126 生贄と救済の果てに〜雨尽きぬ廃村・ノア〜
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[相棒は、雷の姿となり
魔物と彼女の間へと飛び込んだ。
彼女が受けるはずだった攻撃が直撃し、
相棒は致命傷を負った。
己の所為で彼女が代償を負い
その為に危ない目に合うなど、
相棒には耐えられなかったのだ。
それ以前に、彼女の為ならば死も厭わなかった。
魔法使いである前に、相棒、だったから。]
[しかし、彼女は再び相棒を救済しようとした。
相棒は最期の力を振り絞り、叫んだ。
生贄にしろ
と。
彼女が再び救済をすれば
また代償によって何を失うのか分からなかったからだ。
その叫びに、彼女は涙を零した。
綺麗な、涙だった。
そして。
彼女は相棒を『生贄』にし
強力な生贄魔法をもって魔物を倒した。]
[相棒の肉体は消え去った。
残されたローブを抱き締め、彼女は泣いた。
相棒の名を、叫びながら。
雨に濡れた彼女の髪が、
乱れていたことを私は今でも覚えている。]
[彼女の、相棒の名はセシル。
――……私の、名だ。]
[それから彼女は、残された私のローブを羽織り
何事もなかったように、魔法使いを続けた。
あれから何年が経ったか。
私は彼女の右腕の中で、彼女を見守っていた。]
[――……妙に、昔のことを思い出す。
彼女の魂がその體から離れ
私も、彼女の右腕から離れたからだろうか。
彼女の魂は既にヴェラの右腕に宿っているのだろう。
ならば、私も其処へ行くのだ。
私がまだ其処に居なかったのは、
彼女への執着のようなっものだ。
しかし、彼女の身体が霧散した今、
私も其処へ行く。
それは魔法使いの理だからではなく。]
|
[もし、狼の姿であったなら。 掴まれた足から伝わる冷気>>52は、ある程度緩和すること>>23ができたのかもしれない。 しかし、今はただの人の身。 動けぬ体にピキリ、ピキリと、足から這いあがってくる凍結の音。 恐らくは、表層。完全に凍りついているわけではないだろう]
……ぐっ。
[魔物を尾で払う姿に、隙あらばと思えども、おそらく片目はヴェラを捉えたまま。 いや、例えそうでなかったとしても、今、動くことは叶わない。 振り下ろされる、刃の尾。
裂かれ、叩き砕かれる、我が身のイメージが一瞬脳内へと過る]
(54) 2013/06/20(Thu) 00時半頃
|
[彼女がイアンの攻撃を受け、
魔法使いの生贄になることを願った理由。
それは――彼女自身が語るはずだ。
彼女の言葉で。
代わりに、私は少し眠ることにしよう。
彼女の魂の傍で。*]
|
ぬぁぅっ!!
[精一杯の咆哮をあげ、咄嗟に上へと突き出したのは、自らの左手。 刃を纏った氷の尾が、手のひらから手首までへと深々と突きささる。 おそらく、そのまま手が落ちなかったのは、同時に『凍結』により補助されていたためか。
いや……ヴェラの細い左手一本で、巨大な尾が防げるはずがない]
……っ
[左手をそのまま叩き折るように、氷の尾がヴェラの胸を押しつぶした。 肉体を庇った左手が、今どうなっているのかは分からない。 ただ、勢いのない血反吐を吐きながらも、斧をしのぐだろうその一撃で致命傷を免れたのは、犠牲にした左手のおかげか。 おそらくは、胸骨も幾本か叩き折られたことだろう。
薄れる意識の中。ヴェラは、体を潰す分厚い尻尾の隙間から、震える右手で白狼の毛皮に触れようとする。 たった一つ、唯一の供物に触れる得ることができるとしたら、おそらく、対峙した魔物の次の一手の時]*
(55) 2013/06/20(Thu) 00時半頃
|
[―何やってんだよ。
下級の魔物なんか放っておけばいい。
あんたは一人なのに。
ホレーショーが戦闘中に、自分達の躯に群がろうとする魔物を追い払っているのに気付く。
目の前の戦いに集中しろとも、ヴェラを逃がしてやれとも、自分は言えなかった。]
あ…っ…。
[ホレーショーの鉤爪はヴェラの足に食い込んでしかと捉え、彼の身体を地面に叩きつける。
直接触れる事で魔物の纏う冷気は、人の姿のヴェラに伝わっているだろう。
感覚は繋がっていないから、それがどれ程のものかは分からないが。
やがて氷纏う尾がヴェラに振り下ろされ、突き出した左手で防ぎきれずに彼の胸に至れば。
既に肉体を失って感じない筈の胸の痛みに顔を歪めた。]
|
[凍りついた足。それは凍結し、感覚は失えど、まだ捨て去るほどのものではない>>57。 潰れた左手は捨て、魔法発動のトリガーとなる、右手に神経を集中する。 叶うなら、裂かれた胸の深さを手で触れてはかりたい衝動に駆られるも。 今は、そんなことをしている場合ではない。
