84 戀文村
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[ベネットが、自分の名に書き換えろと言うのを聞いて、女も、ダーラ同様ベネットへ片方の手を伸ばし、ふ、と笑って頭を振る。]
無理だろう。 名前を書き換えて済む問題なら、 誰かがとっくに試している。
でも、気持ちは嬉しい。 私も同じ気持ちだ。
[ベネットとダーラ、交互に見て]
わかった、ダーラに来た時はそうしよう。 いっそ、一晩だけの祭りを開いてしまおうか。 その瞬間だけでも、皆が忘れられるように。
[ダーラの返答に、安心したように溜息をついた。]
ありがとう。ダーラになら、安心して任せられる。 本当に、ありがとう。
(1) 2012/03/26(Mon) 00時頃
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そろそろ、日が暮れるな。 完全に暗くなってしまう前にナタリアの家に行かないと。
私はこの辺で帰るよ。 ベネット、美味しいお茶をありがとう。
…───さっきの話、現実にならないように祈ってる。 だけど、もし本当になったとしても、 二人のお陰で、心残りなく逝けるよ。
本当に、感謝してる。
それじゃあ、またな。
[名残惜しげに両手を引いて、カップに残ったお茶を干す。 それから、二人にそれぞれハグをしてから店を出た。]
(6) 2012/03/26(Mon) 00時頃
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─ 本屋→ナタリアの家 ─
[日が落ち、急速に薄暗くなりゆく中を急ぎ足で歩く。 目的の家に着いた頃には既に陽は落ちきっていただろうか。]
ナタリア、いるかい?
[女は扉を軽くノックして、様子を窺った。]
(10) 2012/03/26(Mon) 00時半頃
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[しばらくして、返事があったので中へ入る。]
こんばんは、ナタリア。 先日ね、いい薬草を見付けたんだ。 滋養がつくから、ナタリアにも分けたくて。
──おや、また手紙を読んでたのか?
[中へ入ると、勝手知ったる自分の家とばかり台所を借りて薬湯を準備した。戻って来ると、老婆の手には手紙が握られていた。 もう見慣れた手紙。 それにまつわる話も、クラリッサを通じて聞いた事がある。]
(19) 2012/03/26(Mon) 00時半頃
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[薬湯の入った器を渡し、ナタリアの肩に手を添える。]
…───手紙を読めたあなたの孫は、 幸せだったのかもしれないよ。
戦争で、どことも知れぬ場所で、 一人で死んで行くのと比べれば──…、 愛しい人を追って自ら命を断つのも、 悪くないのかもしれないと、 そんな風に、思ってしまう──…。
……いや、すまない。 あなたに言う事ではなかったな。
[申し訳なさげに謝って、空いた器を綺麗にする。]
今日はもう遅いから帰るけど、また来るよ。 風邪を引かないように、温かくして寝てくれ。
[幾つかの薬草を置いて、老婆の身体を軽く抱き締め家を出た。]
(25) 2012/03/26(Mon) 00時半頃
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[ナタリアの家を出た女は、夜道を足早に酒場を目指す。 今日みたいな日は、ヤニクのピアノでも聞きながら酒を飲み、一時でも楽しい気分に浸りたい。
そんな事を考えながら歩いていると、ブローリンとホレーショーが何かやり取り交わしているのが目に入った。 昼間ホレーショーから聞いた、ブローリンが酒に強いという話を思い出し、これから共に酒場に行かないか誘おうと、遠慮もなしに近づいて行く。]
(29) 2012/03/26(Mon) 01時頃
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ヨーランダは、ホレーショーとブローリンを見たのは酒場から戻る時……だった、かもしれない。
2012/03/26(Mon) 01時頃
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─ 酒場 ─
[酒場に着いた頃には既に辺りは真っ暗だった。 扉を開けて中に入ると、暖かな空気と静かなピアノの音が迎えてくれる。 戦争の気配を感じさせない落ち着いた空気に表情が和らぐ。]
やぁ、来たよ。
[ダーラの姿を探して月白の瞳で店内を見渡し]
おや、セレストも来てたのか。
[もう一人、昼間顔を合わせた娘がダーラと寄り添っているのを見て軽く首を傾げた。]
(35) 2012/03/26(Mon) 01時頃
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[二人の傍に寄って、近くの席に腰掛ける。]
…──うん、わかるよ。 私も一緒だ。
[もどかしげに不安を訴えるセレストの表情に、ずきんと胸が痛んだ。セレストの髪を撫でるダーラの手を、信頼と共に見る。 この村の人達はとても心優しく、血が繋がっていなくても本当の家族みたいに接してくれる。身寄りのない女にはそれが心からありがたく、同時に村の人達を守りたいという想いを強くさせる。]
(41) 2012/03/26(Mon) 01時半頃
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ヨーランダは、ダーラに頷いて、「じゃあそれを」と頼んだ。
2012/03/26(Mon) 01時半頃
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はは、本当だな。 ってそれじゃダーラが生活出来なくなるぞ?
