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―放課後 伝説の樹の前―
[何が足りない。思い出せなくて焦る。
痛みは、ない。――それはとても恐ろしい事]
なあ、この桜の伝説が本当なら。
俺をあそこに戻せよ。
願いを叶えてくれるんだろ……?
[どこかでその叶え方だけは知った筈なのに、
思い出せないまま、年経た樹皮に右手と額を押し当てる]
目に見えない、声が聞けない手も届かない。
どうして。
……何で俺はこんな所にいるんだ……
[あそこが何処なのかとか、そんなのは関係なくて。
ただ、今欠けている何かも、掛け替えのない筈の存在で]
頭痛いな‥‥‥私ほんとどうしちゃったんだろ‥‥‥。
[ふらつく足取りで部室棟を出て体育館に入る、入り口に竹箒と黒髪が落ちていた気がしてビクりと体を引いて、結局またも幻視を見たらしい事にため息をつく]
ほんと、疲れてるのかな、変だよ、今日の私、自覚ある。
[深くため息をついて自然と階段を下りて地下プールに向かっていた、子猫を探すかのように]
そう言えば、ここでラルフが転んで怪我したのよね。
もう怪我、大丈夫かな?
[男子更衣室をじいっと見つめていたら中から男子が出てきて少し慌てて眼を逸らした、それからプールサイドに出てマーゴとソフィアを見つけてつい大きな声を出してしまう]
二人ともー!
部活動やってるのー?
[マーゴが居る、その事になぜかとても心が安らいで、涙が滲んだ]
あれ、おかしいな‥‥‥。
マーゴちゃんに会えただけでなんか感動しちゃった‥‥‥。
いいなぁ、今日も暑いし私も――
[マーゴとソフィアに近づこうとして、際まで寄ったところでプールサイドで足を滑らせてプールに落ちた。
水中から上を見上げればそこで見る、もう一つの世界――
――あれは――]
白雪姫!
[ざぱんとプールから顔を出して叫ぶ第一声、周囲の人たちはむしろプールに落ちた事を心配してくれているが、第一声に首を傾げてるようだ]
会った事がある、話した事がある、彼の事、大笑いしちゃった。
見た目は凄く怖いけど、でも根はきっと凄く優しい子。
‥‥‥ごめん、君の側で私は‥‥‥。
[私は、どうしたというのだろう、どうせまたただの幻視を見ているに過ぎないはずなのに。
彼を一人置き去りにしてしまった気がして、涙が溢れた]
ごめん、ごめんね‥‥‥ごめん‥‥‥。
[きっと周囲の生徒は部活の邪魔をしてしまった事を謝っているのだと勘違いしているだろう、きっと彼らはまだ戦っているのだ『敵』と呼ばれる何かと]
―放課後 伝説の樹の前―
[クラスメートからメールが来た。
『理科室で薬品零れて立ち入り禁止令』らしい]
うわっ、音楽室とか真上なのに大丈夫かな……
[ちらほらと、校舎から出て来る生徒もいるみたいだった。
アイリスにもメールを打った]
『 To.アイリス
Sub.今日部活中止かも
Txt.理科室で騒ぎがあったらしい。
大丈夫? 被害には遭ってない?
サボるなんて初めてじゃないかと思ったけど、
案外アタリだったかもよ』
なんで、私はここに居るの‥‥‥。
皆のところに、帰りたい‥‥‥。
[
けれど、暫くしてから水中で見た幻視に関して泡がはじけるかのように記憶から抜けていって]
――!
どうして、どうして忘れてしまうの‥‥‥?
彼の事、忘れちゃいけないのに、皆の居るところを、忘れちゃいけないのに‥‥‥!
[そう呟いたところでプツリとブラックアウトしたかのように、先ほどまでの出来事を忘れてしまう]
‥‥‥ごめん、水に落ちて溺れかけて、変な夢でも見たみたい。
今日の私、情緒不安定気味。
ラルフが側に居ないからかなぁ。
[向こうでもたまに離れたけれど、でもやっぱり常に一緒に居たから。
‥‥‥向こうとはどこの事なのか、もうおぼろげだけれど]
でも暑い日にプールって気持ちいいね、明日は私も部活に付き合いたいな。
体育の成績悪いからその補習も兼ねて、マーゴ先生に水泳ぐらい教わりたいし。
[マーゴが側に居てくれたなら彼女に語りかける、なぜかマーゴの側に居られる事、彼女が元気でいる事が凄く嬉しい]
でも、マーゴちゃんと私ってどこで接点もったんだっけ?
