158 雪の夜に
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[起き上がろうとするのを、 制するように傍らに、手を伸ばす。
老いて皺の刻みこまれたその手を、 女の両手はそっと包み込んだ]
ここに、……いるわ。
[目蓋を閉じれば、声がわずかに震えた]
(60) 2013/12/29(Sun) 01時頃
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……――。
[背もたれに体重を預けて腕を組む。微笑んだ。]
よくよくお人好しだな、あんたも。
人狼って人間喰わないと生きてけないって話だろ。 あんたと嬢ちゃんなら、そりゃ解り合って共に暮らすって、 出来るようになるかも知れないけどさ。
じゃあ、嬢ちゃんの腹が減ったらどうするって事だよ。
(61) 2013/12/29(Sun) 01時頃
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逆に言えば、"それ"さえなくなれば、可能性はあるかもよ。 嬢ちゃんが人間喰わなくて良いってんなら。
もっとも――
[笑みが途切れて、声は静かに低くなった。]
嬢ちゃんじゃない他の人狼がどうかは知らんがな。
[カラン、と暖炉の薪が燃え落ち、中で火の粉が舞う。 見上げた天井に炎の光が揺れた。]
(62) 2013/12/29(Sun) 01時頃
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――…家畜の肉じゃ、だめなのか? 満腹に食べさせても、 人間を食わないと生きていけないんだろうか。
[可能性はあるとヤニクは言う。 ハナに、人間を食べることをやめさせればいい。 自分が人狼だという自覚のなかった子供。]
もう、人間を食うのはやめて。 ――…やめて、一緒に暮らそう。
……もしもにいさんが人狼だったら、 …そう言われたら、どう思う?
(63) 2013/12/29(Sun) 01時半頃
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そうかい。
ここにいるのかい。
じゃ、ここはどこなんだろうかね。
あの時、
君にいう言葉を間違えた。
いや、足りなかったよ。
そして、君には申し訳ないことをした。
[目がかすむし、体はひどく痛んだ。
起き上がれずに、そのまままたジェリーと話しているような気分になる]
君の弟も船に乗せるべきだった。
申し訳なかった。
[例え人狼とわかっていても]
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人間の場合は色んな食いもんが選べるから解りにくいけど、 獣にはそれぞれ適した餌がある。
まるで駄目、ではないだろうけど、多少の不利はあると思う。 例えば、体が弱りやすくなるとか。
[セレストを見遣る。]
……熊や普通の狼だって、人間の肉の味を覚えれば、 好んで人間を襲う事がある。
もし俺が人狼だったら――
[少し身を乗り出せば、俯く女の顔を近く覗きこめる。]
それはもう、試した後だと思わない?
(64) 2013/12/29(Sun) 01時半頃
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[老人は熱でもあるのだろう。 朦朧とした様子で、その手は酷く冷えていた。 包み込んだ手を温めるように擦る]
……あなたのせいじゃないわ。
[投げた言葉は、確かに楔になっていた]
私も、あなたに、 謝りたかったの、……ごめんなさい。
……あなたのせいじゃないのに。
[苦味と痛みを堪えるように吐き出された言葉、 眉根の寄せられたまま、青の双眸は滲む]
(65) 2013/12/29(Sun) 01時半頃
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[人狼は人間ではなく獣だと、ヤニクは言う。 その言葉に違和感を感じるように眉を寄せる。 だって、ハナは言葉だって通じるし見た目だって。 あの爪と牙がなければ人の子供だったから。]
……体が弱くなっても。 死ぬよりは…マシじゃないか。
…死んだら、全部終わっちまう。
[ただの名もない石になる。 女の母親がそうなったように。
少女は、あの少女はどうだったのだろう。 あの自覚のない人狼はどうして人を襲ったのか。]
(66) 2013/12/29(Sun) 01時半頃
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[身を乗り出す気配がして、はっと顔をあげた。 女の瞳に、暖炉の灯に照らされた青鉄が映る。]
……試して…、駄目…だったのか……?
