162 絶望と後悔と懺悔と
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― ベッドのある部屋 ―
アヤ! 涼にーさん!
[僕はそこにいる家族の名前を呼んでしばらく黙り込む。
外をきゅうけつきが囲んでいることなんて知らないけれど、 それがなくたってここはもう火に囲まれている。
逃げられない。 にげられない]
もうだめ、かもしれない。
[違う、こんなことを言うつもりじゃない。 まだ小さいけど、僕だって家族を守りたいんじゃなかったっけ?]
(5) 2014/02/08(Sat) 00時頃
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[どうしよう。 どうしよう。
――声が聞こえるんだ。 外は叫び声とかで騒がしいはずなのにそっちは全然耳に入ってこなくて。
ほら、こっちにおいでって僕を呼んでる。懐かしい家族の声]
……。
[僕は立ち上がったアヤに何を言うつもりだったんだろう。 とにかく今は]
――…っ、うん!
[アヤに手を取られた瞬間、ぶるっと震えがきて、昔の家族の声以外の音が全部聞こえるようになって、 僕はアヤに頷いたんだ。>>16]
(23) 2014/02/08(Sat) 00時半頃
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アヤも僕も、涼にーさんも明にーさんも、みんなも、絶対だいじょうぶ。
[だから僕らも大丈夫でいないと。絶対に。 僕はアヤと繋いだ手にしっかりと力をこめた。 それから廊下に出る。先に行った涼にーさんの姿を見失わないようにしないと]
外にはアンゴにーさんや、にーさんみたいな人、いるから。 そこまで行けば……。
[きっとにーさんが守ってくれる。 だからそこに着くまでは僕が守らないと。だって]
(41) 2014/02/08(Sat) 00時半頃
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え……
[目の前に明にーさんの背中が見える。>>39 それと明にーさんの背中越しに、馬鹿でかくてとんがった手を振り下ろそうとするナニモノカの姿も。
僕は動けない。目の前で何が起ころうとも]
(49) 2014/02/08(Sat) 01時頃
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明にーさん、やだ……っ、
[僕は倒れた明にーさんの肩を揺さぶる。手にぬるりとした感触があってもやめない]
明にーさん、僕らを守って――、……ぁ
[その時だった。 ぶつんってあっけなくアヤと繋いでいた手が離されて、僕は目の前が真っ白になりかける。
アヤを連れてこうとするのは誰!?
僕はナニモノカに背を向けてアヤの姿を探す。
そんな僕の後ろでそいつが、 明にーさんから流れる赤よりも真っ赤な目で僕を見下ろして、 いましがた明にーさんを裂いてやっぱり赤い手を振り下ろしてくるなんて知らないで]
(70) 2014/02/08(Sat) 01時半頃
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…! アヤ――!
[僕はアンゴにーさんみたいな人――白いロングコートを着た人がアヤを抱え込んでいるのを見つけた。>>79
よかった。 アヤの無事を確認できただけで僕はもう膝から崩れそうだった。 でも、でも、僕もそっちに行かないと。
その時、目の端で白が赤に塗り替わる。>>79 アヤに、明にーさんに、涼にーさんが何か言ってるのに気付いた時にはもう遅い]
(91) 2014/02/08(Sat) 02時半頃
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え、 ………あッ!
[僕はとんがった手に肩を切り裂かれて前のめりに倒れる。 そのまま足で踏みつけられてもう、動けない]
はなして、…………やだぁ、 いたい、おねがい、 アヤは、アヤのことはいじめないで……!
[次はアヤの番だと思ったから必死になって僕は求める。 そもそも言葉が通じるのか考えるより先にそうして、何度も「おねがい」とか「こないで」とかそんな言葉を眠くなるまで繰り返していた]
(92) 2014/02/08(Sat) 02時半頃
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[痛い。痛くて眠れないんだ。 撫でてくれないと、眠れそうにない。
そんな、痛くて赤くしかないまどろみの時間がふいに終わりを迎えた後。 僕の世界は再び滅んでしまった**]
(94) 2014/02/08(Sat) 02時半頃
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― 回想 ―
…雨だ。降ってきたよレイにーさん。
[僕は窓辺に立って降る雨をじっと見つめたまま、同じ部屋にいたレイにーさんの名前を呼ぶ。
にーさんに「零」という漢字の意味を教えてもらってから、>>76 雨が降るたびにちょっぴり、わくわくするようになった。前は好きじゃなかったのに]
(151) 2014/02/08(Sat) 17時半頃
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ね、“きぼう”…って、どう書くの?