[出された料理をフォークで口に運び、うまいな、と笑う。 ホットミルクを一口飲むと、温かい温度と甘さに、沈んでいた気持ちがほっと緩んで行くのを感じた。]
ヤニクはもう少ししたら出て行ってしまうのか?
[ピアノを演奏する男に、なんとなしに水を向けてみる。 彼のような旅人なら、戦争に召集されずに済むのだろうかと。
もしそうなら、各地を転々とする、そんな生活も悪くはない。]
(44) 2012/03/26(Mon) 01時半頃
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ヨーランダは、セレストの涙に気付いて、フォークを置いた。
2012/03/26(Mon) 01時半頃
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さぁ、わからない。
ただ──、それで、戦争を逃れる事が出来るなら、 そうした方がいいと、思っただけなんだ。
[セレストの質問に緩く頭を振って答える。 どうなんだ?という視線をヤニクに向けて]
(47) 2012/03/26(Mon) 01時半頃
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…───。
[不思議そうな顔を向けるセレストに、なんと答えてみようもなくて、フォークを置いた手で、セレストの黒髪を撫でようとした。 口許に僅かな笑みを乗せて。]
(48) 2012/03/26(Mon) 02時頃
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[ダーラと一緒になってセレストの髪を撫でながら]
なんだ、タダじゃないのか? 残念だな、今夜から早速越してこようかと思ってたのに。
[ニヤリと唇を歪めてみせた。]
(52) 2012/03/26(Mon) 02時頃
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セレストが? 嬉しいな──それじゃあ一緒にここに住もうか。
って、それじゃ私は駄目な大人になってしまう。
うん、本当に、セレストはもっと甘えていいんだぞ。 心を許せる相手がいるセレストを見て、 私もダーラも幸せな気持ちになれるんだから。
[ふと真面目な顔になってそう言って。
それからしばらく、他愛のない話をしながら料理に舌鼓を打ち、ミルクだけでは足りないと強い酒を頼んで、最初の一口だけぐいとあおった後は、長い時間を掛けて、この時を楽しんだ。]
(56) 2012/03/26(Mon) 02時頃
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[酒場にいる面々に別れを告げて、帰る道すがら、ホレーショーとブローリンを見掛けて話し掛けようと近付いたが、二人共こちらを一瞥したきり何も言わず、背を向けて歩き去ってしまった。]
…───?
[女は酒で浮かれていた気分がスッと引いて行くのを感じた。]
(57) 2012/03/26(Mon) 02時頃
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[得体の知れない不安が胸を占める。
いつもとは違った表情と態度。 彼らは軍人だ。何か軍の機密に関わる事かもしれない。
もしそうなら、聞いても答えてはくれまい。]
────…。
[女はひとつ溜息を吐いて、ストールをぎゅっと掻き合わせた。 家までの道を、俯いてのろのろと歩く女の脳裏に、夕方ダーラとベネットに語った話が、現実感を伴って甦っていた。**]
(58) 2012/03/26(Mon) 02時頃
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─ 村役場 ─
[ヴァイオレットとハワードの葬儀の準備が整った。 とは言っても、空の棺を埋葬するだけの、簡易葬儀。 それも、重なる訃報と徴兵で人手不足な村で今まで通りの形式に則った葬儀を行うのは難しく、今回は二人の合同葬儀の形を取ることになった。 ヴァイオレットと仲が良く、ハワードの部下でもあったセレストも、葬儀への参列を希望するかもしれないと、この日女は、セレストが職場に顔を出す時刻(エリアスが役場に顔を出すよりも前)を見計らって役場を訪れていた。]
────帰った? なぜ。体調でも、悪いのか。
[しかし、定位置に彼女の姿はなく、不思議そうに役場内を見回す女に職員のひとりが教えてくれた。
曰く『セレストに赤紙が来た』──と。]
(85) 2012/03/26(Mon) 16時頃
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──────え?
