62 あの、夏の日
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[メアリーの慌てた返答にくすり、と笑う。
確かに外見・性格・立場・言葉遣い。劇的な変貌を果たした仲間も多々あれど]
本当にみんな、魂は変わってないと思うよ。
[ぽつり、懐かしむように呟いて。]
こうやって寝てる所見ると、余計にそう思うんだ。
10代の子供みたいな寝顔して……。
今頃、どんな夢を見ているんだろうね。
[隣のマリアの表情を覗き込んで、にっこりと。]
[コイバナなんて単語が耳に届けば、自分はどうだったかと考える。
話を振られても適当にごまかすばかりだったと思い出す。
子ども扱いされることが多かったので、なんとなく自分にはまだ早いものだと思っていたのだ。
とかそんな感じのことを考えながら辺りを見回していると、ヤニクから悪戯の誘い]
無礼講……
じゃあ、ちょっとだけ。
[メアリーからの応援?もあったので、何かしてみることにする。
誰にしようかと見回し、ベネットにターゲットロック。
あの肝試しの日に談話室の扉を叩いて驚かされたことをまだ根に持っていた。
色々と悪戯をしてきた彼にならば、という思いもあった。
何を書こうか少し考え込んで……
腕に『YNK3UP』と適当に文字列を書き込んでみた。]
[ヘクターの問いには正直焦る。]
あ、えー……。
[ちらりとメアリー、ホリー、そしてケイトを見た。女性の前でも語れるような話を思い出そうとして……一切思いつかず。
苦笑いを浮かべて宙を見て、指先は紙ナプキンをいじる。]
いやぁ、僕は……相変わらずのもてない君だからさ。
メアリーだろう、こういうのは。10代の魂で語ってよ。
[にこっと笑って誤魔化して、メアリーにトス。]
ヤニク、お前もてないとか嘘吐くな。
つか、ホリーは人気あったろ。バスケ部の連中とか。
[主に、ちっさいマスコット的な意味で。
手遊びしていた輪ゴムで、テッド[[who]]を狙ったが。]
いや。誰かこれでヨーランダの髪でも結んでやれ。
起きたら多分貞子になるぞ。
[ポンと輪ゴムを放って女性陣に頼む。]
あれだけどんちゃんしてたのが、今はぐっすりですからね。
ふふ、本当に子どもみたい。
[優しい顔をする先輩に微笑み、まだ眠る面々へ目を向ける。一部吹き出しそうになったのを、なんとか堪えた。]
わ、ホリーが悪戯してるー!
[ベネットをロックオンしたホリーを調子付かせようと煽った。寝ている彼らに施された悪戯も子どものそれだ。]
えぇ!私ですか!?
[聞き手に回るつもりで寛いでいたおかげで、急にトスされたことに大げさに驚いてしまった。]
ヤニク先輩がもてないって、絶対そんなことないに決まってますよ。
ころっと行く女の子多数ですよ絶対。絶対!
[ストレートな表現をさらりとする彼に、何度慌てさせられたことかと深く深く頷き、ヘクターにも「ですよねぇ」と声を飛ばす。]
……私は、なんにもないですよ。
付き合った人はいましたけど、どの人もあんまりうまくいかなくって。
[思い出しても、あまり楽しい思い出はない。]
[ホリーがサインペンのキャップを抜くと、おおっと声を上げて、興味津々といった様子で覗き込む。
枝豆サワーを持ち頭をぐしゃぐしゃにされ腹に落書きされたベネットを選んだホリーはサディストの才能があるのではないか、とこっそり思いつつ、文字が書かれていくのを眺めていたが]
……ヤニク・3あっぷ?
[ぽかんとした顔でつぶやいた。
頭の中、並んだのは3つの緑キノコ。]
わは、編み込みしちゃおう。
[飛んできた輪ゴムを手首に通し、ヨーランダの前髪に触れる。貞子状態にならないようにと、長い前髪をサイドの髪に編み込んでいく。]
ヨーラ先輩、髪さらさら!いいなぁ。
よし、これで……
[額の形にそって編み込み、耳の前に一房の細いお下げを垂らした。これで前髪が邪魔にならないだろう。]
できた!
[即席スタイリストは満足そうだ!]
[「もてない」発言をヘクターとメアリーに否定されると、ちょっと驚いた顔をして。]
ありがとう、2人とも。日本人はお世辞が上手。
でも、10年前だって彼女なんていなかっただろ?
今も、こんなに日本に来てたらねぇ。
[恋愛がらみの話はノータッチ、と決めていたので、10年前には誰かから本気で想いを向けられることなど無かったと記憶している。]
そういえばサイラスが、
「ホリーちゃあああんかわゆいいいい」って叫んでたなあ……。
[サイラスはこの場にいないけれど、時効だろう、と思って口に出してみた。ちなみに彼は少年ヤニクに「俺の嫁」を教えたクラスメイトでもある。]
[ひとつ思い出すと次々と思い浮かぶもので。今なら分かるサイラスの悪行を思い出しながら、メアリーの自嘲気味な否定には首を傾げる。]
ふぅん? 何故だろう、こんなに可愛いのに。
もしかしてメアリー、失礼だけど……。
男の趣味が悪い?
[だとしたら勿体ない、と思いつつ、ジントニックを傾ける。]
[ヤニクへ呆れたように、]
お前さ、それ……
[もてないって自分に言い聞かせようとして、もてないように行動してたからじゃねーのか?と言いかけて言葉を飲み込む。
仲良くしているくせに、どことなく距離を取っているように感じていたあの頃のことは、触れない方が良いのかとも思って。
代わりに。]
サイラス……何か、あぶねーな。
[バスケ部の後輩だった彼を思い出し、溜息を吐いた。]
[投げた輪ゴムはメアリーの手に。
即席スタイリストの仕事を見て、感心したように呟く。]
へぇ。上手いもんだな。
つか、暑いとか言ってるなら、髪まとめた方が涼しかったんじゃねーの?
こいつの髪型、本人以外を涼しくさせる効果は抜群だったけど。
[昼間でも、廊下の角でいきなり鉢合わせると怖かった覚えがある。]
メアリーには、派手な男よりも。
真面目で大切にしてくれる男が似合いそう。
そうだなあ……この中だったらディーンとか?
[メアリーの隣で眠るディーンを見遣り、くすっと笑う。
そこでヘクターの何か言いたげな呟きに振り返り、首を傾げた]
……ん? 何か?
[誤魔化すようににこっと笑って。]
ええ、しゅ、趣味ですか!?
[失礼だけど、と前置きしたヤニクに何を言われるかとびくびくしていたが、次いでの言葉にぽかんとした。]
ど、うなんでしょうね。
告白されたのをとりあえず受けて付き合ってただけなので……
[それは趣味が悪いというのだろうか、と首を傾げる。]
でも、……
趣味は悪くない、と思います。
だって、今好きなのは――
[最後は、極々小さな声で。
喧しい居酒屋の喧騒に消えた。]
そろそろみんな起きる頃合いかな……?と、見渡して呟く。
え、えっ?
な、何言ってるんですかヤニク先輩!
そ、そんなディーン先輩が困っちゃいますよ!
そんな!
そそそそんな!
[ヤニクの声に弾かれたように顔を上げ
両手で顔を隠した。
もう何度目かわからない白ワインを煽ろうとして
既にグラスは空になっていた――]
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