22 共犯者
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やれやれ、あまりトニーには見せたくなかったのに。
最期までとんだ役立たずだなぁ……
[トニーの足元には、子犬が一匹。しばらくトニーにじゃれついていたが、何かに気づいてそちらの方へ駆け寄っていく。]
あぁ、ミッシェルさん。
そんな、綺麗な服が血で汚れちゃうから……
って、もう聞こえないか。
[ミッシェルが少し前までノックスだったモノを上着でくるんで抱えようとする。子犬はそれを奪い返そうというのか威嚇やジャンプを繰り返している。]
ほらほら。この人は悪い人じゃないんだから。
……。
すいません。ご迷惑をおかけします。
[聞こえていないと理解はしているつもりでも、ついつい抱えた子犬と一緒にぺこりと頭を下げる。子犬は苦しいのかジタバタもがいていたが、やがて ばう、と一吼え。そちらを見ると、村長夫人が立っていた。]
[自分の身体がヘクターに抱え上げられ、運ばれていく。
彼女の横を通って。]
だめよ!
私が死んではいけない!
死ねば生贄が続いてしまう!
[自分自身に取りすがり、必死に身体の中に戻ろうとするが、どうしても触れることができない。
ただ愕然と、自分の身体が横たわる供物台の傍らに立ち尽くしていた。]
ブラウンさん?
[呼びかける声に驚いて顔を上げる。
それまでずっと、誰も彼女がそこにいることに気づかなかったというのに。]
あぁ、リンドクヴィストの奥様。
[子犬が、ばう と啼いて自己主張する。]
大人しくしなさい。紹介してやるから。
これ、どうも僕の片割れみたいで……
片割れ……?
もしかして、貴方も……。
[死んだの? と口にするのが躊躇われて、言葉が途切れる。
けれども、ノックスの様子はむしろ生前に会った時よりも楽しげだ。
不思議そうに、ノックスと足元の子犬を見つめた。]
「僕の頭」はミッシェルさんがさっき運んで行ってくれました。
「心」が、ここに留まれるのは次の満月まで……
それまではお迎えは来ない約束、なんだそうです。
[子犬が ばう と、同意するように吼える。]
誰と誰との約束なのかは良くわかりませんけどね。
そうなの。
[ノックスの言葉は、なぜかそのまま真実として受け入れられた。]
(私には、そんなことはちっとも解らなかった。
この子のほうが、森に近い存在なのかしら。)
[理由はわからないのに、ふとそんな考えが浮かんだ。]
僕には外の世界をみてみたい気持ちもあるんですけど。そいつはここに残りたいみたいです。かつての同胞がどうなるのか、ちょっと気になるみたいでして……
[子犬は村長夫人の足元でちょこんと、お座りをしている。]
奥様の先ほどの演説を聞いたからでしょうかね?
奥様なんて、もうそんな呼び方はしなくていいのよ。
私の言葉は結局届かなかったのだし、私はするべきだと思ったことを、実現できなかったのだもの。
本当は、貴方にも謝らなければいけないはずなのだけど……。
でも貴方は……こうなったことを恨んではいないようだから。
そんなことは言わないほうがいいのかしら。
[身をかがめ、子犬に指先を差し出して。]
この子がここにいたいのなら、貴方だけでも外を見てきたら?
恨むだなんてとんでもないですよ。
[子犬は村長夫人の指先をちろっと舐めている]
僕は外を見る、それも良いかもしれないですね。
では、そいつの世話をお願いできますか?
[了解が得られれば、ノックスはふっと消えるだろうか]
ニール、ニール……
[自分の身体の上にかがむニールの肩に手を置き、額にそっと唇を寄せる。
それはニールには感じ取れないだろうけれども。
夫の名前が口にされると、一歩退き。]
ねえ。今の私は人間じゃないようなものなのだから。
これくらいはいいでしょう?
たぶん、貴方に祝福をあげることはできないけれど……。
[子犬は村長夫人の足元に近寄って慰めるように]
くぅん
[と、ないた。]
−イアンが記した草稿より−
「この夜に摘まれるべき柊の葉は、12枚。
しかし祭壇に捧げられた柊の葉は、10枚。
2枚は戻ってこなかった。
それはすなわち、2人の村人の死を意味する。
夜に摘まれた葉の命は、次の月が昇るまで。
それらの命が尽きるまでに、「生贄」……「巡礼者」達は、また祭壇に柊の葉を捧げねばならないのだ。
柊の葉が、昨日と同じ数になる、その夜まで。」
(#0) 2010/08/03(Tue) 12時半頃
−或る男の遺品のノートより−
「そして、私の手の中にも、1枚の柊の葉がある。
それは祭壇に捧げられることはなく、ただ己の気まぐれひとつで摘んできたものだ。
もしこの葉が何かを浄化してくれるのならば、私は何を望もうか。
いや……
この葉は村人を清めるだけのもの。私には関係ない。
私はただの記者であり、生贄でも巡礼者でもない。
生贄の数は12。私の入る余地は無い。
旧くは太陰暦によりその数が決められていたというが、今はそうではない。
……私は正しく『部外者』なのだ。」
[その文章の後には、2つ3つ程、何かを書こうとして躊躇した跡があった**]
(#1) 2010/08/03(Tue) 13時頃
―或る男の遺品のノートより―
「私は嘘をついた。
私はその理由を知っている。
何故『祭』が『人の命』を必要とするのかを。
ただ――『かれ』の真意が分からぬ。
何故『かれ』は、人の命を欲するのだろう。
それが分かるまではと、私は『それ』を告げるのを躊躇ってしまったのだった」**
(#2) 2010/08/03(Tue) 20時半頃
空が朱いドレスを纏い、軽やかにその裾を揺らす。
太陽は人間を見下ろすが、森の秘祭の行方を案ずるのみ。
太陽は、祭の時間が近づくことと、その終焉を告げることしかできぬ。
祭の行方を占えるのは、昏い昏い夜に浮かぶ月だけなのだ。
やがて太陽は今日の舞踏を終え、舞台から降りるだろう。
そして、妖しく微笑む月が、夜の森に浮かび上がることになる――…
(#3) 2010/08/03(Tue) 20時半頃
[いつしか夜になり、広場に生贄たちが集まってきた。]
……今夜も、続いてしまうのね。
私にはもう、どうすることもできない。
何もできないまま、起きることを見届けるのが、私に与えられた罰なのかしら。
[ちらりと子犬を見やり。]
違う……のかもね。
不思議ね。
ずっと、ほんとうのこととは思っていなかったのに、私は今、「森に還って」いるのでしょうに。
あまり、そういう実感がないわ。
そこに自分の死体がある以外、何も変わったことはなくて。
風の音。
森の梢が鳴る音。
空が明るいのも。
[見上げると、月とは思えないほど明るい楕円の月が、煌々と赤く輝いていた。]
広場に設置された鐘の音が鳴る。
「巡礼者」達を森の中へと送る鐘の音が。
ひとつ、森の御使いの為に。
ふたつ、村の大地の為に。
みっつ、巡礼を見送る月の為に。
よっつ、森の御使いに捧げられた命の為に。
いつつ、巡礼の旅に出る者達の為に。
(#4) 2010/08/03(Tue) 23時頃
そして祈りの鐘の余韻が消えた頃、
ひとりの長老が今日も「巡礼者」達に号令を出す。
「『エデンの園』に集いし『生贄』達よ。
我らの罪を『浄化』するための旅に出よ。
そして『巡礼』の試練の輪をくぐり、
我らが再び森に生きる赦しを得るのだ。』
(#5) 2010/08/03(Tue) 23時頃
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