[一瞬耳を疑った。]
なぜ? そんな、セレストはまだ20だぞ!
[ヴァイオレットのように通信の知識があるわけでもない。男のように戦えるわけでもない。 戦争に行って何が出来ると言うのか。
知人の手紙に書かれていた事が現実味を帯びる。 昨日ダーラ達と話して心の準備は出来ていた筈なのに、こうして目の前に突き付けられると、到底納得など出来ない自分がいた。]
くそっ、あんたじゃ埒があかないっ。
[女は血相を変えて役場を飛び出した。]
(87) 2012/03/26(Mon) 16時頃
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ベネット! ベネット!!
[女が最初に行ったのは年近い青年の店。]
ベネット、セレストに赤紙が来た──。
昨日、言ってたよな? もし赤紙が来たら、名前を書き換えてしまえって。
私もダーラもそんな事出来る訳ないって言った。 けど、お前なら、もしかして、なんとか出来るんじゃないか?
だからあんな事を言ったんだろう?!
[無理と知っていて尚、縋るように問い掛ける。]
なぁ、私は、あの子を行かせたくないよ。 あの子が生まれたときから知ってる、 私の家族みたいな子なんだ──…ッ。
(89) 2012/03/26(Mon) 16時頃
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[ベネットはなんと答えたか。 どんなに縋っても、無理なものは無理なのだ。 不可能を可能にする力は、今の青年にはあるまい。
結局、幼子のように駄々をこねた後、再び外へと飛び出した。]
(91) 2012/03/26(Mon) 16時頃
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[次に女が探したのは、飲み仲間でもある軍人の姿。 いつも村の中をふらふらしている男は、今日は何処にいたか。]
──ッ、ホレーショー!!!
[女は、男の姿を見つけるやいなや駆け寄って、男の右頬目掛けて渾身の力で拳を振り抜いた。**]
(92) 2012/03/26(Mon) 16時半頃
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[ホレーショーが拳を止めたなら反対の拳で反対の頬を狙う。 当たれば女の拳の方が裂けるであろう、遠慮会釈のない殴打。 それも止められたなら、身体ごとぶつかって、がむしゃらに拳を振り上げ、男の胸に何度も何度も振り下ろす。
いつしか、女の目からは滝のような涙が溢れ出していた。]
──なんで、 ────なんでなんだッ!!!
(100) 2012/03/26(Mon) 17時頃
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お前達はいつも、私から家族を奪って行く──!!
セレストだけ、ッ、じゃない、 ここの村の人達は皆、支え合って生きてるんだ!!
これ以上、奪わないでくれ───…ッ!!!
[嗚咽混じり、啜り上げながらの訴えは、抗議というより懇願に近い響きを持って、周囲に集った者の耳に届くだろう。
女はわかっていた。 男に決定権はなく、それ故何の責任もないことを。
それどころか、彼が戦争に村人を取られることを心から憂えていることさえ知っていた。 知っていて尚、こうして無様に泣き喚いて縋ってしまうのは、この男なら、己の激情を受け止めてくれるかもしれないと、そんな風に思っていたからかもしれない。]
(102) 2012/03/26(Mon) 17時半頃
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[ブローリンに銃口を突きつけられても、女は離れようとはしない。 それどころか、銃口を握って己の額に押し当て]
撃てばいい──!!
どうせ、いずれ私も招集される。 意味のない戦争の駒になって、 いずことも知れぬ場所で死ぬんだろう?
[嘲るように嗤って、両腕を広げて挑発した。]
(103) 2012/03/26(Mon) 17時半頃
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[銃を下ろしたブローリンに腕を掴まれれば、男勝りの性格をしていても所詮女の力。抗いようもなく騒ぎの中心から離れた所へと連れて行かれる。]
離せ──っ!
[女が掴まれた腕を振り解くのと、男が手を離したのがほぼ当時。]
なんでだ、ブローリン! お前だって、こんな事望んでいるわけじゃないだろう?
[身振りで帰るよう促され、再び銃口を突きつけられても構わず喋りかける。]
(104) 2012/03/26(Mon) 17時半頃
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[そこへ──]
──ッセレスト!!