[ジャージ姿ではてなと首を傾げたところで、突然ポケットに移し替えた携帯が震える、水に落ちたのに無事だったのは防水携帯故か]
理科室で騒ぎ?
なんだろ‥‥‥とりあえず返信と。
『宛先:ラルフv
件名:何があったの?
本文:今地下プールに居るの。
美女二人の水着姿見られるよ?
理科室何があったんだろうねー。
変なものばっかり見るし、今日は厄日?
さっきプールに落ちてその時も変な物見たの。』
[送信**]
―放課後 伝説の樹の前からプールへ―
[アメイジング・グレイスの着信メロディ。
アイリスからの返信は間を置かず届いた。
他愛ない遣り取りで培った両手打ちの速さの賜物だろう。
文字化けもしていなかった]
『 To.アイリス
Sub.Re:何があったの?
Txt.落ちたとか、大丈夫?
…と思ったけどメール打ってる位だし平気か。
あ、でも縁起は悪いな(笑)
理科室は誰かが薬品零したって。
それは俺、美女の水着姿眺めてて良いの?
取り敢えず、今から会いに行く』
[送信して、地下プールに向かう**]
― 生徒会室 ―
にゃーん、先輩そんなにあたしに会いたかったなんて、光栄ですっ!
昨日も今日も明日も、先輩のお呼びとあれば、いつでも何処でも参上しますよ?
[やっと、とアイリス
不思議そうに首をかしげながらも、ぎゅー、と飛びついて、笑ってみせ]
ひゃくっ……?! うん、絶対世界史とりません。無理!
[とんでもない課題の量
でも何だか、厳しいことで有名な世界史の話を前聞いたのは、ずっとずっと、前のことのように思えた]
ですよねー、ですよねー。先輩もそう思いますよね!
って、先輩も進言済みでしたかっ。
[似合いますよね、とこくこく縦に頷いていた首も。
曖昧な『やっぱり』に、ゆるりと傾ぎ]
わーい、行きます行きますっ!
あれ、えー…… でも、そーですねぇ。あたしが先輩との約束、すっぽかすわけないんですけど、何か。
[行きそびれてしまった気は、自分もした。
釈然としないままだったけど、喜んでー!と頷いたのだった]
いや、あたし、貞子ちゃんとか、歌の先輩とか、そーゆー覚え方はしますけど、あだ名ってあんまり付けないんで…… なんだろ?
[友達かと問われれば
更に釈然としないまま、ついと、ラルフが目を遣った席を釣られて見。
ちゃんと音はするのに、耳鳴りを覚えそうなほど静かに感じる。
いつも通りの筈なのに、大人ののりたま弁当が、あんまり美味しく感じられなかった]
― プール ―
ん……、
[ぷる、と水の滴る頭を振って。
問い掛け
どんだけ夢が気になってんだろーね。
其処に立ってるみたいに見えたなんて、笑えないよねぇ。
[つ、とプールサイドを指差す方向は、迷い無かった。
ただ、其処に見えたような気のする誰かの顔は、もう零れてしまったけれど]
あ、先輩ー。えっへへ、暑いんで、紛れ込ませてもらってまっす。
[馴染みの声が聞こえれば
そのアイリスが、涙ぐめば、ぱちくり瞬いて2人を見遣り]
えっ。えっ。あたしの知らない間に、2人はどんな関係に…… 先輩っ!?
[挙動不審に、水をぱしゃぱしゃ叩いていたものの、もっと大きな水音に、そちらへ水を掻き分け駆け寄った。
もっとも、歩くより身軽に水を進めるマーゴと違い、ばっしゃんばっしゃんと盛大に飛沫を上げての移動は、鈍いものだったが]
先輩、大丈夫ですかっ! ……えっ?