(67) 2013/12/29(Sun) 01時半頃
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いいや、自分のせいだよ。
君の弟を人狼だとわかってしまったのは自分だ。
そして、君を追い詰めてしまった。
ああ、あの時、
本当は、自分も船に乗りたかったんだ。
[幻影だから、その想いを]
自分はわかっていなかった。
君がいなくなってから、
君が何よりだって
やっと気がついた。
でももう遅かった。
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[ハナが自警団に連れていかれるに至るまでのやり取りを、ソフィアは見ていない。 祖父は自警団に捕らえられている事を、セレストから聞いた。 きっと酷い目にあわされたに違いない、と祖父の言葉を思い出す。 目から涙が滲み指で拭った。
連れていかれたハナはどうなってしまうのだろう。 普段から馴染みがあり、よくその姿を見かけていただけに胸が痛んだ。 何故あの子が人狼なのだろう、そう思っても仕方のない事はソフィアにもわかっている。 けれど、そう思わずにはいられなかった。]
(68) 2013/12/29(Sun) 02時頃
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……そうだな、多分死にたくなかったんじゃないか。
[旅人は、ハナの死んだ母親の祈り文句を知っている。 恐怖によって容易くコントロール出来なくなる暴力を、 傍に置いて生活する事の危険性を考えた。
言葉で、切迫した本能を凌駕出来るとは思っていない。 弱った体が均衡を取り戻そうとして人を襲う事もある。]
あんたがそこまで肩入れする理由が、良く解んないや。
[間近の双眸に暖炉の炎、橙色の光がちらりと揺れた。]
まだ小さい子供だから?
(69) 2013/12/29(Sun) 02時頃
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だから、君の帰りを今までまっていたんだ。
[そう、不器用な青年が、本当に誰かと一緒になることはなかったのは、
その想いに誠実であり、
その誠実が不誠実になることを許さなかったがため。
ジェリーの弟を殺し、ジェリーをこの町から追い出してしまった。
きっと、そのあと、
本当は、死にたかった。
だけれども、信仰でも死ねず、ただ、仕事だけをして、
笑みとは別に己を削っていく中、
本当の笑みを次にくれたのはソフィアだったのだ]
[そして、朦朧とする中、
とにかく胸から手紙を二通出すと、その手に押し付けるように。
どうやら、とにかく渡さねばと思ったのだろう。
そして、押し付けると、また首はゆらりと揺れて、瞼は落ちる。**]
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[そっと壁に身を預けた。 その向こうで彼はどうしているだろう。 痛がっているだろうか、苦しんでいるだろうか。 彼に万が一の事があった時、ハナをゆるす事は自分にはできるだろうか。]
…お願い、死なないで。
[きっと彼には聞こえない声だろう。 それでも彼に届いて欲しいと、祈るように言った。]
(70) 2013/12/29(Sun) 02時頃
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――…、
[ヤニクの言葉に女は黙りこくった。 あの牙を見ても、爪を見ても、 女から見てハナは人の姿をした子供だった。 人の姿をした獣とは見られなかった。 人なのだから理性で制御できる筈だ、と、 その考えが頭から抜けきらない。]
(71) 2013/12/29(Sun) 02時頃
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[女がハナに肩入れする理由はなんだろう。 まだ小さい子供だから。そうだ。]
…違う。
[思ったことと違う言葉が口を突いて出た。 青鉄の瞳を見ていられなくなって、視線が落ちる。]
あの子が…、
…あの子が、 人殺し…だったから。
[ああ、と、小さく呻くような声が零れた。 両手で、顔を覆う。 どうしてこんなにも少女を助けたいと思ったのか。 違う、少女を助けたいわけではなかったのだ。]
…あたしは…、…最低だ。
(72) 2013/12/29(Sun) 02時頃
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[ヒューの怪我の具合はどうなのだろう。 彼もまた、生死の間を彷徨う程には重症なのだろうか。 港で会話した時、懐い笑みを見せてくれた姿が脳裏にうつる。 また、彼は船を見送らねばならなくなるのだろうか。 しかも、去年よりその身体は悪い状態になっている可能性すらあり、それは…、 ]
……
[彼の笑んだ顔が頭から離れず、額に手をあてた。]
(73) 2013/12/29(Sun) 02時頃
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[絞り出されたような問いに、言葉では答えない。>>67]
……あんたは、良いかも知れないね。 嬢ちゃんも良いかも知れない。
――けど、あんた以外の人間は駄目だろうな。
[人狼に喰い殺されたという人間。 あるいは襲われた船乗りの男。その縁者。 何よりハナを捕らえ、人喰いの化け物を殺せと叫ぶ大多数。]
そして、嬢ちゃん以外の人狼も、駄目かもな。
[ただ、不思議と艶を帯びた青鉄は、薄く笑みを刷いて、 深淵を覗く覚悟を問うようにしている。]
(74) 2013/12/29(Sun) 02時頃
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[幼い子供を哀れに思うのだとしたら、 では、ハナが幼くなくなれば哀れではないのか。 幼い人狼は良くて、大人の人狼になったら糾弾するのか。
そんな事を思っていれば、答えは違って、 人殺しだったから、肩入れするのだと言う。>>72
最低だ、と自己を卑下する、理由が解らずに首を傾げた。]
……ああ、
(75) 2013/12/29(Sun) 02時頃
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嬢ちゃんに、何を重ねてる?
