差し出したナフキンを受取られると、長い髪の召使は一礼して下がる。片割れと共に茶器と皿を片付け出て行くまで、一言として言葉は発しなかった。
彼等の声が聞けたのは、蜂蜜風呂の中荒い吐息だけだ]
そう?
俺は其処が一番関係あったんだけどね。
どっちにしろ御前のプライドが高いのはわかってる。
へし折ってやりたいんだ。
さ、食事も終わった事だし、遊ぼうじゃないか。
[スパイスの残り香は大分薄い。
男は青年の目前に立つと、蛇のような視線を向ける]
『さあ、どうだろうな』
[継がせたい人間と。継がせたくない人間と。
その狭間に取り残されて、気づけばこんな場所にいる。
姫。またその単語が聞こえれば、眉を顰めた。
言葉を口にしない二人を見送った硬翠は男のほうへとまた向けられる]
『そんなつまらないことを目指して何が楽しいのかさっぱりわからんな』
[けれど、そんな理由で買われたというのもあまり面白くはなかった。
遊ぶ。その言葉に碗の中に少し残った薄荷が微かに揺れて香りを立てた。
硬翠は小さく睨みつけたか。視線だけは全力で拒否を示すように]
[眉を顰める様子
男は節ばった指先を青年の眉間に伸ばす]
御前にはわからないさ。
基本、俺はモノを壊したい性質でね。
御前みたいな奴を足蹴にするのが
愉しくて堪らないんだ――よっ!
[視線を受けながら、男は革靴で言葉どおり彼を足蹴にした]
[伸びてきた手を緩く払う]
『理解など───ッ』
[したくない。する事も、きっとないだろう。
そう続けようとした言葉が歪む。手から、碗が零れ落ちて、絨毯の上を転がった。
それほど入っていなかった茶は絨毯よりも先に翡翠のうすきぬに沁み込んで]
『ッ』
[睨みあげる。
言葉は、ないけれど、はっきりと]
しなくていいよ?
[理解なんていらなかった。
碗の転がる音は絨毯に吸い取られる。
足蹴にした青年に馬乗りになり、
男は茶で濡れた翡翠の布を見下ろす]
ああ、折角用意したのに。
[哂いながら、髪を掴んで絨毯の上に押し倒した]
駄目じゃないか、勝手に濡らしちゃ。
[翡翠の上にくっきりとついた足跡に、苛立ちを覚える。
与えられたものだけれど、色は割と好みだったから。
見上げるほどの身長差はないけれど、
相手が上に乗ればそれは自然と見上げるような形に変わる]
『誰の、せいだと…ッッ!!』
[痛み。
そのあと背中に衝撃。碗は遠かったから大丈夫だったが、
半ば押しつけられたような強さに苦しさで息が詰まった]
避けなかった御前の所為だよ?
さて、食後の運動といこうじゃないか。
[与えた衣装を汚していく、
其れが男の支配欲を僅かに満たす。
引き倒し、そのまま押し付けるように覆いかぶさる。
髪は掴んだまま、耳元で吐息に混ぜて低く囁いた。
長い裾を割り、もう片手は脚を撫ぜていく]
これから御前を犯してあげよう。
慣らさなくても問題無いよね?
[未だ昂りを見せていない男の中心はその時点で質量はある。
一度押し付けられている彼には理解出来るだろう
膨張時の男の其れは凶器に近い]
『そのような詭弁を誰が言えといった!』
[声を荒げる。けれど誰も来ないということは、そういうことなのだろう。
耳元に一方的に押し付けられる言葉に、出来た事は睨み返すことだけ。
たくしあげられる布の感触、足に触れる手、どちらも不快感しかない]
『な───っ』
[押しつけられる質量に小さく喉が掠れて啼いた。
慣らす慣らさない以前の問題だ。冗談じゃない。
嫌だ、というその感情が相手から逃げようとその体を押し返すために働く]
残念、ここじゃ俺の言い分は何より正しいんだよ。
[詭弁、と言われて男は青年の上に乗ったまま哂う。
二人の召使の姿は無いまま。
サンルームの明るい中、にらみ返す硬翠に褐色を映し]
嫌だとやめては何度言ってもいいよ。
無駄だっていうのは、地下で散々味わった筈だけど?