[細い腕が肩に触れ、抱き寄せんとする力が掛かり、振り向いた女の目に、困惑したような表情のセレストが映り──。]
(105) 2012/03/26(Mon) 17時半頃
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行くな──…!!
行かないで……くれ……っ!!
[思わず、セレストの細い肩を、思い切り抱き締めていた──。**]
(106) 2012/03/26(Mon) 18時頃
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─ 村外れ>>118 ─
──…すまない。
取り乱してしまった──。
[どの位、セレストを抱き締めたままそうしていただろうか。 背を撫でられ、ようやく落ち着きを取り戻した女は、色素の薄い瞳を地面に向けて、申し訳無さそうに謝った。]
わかっているんだ。 一番辛いのは、セレストだって。
なのに、何も出来ない自分がもどかしくて、 ホレーショー達に八つ当たりをしてしまった──……。
(130) 2012/03/26(Mon) 20時半頃
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え───…、罰──?
[続けて言われた言葉に。 悟ったような眼差しに。
顔を上げて、聞き返した。
問いに、答えはあったのだろうか。 意図を図りかねて、じっと、隠された心の内側を覗こうとするようにセレストの瞳を見詰めていると、少し離れた所からクラリッサの声が聞こえてきて、慌てて袖で目許を拭った。]
(132) 2012/03/26(Mon) 21時頃
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[ひとり眠る姉を見るのが辛いからと、あまりここへは足を運ばないクラリッサが来たのは、やはりセレストを探しての事なのだろうかと、駆け寄るセレストから少し遅れて、ゆっくりとした歩調で近付いて行く。
抱き合う二人の華奢なシルエットに、酷く胸が痛む。]
(134) 2012/03/26(Mon) 21時頃
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[セレストの語る言葉の端々から、彼女が生きてここへ帰って来る気のない事が伺える。 まだ20歳になったばかりの、うら若き女の身の上で、どうしてこんな悲しい決意をしなけばならないのだろう。]
セレスト──…、 何か、して欲しい事はあるか?
私に出来ることなら、なんだってしてやる。
お前が、帰って来たくて堪らなくなるような、 そんな願い事を───、
────どうか、私に叶えさせてくれ─。
[女の声が、切なげに墓地を揺らす。]
(137) 2012/03/26(Mon) 21時頃
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[セレストの"願い"に、視線を並ぶ墓碑に向け]
──私の仕事は、皆の眠りを守る事だ。
静かな。 安らかな。
眠りを。
…──いつだって、 死者が穏やかに眠れる事を、願っている。
(152) 2012/03/26(Mon) 22時頃
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[離れたくない、と唇噛む様子に、ふと。 何故、そんな事を思ったのか。
真昼に浮かぶ月のような瞳に、セレストと遠い空の蒼を映し]
セレスト────……、
ひとりで行(往)くのは、怖い?
[────気付けば静かな声で。 そう、聞いていた。]
(153) 2012/03/26(Mon) 22時頃
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ヨーランダは、駆け去るクラリッサの足音を聞きながら、セレストを見詰めている。
2012/03/26(Mon) 22時頃
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[震えるセレストの声。 じゃり。と土を踏む音。
女はセレストに歩み寄る。
細い肩を、両手でそっと包み込み、抱く。]
出来ることなら、お前の代わりに私が行きたかった。 けど、それは難しい、らしい。
[本屋でベネットに言われたことを思い出し、当然だな。と笑って。]
私には身寄りもないし、 お前のように、帰って来る可能性のある家族も、もういない。
[役場がセレストに伏せた、セレストの父の訃報など知らぬ女は言葉を接ぐ。]
だから──…、 もし、ひとりで往くのが怖いなら。
(166) 2012/03/26(Mon) 22時半頃
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私と一緒に、往くか?
(167) 2012/03/26(Mon) 22時半頃
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[腕の中、震える肩を強く抱いた。 見開かれる瞳を間近に覗き込む。
穏やかな、月色の瞳で。]
墓なら、もう信頼出来る二人に頼んである。 彼らなら、きっと約束を守ってくれる。
[だから心配いらない、と。 初めて聞く告白にも、動じる事なくそっと髪を撫でた。]
…───そうか。
辛かったな。 一人で、悩んで、苦しんだのだろう。
もう、一人にはしない。
(188) 2012/03/26(Mon) 23時頃
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────。
[セレストの泣き声を胸に抱いて、何度も黒髪をくしけずる。 柔らかい髪に唇を寄せて、瞳は空を仰ぎながら]
やり残した事はないか? 遺したい言葉はないか?