[何とかアイリスの傍まで辿りつけば、周りと同じく、その第一声にきょとんとするも。
何故か、彼女の言っていることが、分かるような気がして。
誰かへ謝るアイリスを、同情に似たいろの眼差しで、濡れた髪をよしよし撫でるのだった]
みんな……
[情緒不安定と言うアイリスに、何事か考え込むような沈黙はあったが、だいじょぶです?と調子を窺ってから。
彼女とマーゴが話し始めれば、今度はちゃんと断ってから潜水し、水面を見上げる。
息は、そう長くは続かない。水の中より、外のほうがやはり身軽に動けるし。
けれど飽きもせず、何度も潜っては見上げ、潜っては見上げ。
水面の向こうに、天井以外の景色が映ることはなかったけれど、それでも、何度も]
―体育館地下 温水プール―
[プールと廊下側を繋ぐ扉に手を掛けて、ゆっくりと開く]
ここの扉、重いなあ……っと。
[開けた時と同様、力を入れて閉じようとした。
視線はプールサイドをくるりと見回す]
プールの扉を閉じる途中で妙に抵抗が掛かっている。がたがた。
先輩?
[ぷは、と何度目かの潜水から顔を出すと。
扉の手前でもたつく姿]
どうしました? 何か挟まってます?
[ぺたぺた、入り口へ近づき。
屈んで床と扉の境をよくよく見てみるけれど、引っかかりになりそうなものは無く。
むー?と首をかしげながら、幾度かぺしぺし叩いてみて。
引っかかったような中途な位置から、未だ動かないようなら、助勢して思い切り、戸を押した]
にゃっ!?
[濡れたままの手が滑り、バランスを崩してすっ転ぶ。
いたた、と腕を擦りながら起き上がれば、水溜りに丁度、扉が映り]
せん ぱ……っ?
[ぎょっとした。
だって、水溜りに映る扉には、華奢な身体が挟まっていたから。
咄嗟に、実際の扉を見遣れば、さっき確認したように、何も挟まってはいない。
おそるおそる、もう一度水溜りへ視線を落とせば。
其処にももう、何も映ってはいなかった]
[手を滑らせて転ぶソフィアに驚き、扉から手を離した]
あ、大丈……どうしたの?
[プールサイドの水溜まりを凝視する後輩に近付き、しゃがんで]
今、それで滑った訳じゃ、ないよね。
…………。何か見える?
ともあれ、ソフィアに手を差し延べた。
……せんぱい、が
[ふるふる、首を振りながら水溜りを指し、先輩と呼んだのは。
ラルフの事では無いのだけど、名前が出て来なくて]
……誰か挟まってて、でも、そんなことなくて。
幽霊も扉に挟まるのか な……。
[すみません、と差し伸べられた手を取って、立ち上がりながらも。
視線は暫く、水溜りへ向いたままだった]
[先輩? と、オウム返しに首傾げ。
今プールにいる三年は自分とアイリス位みたいだけど。
水溜まりから離れない視線に、少し目を細める]
幽霊か。
[ソフィアに霊感があるなんて話は聞いた事がないし]
……その幽霊ってさ、髪、長かったりするのかな。
[自分にだって、そんな不可思議なチカラはない筈だけど。
考えるのは、桜の下で見た人影じゃなくて、
一年の秋、初めて屋上で一緒に練習した誰かの、
ふわりとした掴めない笑顔]
あ、えっ……と…、先輩じゃなくて、その……
[尋ねられれば
ぱくぱくと口を時折動かすも、結局、ごめんなさい、と噤み]
髪、ですか……?
いえ、良く見てなかったけど…… 背中に掛かってなかったから、そんな長くないと思います。
[先輩くらいかな、とラルフの襟足を、ちょいちょいと引っ張って確かめ]
ま、まさか、心あたりあるんですかっ!?
[幽霊といえば、髪が長い女性は定番と。
そういう噂があったりするのかと、ラルフとマーゴを、慌しく見遣った]
[ガコンっと派手な音を立ててプールの扉が直ってからは、
不思議と静かになるプールサイド。
の中でソフィアの声は相変わらず良く響く。
襟足を引っ張られつつ]
ふうん……そっか。
いや、貞子ネタとかそう言う事じゃなくてね。
[ちらりとアイリスを見遣る。
確か『二度とホラーは観ない』等と言っていたから、
嫌がるかもな、と一瞬思って小声で]
……昼に、生徒会室でさ。窓の外に見えた気がしたんだ。
長い黒髪の女子、うちの制服着て。背中だったんだけどね。
……気の所為かな。俺霊感とか無縁だし。
[軽く笑って見せた]
―― プールにて ――
そこに…?