次の、攻撃が。再び降り上がる尾……>>58。
その、胸への圧力が消えた瞬間を狙って、白狼の毛皮を発動させた。 一匹の狼となり、狙うは距離を測ること。 人のサイズからさらに小さな狼のサイズと変化した足が、鉤爪をするりと抜けた。
左の前足と、一方の後ろ足は使えない。 だから残る2本を駆使して飛び、氷の蜥蜴から距離を……]
(60) 2013/06/20(Thu) 00時半頃
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[べしゃり、と倒れ伏したすぐ脇に、重々しい振動と共に、巨大な尾が叩き下ろされた。 ヴェラは、すでに狼の姿を維持していない。 肉体の限界か、狼でいられたのはほんの一瞬の出来事のこと。 叩き落された尾の傍で、右手と片足を駆使して旋回し、氷の魔物と向かい合った]
……負けん、ぞ。
[ぬかるみに這ったままの、弱い人間の姿のままで、魔物を見上げて言い放つ。 掠れた声。 ヴェラの胸にある思いは一つ。 ここで負けたら、潰えたら。 群の仲間に、引き継いだ右手に宿った魂たち>>3:108に、合わせる顔がない]
私、は……強い。だからお前を倒……し、て。
(61) 2013/06/20(Thu) 00時半頃
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私は……もっと、強くなってみせる。
[その姿はひどく血まみれで、きれいとは程遠いものではあったかもしれないが。 そうでならねばならない。そうでありたいというまぎれない意思を瞳に宿し、まっすぐに魔物を見据えて言い放った。
おそらくは、発動できても一瞬だろうと推測されるも。 再び、無理を承知で、白狼の毛皮に手を伸ばす……]*
(62) 2013/06/20(Thu) 01時頃
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―当たり前だろ。
俺はずっとあの人達の背を追いかけてたんだから。
[応じる言葉は、少しだけ誇らしげに。
ホレーショーとヴェラの消耗の差は激しい。
けれど傷ついた彼にもうやめろとも望めない。
―例えこの声が聞こえたとしても聞かないだろう。それは彼の矜持に関わる事だから。
ヴェラは、かつて自分を片腕と呼んでくれた男は、気高く強い。
どれ程傷ついても闘志を失わないその姿は、自分が追おうと決めた背から少しも変わっていなかった。]
……。
[―けれど、それが今は胸の痛みを増す。**]
|
[瞬きを繰り返す氷の魔物>>64を、じっと見つめて宣告をする。 唱えたものは、もはやヴェラにとっては自縛する呪文のようなものだったのかもしれないが。 四足に戻った異形の蜥蜴が、こちらの様子を伺い始めた>>65 おそらくは……とどめを刺しにきたのだろう。 狩猟を行う動物には、獲物が弱った時にこそ、本来の姿勢に戻り仕留めるにくる。
ツェツィーリヤの体が風に舞い、纏ったローブが舞い上がる。 視線でそれを追うこともなく、毛皮に手をかけ最後の牙を潜めさせる。
間をローブを遮った時、来る、というのは察知できた。
飛んでくる尾と、地を這う舌。 同時に、ヴェラは白狼の毛皮を、精一杯の力で振りほどいた]
(66) 2013/06/20(Thu) 01時頃
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[ローブが視界から消えた時、魔物が目にするものは。
前のめりに倒れたヴェラと、宙を舞う、白い毛皮――――**]
(67) 2013/06/20(Thu) 01時頃
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風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/20(Thu) 01時半頃
[―早く消えてしまえ。
未だ地面に横たわった自分の躯を見つめる。
それで魔物の意識が逸れなくなればいい、と思いながら。
ツェツィーリヤの肉体が霧散し、風に舞うローブ。
それと同時に、場は動く。
供物である毛皮を手放し、前のめりに倒れ込んだヴェラ。
無言で彼に近付いていくホレーショー。
―魔物の鉤爪が、ヴェラへと向かう。]
―…っ。
[その結末を知りたくない、とでもいうようにイアンの躯は崩れる。
魔に落ちた所為か、うっすらと紅に染まった砂は風に煽られ霧散した。
其処に「死神の指先」と「鉤爪の破片」、ペンダントを残して。**]
風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/20(Thu) 19時頃
|
