315 【La Mettrie〜存在という機械が止まる時】
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[ラルフお兄ちゃんに抱きしめられてやっと、 マーゴお姉ちゃんを揺さぶるのをやめた。 ラルフお兄ちゃんの腕の中は、 大きくて、ゴツゴツしていて、温かい。 さっきまでマーゴお姉ちゃんも 同じように温かかったのに、と思うと やるせなくて仕方がなかった。]
(19) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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[ラルフお兄ちゃんの腕の中で 呆然としていた耳に、 フェルゼお兄ちゃんの呟き>>9が届く。
短く言い切ったフェルゼお兄ちゃんを おれはにらみつけた。
──また? それだけ?
言わないで済んだのは、 口を開いた瞬間、ぼろぼろと涙がこぼれて 言葉の代わりにしゃっくりしか出せなかったからだ。]
(20) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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[フェルゼお兄ちゃんの責任の重さは分かっている。 寂しい、悲しい、そう思う。 けれど、慣れすぎたのか、アップデートか もう、涙は出なくなった。>>2:23 フェルゼお兄ちゃんはそう教えてくれた。 それだけ多くの命を見送ってきたんだ。
だけど、いざマーゴお姉ちゃんの死を前に あっさりした反応をされると フェルゼお兄ちゃんが冷たく見えて、 悲しみの大きさが、そのまま怒りになった。
死を実感する前は 物わかりのいい口を利いていた>>30くせに 実際にその中に放り込まれると 感情が理性に追いつかなかった。]
(21) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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[今のおれは、フェルゼお兄ちゃんに 近寄らない方が良い。 無理に近づこうとしたら、 言わなくてもいいことまで言っちゃいそうだ。 ふいとそっぽを向いた。]
(22) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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[口を噤んだまま、怒りでぶるぶる震えるおれには ラルフお兄ちゃんの提案>>11がありがたかった。]
……うん。
[おれじゃマーゴお姉ちゃんを運べない。 シーツぐらい、ラルフお兄ちゃんなら 探すのは訳ない気がしたけれど、 こういう時は動いていたほうがいい。 もしかしたら、ラルフお兄ちゃんは そこまで考えて、おれに仕事を 振ってくれたのかもしれない。 ラルフお兄ちゃんに抱きかかられえても、 マーゴお姉ちゃんの手足も、首も ぶらぶらと力なく揺れるばかりで 完全に脱力した体が悲しかった。]
(23) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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[中庭から出ようとすると フェルゼお兄ちゃんがぽつぽつと言葉を話す>>16。 聞いてやるもんか、と思ったけれど その声>>17が思いもよらず寂し気に聞こえて おれは足を止めた。 ヨナの背中で、フェルゼお兄ちゃんと見た世界。 毒霧はすっぽりと世界を包んで 覗く地上は、赤々と血を流して 命の海さえも、どこまでも膿みきって。 それを見れば、世界の終わりを感じずには いられないけれど。 想像するだけで悲しくなってしまうから、 ここでなら、力を合わせれば再建できる そんな妄想に浸っていたほうが楽だから、]
……そんなこと、聞きたくないや。
[おれは呟いて、中庭を後にした。]
(24) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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[──なんで、あんな言い方してしまったんだろう。 とても、フェルゼお兄ちゃんの疲弊と孤独を 慮る余裕なんか無くて。 フェルゼお兄ちゃんの瞳の奥で きりきりと時間を刻む歯車にも、気づけなかった。]
(25) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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[あちこちを探し回って、リネン室らしき棚から、 シーツを見つけた。 一番上はざらりと砂がまぶされていたから 下の方にあるのを取る。 一番まともなのを選んでも、少しかび臭い。 心の中でマーゴお姉ちゃんに詫びた。]
(26) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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[シーツは重たくないけれど、 かさばって前がよく見えない。 不自由な視野でラルフお兄ちゃんを探し回って、 やっと、3階の部屋に立ち尽くす>>12姿と 眠っているような二人のお姉ちゃんがいた。
マーゴお姉ちゃんを抱き上げることはできなくても シーツをかぶせるぐらいはできる。 だけど、かぶせるときに触れた体は 既に硬くて、冷たくて、 姿かたちはマーゴお姉ちゃんのままなのに 蝋人形みたいに作りものじみていて びっくりして、指先が震えた。
ロイエお姉ちゃんも、穏やかな顔をしていた。 シーツごしにしか見ていないけれど 外傷らしきものは見つからない。]
