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うん、そうだね。
みんな……頑張ってる。
[その頑張りが報われているだけ幸せなんだよね、と言い掛けて折角楽しい雰囲気なのに、こんなことを言うのは無粋だと口を噤む。葡萄酒をひとくち飲めば、満足げに頷いて。やっぱりウイスキーよりも葡萄酒だね、と誰に言うでもなく呟いた。グラスからふんわりと漂うアルコールの香りを感じ、マリーはどうしているだろうか、と宙を見つめて。]
――ねぇ。
クシャちゃん、いつまでわたしを子供扱いするつもり?
[ふ、と思い出したように猫耳の彼
(――見た目が大人なら、何か違ったのかな。)
これでも大人なんだもん……。
気を遣って貰うより、頼られたほうが嬉しいんだよー?
[無理にとは言わないけどさ、と続ければパフェ用のスプーンで苺をひとつすくって以前に彼が医者へやったようにあーん、と言いながら差し出して。]
なんちゃってー。えへへー。
[そのまま、楽しそうに彼の真似をして呟いた。]
[自分の事を子供扱いされたのが不機嫌なのか、拗ねているようにも見えるレティーシャ(
ニハハ、そういえば葡萄酒なんだけど前に持ってたの僕ちょっと飲んじゃったんだよねぇ。運んだ時も丁度この三人だったっけ
[ふと前に居た病院を思い出す。最初に出会ったのはレティーシャであって、葡萄酒を一緒に運んだ時に朝顔を肩車して。そういえばそんな状況になる前に一緒に居たマリーは今元気してるだろうか、とか思いつつも]
大人扱いしてるよ?ただ、大人にしては背が小さくて可愛らしいにゃー
[いつものように、軽く笑うと頭をくしゃりと撫でた。本当は朝顔にも撫でたかったが少し距離が遠かったので無理だろう。後で肩車でもしてあげようかなとか考えて今回頭を撫でるのは断念した
頼っても良いんだよ?と言う彼女には自分の醜い所を晒す事が出来ず、同性の友達の方が良いよなぁ…と思っていた。それで一番最初に思い浮かんだのは自分の部屋で泣きそうになった自分の話を聞いてくれたくすんだ金髪の彼であったが、それはすぐに振り払われた]
(…独りよがりだもんなぁ、恥ずかしい)
[差し出されたパフェには少し驚いたが、白が多い所から普通のソフトクリームと認識出来、躊躇わずに一口貰った]
ニハハ、冷たくて美味しいね。じゃあ、僕もおすそ分け
[そう言うと自分のチョコレートパフェからひとすくいして、レティーシャと同じようにあーん、と差し出した]
――っは、
[押し付けられる唇に短い吐息を洩らす。屈められる体をぐっと押して、必死に顔を背けた。
――気持ち悪い。やっと落ち着いてきたというのに、これでは全て無駄じゃないか。
再び震え始める体を自覚して、浅く浅く息を吐き出す。呼吸の数が増えて、疲弊した喉からは酷く頼りなげな音が洩れた]
……う、るさ、い。
関係無い、だろう。
[離された顔にやっと安堵し、口元を覆って。
態とらしい質問には吐き捨てる様に答え、俯いたまま眉を寄せる。そうして、ともすれば再び痙攣を始めそうな胃袋を押さえ、必死に嘔吐感と戦った。
もう少し長く口付けていたならば、彼の口にそのまま吐き出していたかもしれない。それはそれで面白かったかもしれない、とは。流石に思えなかったけれど。
――きっとこいつは、全部分かって聞いてきているのだろう。この喉の痛みの意味も、それを口にしたがらないわけも。分かって敢えて、自分に口にさせようとしているのだろう。
嗚呼、腹立たしい。これじゃあどちらにしても、全て彼の手の上で踊らされているだけじゃあないか]
やめろ、よ。
……臭いがつく。
[煙草をそのままに絡められる指に、酷く嫌そうな顔をしてみせる。髪についた煙草の香りは、中々取れないというのに。
――その臭いがする度に、彼を思い出してしまいそうで。出来る事ならこれ以上は、そんな物は作りたくはなかった。ただでさえでかい傷を負ってしまっているのだから。
彼の持ってきたコップには視線だけをやった。そして手に取るでも無く、何を言うでもなく、小さく息を吐く。正直な所、喉は乾いているけれど。……けれど彼に施される物なんて、口にしたくもない]
勝手に食ってろ。
――あんな事をする奴が、変な所で常識的なんだな。
[は、と。馬鹿にする様に鼻で笑って、くしゃりと顔を歪めた。
忘れようとするのに、自分で掘り返したんでは笑い話にもならない]
もう、いい加減満足しただろう。
それを持って帰ってくれよ、
[口元を押さえたまま、不明瞭な声で言葉を紡ぐ。
いつまで苦しめるのかと、非難の視線を向けて。けれどすぐにそれが意味の無いものだと気付けば、ついと視線を下ろした。
尊大な態度には、今更怒りも湧かない。けれど勿論それを歓迎するつもりも毛頭無いから、此処らで退出してもらおうと、再び扉の方を指し示す。
――果たして彼が、このまま素直に部屋を出て行ってくれるものか。到底、そうは思えなかったけれど]
……"あんな事"?
