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[一晩中、拗ねに拗ねて。
夕食すらも放りだして。
深夜にのそりと起きだせば、空腹を満たす為に寮内をうろつく姿が見られたか。
その後、見回りの人間に部屋に戻るよう注意されるも、昼と夜とを抜いてしまった事を告げればものすごい同情の目で見られた。
宿直室で食べたカップラーメンは、少ししょっぱかった。]
―― 名探偵(予備軍)の事件簿 VS 担任教諭 ――
[食堂から姿を消し、名探偵(予備軍)は廊下を慎重に歩いていた。前後左右を確認し、怪しい者の姿がないかを確認。]
……よし、とりあえず美術準備室の偵察かな。
指導室の見張りでも、
[そう言いかけて、背後に迫る何者かの気配に廊下の端にぴたりと身を寄せる。じりじりと後ろに下がりながら、いつでも逃げ出せるように。
やがて廊下の角が見えれば、そちらに飛び込んで姿を消す算段――だったのだけれど。]
――……う、やられた……こちらか!
[そう、それはダミーだった。いや、名探偵(予備軍)の勘違いだった。
飛び込んだ廊下の角、聳え立つように背の高い担任教諭が現れたのだ>>*0]
……、バク先生。
好きなだけ、検査するといいさ!
[こうなれば身体を張って検査を受け、一人でも多くの同朋をその魔の手から救おうじゃないか。名探偵(予備軍)は高らかに口にする。]
[そこまで言い切ると、糸が切れたかのようにしょんぼりと肩を落とす。
慰めてくれる友人も今は傍にいない。格好つけたわりにあっけない幕切れ。内ポケットのこれはボッシュートだ。さようなら林檎。]
……やだよう。検査やだよう。
[そう、悲しそうに呟くのだった**]
[膨れた腹でとぼとぼと、寮内を行く。
足取りは重い。
テストは終わっていない。
サボったら留年になる。
そうしたら春の大会に出られない。
しかしあのクラスには目撃者1である担任がいて、そして、かつ、目撃者2であるホレーショーもいる。
余計な疑いをばら撒いていないだろうか、二人ともそこまで口が軽いとは思えないが。]
……だっ
[自分の部屋に入ろうとしたとき、余程ボケていたのか扉の角で頭を打つ。
こんな痛みなど、心の痛みに比べたらなんてことはない。
制服のまま、再びベッドに横になると、再び啜り泣き。
そしてそのまま、眠りに就くだろう。]
家帰りたい……
[高校から始まった寮生活。
ホームシックなどはなかったのに、ここにきて始めて、帰りたいと呟いた。**]
― 夕食を逃す前 ―
[扉越しの声に、枕に突っ伏していた顔を上げる。
包まっていた掛け布団はそのまま羽織り、何か返事しようと立ち上がった。
「ずいぶんなものが見つかった」
「ビアスにはとても衝撃的」
この二単語だけで、ホレーショーを問い詰めたい衝動に駆られたがぐっと我慢する。
ベッドから降り、掛け布団を引き摺って歩こうとして、例の雑誌を踏みつけて顔面から転ぶ。
両手は布団の端を持っていた為、受け身など取れる筈も無く。]
……ぅ、
[結構な音が響いたが、扉の向こうにそれは聞こえなかったらしい。
少し安心した。
踏み込まれても困るだけだし。]
[頑張れ、というのは、気遣いだろうか。
本がたとえ譲り受けたものであっても、あの本を大事に(?)仕舞い込んでいたのは事実だ。
内容をホレーショーに聞いていたなら、引かれる事間違いなしだろうし。
(そちらの性癖をお持ちの方には失礼な事を言っていますが。)
―――それなのに、気遣ってくれるのか。
床に這いつくばったまま。扉越しの声を聞き。
ぐず、と、鼻を啜る。
情けなくてまた涙が出てきて。
でも涙よりも鼻水の方が酷くて、手の甲で拭った。
真っ赤だった。]
……て、 ……ティッシュ
[床の上で布団に包まり、肌色の雑誌の傍で鼻血を流す。
異様過ぎる光景が其処にあった。]
― 翌朝 ―
[朝起きて先ずした事は、鼻に詰めていたティッシュを抜く事だった。
幸い、血はもう止まったらしい。
よかった。
昨日の今日で鼻にティッシュなど詰めていたら、目撃者1と2に何と思われるかわからない。
けれど、ティッシュを詰めていようといなかろうと、あの本を持っていたのはもう、彼らには知れているわけで。
もしかしたら何か、話が広まっているかもしれないわけで。]
行きたくねぇ……
[などとぼやきつつも、あと二日頑張れ、など、わざわざ部屋に来て言われたのだから、頑張るしかないだろう。
2日が終われば春休みとはいえ、その二日間はあまりにも長く。]
行きたくない……
[ぎりぎりの時間に置き、ぎりぎりの時間まで朝食を食べ、ぎりぎりの時間に着替えを済ませて教室へ向かう。
酷い顔をしていただろう。
それはもう、近寄りがたいくらいに。**]
[唇をへの字に曲げながら、一つ一つポケットから物を出していく。
飴、チョコレート、ヘアゴム、銀製のブッククリップ、ポケットティッシュ、財布。学ランの上着とズボンのポケットから引っ張り出したそれらをバークレイ教諭に見せる。
しかし、教諭が知らぬはずはない。内ポケットの存在を。]
………………やだよう。
[小さくぽつりと落とし、ボタンの隙間から学ランの内ポケットに手を入れる。何度かの躊躇いの後、携帯の角に指を伸ばし、白いスマートフォンを引きずり出した。]
探偵には必須なのに。
僕の前途は真っ暗だ、ううう……
[アッシュブロンドの双眸を白い両手で隠し、首を大げさに横に振る。確かに今、目の前は真っ暗になった。]
バク先生!