[悲嘆にくれるように、顔を覆った女に問うた。]
(76) 2013/12/29(Sun) 02時半頃
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[問いかけに、女は覆う手の隙間から旅人を見上げる。]
―――…、
[答えてはいけない。 素性を町の誰かに知られてしまえば、 船に乗っていられなくなるかもしれない。]
…名前も知らない…人殺しの女だ。
[罪を赦されずに、全てを奪われ処刑された石の姿。]
……あたしの…母親さ。
(77) 2013/12/29(Sun) 02時半頃
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[そして、老人の告白に女は絶句する。 そして、ああ、と零れた吐息はどうしようもなく、 ただやるせないような感情のせいだった]
……あなた、だったの。
[弟の正体を暴いたのは、 再び湧き上がりそうになった問い、 けれどもうそれは無意味だ。
本能的に気づいていた。 あるいは信じていたといえるのかもしれない。 ――彼にはそんなつもりはなかったのだ、と]
(78) 2013/12/29(Sun) 02時半頃
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[滲んだ双眸から、頬を伝い落ちていく。 その生ぬるい水が何か、思い出すのに時間がかかった。
語られる言葉はなんて残酷なのだろう。 もう取り戻せないほどの時が既に流れている、 その苦い後悔を再び味わわせるものだ。
けれど――、 溢れるこの涙は後悔でも絶望でもなかった。 痛みを伴うけれど、もっと温かで柔らかで]
……ティム、ごめんなさい。
[自分はずっとこの町をことを、忘れてしまいたかったのだ。 悲しみや辛い記憶と共に、優しい思い出までも葬ることになるとしても。
けれどそれは出来なかった。 女は結局、切り捨てるにもしがみつくにも、 どっちつかずだったのだ。 無為にただ、時だけが流れて]
(79) 2013/12/29(Sun) 02時半頃
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ありがとう、
……ね、あなたが待っていてくれたこと、 嬉しかったわ。本当よ。
[握る手に、何かを押し付けられて、 眠りに老人の目蓋が閉じるのを、女は見つめていた。 零れるものはとまらぬまま、蒼の瞳は柔らかな形を描く*]
(80) 2013/12/29(Sun) 02時半頃
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寡婦 パピヨンは、メモを貼った。
2013/12/29(Sun) 02時半頃
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[何故、人狼は人を襲うのだろう。 人間を憎むような理由があるからなのだろうか。 それとも単純に生きて行くため、人が動物を殺して肉を食べる様に、人間を食べないと生きていけないのだろうか。 それとも他に理由があるのだろうか。 人狼が、生きていくために必然的に人間を襲わねばならないとするならば。 その事を責める権利はあるのだろうか。 それがもし、自分と全く関係のないところで起こった出来事であれば…、仕方が無い事だと、そう思えるのかもしれない。
自分と関係が無いのであれば。]
(81) 2013/12/29(Sun) 02時半頃
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……成程。
[息をつく。 行きずりの旅人くらいにしか話せない話題だろう。>>77 外に漏れる心配がない、という意味ではうってつけだ。]
けど、あんたが今度の何を守ろうが、 それとこれとは同じにはならねぇだろ。
それでも良いって、思ってる?
(82) 2013/12/29(Sun) 02時半頃
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…そりゃそうさ。 でも―――…
[きっと女は、証明をしたかったのだ。 死んだ母親が生きて赦される未来もあったのだと。 少女を助けることで、自分に納得させようとした。
旅人の言葉は謎掛けのようだ。 段々女の頭の中は混乱していく。
"もしも"の話だった筈なのに、 目の前の男が、本物の人狼に見える。]
―――…なんだい? 何かを明かしちまいたいって顔してるよ、
(83) 2013/12/29(Sun) 03時頃
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…もう、今更隠すことでも…ないんじゃないかい? なあ、ヤニク…。
[覆っていた手を外して。 暖炉の灯で艶の乗った旅人の瞳を見つめた。]
(84) 2013/12/29(Sun) 03時頃
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[人間も、人間を殺す。 そう思うと、向けられるものが牙であったとしても、刃であったとしても、結局相手に対して持つ感情は、然程変わらないのかもしれない。
ゆるす事は難しい。 けれど、人を襲わねばならない理由がある、という点においては、そういった感情を向けられながらも生きなければならない事を憐れだと思ってしまう気もした。]
(85) 2013/12/29(Sun) 03時頃
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