さぁ、"どんな事"ですか。
[馬鹿にしたような一言
――折角、口にしないでいてあげたんですけどね。
殆ど空気を震わせずに呟いたその言葉は、果たして彼には届いただろうか。届いても届かなくとも、医者は小さく肩を震わせて笑っただろうが]
あんまり邪険にされると傷付きますよ。
…"さっき"はあんなに素直だったんですけどねぇ。
[懐の携帯灰皿に灰を落とし、短くなってきた煙草をまた口へと咥え、近くのタオルで手を拭い。態々言葉を強調するように揶揄ってやる。素直もなにも、力で無理矢理ねじ伏せて、有無を言わせずそうさせていたのは――他ならぬ自分なのだけれど。
チラリ、と愉しむように相手の顔へと視線を向けて、おもむろに傍らの籠の中に入った桃を掴む。
置いたナイフで皮を剥きながら――彼はまた、怯えるかもしれないけれど、そんな事は気にもしない風に溜息をひとつ]
そうそう、2階でお話したんだよねぇ。
――ん?クシャちゃんって成人してるの?
[葡萄酒を飲まれたことは構わないけれど、彼
もー!
そのうち身長だって伸びるし、ぼん、きゅっ、ぼんになるんだからねー!
なんたって大人だからね!
[いつものように頭を撫でる彼に、負け惜しみのように言葉を投げ掛け口を尖らせる。大人の女と脳内で思い描くのはマリーの姿で、もう少し治療が進んで時が経てば、自分だって彼女のようになれるのだ、と確信して“今は”まだ真っ平らな胸を一瞥した。]
ふふー、ありがとー!
[お礼を言うと差し出されたパフェを貰い、彼の笑顔に視線を移して。いつも笑っている彼の顔は何だか仮面が張り付いたみたいだ、と目を伏せた。マリーが何度か言った『似た者同士』という言葉を思い出す。彼女もまた彼の笑顔に違和感を抱いたのだろうか。
それならば、彼の仮面の下を――彼の素顔を見たことのある人はいるのだろうか。本当の彼が見たい、そんな欲求が心にじわりと広がる。彼が隠す素顔と本心はどうしたら見せてくれるだろうか。隠されれば隠されるほど、執着心は増して欲望の色は黒く濃く染まっていった。いっそ、その仮面を己の手で引き剥がせないだろうか、と思考を巡らせて。]
――やっぱり甘いものはいいねぇ、
[感情を隠すように言葉を述べれば微笑んで、そっとスプーンでそっと下唇をなぞった。]
(…我ながら、酷い執着ですね)
[胸中の呟きと共に、微かに自嘲じみた笑みを浮かべ、ペロリ。先に触れた味を――その時の彼の顔を思い返すかのように唇を舐める。震える身体
髪に着いた煙草の匂い。部屋にも僅かに残るであろうこの匂いに、また自分を思い出して苛まれてくれるのだろうか。
――元々、一つの事に酷く執着する性質でありはするのだ。今回はたまたま、その対象が"彼"だっただけで]
(まぁ、やめる気も治す気もありませんけど)
[欲しい物が手に入らない事など慣れている――分かりきっている。
ならばいっそ、無理矢理奪い傷付けて、決して逃げる事の叶わぬくらいに縛りつけてやればいい。
そうして得たものが例え紛い物なのだとしても、そこに違いなど――きっと無いに違いないと。
今迄だって、ずっとそうしてきたのだから。そしてこれからもきっと、そうしていくのだろう。
――自分はこれしか、やり方を知らない]
…そろそろ空腹で苛ついてきました。
痛い思いをしたくなければ、食べて下さい。
――あぁ、それとも。
食べれないのなら、食べさせてあげましょうか。
[微かに感じる苛立ちを隠す素振りすら見せず。にこりと笑い立ち上がると、摘まんだ桃の一欠片を彼の口へと近付ける。
そのまま桃を口にすれば、自分もまた別の一欠片を口にしただろう。
彼が桃を口にしないのであれば、医者は笑みのままに顎を掴み、その喉の奥へ無理矢理ねじ込むくらいはしたかもしれない]
う、るさ、い、
[癇癪を起こす寸前の様な声音て、つっかえつっかえ言葉を口にする。
……もう、何も言わないで欲しかった。自分でも、言わなければ良かったと思っているのだから。
思い出したくない光景がチラチラと脳裏に浮かんで、険しく眉間に皺を寄せた。
ふるりと頭を振って、どうにそれを頭から追い出せば、自嘲とも失笑ともつかない笑みを零して、睨み付ける気力も無く俯く。
――素直、だなんて、笑わせてくれる。力にものを言わせて従わせただけなくせに。
取られたナイフには、ぴくりと小さく震えて。一瞬詰まった息を、どうにか深く吐き出す。
彼の一挙一動に支配されてしまう自分を自覚すれど、だからといってどうする事も出来ないのだ。
それこそ"素直"に許しを乞う事が出来れば、幾らかはマシになるかもしれないけれど。残念ながら、それが出来る性格なら、最初からこんな事になってはいない]
く、そ……。
[痛い思い、と彼が言えば、泣きそうに顔を歪めて]
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