[問いかける声は、あくまでも柔らか。]
(201) 2012/03/26(Mon) 23時半頃
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─ 墓地 ─
手紙か。 それは届けないといけないな。
手紙──…。
[女の胸裡に一人の人物の顔が浮かぶ。 しかし緩く首を振って]
…──柄でもない。
(210) 2012/03/26(Mon) 23時半頃
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どうする、一緒に行こうか?
[手紙を見せるセレストに、腕の力を緩める。]
一人で行けるなら、 私は最期の仕事の準備に一度家に戻ろうと思う。
…──午後からヴァイオレットとハワードの埋葬だ。
どうでもいいっちゃいいんだが、 これも仕事だからな。
[くすり。と笑んで]
間に合ったら、お前も来るか?
[首を傾げた。]
(214) 2012/03/27(Tue) 00時頃
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ヨーランダは、セレストに手紙を書くよう勧められ、少し考えこむ。
2012/03/27(Tue) 00時頃
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…──そうだな。
[頷いて]
なら、一旦家に入ろう。 お茶でも淹れるから、待っていてくれ。
何、すぐに書き終わる。 元々長い文章は苦手だから。
[考え込んでいる様子のセレストの背を押して、すぐ近くの自宅へと誘った。]
(218) 2012/03/27(Tue) 00時頃
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[セレストが己の選択の理由に疑問を抱いているとは知らず、簡素なテーブルに普段は敷かないクロスを敷いて、裏山で摘んだリラックス効果のある薬草に、湧かした湯を注いで淹れた。]
ここで待ってて。
今、便箋と封筒を持って来る。
[そう言い置いて、自分の寝室へと向かった。 ベッドサイドの小さな木の抽斗から、隣村の知人との文通に使っている、白い無地のレターセットを取り出し戻る。]
(234) 2012/03/27(Tue) 00時半頃
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[お茶の鎮静効果が作用してか、少しすると、気を張り続けて疲れていただろうセレストは、こっくりこっくりと船を漕ぎ出して。
向かいに座ってペンを握り、白紙の便箋を前に書き出しの言葉を迷っていた女は、その様子を見てくすりと小さく笑んだ。]
(238) 2012/03/27(Tue) 00時半頃
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[戦争など、恐ろしい報せなどなかったような、あどけない寝顔。 束の間の、現実を忘れたように流れる穏やかな時に身を委ねて、白亜の紙の上を、あまり書き慣れていないたどたどしい筆跡で埋めて行く。
その瞳に、脳裏に、描くのは───。]
(253) 2012/03/27(Tue) 05時半頃
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[────最後に、宛名を書いてペンを置いた。
思いの外長くなってしまった手紙に、くす、と目を細める。]
(254) 2012/03/27(Tue) 07時頃
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[まだ、セレストは寝ていたか。
この瞬間が永遠に続けばいいと思いながら、冷めてしまった茶を一口飲んだ所に、扉をノックする音が聞こえた。]
───…?
[まだ、埋葬までには少し時間があった筈だが、もう誰か来た者があるのかと、カップを置いて扉に向かい]
…──ダーラ。
[そこに人影はいくつあったか。 内開きの扉を引いて、見えた人物に淡い色の瞳を見開いた。]
(255) 2012/03/27(Tue) 07時頃
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[その表情から、既にセレストの事を聞いているのだと知れた。]
入って。 今、お茶を淹れなおすから。
[一歩引いて中へと通す。 今まで自分が座っていた席にダーラを座らせ、もう一人いるようなら寝室から椅子を持って来て席を用意する。
手紙はさっと、籠にしまった。]
(256) 2012/03/27(Tue) 07時半頃
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…─────。
[しばらくは、湯を沸かす音、ポットに湯を注ぐ音、それだけを響かせて。人数分の茶を淹れなおすと、自分は立ったまま火の消えた暖炉に凭れて、誰かが口を開くのを待った。**]
(257) 2012/03/27(Tue) 07時半頃
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ヨーランダは、そこで漸く、指の付け根に血が滲んでいるのに気付いて、カップを握ったまま舌を伸ばしてちろりと舐めた。**
2012/03/27(Tue) 07時半頃
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─ 自宅 ─
[ダーラの訪いによってセレストも起きたらしい。 女はカップを持ったままセレストに笑いかけた。]
…──おはよう。 安心して。まだ1時間ちょっとしか経っていないから。
このお茶には気分を鎮める効果があるからな。 きっとそのせいだ。
───…?