[指されたプールサイドには――自分には何も見えなくて
なんだろ。わたしには何も見えなかったんだけど…なんだか、ちょっと見たかった。気がする。
……。大丈夫? 落ち着いた?
[幾分、元気を取り戻したように見えたなら、ソフィアにそう声をかけた]
[そのうち、アイリスがやってきて
あれ。アイリスさん。珍しい……って、あっ!!
[ざばん! と落ちる音。今日はなんだろう、危ない日なんだろうかとか思いながらそちらへ急ごうとして、でもすぐに顔を出したアイリスにほっとする]
……ああ。よかった。びっくりさせないで下さい……?
アイリスさん……?
[急に泣き出してしまったアイリスに、少し戸惑うが]
[やがて、正気を取り戻したかのように見えれば、改めてほっとして]
……ええ。いいですよ。
でも、今度はちゃんと水着を用意してきてくださいね。
[
確か…ええと、ほら。ラルフ先輩。
ラルフ先輩が、わたしがかばんを忘れ物したときに届けてくれて、その時に――。
その時に――? だったような。
[何か、その過程がすごくおぼろげだったので、つい首を傾げてしまった]
―― プールサイド ――
[やがて、先ほどアイリスがメールしていたのがそうだろうか、ラルフもやってくる]
…んふ。今日はお客さんたくさん、にぎやかだなぁ。
[どうやら、たてつけが少し悪くなっているプールの扉に悪戦苦闘しているようだったが。ひと泳ぎしてからそちらに向かえば、ちょうど――]
貞子ですか?
[ばさーっと、慣れた様に髪の毛を前にもってくる。そんな話題の時だった
水底から浮かび上がる貞子(マーゴ)に驚いた。
貞子のまま近づいていく。
マーゴちゃん?
[貞子ネタ
実際の幽霊がどうの、より。
おりしも本人が見せてくれた
黒くて、長い髪で…… マーゴちゃんじゃないんですよね?
[理由は分からなかったが、ラルフに倣ってひそりと声を潜め]
あたしも、霊感とか無いですけど、なーんか…… ここのとこ、気になるモノ見てる気がしますし。なんか、
[いるのかもですね、と続けようとした口は。
ぱくぱくと開いたまま言葉にならないまま、ただ、ラルフの背後を指す]
[其処は、部員がフォームを見るためなのか、壁の一部に鏡が埋め込まれていた。
だから、プール内を映し出す筈の其処は、全然違う、薄暗い部屋に瓶や棒が転がっている光景で。
その、映るか映らないかの、床すれすれに。
ラルフが言うような、黒髪が、散っていたから]
[水面を漂うように近付く髪の毛は、中々にホラーだ。]
……こんにちは。あの後、風邪ひいたりしなかった?
[近くに泳いで来たマーゴに挨拶して問う。
確か、夏場とは言え薄着で出歩いていた子だと思って。
悠然と泳いだ後の波は、揺れる梢のように広がって消えた。
大丈夫だろうか。意味もなく少し、心配になる]
うん、髪は真っ直ぐだったから……
[ホラー嫌い対策に声をひそひそ]
ソフィアも何か見たの? 何か、……――怖いね。
自分の感覚が得体が知れないのは。
ん?
[慌てて背後を指差す仕種に、首を傾げ。
振り返る鏡に映ったそれは、
置き去りにされた竹箒を見付けた時に良く似た]
ホリー……!?
[背筋に冷水を流されたような悪寒が走る]
[ラルフに、その節はお世話になりました、といいながら
大丈夫です。さすがに水着で出歩いちゃだめでしたね。
[プールサイドに上がりながら、えへへと笑い]
わたしと同じように長い髪の人…。
[ソフィアの拍手をもらってから、髪を後ろに戻して
わたしの知り合いには……居たような、居ないような?
え、ソフィアちゃん、幽霊とか本当に見えるようになったの?
[そういいながら、ソフィアの指し示す鏡を見た
同じものが{1} (奇数:見える 偶数:見えない)
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