[そう時間も経たぬうち、ぱっと両手を離し開き直った名探偵(予備軍)は、学ランのボタンに手をかける。]
僕言ったよね、釣りはいらないって。
さあなんでもするといいよ、他に何か隠してないかさ!ほら!!
[もたもたと学ランの大きなボタンを外しながら、右手を上着から抜こうともがく。自分が男で、バークレイ教諭も男であるから、身体検査をされても大したダメージは受けない。純粋にそう思う心半分、どさくさにまぎれて携帯を取り返せないかという試み半分。
相貌は至って真面目に、引き続きもたもたと服を脱ごうとしていた。]
釣りはいらねえんだ、釣りは!
僕の気持ち受け取ってよ、バク先生!
[予想以上に動揺するバークレイ教諭>>*4を意外に思いつつ、掴まれた右腕を捩って制服を脱ごうと頑張る。彼の片手が大事なスマートフォンをポケットに仕舞う動作は、完璧に見えていた。
焦る心を落ち着け、数を数える。]
い、痛いよ先生!はなし……
[3……2……1……]
隙ありいぃぃ
[GO!
自由な左手を伸ばし床を蹴る。仕舞われる寸前のスマートフォンに左手の指先がかかった――が]
[忘れていた、自分の運動神経のなさを。]
……ッべぶ!
[蹴ったはずの床から足は離れず、そのまま縺れて一人床の上に転ぶ。携帯も奪還できず、情けない姿勢で床に転がったまま、今度は本当の本当に、目の前も意識も真っ暗になった**]
―― 翌日・2-2教室 ――
[次の日、いつもと同じくゆったりと教室にたどり着き、同じように一番前の席に座る。
浮かべた笑顔、フランス語の挨拶。そのどちらも変わることはなかったが、ゆったりとしたペースは更にスピードダウンし、処理速度が明らかに遅く。]
…………、あ、ご飯食べてくるの忘れた。
[朝食を無意識に抜いていたことすら、今更思い出す始末。
傍に寄ってきたグレッグにも、向ける笑顔だけは前日と同じものだった。]
[決死のダイブ(未満)が失敗に終わり、意識を失っていたらしい間のことは当然のことながら覚えていない。
ただ気が付いたら寮についていて、しばらくは「テレポートできる探偵!」と妙に浮ついた気分で一人はしゃいでいたが、徐々に冷静になるにつれ現実を思い出し、がっくりと沈んでしまった。
運んでくれただろうバークレイ教諭には謝罪と礼を述べなければならないが、すぐに身体は動かず、一晩ぼんやりと過ごしてしまったのだった。]
………………。
[教室に姿を見せた教諭に声をかけようとするが、テンポが遅れに遅れてとうとう言葉にもならず終いだった。]
……、…………Bonjour ショー。
そう、使う機会はあったよ。
[あの決め台詞の生みの親から声をかけられれば、間は空いたが振り返ってゆるりと手を挙げた。]
でもあれ、難しいねえ。
びしっと決めるまで、修行が必要そうだ。
[しみじみと呟き、深く頷く。券売機前でも、ランダムエンカウント前でも、どうも上手く使いこなせなかった気がした。]
気負いすぎるのがよくないのかな。
今度は口で効果音もつけてみようか。
[じゃーん、と効果音を口に出す余裕はあったらしく、そう言って小さく笑う。いっそホレーショーのように男らしくスポーツをはじめればまた格好もつけられるだろうか?
ぼんやりと考えているうちにグレッグがやってきた。ワンテンポ遅れて挨拶を交わし、昨日の首尾を小声で話しかける。憤慨した様子で去っていく彼に、「ごめんね」と小さく声をかけたがきっと届かなかっただろう。]
名探偵、難しいなあ……
[これでは迷うほうの探偵になってしまいかねない。副担任が同じようなことを先に考えていたことなど知らず]
Bonjour ラル。
今日もいい天気だね。
[声をかけてくれたラルフにも挨拶をする。いつもなら気の聞いた冗談も言えるのだが、やはりスローペースであるが故につまらない言葉しか出てこなかった。]
ぽけべる?
[グレッグと同じような疑問を抱いていたのだけれど、大きな声で口にすることはなく。]
567219……殺しにいく。
ポケベル殺人事件……?
[語呂合わせを一人考えては妙な事件をまたでっち上げていた。]
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