(27) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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お花……一つしかないんだ。 こんなことになると思ってなかったから……
[マーゴお姉ちゃんとロイエお姉ちゃん、 二人に話しかける。 どちらにお供えするか悩んだ挙句 窓際にそっと置いた。]
あぁ、あとでお墓に持っていくよ。 もう少ししたら、ここじゃないところに 埋葬しようって、
[フェルゼお兄ちゃんが。 名前を出しかけて、口を噤んだ。 おれが何を言いかけたところで、 返事は無くて、おれの声だけが反響した。 返事が無いからこそ、自分の中の蟠りを マーゴお姉ちゃんとロイエお姉ちゃんに 見透かされている気がした。]
(28) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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[ラルフお兄ちゃんと中庭に戻ってくると フェルゼお兄ちゃんがいた。 どんなふうに話しかけたらいいのか分からなくて]
……ロイエお姉ちゃんも、いた。 静かに寝てるみたいだった。
[自分のつま先に向かって話しかけた。 丁寧に弔ってくれたフェルゼお兄ちゃんにも、 聞えるぐらいの大きな声で。]
(29) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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[ラルフお兄ちゃんの提案に>>13 スープを食べなきゃ、って頭では思った。 マーゴお姉ちゃんが一生懸命作ってくれたスープ。 最期まで、目の前に迫った死よりも やせっぽちなおれのことを心配していた。 死後の世界があるのかは分からないけれど もしもマーゴお姉ちゃんの魂が まだ辺りを彷徨っているとすれば しっかり食べて、おれが元気になるのを 望んでいるだろう。
だけど、頭では分かっていても 体はしばらくの間ついてこなさそうだ。 とても喉を通るとは思えなかったから 返事はしなかった。
ラルフお兄ちゃんが厨房に行ったなら ついて行きこそしただろうけれど、 どうだっただろうか。]
(30) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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[だけどその場では、 代わりに、別のことを聞いた。]
ロイエお姉ちゃんも、 マーゴお姉ちゃんも死んじゃった。 ミタシュはいなくなっちゃったし、 ジャーディンさんも、いない。
[それから、フェルゼお兄ちゃんの方を ちらりと伺って、聞こえないように声を潜めた。]
フェルゼお兄ちゃんまで 怖いこと>>18言ってる。
……ラルフお兄ちゃんは、 おれを置いて死なないよね?
[どんな返事をもらったところで 安心できないかもしれない。 それでも、聞かずにはいられなかったんだ。]*
(31) 2023/01/05(Thu) 22時半頃
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『生命の導き』は、…死んだ人を生き返らせる力まではない、みたいですね。
[いつか自分にも『死』がやってくるとは思っていたけれど、
まさかあんなに唐突にやってくるとは思ってはいなかった。]
フェルゼは… こうやって沢山の死を見送ってきたんですね。
[そう考えると、彼の反応もわかるような気がした。
どのくらい長い時間、彼は、一人で ―― あるいは、エンジェルシイラと共に、人を見送ってきたのだろうか。
その長い時間を想うと、―― 胸が痛む。]
そうですね、マリオは、泣かなかったかもしれません。
でも、誰かの命と引き換えに生きながらえたくはなかったかな。
[自分でよかったと、そう思ってしまったのだ。
此処に来るまでの道のりも、この廃墟の中でさえも、
汚染された植物と生き物で満ち溢れている。
水もどれだけもつのかわからない。
けれども、生き残った人たちに幸いがあって欲しいと思ったのだ。
マリオが大きくなったら、きっと美人になるし。
それを見届けられないのは少し寂しいと思ったけれど、
口には出せないで曖昧に笑って見せた]
ええ、きっと。
柔軟な子だから、きっとすぐに懐いてくれますよ。
[あの時のジャーディンさん、本当に怖かったですもんね、と、少しだけ意地悪を言ってみたり、した]
[笑われたことで恥ずかしくなって、慌てて目を伏せ、髪を手櫛で整える。
そんな風に言ってもらったこともなかったから、どうしていいのかわからなくなる。
口さがない人々に、妹と比べられることも多くて、自分の容姿も好きではなかった。
太陽までも惹きつける夏の花のように明るい妹は、本当に愛らしかったから。
なのに、眉間をつつかれて、さらに言葉を掛けられれば、真っ赤になって俯いてしまうことでしょう。
蔦から解放されたジャーディンさんは、陽気な性質を取り戻したようだ。元々は明るい、人好きのする青年だったのだろう。
つつかれたところを抑えると、考えるふりをして、口をへの字に曲げた]*
[自分の身体が運ばれていくのを、
横たえられてシーツをかけてもらうのを、
不思議な気持ちで見ていた。
自分はここにいるのに、そちらはただの抜け殻なのに。
自分の残したものが迷惑をかけているのを見ると
なんだかとても申し訳ない気持ちになった。]
[誘われるままに厨房へついていく。ラルフにもマリオにも、フェルゼにも、私たちは見えないのだろうけれど。
空いている椅子に座って、まだ生きている人たちの様子を見守る。
願わくば、この優しい人たちの行く末が明るいものでありますように、と祈らずにはいられなかった]
[フェルゼの白い白い眼の中で
歯車がぎりりと回る音が
何か、恐ろしいものの予兆の様に
周囲に、響いた]*
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