[救急セットと聞いて、不思議そうに見るが]
…──あぁ。 そうか、ブローリンが。
[セレストの手が伸びれば抵抗する事なく両手を差し出した。]
(272) 2012/03/27(Tue) 19時半頃
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[傷ついた手が手当されて行くのを見ながら目を伏せる。]
奴にも悪い事をしてしまったな。
今思えば、私を助けてくれたんだろう。 あのままホレーショーに食って掛かっていたら、 軍に捕まっていたかもしれない──…。
(273) 2012/03/27(Tue) 19時半頃
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…──あぁ、そうだな。すまない。
[微笑むセレストと視線を絡め]
(一緒にいってやれなくなる所だった。)
[と、耳元に唇寄せて小さく囁く。
ダーラが質問するか、或いは問うような視線を向けて来るなら、朝方起きた事をかいつまんで伝える。 勿論、セレストとの間に交わした会話は省いてだったけれど。
それにダーラが何か言う前に、再び扉が叩かれ、次いで村長アルフレッドが自分を呼ばわる声がした。]
(275) 2012/03/27(Tue) 20時頃
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[セレストに手当の礼を言い、カップを暖炉に置いて扉を開けた。 開かれた扉から中を見た村長は、セレストとダーラを見て一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐに目を伏せ]
『埋葬の準備が整ったのだが──…、
…──今回はいいから、君はここに居なさい。』
[そう言って、おおきな掌を女の頭に置いた。]
……───ありがとうございます。
[女は小さく礼を言って頭を下げた。]
(276) 2012/03/27(Tue) 20時頃
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──…そうだね。
日のあるうちは目立ってしまう。 いくのは夜になってからにしようか。
[呟きを、耳を撫でる微かな掠れ声で返し、女は窓辺に寄った。]
(278) 2012/03/27(Tue) 20時半頃
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[墓地の管理という仕事上、自宅からでも墓地は見渡せる。 大きめに切った窓に目を遣れば、二人にも墓地の葬儀の様子が窺えるだろう。
墓地に運ばれた二つの棺は、成人が入る程の大きさをしておらず、遺品を収めるのが精一杯というサイズ。それを収める穴も棺と同等の小さな穴で、どちらも女が用意したものだった。 常なら棺も墓穴もそれを用意してくれる者がいたのだが、どちらも戦争に行ったきり音沙汰がなく、女手一つで短時間で用意出来るのはこれが精々。
墓では幼い息子の手を引いた少々年嵩の婦人と、それより少し若いくらいの母親が、どちらも黒衣を身に纏い、寒空の下棺が墓穴に収められるのを見守っている。]
(280) 2012/03/27(Tue) 20時半頃
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[程なくして略式の葬儀は終わった。 家族は未だ墓石の前に佇んで祈りを捧げている。]
…───ダーラ。
[ふ、と小さく息を吐いて、友の名を呼ぶ。]
(284) 2012/03/27(Tue) 22時頃
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養父(ちち)が使っていた寝室の金庫に、 墓地の権利書が入ってる。
こんな小さな村の墓所など、 面倒なだけで誰も欲しがりはしないだろうが、 念の為だ、持って行ってくれ。
[唐突に告げた意味。 クラリッサから話を事のあらましを聞いていたダーラには通じるだろうか。]
(286) 2012/03/27(Tue) 22時頃
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[ダーラに何か言われる前に女はダーラに近寄り、靴の踵の分だけ高い身長を仰ぐように伸ばした腕で、ぎゅっと首に抱き着いた。 そうして穏やかな声で語り掛ける。]
覚えているか?
私まだ七つの時だ。 お前は生まれたばかりのセレストのお披露目に、 私とベネットを誘って行ってくれただろう?