[広々とした勉強机の上には紙が広がってるし字を書くための準備も済ませてある。 教えてもらったらすぐに書いてみるんだ。ずっと前から気になってたことをようやく訊けたんだし。
それからはしばらくずっとその漢字ばっかり練習していたんだ。 難しい。難しかった。でも書けるようになった。
みんなに見せて回った。アンゴにーさんにも。 レイにーさんに教えてもらったんだって、内緒にする気なんかないまま付け足して]
(152) 2014/02/08(Sat) 17時半頃
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[きぼう――“希望”。
その言葉を僕は孤児院に来る前から知っていた。 僕と一緒に死のうとして、僕より先に死んじゃった母親が言ってたからだと思うんだけど……。 どうして親の顔より先にその言葉が浮かんでくるのかまでは、分からない。
分からないままなのはいい気分じゃない。 けど、嫌いなオレンジのあいつや緑のあいつをつい残してしまうように、その謎は僕の中にずっと残されたまんま。
――そもそも僕は、最初の世界のことを何も知らなかった。 僕らの家が色町の辺りにあったことも、母親が男の人と“仲良くして”お金を稼いでいたことも、 家族が怖い人からお金を借りていて、返せないと家族をバラバラにするって言われてたことも、何も*]
(154) 2014/02/08(Sat) 17時半頃
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― むかしのはなし ―
……逃げろー!
[勝った! 次の鬼はアヤだ!>>166 僕は自分から身体を動かす遊びはあんまりしない。その時だって、最初は漢字を書いていたいと首を横に振りかけたんだけど、 アヤとマドカの眼差しに負けて鬼ごっこの仲間に加わったんだ]
捕まるかっ! 孤児院の庭は僕の庭!
[なんて言ってみてもたいてい最初に捕まるのは僕だ。その時だってそう、だと思ってたんだけど]
(190) 2014/02/08(Sat) 19時半頃
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マドカ…、はしゃぐのはいいけど、外はだめ。
[いつの間にかアヤはマドカを追いかけないで呼びかけてた。戻っておいでって。 見ればマドカの姿があるのは門の向こう]
……。
[これはアヤとふたりで門の外のマドカを捕まえるっていう、いつもと違う遊び……とか考えてる場合じゃない! アヤに「だいじょうぶ?」って訊いてから、えいっと二人で門の向こうに足を進めたんだ]
(191) 2014/02/08(Sat) 19時半頃
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[結局、いつもと違う遊びで済まないことが起きた。>>145
僕らは街の子達に囲まれて絡まれたところを助けてもらった]
なんで…?
[お礼を言わないといけないのに。でも、不思議だった。 人を殴ることは怖い人達のすることだと思ってたのに、さっき街の子達を殴ったこのにーさんは、ちっとも怖い人に見えないんだ。
アヤもきっと同じ気持ちなのかな。帰りにはすっかり懐いてるみたいだった。>>168]
よろしく、アマネにーさん。僕、……リカルダ。
[僕は歩きながらその人に右手を差し出した*]
(192) 2014/02/08(Sat) 19時半頃
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― むかしのはなし:hands ―
…リッキィって呼んでる子の方が多いかも。
[愛称のことを伝え忘れるところだった。それはさておき。>>199 僕はアマネにーさんと手を繋ぐつもりでいたんだ。裾はもうアヤが握っているし。 片方だけならマドカが繋ぐ余地もきっとあった]
……。
[アマネにーさんは手を繋ぐのが嫌なのかな。 僕もまじまじとにーさんの手を眺めてしまう。さっき街の子を殴った手。 どうしてかな。 僕はにーさんの手を包み込んであげたくなったから、やがて手を取られた時に迷わずそうしたんだ]
(239) 2014/02/08(Sat) 23時半頃
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[この不思議な感じについて答えが出たのはそれからしばらく後のこと。
物語の本を読んでたら女の子が主人公に言ってたんだ。「殴った方の手も痛いんだよ」って。 その本は好きで何回も読み返してたから、あの時このセリフを思い出してたんだね。なるほど。
それからというもの、アマネにーさんが怪我して帰ってくるたびに、 僕は何も言わずににーさんの誰かを殴った方の手を握るようになっていた。時には他の酷い傷もそっちのけで。
その時僕は、誰かと手を繋いでいる時とは違った気分を味わっていたんだ*]
(240) 2014/02/08(Sat) 23時半頃
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― 孤児院のある日:雨 ―
[僕は嫌な顔ひとつしないで頷く。>>207 手伝いながら雨の音を存分に聞くんだ……。ここで窓を開けっぱなすわけにはいかないし]
僕のお願い事はね、………ぇと、
[外は雨のせいで青く霞んだように見えてて、 僕らがいる中では『希望』の文字が、黒いインクみたいなので雨の音よりも静かに書かれていった。 ふたつの漢字が書き終わる頃に口を開いて]
アヤと一緒に遊びに行くの。…外で。
…………僕だけじゃ足りないってこと?