―氷の魔物と―
[飛びかかる意思は、確かにあった。 たとえ一瞬であろうとも、その後に供物が砕け散ろうとも。 白狼となり、獲物の命脈を絶つ意思は、細胞の隅々まで沁み渡らせていたつもりだった。 狼として、群れのため。魔法使いとして、これまで貪ってきた魂のため。 だから、毛皮を解き放った右手は、最後の力を振り絞った全力で>>61。
耐えられなかったのは、2度の激闘と、身に得た過重な魂に叫びをあげた、肉体の方だった。
供物を解放した瞬間、全ての感覚が一度に消えた。 張り切った糸が、ほんの僅かな衝撃で、いとも簡単に千切れるように。
もう、視界には何も映らない。聴覚はなにも捉えない。
感じるは、ただ全面に広がる闇ばかり。 上も下も、分からない。 遊離した意思の中では飛び舞う毛皮>>67さえも、認識することは、もうできない]
(81) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[それは、ほんの一瞬の出来事だったのだろう。
ヴェラは、冷たく濡れた前面の感覚により、ぼんやりと意識を取り戻していた。 倒れこんだ衝撃と、打ちつけてきた地の水たまり、そして赤い雨の冷やかさが、千切れた糸を僅かに繋ぐ。
体が、まったく動かない。 まるで、鉛の中に閉じ込められてしまったように。
ひどく低い視界の中で、遠くにかすんで見えたのは、先ほど投げ捨てた革袋>>23。 ヴェラは知らないことではあるが、それはソフィアが意図的に、広場に置き去っていったもの>>73だ。
彼女は過去の自分のことを、その中に詰めていたけれど。 ヴェラは、あるはずの未来>>0:36を詰めていたはずだったのに。
聞こえてくる、重々しく亀裂の走る、巨大な足音。 氷の魔物が視界に割り込み>>71、遠くに見えていた架空の未来を、遮った]
(82) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[視線を送るは、圧倒的な巨体で見下ろす氷の蜥蜴。 彼が、一瞬でも毛皮に目を取られて>>70いなければ、ヴェラがこの光景を目の当たりにすることはなかっただろう。 この状態に至ることも、きっとなかったことだと思う。 声はもう、出てこない。体は変わらず、動かない。 見てみたかった未来はかき消され、迫る予感は、終焉の予感。
震えるヴェラの右手が、魔物に向かって伸ばされる。
軋む体を、意思で動かした訳ではない。 それは、ほとんど本能に従ったものだったのかもしれない。 ぴくり、ぴくり、と痙攣する右手を差し出し。 魔物に向けて『止めてくれ』と、助命の懇願をしているかのように。
魔物は沈黙でそれに答える。 そして、おそらくはヴェラの命を絶つために、鉤爪を振り上げて>>71……]
(83) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[ヴェラは同時に、差し向けていた『右手』に力を込めた]
(84) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[それは、今から1年くらい前のことだっただろうか。
人型魔物の殺害を終えたヴェラは、狼の姿でそれこそ死んだように丸まって、疲弊しきった体を休ませていた。 そこへ、遅れて訪れたヴェスパタインが通りがかり。
瀕死と勘違いした彼は、おもむろにその右手をヴェラへと差し出したのだった。
「や、やめろ馬鹿者!」と、慌ててヴェラは飛びあがり、彼に厳重に抗議した。 早とちりに気付いたヴェスパタインは、「紛らわしいことをするな」と言いながらも、緊張していた頬を緩ませて……。
これは、そんな他愛もない、昔話。 物騒とはいえ、魔法使い同士らしい、ちょっとした笑い話だ。
ただ、ヴェラはあの時に触れた感触を、今でもしっかりと覚えている。 発動しかけたヴェスパタインの力は、生に満ちたヴェラでさえも、体から何かを掻っ攫っていく荒波を受けたように感じていて。
……死に瀕した者であれば、たやすく飲み込まれていくものなのだろうなと。 そう、体感したのだった]
(85) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[あの時の感覚は、『喰われる』という意識がもたらした、単なる錯覚だったのかもしれない。
それでも、ぎりぎりまで追い込まれた体がとった行動は、その記憶に委ねたもの。 魔法使いの力は、平時の者に対してさえも、何らかの作用をもたらすのではないかと。
そんなこと、できる訳がない。そんなことは分かっている。 けれど、これだけ接近してきた魔物に対し、今ヴェラが向けられる力は、一つしか残っていない。