(291) 2012/03/27(Tue) 22時半頃
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今でもそうだが──…、あの頃は特に、 出自のわからぬ私を村の大人達は敬遠していて、 そういった席に参加する事を養父(ちち)は避けていたから、 初めての事にとても戸惑っていたっけ。
養父とて、元は外から流れ着いた身だ。 長い時間をかけて受け入れられていたとは言え、 どうしたって、私は余所者なのだという思いが拭えなかった。
[女はぽつり、ぽつりと、記憶を辿るように話し続ける。]
(294) 2012/03/27(Tue) 22時半頃
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初めて見た赤ん坊はとても小さくて、 周りの人集りに怯えたのか、大声で泣き喚いていて、 ──…少しだけ、怖かった。
けど、お前に背を押されて、おそるおそる伸ばした私の指を、 セレストは小さな小さな手で掴んで、
───ピタリと、泣きやんだ。
そして、それはそれは愛らしく、笑ったんだ。
(302) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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私が指を離そうとすると、また泣き始めて──。
…────馬鹿な話だけど、 ずっと、自分の居場所がないと感じていた私が、 その時初めて、この村に受け入れられたような気がしたんだ。
必要とされている、ここに居てもいいんだ──って、 そう、思えたんだ。
(304) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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その時こっそり誓ったんだ。
何があっても、この子を守ろうって。 私も、この村の家族に加えてくれたこの子の為に、 出来る事ならなんでもしよう──って。
…──それ以降も、 一部の大人達の態度は相変わらずだったから、 あまりおおっぴらに何かする事は出来なかったが、 大きくなったセレストは、やはり変わらず私を慕ってくれて、 私のつまらない言葉で笑ったり泣いたりしてくれて──…。
(309) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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セレストのお陰で、私は未だ、ここにいる事が出来る──。
(310) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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[ダーラの拳を背に感じ、女も腕に力を込める。 落とした声に、確固たる意志を滲ませて]
これは私の我儘だ。
セレストを一人で行かせたくない。 けれど、共に行く事は出来ない。
村は兵士に取り囲まれていて逃げる事は不可能だろう。
だからせめて───…
(314) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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彼女を奪われる前に、共に果てたい。と───…。
(316) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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[ダーラの「妹」と言う言葉に、女の声に嗚咽が混じる。]
…──ッ、ダーラ、
あぁ。 あぁ……、わかってる──…。
(318) 2012/03/27(Tue) 23時半頃
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でも、許して──、くれ──ッ、 セレストを一人にしたくない、んだ──…。
どうせ私も、すぐに徴兵されて、 全く別の所で、死ぬ事になる──…。
そうなる前に、共に過ごしたこの村で、 この、《家》、で──っ、
死───……、 なに?
[最後まで言い切る前に、ダーラの声に遮られた。 少し、きょとんとして見上げた後、意味を理解して、月白の瞳を笑みの形に細めた。]
…──ありがとう。
(321) 2012/03/27(Tue) 23時半頃
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うん──…、 ……───うん。
[頬を引っ張られた女の瞳から、いくつも涙が零れ落ちる。]
…──そうだ、これを……。
[女は一旦ダーラから離れ、台所の隅から小さな瓶を取り出し、中の粉薬を薄い紙に包んで二つの小さな薬包を作った。 それを持ってセレストに近寄り、片方を差し出し]
…──セレスト、 これは、養父から教わった、ある薬草から取り出した薬だ。
飲めば、身体の全身の筋肉が弛緩して、 やがて呼吸困難で息絶える。
…──大丈夫、苦しいのはほんの僅かな間だけだ。 私も一緒に往ってやるから、怖くないよ。
[耳元でそれが何かを説明し、セレストの手に握らせた。]
(330) 2012/03/27(Tue) 23時半頃
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…───もう、これで本当に思い残す事はない。
戦地で迷った養父さんの魂も、 きっと私が導いてあげる。
……───行こう。
(332) 2012/03/27(Tue) 23時半頃
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[抱き締めるセレストに、首を傾げて]
…───お前を、外に行かせたくない。
ひとりが怖いと言っていた。 先に、待っているなら平気なのか?
[確かめるように、訊く。]
(336) 2012/03/28(Wed) 00時頃
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[頷く瞳に、恐怖の色はない。 女はセレストの髪を撫で]
…──わかった。
じゃあ、行こう。 最期は、温かい場所がいい。
[ひとの温もりが感じられる場所へ、と。 三人連れ立って、ダーラの宿へ向かう。
途中、ブローリンを見掛ければセレストへ]
…──別れを告げてる。
[と、促し]
(342) 2012/03/28(Wed) 00時頃
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[宿で、全てを忘れるように酒を飲んで───。
朝方、ホレーショーが覗く頃には。 寝台の上、セレストに抱かれて眠る女の骸が在った。**]
(344) 2012/03/28(Wed) 00時頃
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