(281) 2014/02/09(Sun) 02時半頃
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[鬼ごっこの時以来、アヤはいっそう外に出たがらなくなったから。 僕が願うだけじゃずっと叶わないのかな。 アヤとふたりでならどこにでも行ける気がするのに。
涙をこぼしたみたいに雨の雫が落ちた紙を持って、書く順番を覚えるまでもう一回、もう一回、って。
そのたびに『希望』って書かれた紙が増えていった**]
(282) 2014/02/09(Sun) 02時半頃
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― むかしのはなし:hands ―
……?
[僕はアマネにーさんの手を握ったまま首を傾げる。>>248 物好きってことは僕がやってることは変なのかな。怪我したところに「いたいのいたいのとんでいけー」って言うかわりみたいなものだって思ってたのに。 僕はただ、僕らのために身体を張るアマネにーさんに何かをしてあげたくて――]
……じゃあ、アマネにーさんはさびしい時誰とこうしてるの。
そんなこと言うなら、……行っちゃえばいいんだ。その人のところに。
[僕はアマネにーさんに勝手なことを言ってしまったと気付けない。 くるりと後ろを向いて、駆け込むのはいつも寝ているベッドのある部屋*]
(345) 2014/02/09(Sun) 15時半頃
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― むかしのはなし:背中越しの声 ―
[待てと言われて待つ人がいるかー! >>390 僕は部屋に駆け込むとベッドにうつぶせになって悔し紛れに枕を叩く。ノックの音がするまで何度かそうしてた]
……。いいよ。
[別に泣いちゃってひどい顔になってるわけでもないし。>>391 だけど気まずくて、アマネにーさんに返事をするためだけにあげていた顔を、 ドアの開く音が聞こえた途端にまた枕に押しつけて。
そのままアマネにーさんの話を聞く。 背中の上から声が降ってくるみたい。 僕はちゃんと聞いていたから話の合間にうなずくことができた。 今すぐじゃなくていいって言ってくれたから、僕は落ち着けたんだよ]
(419) 2014/02/09(Sun) 21時半頃
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それ、と…?
[声の向きが変わった。出て行くのかな]
…、……!? あ、アマネにーさんっ、
[僕は背中を向けてたアマネにーさんを呼び止める。>>292 我ながらいつ飛び起きたんだろうって思う。とにかくアマネにーさんをちゃんと見て]
ぼ、僕みたいな物好きで、いいならいつでも…、いる、よ。
[変なことじゃなくて特別なことって言われたみたいで、嬉しかったんだ]
(420) 2014/02/09(Sun) 21時半頃
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[陽が沈みまた昇り、落ち着いた頃に僕はまたアマネにーさんのところに来た。
アマネにーさんだけが痛いのは嫌。 にーさんは自分で思ってるほどここで嫌われてないと思う。 だからあんまり無理しないで。
つっかえつっかえ主張したのはそんなこと。二つ目はアヤとマドカを見て思ったことだから現実と違うかもしれない。 僕が部屋に駆け込んじゃった理由はその中にはなかったんだけど、 責める気のなかった僕は何も言わなかったんだ**]
(421) 2014/02/09(Sun) 21時半頃
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