ツェツィーリヤも、イアンも封じ込められた右手が、強く赤黒く明滅する。 多くの魂を帯びた右手が、目の前の魔物と対峙する。
供物を手放した狼の、最後に残された本当の牙>>66。 それは、多くの魂が宿った、魔法使いの原点、『右手』。
『死の淵に立つ者』に対してではなく……『生の途上にいる者』に対する、『生贄』]
(86) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[それは、まったく徒労に終わる、無駄なあがきだったのかもしれない。 このまま鉤爪が振り下ろされれば、抵抗することは叶わない。
そうでなくても、このまま未来を歩むことすら、できるかどうか危うい体だ。 だから、多くは望まない。
獲物はあいつだ、と、自らの右手に告げた。 できるなら力を貸してくれ、と右手の魂に呼びかけた。
例え、その一欠片でもいい。表面を打ち割るだけでもかまわない。 厚い氷で閉ざされた内側。おそらくは、その深く深くに眠っている……
『何者かの魂』に、力の限り『喰らい付け』、と。
振り下ろされる鉤爪の、風斬る音は聞こえてくるか。 薄れてゆく意識の中、ヴェラは最後に力を振り絞り。
生者に対する『生贄』の力を、発動させた**]
(87) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/20(Thu) 20時半頃
― ―
[ツェツィーリヤは其処にいた。
彼女が覚えているのは、
魔物と化したイアンの武器を受けたこと。
其れから先は、千切れたように曖昧だ。]
……嗚呼。
私は……。
[千切れたような記憶を手繰り寄せ
ツェツィーリヤは、ヴェラの右腕に居ると知る。
傍にいる気配を探ろうとすれば、
其処に感じる気配は、イアンの物。
イアンもまた、同じように生贄にされたのだと知れば
彼女の魂は悲しげに揺れる。]
風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/20(Thu) 22時半頃
―ヴェラさん…っ?
[地に伏したヴェラが、右手を氷を纏う蜥蜴に向ける。
自己を生贄とした術は知識としては知っているが、使用したことも目にした事もない。
だから右手に向けられた彼の声が、何を意図してのものであるかは分からず。
けれどそれまで静かだったツェツィーリヤの声が聞こえれば、其方に意識は映った。]
…ツェツィーリヤさん。
[途方もない願いの為に、ヴェスパタインと同じく、自分が瀕死に追いやった魂。
名前を紡いだだけで、それ以上は何も言えない。]
…っ。
何してんだよ、ホレーショーさん…!
[彼の心中が分からない故に、コリーンの乱入が予想外だったのか、という考えに至った。
彼らを置いて走り去るホレーショーに、声を投げかける。]
[ツェツィーリヤはその名を呼ばれ、微笑む。]
……貴方も、此方にいらしたのですね。
[それは、感情を隠すことを止めた彼女の
何処か寂しげな笑み。]
|
―右手と鉤爪の対峙―
[そこで行われたのは、ほんの一瞬の出来事だったのかもしれない。 『生贄』を発動させたヴェラに対し、振り下ろされた氷の魔物の鉤爪>>88。
そして、割って入る誰かの姿>>89。
視界はかすみ、姿はおぼろげではあったけど。 それがコリーンであることは、聞き馴染んだ声で分かった。
馬鹿者。詫びて撫でろ。
鈍った神経伝達を受けて、心の中でそう呟いた。振り下ろされる鉤爪のイメージ。 切り裂かれる自分と群の仲間の姿……]
(94) 2013/06/20(Thu) 23時頃
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[けれど、鉤爪の動きは裂かれる寸前でぴたりと止まった。 近くで霧のように散って行ったのは、なんだったのか。 視界がかすみ、それすらも判別できない。ただ、呼応するように右手が脈打ったように感じ……。
……お前か? 礼を言うぞ。
その脈拍が、かつてよく触れあっていた相手のように感じて。 ただの気のせいだったのかもしれないが、そう思わずにはいられなかった。
先ほど何かが散った場所と共に、右手に撃ち落とされる、氷の鉤爪>>92。 もはや、痛みは特に、感じない。
ただ、宿らせていた『生贄』の力が、その場で消滅していった。 ぬかるみに打ち込まれた右腕は、もう動かない。魔物がどうなったのかも分からない。 ヴェラはただ、持ちあがる力さえないその右手を、ぼんやりと見つめることしかできなかった]
(95) 2013/06/20(Thu) 23時頃
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