[髪を掴んでいた手は押し返そうとする彼の片腕を捕らえ
関節の曲がらぬ方向へと捻りあげた。
上から体重をかけて押し倒している
左程身長は変わらないが、男は青年ほど線が細いわけではない。
脚に触れていた手は太腿を辿り尻肉を揉むように掴んだ。
人差し指で窄まりの周囲をなぞる]
此処、どれくらい広がるだろうね。
裂けてもまあ痛いのは俺じゃないから良いけど。
…ッ!
[言葉の通りなのだろう。其れが尚更腹が立つ。
誰も自分の味方が一人としてここにはいないのだという事実。
最初から期待だってしていないけれど]
──い、た…ッ
[捻りあげられる手、少し骨が軋んだ気がして思わず小さく呻いた。
上からかかる重みの圧力に幾らか息が苦しくて唇が微かに喘いで酸素を求める。
足から手の位置が上へと上がってくれば、表情が歪む。
裂ける。その一言に微かに身が竦んだ。
咄嗟に視線をそらす]
[そのまま腕に体重をかければ折れるだろうけれど
男は其れをせず、彼の腕を解放した。
酸素を求めた青年の唇が開いたのに気付くと、男は噛み付くように口付けた。
満足な酸素は与えてやる事はない]
どう?
前戯が欲しいなら……
[硬翠は此方を見ていない。
男は構わず耳元へ唇を寄せて甘く低く囁く。
強請る方法は教えただろうと、哂って
窄まりをなぞっていた指を戯れに臀穴へ突きたてた]
[解放された腕は、痛みが少し残ってそのまま持ち上げる気にはなれない。
唇を噛むより先に塞ぎこまれる。また以前のように噛んでやればよかったと思った。
今となっては仕置きが酷いと解っているから叶わないことだけど]
……、…『いら、ない』
[意識がまともにあるうちは、そう簡単に言ったりしない。
哂う声が癪に障るけれど]
──ッ、ぁ…!
[微かな声。
微かな痛みに、眉が寄る]
ならいいよ。
其のまま挿れてあげる。
[慣らさず突きたてた指は強情な彼の言葉で簡単に引き抜かれる。
押し倒した青年の脚を両手で持ち上げ、腹につくほど折り曲げた。捲りあげた翡翠の下には何も穿かせていない]
あし、自分で抱えて。
……出来るよね?
出来ないならきつく縛ってあげるけど、どっちが良いかな。
[そのまま、なんて余計なことを言わなくても良いのにと思えば苛々した。
どうせ好き勝手されることに変わりがないなら、
今更何を聞いたってどうしようもない。
脚を。どう考えたってそれは]
…っ
[嫌だけど、でも。
悔しさで顔が歪む。視線を逸らしたまま、ただ指示に従うしかなかった]
[屈辱に歪んだ表情を見下ろし、
自身の脚を抱える彼から半身を起こすと、
そらした視線を顎を掴んで戻させた]
ちゃんと目をあけていないと、今からどんな事されるかわからないだろう。
見えなくて良いならイラナイから刳り貫いてしまおうか?
其の程度じゃ死なないから大丈夫。
ああ、刳り貫いた穴から希硫酸でも流してあげようか。
凄いにおいで暫くご飯食べられなくなるかもね。
[どれも実際にやった事があるからか、男の言葉は真実味を帯びている]
良い格好。
赤ん坊のオムツかえる姿勢って丁度こんな感じかな?
[彼の胸元に毀れた茶は左程量も無く、そろそろ乾きかけているだろう。捲り上げた衣服は下半身を隠さない。
其処の様子を窺うように、顔を近づけた]
[視線を引き戻されれば睨みもしたか。
男の手の動きに逆らう事はしなかったが]
『……どちらも、断る』
[不穏な提案をどれも却下する]
『知るか、そんなこと』
[近付けられる顔、ささやかれる言葉。
視線を逸らしたいのに、逸せない。
逸したら、何をされるか分かったものじゃなかったから]
[戻った視線に絡めるように瞳を細めた。
逆らわなくなった彼が口だけはまだ反論しているのに哂う]
断るなんて選択肢は用意してないよ。
その綺麗な翠をなくしたくないなら、目を逸らさないことだね。
[持ち上げられた太腿の間へ顔を近づけ、更に脚を上げろと告げる。腰が浮く姿勢をとらせれば、散々玩ばれた窄まりの中心までが外気に触れる]
へえ。
良かったね、あれだけ突っ込んだのに切れてないみたいだ。
ま、これから切れるかもしれないけど。
[ただ、視線だけで舐るように其処へ視線を向けている。男はやがて自身のスラックスに手をかけた。取り出した猛々しい竿は東洋人ほどの硬さが無いかわりに質量が規格を大きく外れている]
…っ
[小さな舌打ちが一つ。
逸すなと言われた視線は、睨む事でどうにか平静を保った。
指示のとおりに腰を上げるが、体はあまり柔らかくないので
自然と息が詰まって幾らか苦しかった]
『…余計なことを言っていないで、
やることが決まっているならさっさと終わらせれば良いだろう』
[見たくもないものが視界に映れば、
少しだけ翡翠の袖を指先が手繰った]
やる事は決まってるけど
……俺別に御前に欲情しないしね。
[自身を軽く扱き、男はふと思いついたとでも言う風に笑む]
その姿勢、苦しそうだね。
止めていいよ。
[男は立ち上がり、まだ昂りを見せない己を示して口を開いた]
こっち来て、これ勃たせて。
出来ないってのは聞かないから。
[視線を絡ませる。
勢いの減らない硬翠に機嫌をよくしながら、命令を一つ]
[言われた言葉には、流石に苛立つ。
欲情されたところでこっちだってうれしくない。
いっそその方が楽なのかも知れないとは思ったけれど]
……?
[脚を抱えていた手を下ろして体を起こす。次の命令にはもう、こちらに考える余地は与えられなかった。
唇を噛んだ。でも事態が動くわけでもない。
近付く体はどこか重かった]
どうしたんだい?
随分焦らすじゃないか。
[身を起こした彼が近づくのを待つ。
スラックスを下ろした状態で立ち尽くしているのは
見ようによっては間の抜けた格好だが
是から彼の身に起こる事を考えれば、そんな事に気を止めている間は無いかもしれない]
あ、噛むんじゃないよ?
もし一度でも歯があたったら
くぎ抜きで全部引っこ抜くからね。
…は?
[噛むな。ということはどう考えても
口を使えと言っているようにしか聞こえない。
嫌だと言いたくても、言える身分ではない。
まるで娼婦のような扱いは、それだけで腹立たしかった。
不快感を堪えて、男の前に屈み込む。
他人のなんか、触りたくも見たくもない。
でも。だけど。
どれくらい躊躇ったか。薄く開いた唇は、震えていたか。
それでも自分を傷付ける凶器を調えるためにその切っ先に重ねて、浅く咥えた]
[男はただ勃たせろと言っただけではあるが
注意点を示す事で彼にはどうすれば良いか察しがついたらしい。
屈む青年の髪に両手を添える]
そんな間近で見られてもね。
見てるだけじゃ興奮しないって言うかさぁ。
[くすくすと哂う声を聞かせる。
震えるような感覚が先端に触れた。
未だ柔かな弾力を持つ其処に他人の体温を感じる]
賢いね。
そこから、何をしてくれる?
[一度犬にするようにくしゃりと頭を撫で、男は先促した]
[どうすれば、というのは、分からなくもない。
舞台の上でされたことはまだはっきり覚えているし、
過去の記憶さえ引っ張りだしてくれば良いだけのこと。
震えた唇で、ゆっくりとその先を食むようにしてから
幾らかぎこちなく舌を這わせる。
融けるアイスを舐めるかのように、舌と唇を使って、
時折不快そうに眉がよったりもしたか。
口に全部納めるのは流石に苦しそうで、まだそこまでは踏み切れずにいた]
[明るいサンルームに、時折水音が聞こえる]
……へえ。
物覚えは良いな。
これ、初めてかい?
[男の息は乱れない。
ただ、彼を貶めている事に幾許かの満足はあるけれど。
性感帯を外されているのは故意か、それとも]
舐める時は舌先に力入れて。
そう、裏側もだよ。
[不快そうに眉を顰めながらも、亀頭を咥えた相手が裏側を舌先で刺激した際には流石に低く吐息を零した。
少しずつ先に滲むものが彼の咥内を汚す。男は髪を撫でていた手で頭を引き寄せた。自然奥までくわえ込む事になる]
ほら、もう少し……奥まで咥えて。
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